怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード22(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇海岸線の道路
  期末テストも終えて、やってきた夏休み。
  バスから降りた瞬間、カンカン照りの太陽と響き渡る蝉(せみ)の声が俺たちを迎え入れた。
由比隼人「うお〜テンション上がってきた! ほんと、ありがとうな茶村!」
  キラキラした目で由比が俺を見る。
  その隣にいるスワも頷(うなず)いている。
茶村和成「ちょうど4人分だったから、むしろ予定が合ってよかったよ」
  俺がスーパーの福引で当てた宿泊券を使うため、俺たちは有名なリゾート地に来ていた。
  メンバーは俺と薬師寺、スワ、由比の4人だ。

〇ホテルの受付
  バス停から少し歩いて宿泊券の裏に記載されているホテルに着く。

〇旅館の和室
  フロントで受付を済ませたあと案内された部屋は、4人が余裕で過ごせる広い綺麗な和室だった。
  「おおー!」と歓声を上げて荷物を置き、浮き足立ったまま部屋を飛び出す。
  向かう先は、ただ一つ。

〇海辺
由比隼人「海だーーーーーーーッ!!」
  雲ひとつない青い空、白い砂浜。
  海は透き通って太陽の光を反射している。
  有名リゾート地にしては適度な人の賑わいで、ゆったりと過ごせそうだ。
  ホテルのフロントマンいわく隣接している3つの海水浴場の中では穴場らしい。
  それにしても、海に来るのなんて何年ぶりだろう。
  興奮しながら海へ駆け寄る由比をスワとともに眺めながら、心地よい潮風を感じた。
  少し遅れて浜辺に来た薬師寺は、「おまたせ〜」と言いながらビーチパラソルを立てる。
  さっきまでは持っていなかったから海の家で借りたんだろう。
  薬師寺はパラソルの下に荷物を置いて、悠々と寝転がった。
薬師寺廉太郎「じゃあ俺はここにいるから、泳いできなよ」
諏訪原亨輔「薬師寺さんは泳がないんですか?」
由比隼人「あ。もしかして泳げないとか?」
由比隼人「大丈夫っすよ、茶村もですから!」
茶村和成「グッ・・・」
薬師寺廉太郎「へえ? 意外だね」
茶村和成「余計なこと言うな」
  じとりと非難の目を向けると、由比は笑いながら「悪い悪い」と謝る。
  くそっ、悪かったな泳げなくて。
  基本的に運動は得意なほうだけど、泳ぐのだけは昔から苦手だった。
薬師寺廉太郎「でもそういうわけじゃなくてね。 あんまり暑いのが得意じゃないんだ」
薬師寺廉太郎「だから3人で泳いできてよ」
  薬師寺はパラソルの影の下で目を瞑(つむ)った。
  由比はビシッと敬礼をして、海辺へと走っていく。
茶村和成(暑いの苦手なのに、なんでストールなんか巻いてるんだ・・・?)
  俺は疑問に思いながらも、別に気にすることでもないか、と海へ向かった。

〇海
  借りた浮き輪に乗って、俺はスワと由比に押されながら沖の方へと向かう。
  由比が下を指差した。
  音を傾けながら水面に顔をつけると、そこには魚が泳いでいる。
  捕まえようと手を伸ばしてみたが、魚は俺の手をすり抜けて泳いでいってしまった。
諏訪原亨輔「茶村、そばにクラゲいるぞ」
茶村和成「うおっ!?」
由比隼人「大丈夫か? 浮き輪から落っこちんなよ」
茶村和成「なんとか・・・」
由比隼人「しゃっ! もっと向こうまで泳ごうぜ!」
  調子に乗ってどんどん深いところへ行こうとする由比を止めつつ、俺たちは海を堪能した。
  薬師寺は相変わらずビーチパラソルの下で寝転がっているようだ。

〇海辺
  昼になって、お腹が空いた俺たちは海の家で焼きそばを食べた。
  キャンプのカレーもそうだが、こういうときに食べる焼きそばはなんとなくいつもより美味しい気がする。
  食べ終わったあと、もう少し休憩しようとパラソルの下の薬師寺の隣に腰を下ろした。
  買ってきたペットボトルのお茶の1本を薬師寺に手渡して声をかける。
茶村和成「水分補給くらいしとけよ」
薬師寺廉太郎「ありがと〜茶村」
  そして自分も、もう1本の封を開けて冷たいお茶を喉に流し込んだ。
  海の方に視線を向けると、貸出されている大型ジェットスキーを乗りこなす由比とその後ろに乗っているスワの姿が目に入る。
  由比は俺の視線に気づいたのか、満面の笑みでこちらに手を振った。
  手を振り返すと、薬師寺は「ふふ」と小さく声を漏らす。
薬師寺廉太郎「いやー、ふたりとも元気だね」
茶村和成「ほんとにな。 俺はもう疲れてきた」
薬師寺廉太郎「茶村はちょっとおっさんっぽいよね」
茶村和成「はは・・・、それならお前はおじいさんだな」
  軽口を叩きながら、しばらく薬師寺と影の中で過ごす。

〇海辺
  それからまた海に入ったりビーチバレーをしたりしていると、徐々に人も少なくなり、日も暮れ始めた。

〇海辺
  俺たちは用意されている海辺のバーベキューゾーンに向かう。
  熱々の網に具材を載せていく。
  1番最初に箸を伸ばしたのは由比だ。
  箸はまっすぐと肉へと向かっていく。
由比隼人「いっただきぃ!」
由比隼人「うわっ! うめぇ〜・・・。 俺、この世に生まれてきてよかった・・・」
茶村和成「んな大げさな・・・」
由比隼人「いやまじ、食ってみ?」
  由比に促されて、網に乗っている肉を皿にとったタレにくぐらせて口に運ぶ。
  舌に乗った瞬間、肉汁とタレが混ざり合い口の中全体にジュワっと広がる。
茶村和成「・・・美味い」
由比隼人「だろ!?」
諏訪原亨輔「おい由比、肉ばっか食べるなよ。 これも食え」
由比隼人「待って! ナスだけは勘弁!!」
  スワが由比の皿にポイポイと野菜を入れる。慈悲でナスだけは載せられていなかった。
  ふたりのやり取りを見て笑いながら、ふと周りを見て薬師寺がいないことに気づいた。
茶村和成「なあ、薬師寺は?」
由比隼人「んー? トイレじゃね?」
茶村和成「俺、薬師寺探してくる」
由比隼人「おー! いてらー」

〇海岸線の道路
  最初にトイレを探してみたが、いない。
  ホテルに戻ったのかと思ったが、海の方へ視線を向けると浜辺に立つ薬師寺が見えた。

〇海辺
茶村和成「どしたんだ?」
  薬師寺は変わらず俺に顔は向けず、暗い海をじっと見つめている。
薬師寺廉太郎「・・・こんな話を知ってるかい?」
茶村和成「・・・?」
薬師寺廉太郎「海は昔から此世(このよ)ならざるものが現れやすい場所だと言われていてね、死亡者や行方不明者が絶えない場所なんだよ」
薬師寺廉太郎「浜辺の岩陰に入ると、どこか別の世界に行ってしまう話だったり、海の中で足を掴まれた話だったりね」
薬師寺廉太郎「もちろん、海に棲む生物の仕業だとか言われていることもあるけど・・・」
薬師寺廉太郎「それだけでは説明のつかない現象が多く語り継がれているのは、本当にそういったものが存在しているからなんだよ」
  思わず顔がひきつる。
  薬師寺の表情がよく見えないから、さらに気味が悪い。
薬師寺廉太郎「ひゃひゃっ、なーんてね。 戻ろっか」
  薬師寺は踵(きびす)を返すと、バーベキューゾーンへと戻っていった。
  俺も薬師寺のあとに続く。
  浜辺からあがり石段と靴の裏に残った砂が擦れて悲鳴を上げた。
  石段を登りきると、薬師寺は再び海の方を振り返る。
  つられて俺も視線を向けるが、月明かりに照らされた水面以外はなにもない。
  人の声もしない海は、ただ波が静かにざわめいていた。

〇旅館の和室

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