『怪人化』(脚本)
〇シックな玄関
月留照子「じゃあ行ってきまーす!」
照子の母「ちょっと、照子!」
照子の母「スマホ、テーブルの上に忘れてるわよ!」
月留照子「げっ!ほんとだ!」
照子の母「はぁ・・・気を付けてよね あなたは部活で帰りが遅くなるんだから」
照子の母「怪しい人に変なことされないかって お母さん心配なんだから!」
月留照子「わあーってるよ! そんじゃ、行って来るね!」
???「・・・・・・・・・」
〇大きな木のある校舎
〇学校の部室
月留照子「さあ!オカルト研究会の諸君!」
月留照子「今日の議題は『怪人化』についてだ!」
日根暮太「『怪人化』・・・ コックリさんやポルターガイスト等の 本来姿形のない『怪異』が」
日根暮太「人の形を得て怪異なる人、 『怪人』になる現象のことですよね」
臼井影絵「ほ・・・本当にそんな 現象があるんでしょうか・・・?」
月留照子「都市伝説のさらに都市伝説のような 話だから、本当だなんて簡単に 言える話じゃないけど」
月留照子「最近は目撃例がたくさん SNSに上がってるみたいなんだよね」
日根暮太「まぁ、SNSなんて余計信憑性なんて あったもんじゃないツールですけど」
月留照子「まぁた君はそんなひねくれたこと 言っちゃって!全部疑ってたら オカルト研究会なんてやってられないよ!」
月留照子「ほら観てみ!この動画を!」
〇霧の立ち込める森
さっきからなんなんだこの音は・・・
まるで刃物で切り裂くような・・・
どんどん近付いて来てる・・・!?
う、うわああああああああ!!!!
〇学校の部室
日根暮太「うそくさ」
月留照子「嘘臭いとか言うなー!!」
月留照子「これは路上で突然刃物で切られたような 傷が出来る怪異、『カマイタチ』の 『怪人化』に違いないよ!」
日根暮太「撮影してた人は無事なんですかね? 今のでやられてたら誰が この動画アップしたんだって 話になりますけど」
月留照子「急いで保存して、すぐアップしたら 間に合うかも知れないだろうが!!」
日根暮太「無理があると思いますけどねぇ」
月留照子「もういい!分かった! 私が『怪人化』の証拠を捕まえて、 君の前に差し出そうじゃないか!」
月留照子「そしたら私の勝ちだからね!」
日根暮太「いいでしょう・・・ じゃあ僕は『怪人化』は存在しないという 決定的な証拠を集めて突き付けてあげますよ」
臼井影絵「あわわわ・・・」
〇学校の部室
日根暮太「部長、帰りますよ 何やってんですか?」
月留照子「ちょ、待って・・・ 部室の鍵、無くしたんだけど・・・」
日根暮太「何やってんですか全く・・・」
臼井影絵「最近部長、無くし物多いですよね」
月留照子「いやぁ、ごめんごめん・・・ 探しとくから君達は先に帰ってて良いよ」
日根暮太「じゃあ、お言葉に甘えて 勝負の件は忘れないでくださいよ?」
月留照子「分かってるよ!絶対証拠見つけるからね!」
臼井影絵「では部長、失礼します・・・」
月留照子「おっかしいなぁ・・・ いつもなら無くす訳ないんだけど・・・」
月留照子「お、こんなところにあった・・・」
月留照子「しっかりしないと・・・ また暮太くんに嫌味言われるわ・・・」
〇女の子の一人部屋
月留照子「な・・・無い・・・」
月留照子「エアコンのリモコンが無い・・・!」
月留照子「な・・・なんでぇ〜・・・? 私、疲れてるのかな・・・」
月留照子「机の下も無いし・・・ もう・・・『怪人化』の証拠を 探すどころじゃないんだけど・・・」
月留照子「まさかベッドの下なんてことは・・・」
「よいしょ・・・っと・・・」
〇黒背景
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・え?
〇女の子の一人部屋
月留照子「・・・・・・」
月留照子「・・・なんかいた今?」
月留照子「いやいや、そんな訳ない・・・ 本格的に疲れてるわこれ・・・」
月留照子「・・・もういっかい覗いてみる?」
「よいしょ・・・っと・・・」
〇黒背景
〇女の子の一人部屋
月留照子「なになになになに!? なんなのこいつ!?」
???「・・・驚かせてしまってすまない」
月留照子「喋った!!」
???「俺は決して怪しい者ではない」
月留照子(怪しいって!!めちゃくちゃ怪しいって!!)
???「どう説明すればいいのか・・・ そうだな・・・」
???「君達に伝わるように話すと、 俺は『怪人化』した『怪異』 という奴らしい」
月留照子「『怪人化』!?」
〇学校の部室
月留照子「もういい!分かった! 私が『怪人化』の証拠を捕まえて、 君の前に差し出そうじゃないか!」
月留照子「そしたら私の勝ちだからね!」
〇女の子の一人部屋
月留照子(か・・・勝てる・・・! これで勝てる・・・!)
月留照子「いや、待てよ・・・ 『カマイタチ』の『怪人化』って こんな見た目してたっけ・・・?」
???「いや・・・俺は『カマイタチ』の 『怪人化』ではない・・・」
月留照子「・・・えっ?」
???「俺は・・・」
リモコン隠し「『リモコン隠し』だ」
月留照子「ショ・・・・・・」
月留照子「ショボい・・・!!」
リモコン隠し「ショボいはやめないか・・・? さすがに少し傷付くぞ・・・」
月留照子「だって『リモコン隠し』ってあの、ただ リモコンが無くなるだけの『怪異』でしょ!?」
リモコン隠し「まぁ、正確には『物に変化を与える物』、 広い意味でコントロールに関する物 全てに俺の力は影響するようになるのだが」
リモコン隠し「例えば、ドアの鍵を開けるのも 広い意味でコントロールに当てはまる」
月留照子「だから最近物が異様に無くなってたのか!!」
リモコン隠し「まぁそういうことだ」
リモコン隠し「すまん」
月留照子「すまんじゃないわ!」
月留照子「リモコン隠しってなんで わざわざそんなことするの!? 意味分かんないんだけど!!」
リモコン隠し「いや特に意味はない・・・」
リモコン隠し「俺が『リモコン隠し』だから隠す・・・ ただそれだけのことだ・・・ 小豆洗いが小豆を洗うのと同じだ」
月留照子「はぁ〜〜〜!?」
月留照子(ど・・・どうしようこいつ・・・)
月留照子(私には物を隠されることに なんのメリットも無いし、 こいつを『怪人化』の証拠に 連れて行ったとしても・・・)
〇学校の部室
日根暮太「『リモコン隠し』・・・?」
日根暮太「なんですかそれ?ショボいですね」
〇女の子の一人部屋
月留照子(──ってなんか恥ずかしいことになるわ!)
リモコン隠し「おい、スマホが鳴っているぞ」
月留照子「あ、ほんとだ・・・ こんな時間に着信・・・?」
月留照子「というかスマホ 見当たらないんだけど・・・」
リモコン隠し「あ、俺が隠したんだった」
リモコン隠し「すまん」
月留照子「いい加減にしろよ・・・お前・・・」
月留照子「影絵ちゃんから・・・!?」
月留照子「もしもし、影絵ちゃん? どうしたのこんな時間に?」
臼井影絵「ぶ・・・部長・・・! 大変なんです・・・!!」
臼井影絵「暮太くんに『怪人化』が存在しない 証拠を探すの手伝ってくれと頼まれて、 一緒に探してたんですけど・・・」
月留照子「影絵ちゃん・・・ あいつの味方だったんだ・・・?」
臼井影絵「ごめんなさい・・・!! 頼まれたら断れなくて・・・」
臼井影絵「──って今はそんなこと言ってる 場合じゃないんです!!」
臼井影絵「出たんですよ・・・!!」
臼井影絵「『カマイタチ』の『怪人』が!!」
月留照子「えっ・・・!?」
〇霧の立ち込める森
臼井影絵「動画に似た雰囲気の林を 散策していたんですけど」
臼井影絵「そうしたら動画と同じように 何かを切り裂く音が徐々に 近付いてきて・・・」
臼井影絵「私は影が薄いので 狙われなかったんですが、 暮太くんが襲われてしまって、 今、必死に逃げているんですけど・・・!!」
臼井影絵「す、すみません!!こんなこと部長に 言っても困らせてしまうだけだと 思うんですが・・・」
臼井影絵「も、もう私どうしたら良いのか 分からなくて・・・!!」
月留照子「分かったから・・・!! 落ち着いて・・・!!」
月留照子「場所どこ!?とにかく 私もすぐそっち向かうから・・・!!」
臼井影絵「ば・・・場所は・・・」
〇女の子の一人部屋
月留照子「すぐ行かなきゃ・・・!!」
リモコン隠し「話は聞こえていた 君だけでは危険だ」
リモコン隠し「俺も同行させてくれ」
月留照子「えぇ・・・?」
リモコン隠し「な・・・なんだその 「ショボい奴が来ても困るな・・・」 みたいな反応は・・・!?」
月留照子「だって・・・実際あんた リモコン隠すだけでしょ・・・」
リモコン隠し「俺だって同行して何が出来るか分からん」
リモコン隠し「だが、それは君も同じではないのか?」
月留照子「うっ・・・」
リモコン隠し「俺は物は無くさせるが 命は無くさせたくないんだ」
リモコン隠し「人数が多いに越したことはない 口論している時間が惜しい 早く現場に向かおう」
月留照子「くぅ〜・・・正論言いやがって・・・ リモコン隠しのクセに・・・!」
〇霧の立ち込める森
月留照子「夜の林の中って暗いね・・・ これじゃ誰がどこにいるのか 分からないよ・・・!」
リモコン隠し「SNSに投稿された動画によると、 カマイタチは辺りを切り裂きながら 移動しているようだったな・・・」
リモコン隠し「音を頼りに探すべきだろう」
月留照子「あんたなんで動画のこと知ってんのよ・・・」
リモコン隠し「スマホを隠した時に動画とか いろいろ観ているのでな」
月留照子「おまっ・・・!?隠すだけに飽き足らず そんなことまでやってんのか・・・!? 乙女のスマホを私物化しやがって!!」
リモコン隠し「今はそれどころではない カマイタチの捜索を優先しよう」
月留照子(流された・・・)
月留照子「こ・・・この音は・・・!!」
リモコン隠し「向こうからだ 用心しつつ距離を詰めよう」
〇霧の立ち込める森
月留照子「暮太くん・・・!良かった・・・! 無事だったんだ・・・!」
リモコン隠し「カマイタチに気付かれる前に なんとかここから逃げよう」
日根暮太「うぅ・・・なんで僕が こんな目に・・・!」
日根暮太(あ・・・あれは部長・・・! こんなところまで来てくれたんだ・・・!)
日根暮太(・・・・・・ん?)
日根暮太「う・・・うわああああああっ!?」
カマイタチ「グア嗚呼嗚呼嗚呼ァッ!!」
リモコン隠し「マズい・・・!カマイタチに 見つかったぞ・・・!」
月留照子「今の絶対あんたのせいでしょ・・・」
カマイタチ「グアァ嗚呼ァ嗚呼アァッ!!」
日根暮太「ヒィッ・・・!!」
月留照子「暮太くん!!危ない!!」
月留照子「うっ・・・!!」
日根暮太「ぶ・・・部長・・・!!」
月留照子「だ・・・だいじょぶだいじょぶ かすっただけだから・・・」
月留照子「いっ・・・!!」
リモコン隠し「・・・・・・!!」
リモコン隠し「カマイタチ・・・貴様・・・ もう許さんぞ・・・」
リモコン隠し「俺が相手だ・・・!! かかってこい・・・!!」
月留照子「リモコン隠し・・・!!やめて・・・!! あんたまでやられちゃうよ・・・!!」
カマイタチ「グアあ嗚呼ぁアァ嗚呼ッ!!」
リモコン隠し「こっちだッ!! 追い付ける物なら追い付いてみろ!!」
リモコン隠し「ほらっ!!どうしたどうした!! どこを狙っているんだ!!」
カマイタチ「グア嗚呼嗚呼アァ嗚呼ぁッ!!」
月留照子「す・・・凄い・・・! 全部避けてる・・・!」
カマイタチ「グア嗚呼嗚呼アァ嗚呼ッ!!」
月留照子「か・・・鎌を投げた・・・!?」
リモコン隠し「物を無くさせることに関しては 俺の右に出る者はいない・・・」
リモコン隠し「物を無くさせる最大の奥義は、 相手を怒らせて冷静さを失わせることだ!!」
月留照子「鎌がどこかに飛んでいっちゃった・・・!!」
カマイタチ「アァ・・・嗚呼ァ・・・」
リモコン隠し「ここまでだな・・・」
リモコン隠し「えーっと・・・リモコンパンチ!」
カマイタチ「グアッ・・・!!」
月留照子「やっぱりなんかショボい・・・!」
こうして、カマイタチ事件は
終結したのであった──。
臼井影絵「み・・・みなさ〜ん・・・!! 大丈夫ですか〜・・・!?」
月留照子「あ・・・影絵ちゃんのこと 忘れてた・・・」
〇学校の部室
暮太くんはあんな体験をして
さすがに信じざるを得なくなり、
完全敗北を認めたのだった。
やっぱりひねくれてるのは変わらないけど。
〇女の子の一人部屋
そして変な同居人が増えてしまった
私はというと──。
月留照子「ちょっと!!リモコン隠し!! あんたまた私のスマホ勝手に 持ち出してるでしょ!?」
リモコン隠し「あっ」
リモコン隠し「すまん」
月留照子「全くいつもいつも物を隠して イライラするわ・・・」
月留照子「はっ・・・!?」
〇霧の立ち込める森
リモコン隠し「物を無くさせる最大の奥義は、 相手を怒らせて冷静さを失わせることだ!!」
〇女の子の一人部屋
月留照子「まさかこいつ・・・わざと 私を怒らせてるんじゃ・・・」
気苦労が絶えない日々を
送っているのであった──。
「突き止める」「ひねくれた」「薄い影」と、登場人物のキャラがそのまま名前になってて面白いなあ、と思っていたらまさかの「リモコン隠し」!そのまますぎるほどそのままやん。彼はなんとも憎めないキャラだけど、同居してたら一番困る人(?)ですね。
怪人達の存在が、妖怪みたいな感じでしたね。
とりあえず、リモコン隠しと仲良くね!
リモコン隠しのショボさがシュールで面白い!