【一人目】其の欲、鞘には収まらぬ(脚本)
〇血しぶき
私が どれだけ 尽くしても
あなたは いつもそうやって
陳腐な女と 熱い抱擁を交わす癖
私のことは ほおっておくのね
わかりました
ならば こちらにも
考えがございます
〇城下町
瓦版売「号外号外 また"首狩り"が出たよ! 夜道にはご用心」
瓦版売「旦那 どうです一部」
刀の男「・・・」
瓦版売「あ!何でもないです!」
派手な着物の女「色男だね! お侍さん、遊んでいかないかい?」
刀の男「・・・」
派手な着物の女「あ!何でもありません!」
(目付きが怖かった!)
青い着物の女「ひゃあ」
青い着物の女「いたた 花緒切れてもうた」
刀の男「大事ないか」
青い着物の女「大丈 いた!」
青い着物の女「足が」
刀の男「・・・立てるか」
青い着物の女「えっと」
青い着物の女「うわぁ! お侍様 何をなさるおつもりですか」
刀の男「家まで送ろう」
青い着物の女「大丈夫です それに」
刀の男「それに なんだ」
青い着物の女「お稽古場から追い出されてしもて 帰る家がないんやわ」
刀の男「・・・」
青い着物の女「あ! ちょっとどこ連れていく気ィですか?」
青い着物の女「ちょっと~!」
〇広い和室
宿屋の娘「お侍さんお帰りなさい」
もう数か月 ここへ居るのに
青い着物の女「ここは?」
まだ一度も私を
刀の男「俺が今世話になっている宿だ」
愛してくれたことがない
宿屋の娘「そのお方は?」
刀の男「連れだ 寝床と飯をこいつにも用意してやれ」
また知らない女を連れ込んで
青い着物の女「ひえ!? そんなお侍さん これ以上迷惑かけるわけにいきまへん」
憎い 憎い
刀の男「準備をしておけ」
宿屋の娘「あ はい!」
青い着物の女「あの」
青い着物の女「偉い すんまへん」
刀の男「・・・」
刀の男「風呂に入ってくる」
刀の男「お前も風呂に入ってこい」
青い着物の女「え でも」
刀の男「ごにょごにょ」
青い着物の女「!」
青い着物の女「・・・はい」
青い着物の女「ほんまええ人やなぁ」
青い着物の女「うち 気に入られたみたいやし」
宿屋の娘「あの」
青い着物の女「はい?」
宿屋の娘「お風呂 どうぞ」
青い着物の女「ありがとう」
・・・・・・。
〇広い和室
宿屋の娘「すみません 晩御飯をお持ちしました」
刀の男「ああ」
ふと、野良猫と目が合う
青い着物の女「っふ」
勝ち誇った目に 殺意が芽生えた
なぜ長年お慕いしている私ではなく
そこらで拾った野良猫を選ぶのか
彼にもあの野良猫にも腹が立った
そうだ、いっそ
殺してしまおうかと
そう、思った
〇広い和室
次の日
刀の男「なあ おい」
宿屋の娘「はい」
刀の男「お前 年は いくつになった?」
宿屋の娘「今年で 十六です」
刀の男「そうか」
刀の男「今夜 部屋へ来なさい」
宿屋の娘「・・・」
宿屋の娘「っあ」
宿屋の娘(湯浴み しなきゃ)
・・・・・・。
〇広い和室
宿屋の娘「なんだかそわそわしてしまうわ」
宿屋の娘「嬉しいような 怖いような」
宿屋の娘「ううん」
宿屋の娘「やっぱり嬉しい」
〇広い和室
宿屋の娘「あの ただいま参りました」
刀の男「入りなさい」
宿屋の娘「しし、失礼します」
刀の男「・・・」
刀の男「どうした?」
宿屋の娘「え?どうしたとは」
刀の男「顔が真っ赤だ 茹蛸のように」
宿屋の娘「だって、だって 当たり前じゃないですか」
刀の男「ふっ」
刀の男「可愛いな」
宿屋の娘「あ!あ! いけずを言いましたね?」
宿屋の娘「もォ」
刀の男「・・・おいで」
宿屋の娘「は!?はいぃ」
刀の男「もっとだ」
宿屋の娘「はい」
刀の男「もっと」
宿屋の娘「はぃ・・・」
刀の男「・・・」
宿屋の娘「・・・」
刀の男「お前は今から何をするのか 分かっているのか?」
宿屋の娘「はい、はい 分かっていますとも!」
刀の男「何をするのか 言うてみよ」
宿屋の娘「え!? それは だからぁ!」
刀の男「ハハ 少し からかいすぎた」
宿屋の娘「あの、もうこれ以上は その」
宿屋の娘「恥ずかしくて」
刀の男「お前が寄らぬなら 俺が行こう」
宿屋の娘「え!きゃ!」
宿屋の娘(ああ なんと逞しい体)
刀の男「今まで 待たせて 悪かった」
宿屋の娘(鍛えられた 胸板 熱い抱擁 私 女としてとても幸せ)
刀の男「待っていたのだろう? 俺を」
宿屋の娘「あの」
宿屋の娘「・・・はい」
刀の男「お前の首は本当に綺麗だったから」
宿屋の娘「首、ですか?」
刀の男「ずっと頃合いになるまで待っていたんだ」
宿屋の娘「え?」
宿屋の娘(あっ 服が)
宿屋の娘(そこから先は 頭がぼんやりして)
宿屋の娘(脳が痺れて 私は何度も彼の名前を呼んだ)
宿屋の娘(彼は何度もそれに答えてくれた)
宿屋の娘(全くどれだけ醜態を晒したのか 己の愚かさを恥じた)
刀の男「大丈夫か」
宿屋の娘「ひゃい」
刀の男「意識が飛んでいるような気がしてな」
刀の男「俺は お前の首が気に入った」
宿屋の娘「は?はい」
刀の男「細く白く 少し力を入れれば 折れてしまいそうで」
宿屋の娘「ぁん! いたっ」
刀の男「なぁ ”首狩り"って知ってるか」
宿屋の娘「!? おやめ下さい! 苦し・・・!」
刀の男「あれは あれはなぁ」
刀の男「俺なんだ」
宿屋の娘(息が出来ない!)
刀の男「女の首を絞めることのなんと 気持ちの良いことか」
刀の男「昨日の女はつまらんかった」
刀の男「よく見ると 首に跡が あった」
刀の男「ああゆう女はいかん 不潔極まりない」
宿屋の娘「・・・!?」
宿屋の娘(押入れの隙間から 蝿が・・・ 昨日のあの女の人はもう・・・!?)
宿屋の娘「ぐうぅっ!? やめ」
刀の男「安心しろ お前が動かなくなったら 俺の刀で首を切り落としてやる」
刀の男「美しい首を いつまでも俺の傍に・・・」
あぁ そうか
この男 やはり私を選んではくれない
愛してはくれない
宿屋の娘(嫌だ! 嫌だ! 死にたくない)
娘、今お前に問う
宿屋の娘(誰?声が聞こえる)
この男に殺されるか
私を抜き この男を斬るか
宿屋の娘(抜く?斬る? そうだ・・・ この人の刀を奪えば・・・!)
選べ
宿屋の娘「うう!うう!」
死ぬか
殺すか
宿屋の娘(もう少しで刀に手が届きそう・・・!)
選べ
宿屋の娘(もう少し、あと少し!)
選べ
刀の男「なんだ?俺の刀で斬ろうってのか?」
選べ!!!
刀の男「刀は女ごときに握れる代物ではないわぁ! 諦めろ!お前はもうすぐ俺のモノに」
宿屋の娘「うわぁあぁあぁあああーーーー!」
宿屋の娘「アンタのモノになるくらいなら 殺してやるーー!!」
相 分かった
刀の男「なんだ?俺の刀が 動いている!」
刀の男「ぐあぁああああぁああぁ!?」
刀の男「己よくも・・・!」
刀の男「女の癖に生意気な 生意気な・・・!」
浅い
目をつぶれ 私を握るだけでイイ
宿屋の娘「ふー・・・」
宿屋の娘(ボトリと)
宿屋の娘(音がして)
宿屋の娘(暗くて、何が足元に転がったのか 分からなかったけれど)
宿屋の娘「あ ヒィぃ」
「ぎゃぁああああぁああぁ!?」
(そのまま 無我夢中で 宿から走って)
(走って 走って その後は・・・)
〇森の中
宿屋の娘「何も 覚えてない」
〇広い和室
緑の帯の男「うわぁ こりゃ酷ぇ」
緑の帯の男「この男、首が乱暴に斬りとられてるなぁ また"首狩り"だ」
緑の帯の男「しかし妙だな "首狩り"ってぇと 女ばかりを狙っていたはずだが」
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ボイスで構成された物語、圧巻でした。女の念のこもった刀、さぞかし切れ味が良いのだろうなと思いました。
人の意志を持つ(?)妖刀と、かわいい顔して実は恐ろしいことを平気で実行できる女の子…漫画や映画にでもなりそうなストーリーですね。この2人(?)の行く末はどうなるのか…興味深いです。
初めてフルボイス体験させていただきました。まさかの展開に顎ガクガクさせていたら、宿屋の娘の成長っぷりには目を見張るものがありました。単話でも面白く、彼女たちの旅の続きが気になるエンドでした。