エピソード1(脚本)
〇研究装置
ここは・・・どこだ
総統「目覚めたか──」
誰だ・・・
総統「貴様は我が組織『ヘルゴッド』の手によって生み出された怪人だ」
怪・・・人・・・?
総統「貴様は怪人デスロマン 今日から我が組織の一員となった」
総統「共に世界を滅ぼそうではないか」
怪人?
世界を滅ぼす・・・?
総統「さぁ、立ち上がれ!デスロマン!」
言われるがままに体に力を入れた
部屋の中にあった1枚の大きな鏡に俺の姿が映る
デスロマン「これが・・・俺・・・」
総統「さぁ、これから怪人としての 力の使い方の全てを教えてやろう──」
〇魔法陣のある研究室
総統「まずはお前の戦闘力を試していく」
総統「コブシを突き出してみろ」
デスロマン「――こうか?」
総統「生まれたばかりでその力・・・」
総統「素晴らしい! パンチ力は軽く1000トンを超えていたぞ!」
総統「次は防御力を試す」
総統「今からお前に100丁のマシンガンよる機銃掃射を行う」
デスロマン「・・・俺はどうしたら?」
総統「何もしなくていい ただ黙ってそこに立っていろ」
総統「では、いくぞ!」
デスロマン(これが銃・・・)
総統「どうだった?」
デスロマン「別に何も」
デスロマン「強いて言えば少しくすぐったかった」
総統「・・・いいぞ それでこそ私が生み出した怪人」
総統「その中でも最高傑作だ!」
総統「想像以上だ・・・」
総統「生まれたばかりでこの力・・・」
総統「お前がいれば世界を滅ぼすことなど容易いだろう」
総統「だが、念には念をだ」
総統「これからお前を最高の怪人にすべく 教育を施していく」
総統「最高の力で世界を滅ぼすその日まで──」
〇近未来の手術室
それから俺はありとあらゆる戦闘訓練を受けた
身体能力の強化に継ぐ強化
それに──
〇研究所の中
訓練は戦闘だけではなかった
一般的な教養から哲学に至るまで
ありとあらゆる教育を受けた
生まれたばかりの俺はそれらをどんどん吸収していった
色々な勉強の中で
特に歴史に興味を持った
人はこれまでに何をしてきたのか
どんな進化の歴史を辿り
これからどんな未来を作っていくのかを考えるのは純粋に楽しかった
デスロマン(まぁ、その未来を奪うのは俺なんだが──)
〇魔法陣のある研究室
3ヶ月後
総統「お前には組織の力の全てを注ぎ込んだ」
総統「もはや、貴様を倒せるものはこの世にはいるまい」
総統「行け! デスロマンよ!」
総統「全ての人類に絶望と破壊をもたらすのだ!」
デスロマン「・・・あぁ、行ってくる」
〇研究施設の廊下
アイツに言われた通り
俺は人類に絶望と破壊をもたらすため
生まれて初めて、この建物の外に出た
〇山奥の研究所
デスロマン「ここが・・・世界」
生まれて初めての外
草や花、土、風の匂い
青々とした空と白い雲
遠くには人間の住む街が見える
今まで、本の中だけに出てきたそれらが俺の目の前にあった
デスロマン「俺は今から目に映る全てを破壊する」
デスロマン「なぜなら・・・」
デスロマン「・・・・・・」
まさに世界征服がこれから始まるその時
1番大事なことに気が付いた
デスロマン「なぜなら・・・」
デスロマン「なぜ・・・なんだっけ・・・?」
デスロマン「・・・俺、なんで世界征服するんだっけ?」
ありとあらゆる訓練と教育を施された怪人デスロマン
彼は、いちばん肝心なことを教えられてはいなかった!
〇研究所の中
デスロマン「あらゆる分野の学問から、辞典や様々言語──」
デスロマン「果ては芸術に哲学まで」
デスロマン「ありとあらゆる教育を受けたが──」
デスロマン「世界征服する理由・・・ 教えてもらってないんだが──」
圧倒的な戦闘力と頭脳を誇る怪人デスロマン
彼は、世界征服する目的を
――教えられていなかった
〇山奥の研究所
デスロマン「世界征服・・・」
デスロマン「そんなことして・・・いいのか・・・?」
デスロマン「・・・」
デスロマン「・・・・・・」
彼はそのまま姿を消した
〇山の中
デスロマンは山に潜み暫く考えた
組織による素晴らしい教育は彼を思慮深い性格へと導いていた
最高の頭脳をもって彼は考えた
自分が本当は何をするべきなのか
組織に言われるがまま世界を滅ぼすべきか
それとも・・・
デスロマン「俺がいなくなったことを知ったヘルゴッドの連中はどうするだろう・・・」
デスロマン「恐らく第2第3の俺を作り出し 新たな怪人と世界征服を企てるはず──」
デスロマン「それなら・・・」
静かな山の中
考えに考え抜いた彼が出した結論は──
デスロマン「正義の味方になろう」
デスロマン「アイツが送り込んでくる怪人を俺が倒す」
ありとあらゆる哲学書を与えられた彼は
平和主義になっていたのだ
こうして彼は正義のヒーローになることを決めた
決めたのだが──
〇歌舞伎町
「キャアアア!」
「逃げろ!」
ベアウルフ「ハッハッハ・・・」
ベアウルフ「この街は我々ヘルゴッドが支配する」
ベアウルフ「俺様はヘルゴッドによって作り出された怪人ベアウルフ・・・」
ベアウルフ「俺様のパワーでこの街を征服し 人類に絶望を──」
(ついに来たか やはり、俺の睨んだとおり)
(やはり、ヘルゴッドは新たな怪人を生み出し送り込んできた)
(だが、そうはさせない!)
「待・・・」
「ちょっと待てーい!!」
(え?)
天の川アキラ「お前だな? 街で暴れてる怪人ってやつは!」
ベアウルフ「いかにも 俺様は怪人ベアウルフ・・・ 破壊と混沌をもたらす者だ」
ベアウルフ「そういう貴様は何者だ 答えによっては、貴様から血祭りに上げてやる」
天の川アキラ「へへっ 俺が誰かって? よく聞いてくれたな!」
天の川アキラ「空に輝く天の川! 愛する人を守るため!」
天の川アキラ「愛の力で正義を守る! 人呼んで──」
ジャスティス「正義の使者! ジャスティス!」
ベアウルフ「誰だか知らぬが俺様に挑もうとは身の程知らずが」
(あれ・・・? なんか始まっちゃったんだが・・・)
ジャスティス「へへっ 後で後悔しても知らないぜ!」
「あのー・・・」
「誰だ!」
デスロマン「取り込み中の所すみません」
ジャスティス「なんだ、お前もそいつの味方か? 二対一とは卑怯だぜ!」
デスロマン「いや、違くて・・・」
ベアウルフ「誰だ貴様 俺様の邪魔をするやつは誰であろうと殺すのみ」
デスロマン「あー、まぁ邪魔すると言えば邪魔するつもりだったんだけど えー・・・なんて説明すればいいか・・・」
デスロマン(状況がややこしすぎて なんて説明すればいいか分からん)
ベアウルフ「いきなり飛び出してきて何もしないのか・・・」
ジャスティス「何もしないなら引っ込んでな! お前は後で俺が相手してやる!」
デスロマン「いや、まずは2人とも落ち着こう 一旦話し合おう」
デスロマン「取り敢えず状況を整理してだな──」
ベアウルフ「世界征服の──」
ジャスティス「世界平和の──」
「邪魔をするやつは許さん!」
ジャスティスとベアウルフ
2人の攻撃が同時にデスロマンを襲った
デスロマン「・・・・・・あのー」
「!?」
デスロマン「今の、もしかして攻撃か・・・?」
デスロマンは最強だった
「・・・・・・おのれ! これでも喰らえ! 最終奥義!」
ベアウルフ「ヘルファイア!」
ジャスティス「ジャスティンブレードォ!」
逃げ惑う人々
崩壊するビル
辺りは地獄絵図と化した
「・・・・・・やったか?」
デスロマン「あー・・・」
デスロマン「なんか、ごめん 逆に申し訳ないって言うか・・・」
「うそ・・・だろ・・・?」
デスロマン「いや、そんなことより──」
女の子「ママ・・・」
デスロマン「あの子、母親を探してるのか」
女の子「ママ・・・どこなの・・・? ママァ・・・」
デスロマン「お嬢さん お母さん探して──」
「戦いの最中に余所見してるんじゃねぇ! 今度こそお前を倒──」
デスロマン「アッチで女の子が泣いてるでしょーが!」
デスロマン「デスパンチ!」
デスロマン「あー・・・すっげぇ飛んでったな・・・」
デスロマン「あー・・・大丈夫かい? お嬢さん」
女の子「ヒッ・・・ 怪人・・・やめて、来ないで」
デスロマン(怖がらせちゃったよなぁ・・・)
デスロマン(こんな姿だし さっきいちばん暴れてたの俺だしなぁ・・・)
デスロマン(でも、困ってる子を無視は出来ない・・・よな)
デスロマンは怯える女の子を強引に抱き上げると上に掲げて叫んだ
デスロマン「この子のお母さんはいませんかー!」
デスロマン「迷子です! 迷子の女の子が泣いてます!」
女の子「おじちゃん・・・?」
デスロマン「お母さんはいませんかー?」
女の子「もしかしていい人・・・なの? おじちゃん・・・」
デスロマン「おじちゃんはやめてくれ 俺はまだ生後3ヶ月なんだ」
女の子「あはは、なにそれー」
母親「あ、あの・・・」
女の子「ママ!」
女の子「ママー!」
母親「すみません、娘を助けていただいて・・・」
デスロマン「いや、とんでもない」
デスロマン「こちらこそ街を壊してしまいすみませんっていうか 俺が壊したわけじゃないんだが・・・」
デスロマン「まぁ、なんか色々すみません・・・」
女の子「ありがとう、おじちゃん!」
母親「それではこれで・・・」
デスロマン「よかった、母親と会えて」
デスロマン「それにしても──」
デスロマン「世界、救えたかな・・・?」
女の子「あ、そうだ!おじちゃん!」
女の子「ねぇ、おじちゃんはなんて名前なの? さっきの2人みたいにかっこいい名前とかないの?」
デスロマン「名前か・・・ 俺は怪人デスロ──」
デスロマン(いや、これはアイツらが勝手に付けた名前だ)
デスロマン(俺の名前・・・)
デスロマン(なにか、かっこいい名前を──)
デスロマン「俺は──」
デスロマン「『正義の味方マン』だ!」
最高の頭脳を持つデスロマンだが
彼は、ネーミングセンスがなかった!
女の子「せいぎの・・・みかた・・・マン・・・?」
デスロマン「お、おかしいか・・・?」
女の子「うん!すっごく変!」
デスロマン「そ、そうか・・・」
女の子「でも、なんかおじちゃんぽい感じがする」
女の子「ありがとう 正義の味方マンのおじちゃん!」
デスロマン「おじちゃんはやめろ 俺はまだ生後3ヶ月なんだ」
〇けもの道
ベアウルフ「痛ててて・・・」
ベアウルフ「まさか、パンチ1発でこんな所まで吹き飛ばされるとは・・・」
〇海岸の岩場
天の川アキラ「あの力・・・あの姿・・・」
天の川アキラ「アイツを放ってはおけない・・・!」
〇けもの道
ベアウルフ「世界征服の為、アイツは必ず──」
〇海岸の岩場
天の川アキラ「世界平和のため、アイツは必ず──」
〇炎
「俺が倒す!!」
〇広い公園
デスロマン「へっくしゅん・・・」
デスロマン「冷えてきたな・・・ それとも誰かが俺の噂を・・・?」
デスロマン「まさかな──」
仲裁役が両方から敵対視されるなんて、なんたる皮肉!ご近所トラブルから国家間の争いに至るまであるあるなトバッチリですね。山に潜んでる間に新しい名前も考えておいたら良かったなあ。
怪人として生を受けて様々な教養を受け、もの凄く強くて、知性があって、心優しいデスロマン改め正義の味方マンの活躍が楽しみです。
迷子の女の子とやりとりを始めた場面から、胸に迫るものを感じました。怪人として世界を破壊するように教育という名の洗脳をうけながらも、人間社会に直接触れたことで自覚をもち良識に導かれていく展開が感動的でした。