青春に憧れて

こへへい

読み切り(青春に憧れて)(脚本)

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〇オタクの部屋
  高く積みあがった本は、すべて青春学園もののライトノベルを、人間世界から取り寄せたもの。
  棚に大切に保存されているDVDは、これもまた青春学園もののアニメやドラマだ。
  彼は人間の「青春」というのが大好きで大好きで大好きで仕方がないのだ。
  昔から、そうだった。
ギラファラス「ううぐ、そんなぁ、転校なんてあんまりだよぉ、うぐううぐ」
ヘラク「あんた、私を待ってる時間を満喫しすぎでしょ、また青春モノ?」
ギラファラス「あーヘラク、ごめんね集中し過ぎてつい、」
ヘラク「あんたいつしか「本の中の世界に入りたい」とか言いそうで怖いわ」
ギラファラス「そうそれ!」
ヘラク「え、それって何?」
ギラファラス「俺がヘラクを呼んだ理由がまさしくそれなんだ!」
ヘラク「・・・まさか、私の魔法でギラファをこの青春物語の世界に入れろっていうの?」
ヘラク「残念だけどそんな魔法ないわよ、魔法も万能じゃないんだから」
ギラファラス「違うよ、俺は青春物語に入りたいって訳じゃないんだ」
ヘラク「え、それじゃ一体どういうこと?」
ギラファラス「俺は人間世界の学校に行って、青春を体験してみたい!」
ヘラク「はぁー---!!!?」

〇教室
山口先生「というわけで、今日からこのクラスに新しい仲間が転校してきた。入ってくれ」
桑形平太「初めまして、桑形平太です。よろしくお願いします」
山口先生「皆仲良くするように」
女子「なんだぁ。男って聞いてたけど冴えないやつ」
女子「人畜無害っていうか、平凡って感じ?」
桑形平太「あ、あはは、皆さんよろしく」
ギラファラス(なんかめっちゃ噂されてる、まさかヘラクの幻覚が機能していない?)
ギラファラス(いや人間には魔法とは違う特殊な能力を持っているとか、漫画で描いてあったな、空飛んだり心を読んだり)
ギラファラス(まさか、心なんて読まれたら幻覚なんて意味ないじゃないか!)
  ギラファラスは、学園異能バトルものも青春の枠に入れているのだ。
南花(ふむ、二年生中盤で転校してくるとは、怪しい、奇妙、いやはや、怪奇だね)
南花(これは調べなくっちゃ怪奇研究部部長の名が廃るわ、覚悟してなよ、平太君)

〇学校の駐輪場
  転校初日のお昼休み
桑形平太「ヘラクが言うには、ここが人気がないから丁度いいって言ってたけど」
南花(彼、こんなところに何の用なのかしら?これまた怪奇だわ!)
箆暮メカブ「おーい!」
桑形平太「ヘラk...!」
箆暮メカブ「ストップ!」
桑形平太「へ?」
箆暮メカブ「もー、めかぶって名前でしょ?ここではヘラクじゃないの!」
桑形平太「あ!」
桑形平太「そうだった、ごめんごめん」
南花(あの娘は、確か数日前に3組に転校してきた箆暮さん?彼らは知り合いなの?)
箆暮メカブ「それで、ここの学校の雰囲気はどうだった?」
桑形平太「それが、なんか結構な噂をされているらしくって、」
箆暮メカブ「あんたは昔から思い込みが激しいところがあるからね、転校生が学校に来たら大抵はそんな反応するものよ」
桑形平太「え、そうなの?ならばれてないかな?」
箆暮メカブ「大丈夫大丈夫、時間制限と変わるのは見た目だけってところを除けば、私の「ミラジネート」完璧なんだから」
  ヘラクの魔法「ミラジネート」は、術対象を、6時間の間好きなイメージ通りの姿に見える幻覚で包むことができるのだ。
桑形平太「あと数分しかないもんね、かけてもらったのは朝の7時前くらいだったから」
箆暮メカブ「それじゃ、さっさと済ませちゃおうか」
南花(彼ら何の話をしているの?雰囲気だけは恋人っぽいけど何か違う、、気になる、、気になるわこの怪奇!はぁはぁ)
箆暮メカブ「・・・!!」
箆暮メカブ「ちょっとまって、何かいるわ」
桑形平太「え、どこ?まさかやっぱり俺たちの正体を知った誰かが──」
箆暮メカブ「いいえ違うと思うわ、」
山口先生「コラー!南!またお前宿題出してないだろ!今度という今度は逃がさないからな!きっちりやってもらうからな!」
南花「うっげぇ!ばれちゃった!早く逃げないと!」
山口先生「あ!逃げるな待てこら!」
箆暮メカブ「危なかったね、」
桑形平太「そうだね、危うくばれるところだった」
ギラファラス「え?」
桑形平太「これって戻りかけてるんじゃ!?」
箆暮メカブ「大丈夫、今かけてあげるから、ミラジネート!」
ギラファラス「おおおおおおお!!」
桑形平太「戻ったぁ!」
箆暮メカブ「ま、正確にはまた幻術を発動させただけだけどね」
桑形平太「これで今日のところは一安心だよ、ありがとう」
箆暮メカブ「もー、ヒヤヒヤしちゃったじゃないのよ!」
箆暮メカブ「たく、あんたのお願い聞いてくれるのなんて、私くらいなんだからね?ちゃんと感謝しなさいよ?」
桑形平太「ありがとう、ヘラク、俺これから青春を楽しいって思えた時は、真っ先にヘラクのことを思い出すよ!」
箆暮メカブ「・・・!?」
箆暮メカブ「へー、ふーん、そー、勝手にすれば?」
桑形平太「え、どうかしたの?」
箆暮メカブ「べーつに!」
箆暮メカブ(でもあの女危険ね、最悪怪人ばれはいいとして、ギラファに惚れでもしたら・・・。即刻消しておくべきか)
桑形平太「・・・何その怖い顔?」
箆暮メカブ「あ、いや何でもない」

〇古い図書室
  放課後、怪奇研究部の部室
南花「だっはー!面倒くさい!うっざい!」
金剛綱吉「どうかしはりました?南先輩」
南花「昼休みに山口に捕まって、今まで宿題させられてたのよ」
金剛綱吉「頭ええんですから、最初からパパっとやってしもたらえーやないですか」
南花「一分一秒失うことで、私が求める怪奇の真実を見逃すかもしれないのよ?多大なる機会損失だわ!」
南花「宿題という存在が許せない!」
金剛綱吉「はぁ、なんでこの人が全国模試トップなんやろ、大切なものと引き換えした学力なんやろな」
南花「なんか言った?」
金剛綱吉「いえ別に」
南花「それで、金剛君の調べてきた「キューブ型UFO」は調べられたの?今日発表してくれるって言ってたけど」
金剛綱吉「あー、あれですか、あれなぁ、」
南花「どーしたの?別に正体が野良猫だったとかコウモリとかだったってのは仕方がないことよ、躊躇わずに言ってみな」
金剛綱吉「それがその、UFO調べようとはしたんですけどね、先週新しいゲームの発売日やったんですよ」
南花「・・・へ?だから?それで?」
金剛綱吉「その新作ゲームについ時間吸い取られて・・・あ!今思えばこうして調べられなかったのも、UFOの仕業なんじゃ」
南花「ちげーな、それはただ単にお前がゲームに現を抜かしていただけだな」
金剛綱吉「うぐ、はい、現を抜かしていました・・・」
南花「マジかー、怪奇研究部として成果を二人分上げないと、この部屋も使えなくなるし」
金剛綱吉「あ、その代わりに、この前駐輪場で、変な光見ましたよ!あはは」
南花「え!駐輪場で!?詳しく!」
金剛綱吉「え!?といっても見間違いかもしれへんですけど、」
南花「いやいや、私も今日その駐輪場に関するビッグニュースを見たのよ」
金剛綱吉「そうなんですか!何なんです?そのビッグニュースってのは」
南花「今日2組に来た転校生が、とても怪しい人なのよ、桑形君っていうんだけど、転校初日から駐輪場に行ってたのよ」
金剛綱吉「ほう、それは確かに奇妙ですね、でも鍵抜き忘れたとかじゃないんじゃないですか?」
南花「それだけじゃないの、彼は、つい数日前にも転校してきた、あの箆暮さんと一緒だったの、密会していたのよ」
金剛綱吉「ほほう、転校生同士で、でも箆暮先輩って3組でしたよね、別クラスの転校生同士ってほぼ他人みたいなもんやもんな、奇妙ですわ」
南花「でしょでしょ!だから私、桑形君をこの部にスカウトして監視しようと思うの」
金剛綱吉「え、たったそれだけの理由で?」
南花「バカ言わないで、私のアンテナにはビンビンと感じてるわよ」
南花「あの二人何かある、絶対にこの怪奇の真実を突き止めて見せる!」
金剛綱吉「はぁ、かわいそうに」

〇学校脇の道
  次の日、登校中
桑形平太「よーし、今日は転校二日目だ!今日こそ青春っぽいことをいっぱい体験するぞ!」
桑形平太「ヘラクは部活の助っ人頼まれて練習してるらしいし、俺も頑張って青春を謳歌しないと!」
「いっけなーい!遅刻遅刻ぅー!」
桑形平太「ん?」
南花「いっててて、ごめんねぇ」
桑形平太「いえいえ、お怪我はありませんか?」
南花「大丈夫で──った!」
桑形平太「あ!手に切り傷が出来ているじゃないですか!」
南花「う、うん、どうやら切り傷が出来ているみたい」
南花(おかしい、ちゃんと受け身をとった筈だから、怪我はないはずなのに)
南花(しかもこの切り傷、まるで鋭利な刃物に直接手を出したような)
桑形平太「と、とにかくこれ使ってください」
南花「ありがとう、助かったよ」
南花「って!」
南花「女の子に傷を負わせるなんて、これは一大事だなー!」
桑形平太「え、えぇ!?」
南花「どうしてくれるんだー!」
ギラファラス(そういえばこの人、この前ヘラクといた時に近くにいた人だ、もしかしたら怪人ばれしてるのかも、どうしよう...)
桑形平太「あわわわっ!」
南花「こんなの、責任を持って私の部活「怪奇研究部」に入部するくらいして貰わないと、割りに合わないなー!」
桑形平太「え、部、部活に入る!? ・・・はっ!?」
ギラファラス(この展開、なんだか青春っぽい!このやむを得ない状況に陥ってどこかの部活に入る感じ!)
ギラファラス(となったら、これは青春の1ページなんだ!この展開に乗っかることこそ、青春謳歌に一歩近づくってことだよ!)
桑形平太「分かりました!部活入ります!」
南花「よっしゃあ!」

〇古い図書室
南花「と、言うわけで、新入部員の桑形君でーす!」
桑形平太「ど、どーも」
金剛綱吉「まじで連れてきよったよ・・・」
桑形平太「怪奇研究部って、どんな部活をしているんですか?」
南花「怪奇な物事を解明する部活だよ!」
南花「最近でいうと、この金剛君曰く、」
南花「駐輪場で不思議な光を目撃したらしいのよ」
桑形平太「なっ!?」
ギラファラス(見られてた!? ・・・でも光だけだって言っているし、どうにかして乗り切らないと!俺の青春が終わってしまう!)
桑形平太「そ、そうなんだー!ちなみに、どんな感じに光ってたんですかぁ?」
  金剛が白い紙にペンを突き立て、サラサラと描き始めた。
金剛綱吉「雰囲気こんな感じでしたよ」
桑形平太「絵上手いね!?」
ギラファラス(じゃなくて、めっちゃ見られてる!?どうやって切り抜けよう、まったく思い付かないよぉ)
箆暮メカブ「それは、私から話しましょう!」
桑形平太「ヘラク、れさん!?何故ここに?」
南花「ちょっと金剛君、ちゃんとドアの鍵閉めてよね、いつも言ってるでしょ?」
金剛綱吉「え、南先輩達が後から入ったんじゃ」
南花「言い訳はいいの、それで、一体どういうことなの?箆暮さん」
箆暮メカブ「それはですね、」
箆暮メカブ「影絵を彼に見せていただけなのです!」
ギラファラス(影絵って、そんなのでごまかせるわけが...)
南花「ふむ、」
南花「・・・!」
南花「そっか、影絵か、確かに造形が深い影絵ね」
ギラファラス(誤魔化せてる!?)
箆暮メカブ「そういうことなので、何も怪奇ではありません!」
南花「・・・」
南花「なるほどなるほど」
南花「それならば仕方がないね、うん、影絵ならば有りうるだろう」
金剛綱吉「え、いいんですか?」
南花「本人がそう言ってるんだかはそうでいいのよ」
箆暮メカブ「ということなんで!じゃ平太行こっかー!」
桑形平太「え、あ、うん、失礼しましたー!」
金剛綱吉「いつもなら問答無用で根掘り葉掘りなのに、いいんですか?行かして」
南花「中途半端に気づいておくよりも、今は気づいてない振りをしている方がいいときもあるのよ」
南花「必ず真実を突き止めるためには、ね」

〇学校脇の道
箆暮メカブ「あーヒヤヒヤしたー!」
桑形平太「ありがとう、助かったよ」
箆暮メカブ「気を付けてよね、私たち怪人が人間世界にいるなんてバレたら、退治されちゃうんだから」
桑形平太「そうだね、でも俺は憧れの青春を体験してみたいんだ」
箆暮メカブ「何でギラファはこうも真っすぐなんだか」
箆暮メカブ(ま、そこが良いんだけど)
桑形平太「部活動か、これから楽しみになりそうだなぁ!」
  二人の青春はまだ始まったばかり。

コメント

  • 平太の外見がちょっと頼りなさそうな夢見る少年という感じで、まさにギラファスの中の人のイメージ通りでした。転校初日から平太が怪しいと目を付ける南花の勘の鋭さが一番の怪奇現象ですよね。綱吉君のおっとりした関西弁もいい味出してます。

  • 私達人間が過ごす思春期のような甘酸っぱいドキドキするものにあこがれるなんて、とても好感のもてる怪人君ですね。身バレせずにその目標が達成できるように見守りたいです!

  • 怪人の青春体験がドンドンと面白いことに進んでいく様子が楽しいです。部活動がシュールです。怪人の正体がバレないようにガンバレ!クワガタ!

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