キサイロナスの親殺し

apo

夜明け(脚本)

キサイロナスの親殺し

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〇荒廃したセンター街
  第5次新世界大戦の13年後──
  核汚染、地雷埋蔵、治安悪化の観点から世界の大半は立入禁止区域に指定されていた"
  第2中央都市西部3級禁止区域──
夜見透「こちら夜見透。目的地に到着しました」
  日は既に荒廃したビル群の背後に消え、凍てつくほどの真冬の冷風が僕の首元の空気を貫くと同時に
  いつの間にか周囲は重々しい闇に包まれていた
  この寂れた区域においては目、耳、鼻、舌、皮膚のいかなる感覚器官も新鮮な生気を捉えることはない
  ただ一つ感じるのは僕の意識の奥で闇を纏って眠りから目を覚ます
  ”それ”の不機嫌な唸り声と
  足を引きずって街を徘徊し獲物を探す
  ”テスター(実験者)”の奇怪な笑い声だけだった
  ・・・・・・
  足音は確実に近くなっている
  1時の方向に3人と
  9時の方向に5人
  それと──
  6時の方向に4人か
  全員息を殺して拳銃を構えている
  そして背後一人が銃口を僕の頭に向けた瞬間
  僕は息を吸うとそっと呟く
夜見透「来い」
  すると、僕の身体は突然怪物のように変異し
  意識と身体が”それ”と共有されると身体能力と治癒能力が大幅に強化される
  この力を使えば
  武装した人間数人を相手にするぐらいは
  あまりにも容易いことだった
  そして”それ”が再び眠りにつく頃には
  テスターは1人残らず死体になり果てていて
  後には先ほどの静けさが戻っただけだった

〇荒廃したセンター街
  ・・・・・・
  物心がついた頃から同じ体を共有するも”それ”は僕であって僕ではない
  5年前の世界大戦の最中に世界各国の有志によって
  秘密裏に行われた人類兵器化計画というものがあった
  僕は幼少期にその研究所の中で過ごし
  実験者、つまりテスターによって意識の中に非人道的に怪物を植え付けられた被検体の1人だ
  戦後、テスターの多くは投獄されたが
  今もなお禁止区域内で
  自らの延命と野望の実現のために内地の人間を拉致し実験を繰り返す
  また、武装し軍事的行動に出ることも多く
  10年前発足されたCCATはテスターの撲滅を最終目標として掲げている
  被検体の僕もその一員に加わっていた
  奴らによって失われた
  無垢な日常を取り戻すために

〇個別オフィス
  翌日
  CCAT(対テスター中央委員会)第二基地
夜見透「山崎隊長、昨日のテスター討伐の報告書です」
夜見透「それと・・・お話というのは一体?」
山崎真司「ああ、実は君と同じ被検体についての話だ」
山崎真司「知っているように現在確認されている被検体は君を含め全世界に12人存在しそれぞれに番号が振られている」
夜見透「僕はNo.7ですね」
  山崎は静かにうなづく
山崎真司「その内8人は属する各国家によって保護され」
山崎真司「君のように前線に立って活躍する者はもちろん」
山崎真司「心に深刻なダメージを負い未だに社会生活すらままならない者もいる」
山崎真司「だが今回は残り4人のうちの1人、それも」
山崎真司「大戦中にまだ小さな子どもでありながら」
山崎真司「唯一実戦投入され100人ほどで構成されたアメリカの部隊を数分とかからず全滅したとされる」
山崎真司「No.1、通称「ハイド」についてだ」
山崎真司「現在はテスターによって厳重に保護され我々の目の前に現れることはなくなったが」
山崎真司「ある隊員による先日の報告書によると中央第4都市特別禁止区域内にて」
山崎真司「確かにハイドのものと見られる痕跡が確認された」
山崎真司「君に頼みたいのはその真偽の判定を含めた調査だ」
山崎真司「もちろん場所が場所だからベテランの兵士を3人用意するが、あくまでも調査がメインで戦闘は極力避けてほしい」
山崎真司「下手すれば生きて帰れないからな」
夜見透「・・・・・・」
  ハイド──
  小さい頃から何度も耳にした名前だ
  研究所でも
  ここでも
夜見透「はい。了解しました」
山崎真司「頼んだ 期待しているよ」
山崎真司「無事を祈る」

〇オフィスの廊下
  部屋を退室すると少しハイドについて考えた
  彼にとってテスターとは何か
  身体を拘束し傷つけられ人殺しを強要される
  それでもなおテスターに忠誠を誓う
  僕とは正反対の存在だ
  ハイドの調査は個人的に好都合だ
  何かテスターに関する情報が新しく手に入るかもしれない
  だから依頼の承諾は簡単だった

〇荒廃した街
  第4中央都市北部特別禁止区域──
  1週間後の日没に出発した
  山崎隊長の言う通り僕の後ろには3人の兵士がついてきたが特にコミュニケーションをとることはなかった
  一人でいるのが好きだったし
  怪物を見られるのは嫌だったから
  普段は単独行動をとり委員会からも特別な許可が下りていた
  辺りは妙に静かだった
  人がいた形跡もない
  しかし、その時だった
  突然開けた広大な空間と地面に空いた巨大な穴が現れた

〇街外れの荒地
兵士「あれが痕跡だ。警戒しろ」
  ・・・・・・!?
  人間の痕跡というよりかは隕石によるクレーターといったほうがしっくりする
  同じ被検体で怪物の力を宿すといえども僕はこれほどまでの力は持っていない
  圧倒された
兵士「こちら調査班。目的地に到着」
  1人が本部に連絡を取る
兵士「こんな野郎がこの先には住んでんだよな」
  そう言ってもう1人の兵士がかがんでその穴の縁に手を伸ばしたがその時だった
  ・・・!?
  突然兵士の足元から火柱が立ち一瞬にして灰と化してしまった
  奴は現れた──
  全身に火花を散らせながらどこからともなく現れたハイドは
  パチンと指を鳴らし
  そこからはじき出されるようにして炎の弾が残り2人の兵士も襲った。
  そしてハイドは最期の1人となった僕に顔を向ける
  まずい・・・!!
夜見透「来い!」
  身体が怪物の闇で纏われた
  凄まじい殺気だった
  突っ立っていると間違いなく殺される!!
  でも、勢いよく地面を蹴って一気に距離を詰めて近接戦に持ち込めば──
  しかし奴は一枚上手だった
  僕がパンチを繰り出すもくるりと身体をひねって僕の背後をとり
  足を大きく振り上げると背中に強力な蹴りを入れた
夜見透「ぐはっ!」
  サッカーボールのようにはじけ飛ばされた僕の身体は10メートルほど先に落下した
  立たないと・・・
  しかし背骨が折れているのか立つことができない
  治癒も追いつかない
  傍まで近づいてきたハイドは僕の首を握って持ち上げた
夜見透「くっ・・・」
  ハイドは僕の顔を覗き込んだ
ハイド「お前がセブンか・・・」
ハイド「同胞だっつーことでせっかく見に来てやったってのに」
ハイド「所詮はだたのガキに等しいってわけか」
夜見透「だ・・・黙れ」
夜見透「俺はお前とは違う」
夜見透「お前らみたいな利己的な快楽主義者とは違うんだよ!」
ハイド「はっはっはっ」
ハイド「テスターに育ててもらった分際で何ほざいてやがる」
夜見透「育ててもらった?」
夜見透「奴らは俺らを利用しただけじゃないか」
ハイド「ふっ。物は言いようだな」
ハイド「まあ、確かに当時お前はガキだった。覚えてないのも無理ない」
ハイド「簡単に教えてやるよ」
ハイド「お前の過去を──」

〇荒廃したセンター街
ハイド「第5新世界大戦が始まってすぐのある日のことだった」
ハイド「家や家族を失った多くの難民に紛れて」
ハイド「道端で捨てられ餓死寸前だったところを1人のテスター拾われたんだ」
ハイド「要はお前はテスターに命を救われたんだよ」
夜見透「人体実験についてはどう正当化するんだ?」
ハイド「簡単だ。テスターの望みを知っているか」
ハイド「厳しい戦火の中で生き残るための力を持つ人間の創造だ」
ハイド「確かに払うべき代償も大きい。だがな」
ハイド「それが俺らがあの頃を生き延びる唯一の手段だったんだ」
ハイド「実際お前はその力を使って今までうまくやってこれたんだろう?」
  そう言うとハイドは手を放し、僕の身体は地面に崩れ落ちた
  僕は自分の心に迷いが生じているのを感じた
  ハイドの言葉は正しかった
  今の僕という存在は研究所の中で生み出されたものだ
  テスターに拾われていなければ今の僕は存在していない
  ある意味借りがあるのかもしれない
  しかし──
  それでも、唯一ハイドが誤っている点がある
  それは──
  ────
  僕が奴らを死ぬほど憎んでいるということだけだ
  僕が死んでいたかもしれないなんて事実は今の自分には関係ない
  幼い頃に地獄を見せられ
  今もなお世界の波長を乱している
  それだけで僕が身体を動かす動機は十分だった
夜見透「うおおおおおおおおおおおおお!!」

〇街外れの荒地
  僕は立ち上がると決死の思いで拳を握りハイドの左目を貫いた
ハイド「うっ!クソが」
  僕は追撃を入れる
  頬、腹、足──
  一発一発にかつてないぐらいの重みを感じた
  自分が正しいと思えることだけが僕の全てだった
  一方ハイドも負けじと一歩引いて反撃を繰り出そうとする──
  その時だった!!
  けたたましい音を立てた無数の機関銃の弾がハイドを襲った
  本部の応援部隊がやってきたのだ
  片目を失ったハイドは思うようにバランスを取れず正面から機関銃を浴びる
ハイド「ちっ、面白えことしてくれるじゃねえか」
ハイド「あんまりでけえ騒ぎにするつもりはねえ」
ハイド「まあ今日のところはこれでお開きだ」
ハイド「またどこかで会おう」
ハイド「No.7」
  すると凄まじいエネルギーを伴った熱風がハイドを囲うと一気に空中へ飛び出し
  どこかへと消え去ってしまった
  ・・・・・・
  寂寞とした静けさが取り戻され
  気が付くといつの間にか夜が明けビル群の隙間から陽が差し込むところだった

〇個別オフィス
  二週間後──
夜見透「隊長、昨日の見回りの報告書です」
山崎真司「ああ、ご苦労だった」
山崎真司「あれから怪しい痕跡は今のところ見つかっていない」
山崎真司「ひとまず安心だな」
夜見透「ええ」

〇オフィスの廊下
  あれから二週間が経過した
  例の件についての騒ぎはひとまず落ち着いたようだったが
  それでもやはりずっとハイドの言葉が頭の中で引っかかっていた
  僕らは奴らに育てられた同胞、か
  僕は生みの親を知らない
  僕は自分にとって記憶の限りでは無二の親を目の前にして
  殺すことになるのだろうか──
  ・・・・・・
  まあ未来のことを考えても仕方がない
  今はただ自分がやりたいように生きる
  例え残酷な未来に繋がっていようと
  それが僕に残されたたった1つの道なのだから──

コメント

  • 透は育ての親を憎むことにアイデンティティを見出してしまったから、自分の意思だけでそこから脱却するのは難しいと思う。ハイドはこれから敵になるのか味方となるのか、今後の展開が楽しみ。

  • 自分を育ててくれた人、確かに地獄を見ていればそんなの関係ないって気持ちになりそうです…。
    どんな過去があったのかも気になります。

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