モンスターに追い詰められる俺~記憶が蘇る~(脚本)
〇牧場
眷属「イギィィイイ!」
雄叫びを上げ、赤い方がまず爪を振るう。
タケル「はっ!」
俺はそれを避けるが・・・
眷属「グォォォオオオオ!」
後方から弓矢が連続で放たれる。
タケル「やばっ! 後ろにあの子がッ」
俺は慌てて弓矢を弾き返す。すべて払いのけたが──
眷属「イヒャ! ヒョウゥウウ!」
急に距離を詰めてきたヤギ顔の怪物
子ども「ひっ・・・!」
そいつが、狙っているのは子どものほうだった。
タケル「危ないッ!」
俺は体を捻り体当たりで、化け物を押し返す。
眷属「ヒョッ!?」
タケル「くっ、あッ──」
タケル(ぐっ、肋骨やられたかっ?)
骨で覆われた体に体当たりしたのだから、当然なのだが激痛が走る。
子ども「お兄ちゃん! 大丈夫!?」
タケル「ああ、問題ない、君は下がってて!」
子ども「う、うん!」
俺は再び刀を構え直す。
タケル(ユーヤみたいに魔法が使えたら・・・)
この子を護りながら戦えるのにと歯がゆさに唇を噛む。
眷属「ゴォォオオ・・・」
再び矢が飛んでくる。それも子どもを狙って。
タケル「はっ、やっ!」
それを何とか打ち返す。
タケル「卑怯だぞッ!」
子どもを狙われたら、俺も後手に回らざるを得ない。
眷属「イーヒッヒッヒッ!」
鉤爪を振り上げるモンスター。その先には・・・
子ども「うわぁあああああ!」
タケル「今助けるっ!」
タケル「はぁあああああ!!」
俺は、脇目も振らず刀で直接受けようとするが・・・
タケル「なッ――折れた!?」
ユーヤが作ってくれた刀が折れてしまった。
眷属「グゥアアアアア!!」
これをチャンスと見た眷属が、弓矢を連続で撃ってくる。
タケル「しゃがんで! 早く!」
子ども「う、うん!」
タケル「うっ!」
子どもを押し倒して代わりに弓矢を受ける。背中、足、腕に刺さり血が流れていく。
タケル「がっ・・・ああああアア!!」
肌を裂く弓矢。致命傷は避けられたが、肌に突き刺さり激痛に悶える。
子ども「お兄ちゃん!? ごめんなさい、僕のせいで・・・」
タケル「はあ・・・はあ・・・だ、大丈夫だ」
何とか返事をするが、満身創痍だ。刀も半分折れて使い物にならない。
俺はその場に崩れ落ちた。
眷属「イーヒッヒッヒッ!」
子ども「僕だって! 放て、カルラッ!」
少年は魔法を唱え、小さな水疱をぶつける――が、簡単に振り払われてしまう。
眷属「イヒヒヒヒッ!」
子ども「ダメだ・・・全然効かないよぉ」
タケル(ん? あの子でも魔法使えるのか?)
タケル(もしかしたら、俺も使えるんじゃ・・・)
タケル「いてっ!」
突然頭に痛みを感じる。
タケル「そうだ、魔法・・・思い出したぞ」
あれは数日前、ユーヤと話しているときのことだった。
〇テントの中
タケル「へえ、この世界には魔法があるんだな~」
ユーヤ「そうだよ! 便利でしょ?」
タケル「ああ、武器も速攻作れるんだもんあ~」
タケル「ちょっと、気になったんだけど、魔法って使うのに特殊な才能とかいるもん?」
ゲームの中では、使える人間が限られていたから、この世界もそうだと思った。
ユーヤ「うーん、簡単なものなら大体みんな使えるよ!」
ユーヤ「例えば・・・ちょっと炎を出したり、空気から水を抽出したりとかね」
タケル「おお、すげぇ! 杖とか本とか無くてもできる?」
ユーヤ「そうだね、私は杖を魔力をコントロールしやすいから使ってるね。無くても魔法は使えるよ!」
ユーヤ「タケルは初めてでもあんなに上手に剣も作れたし、魔法の才能ありそうだね♪」
タケル「へぇ、俺だったらどんなことが出来そう?」
ユーヤ「何となくだけど・・・雷とか水とかが相性が良さそうだね~」
タケル「まじか! なあなあ! 俺にも魔法教えてくれよ!」
ユーヤ「タケルが・・・? あっ、それはちょっと・・・」
タケル「何か問題があるのか?」
ユーヤ「それは・・・うん、正直に言うね」
ユーヤ「タケルは、魔法を使ったらすごく危ないの・・・」
タケル「え? それはどうして?」
ユーヤ「えっと・・・タケルを生き返らせたときに、私は時間を巻き戻す魔法をかけたの」
ユーヤ「一瞬で体がバラバラになってしまって、回復魔法じゃ間に合わなかったから・・・」
タケル「そ、そうなんだ。それが何か問題でも?」
ユーヤ「時間の魔法は繊細だから・・・内側から魔法を使うと、簡単に解けてしまうの」
タケル「ってことは、魔法を使ったらもう一度死ぬってことか!?」
ユーヤ「うん。1回だけで死んじゃう訳じゃないけれど、使えば使うほど、タケルの体は死んだときの状態に戻ってしまうの」
タケル「ま、また死んじまうのか・・・」
ユーヤ「そういうこと。だから使ったらいけないんだよ?」
タケル「・・・でもさ、本当にヤバくなったら使えねぇ?」
俺たちは、これから強大な敵に立ち向かうんだ。ピンチになったときの切り札はあったほうがいい。
ユーヤ「えっ・・・!?」
タケル「俺、ユーヤを助けるためだったら、体がバラバラになってもいいって!」
タケル「そもそもユーヤに拾って貰った命だしな!」
ユーヤ「た、タケル? そこまで・・・ 私のこと・・・」
ユーヤ「そんなこと言ってくれ人・・・初めてだよぉ・・・」
タケル「どうした? 目にゴミでも入っちまったか?」
ユーヤ「・・・何でもないよ!」
ユーヤ「・・・ありがとう、でもその気持ちだけで十分だから──」
タケル「ユーヤ?」
タケル(あれ・・・? 頭がぼうっとして・・・)
ユーヤ「大丈夫。今日のこと、ちょっと思い出せないようにするだけだよ」
タケル「忘れるって──!?」
ユーヤ「だって、タケル、魔法使っちゃいそうだもん。それぐらい私に任せてよ・・・ってもう、忘れちゃうかな」
タケル「そんな、ユーヤ! 忘れたくねえよ!」
タケル(頭が・・・)
〇牧場
タケル(ああ、ユーヤは心配して忘れさせてくれたんだなあ)
タケル(だけど・・・俺は・・・どうなったっていいんだ)
タケル「ここで死んだら、ユーヤに恩返しできねえからなッ!」
まずはこいつらを倒す。そしてユーヤとスルトを倒すんだ。体なんて、どうなったって構わない。
俺は体中に刺さった弓矢を引き抜いた。
タケル(まずは刀を直す──)
タケル「刀よ──元の姿に戻れ! アプチー!」
ふっと脳内に浮かんだ呪文を唱えると、折れた刀身が光に包まれて元に戻った。
タケル「うわッ! マジで魔法使えんじゃん!」
タケル「よしッ、この調子で――こいつらを倒す!」
俺は刀を握りしめ、覚悟を決めた。
白熱のバトルシーンですね!タケルの正義感と一本気なところが光ってカッコイイです。ユーヤとの関係性も何だかとってもイイ感じで!