異人調査会 ~異世界転生転移総合人材調査株式会社~

セーイチ

異世界人をリサーチ(脚本)

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〇研究所の中枢
コンサイン「♪」
ディスバーチ「おはよう」
コンサイン「おい~す」
ディスバーチ「またゲームか」
コンサイン「お前もやってみろよ、流行ってるらしいぜ 牛娘」
ディスバーチ「・・・は?」
コンサイン「擬人化した牛の美少女を育てて、どれだけ高額で売れるかを競うんだ」
コンサイン「クールだろ?」
ディスバーチ「それタチの悪い偽物じゃないか」
コンサイン「この世の大半は模倣と偽物で出来てんのさ」
ディスバーチ「何を達観してんだよ」
  俺はスマホに夢中な相方を余所に、棚のファイルを取り出した
  契約書だけは未だ紙、面倒な事だ
ディスバーチ「っで、昨日の男はどうだ?」
コンサイン「ああ、本人もヤル気だし問題ないだろう」
ディスバーチ「そうか、じゃあ仮済だな」
  俺はファイルから該当書類を抜き取った
コンサイン「しっかし、そんなに行きたいもんかねぇ、異世界」
コンサイン「噂じゃチートも悪役令嬢もグルメも飽和状態」
コンサイン「需要あんのは、報復系とか死ぬより辛ぇトコばっかりだぜ」
ディスバーチ「チート系の依頼とか、ウチみたいな零細企業にまで回って来ないだけだろ」
ディスバーチ「大手じゃ未だに大人気らしいぞ」
コンサイン「なるほどねぇ、金のある所にしか金になる話は来ない訳だ」
コンサイン「それじゃ、俺達に目を付けられた人間ってのは不幸の極みだな」
ディスバーチ「そうでもないさ」
ディスバーチ「俺達の受ける依頼が全部ハードモードとは限らない」
ディスバーチ「それに、どんな世界でもハッピーエンドの可能性はゼロじゃないし」
ディスバーチ「依頼内容だけでは決め付けられないだろう」
コンサイン「確かに」
コンサイン「そもそも転送先での扱いなんて、依頼書にも殆ど記載されてないしな」
  相方が溜息交じりにアプリを閉じた
コンサイン「取り合えず仕事するか」
ディスバーチ「ああ」

〇地球
  俺達は、地元の会社からこの世界に派遣された
  社名は「異世界転生転移総合人材調査株式会社」
  略して異人調査会
  俺、ディスバーチが支部長
  相方のコンサインは支部長補佐
  仕事は、あらゆる世界から希望する人材の情報を受け取り、俺達が現地調査
  希望条件と一致する人材を発見したら、その情報を売る
  つまり、勝手に個人情報を調べて異世界のクライアントに送るだけ
  地球で言う所の興信所に近い
  そして採用が決定したら、その人物はクライアントの居る世界へ送られる
  決して俺達が殺して転生させたり、無理やり転移させてる訳じゃない
  荒っぽい仕事は、専門業者かクライアント自身に任せている
  クライアントは異世界の人間、神様、魔王等様々だ
  そして転送完了後
  クライアントからウチの会社にギャラが入金される
  中には自ら人材を探す者もいるが、技術的にもコスト的にも結構な負担になる
  一番のネックは、対象者の性格や精神状態の鑑定
  そして当人に転生や転移の意志が有るかの確認だ
  別に当人が希望していなくても異世界へは渡れる
  だが特に転移の場合、抵抗されると面倒だ
  無駄に時間も経費も掛かる
  だから当人に世界を渡る意志が有るかどうかは結構重要だし、調査会社を利用した方が効率的だ
  現地に居るからこそ出来る調査もあるって事

〇研究所の中枢
ディスバーチ「さて、新規の依頼を確認するか」
コンサイン「了解」
ディスバーチ「え〜と希望条件は・・・」
ディスバーチ「1.内科・外科・整形外科・精神科、全てが世界No.1の若きイケメン医師」
コンサイン「ブラックジャックか」
ディスバーチ「2.重度の歴史オタクで諸葛孔明並の頭脳を持つ、傾国レベルの超絶美少女」
コンサイン「せめてドッチか一つにしろ」
ディスバーチ「3.Wikipediaの全情報を記憶した超天才児」
コンサイン「逆にアホだろ」
ディスバーチ「4.剣一本で1万人を斬り殺した伝説の剣士」
コンサイン「寝言は寝て言え!!」
ディスバーチ「・・・あのな、文句ばっかり言ってたら進まないだろ」
コンサイン「いやいや、ハードル高過ぎだって」
コンサイン「そんな高スペックな奴、この世界じゃフィクションにしか居ねーよ」
ディスバーチ「そりゃそうだけど・・・」
コンサイン「何か日を追う毎に条件が厳しくなってないか?」
ディスバーチ「仕方ないだろ、実際そう言う依頼ばかり来てんだから」
コンサイン「何でだよ、例えば普通の主婦が異世界で活躍するパターンだって需要あるだろ」
ディスバーチ「だから、そう言うのは大手に回るんだよ」
ディスバーチ「「お徳用割引」とか「お纏め何人パック」とかの特別プランで」
ディスバーチ「ウチに来るのは、低単価か無理難題、訳アリ物件くらいなもんだ」
コンサイン「また今月も本部から売上低いって愚痴られんじゃん・・」
ディスバーチ「言わせとけ、ウチの支部はまだマシな方だ」
ディスバーチ「日本って国が有る限り、な」
  俺は相方の前に依頼書のファイルを置いた
ディスバーチ「俺は調査中の人材に会ってくる」
コンサイン「上手く行きそうか?」
ディスバーチ「多分な」

〇駅前広場
羽衣「そろそろだな・・・」
  今の姿は調査用だ、名前は羽衣(うい)
  何時もの姿では流石に接触できないからな
葉山早紀「遅くなって御免なさい!」
羽衣「大丈夫、私もさっき来た所だから」
  息を切らせてやって来た彼女は、葉山早紀(はやまさき)
  俺が目を付けている人材だ
  募集条件は
  希望転種:転移
  性別:女性
  年齢:20歳±2
  人数:1
  身体:150~160cm
  体重:50kg以下
  出生:不問
  容姿:不問
  運動能力:並以上
  健康状態:良
  その他:オタク要素は必須(ジャンルは不問)
  特記事項:我慢強い事
  我慢強い・・・か
  俺達は対象に気付かれずに、相手の精神鑑定が出来る
  接近すれば、相手の内面を探るのは難しくはない
  疑似面接ってトコか
羽衣「じゃ行こっか、早紀ちゃん」
葉山早紀「うん」

〇ファミリーレストランの店内
  近場のファミレスにやって来た俺達は、適当な料理とドリンクバーを注文した
葉山早紀「いや~個室以外でオタ話が出来るなんて、良い時代になったよね♪」
葉山早紀「そうそう、昨日参加したイベントなんだけどね・・・」
  早紀は満面の笑みで語りだした

〇東急百貨店
  数日前
  条件にオタク要素が有ったので、取り合えず俺は直近のアニメイベントに参加した
  そこで出会ったのが早紀だ
  初対面の早紀は
  コスプレ姿だった
  アニメファン以外も多く集まる駅前の百貨店で、だ
  コイツしかいないと思った
  早紀の目の前でアニメグッズを落とし、それを拾わせた事で出会いの切っ掛けにした
  我ながらベタだったと思う
  そして自分も作品のファンだと言う事、オタ友が居ない事等々・・・
  少し情報を与えただけで、早紀の方から食いついて来た
葉山早紀「ライン交換しませんか?」

〇ファミリーレストランの店内
  何度かラインをして、今日が初めてのオフ会
  俺は饒舌に語る早紀に微笑みかけながら、彼女の精神鑑定を試みた
  ・・・悪くない
  早紀は平凡な人間だが、自分の好きな事に対しては強い拘りがある
  愛するモノの為なら、どんな困難にも立ち向かえる
  鋼とも言える、固い意志が有る
  我慢強い、とも言える
葉山早紀「それでアクブタの最新話なんだけど」
羽衣「うん」
  「アクブタ」とは早紀がハマっているアニメ
  正式名は「悪役令嬢と豚野郎」
羽衣「・・・」
  まぁ、そこはどうでも良い
羽衣「一回読んだだけで、そこまで考察出来るんだ」
羽衣「早紀ちゃんは凄いね」
葉山早紀「凄くない凄くない!羽衣ちゃんが聞き上手なだけだよ!」
羽衣「私、早紀ちゃんと知り合えて良かった」
葉山早紀「私だって!」
  照れくさそうに頬を染める早紀
  そろそろ本題に入るか
羽衣「ねぇ早紀ちゃん」
葉山早紀「何?」
羽衣「早紀ちゃんは、異世界とか行ってみたい?」
  早紀が眼を輝かせた
葉山早紀「もちろん!」
葉山早紀「あ、でもアニメの続きが観られなくなるのは困るなぁ~」
葉山早紀「でもでも、アクブタの世界だったら絶対行きたい!」
葉山早紀「交通事故にあったり通り魔に刺されてでも行きたい」
羽衣「転生希望?」
葉山早紀「転移でもOK!私のルックスじゃ悪役令嬢にはなれないけど、モブだって良い!」
羽衣「本当に好きなんだね」
葉山早紀「当然!アクブタは私の人生そのものだもん!」
  希望先は兎も角、当人に異世界へ渡る意志が有る事は確認できた
  後の手配も幾らか簡略出来るだろう
葉山早紀「それでね・・」
  上機嫌で推しへの愛を語る早紀
  俺は早紀の熱弁を聞きながら、脳内で最終確認を行った

〇駅前広場
羽衣「今夜は付き合ってくれてありがとう」
葉山早紀「ううん、コチラこそ誘ってくれてありがとう!」
葉山早紀「じゃあ、またね」
  早紀が帰宅しようと背を向けた後、急に振り返った
葉山早紀「羽衣ちゃん、もしアクブタ世界に行けたら一緒に行こうね!」
羽衣「・・・うん」
  笑顔で走り去る早紀
  なぜだろう
  俺は早紀が見えなくなるまで、その場を動く事が出来なかった

〇研究所の中枢
コンサイン「おう、お疲れ」
ディスバーチ「早いな、仕事したか?」
コンサイン「ちゃんとしてきたっての!!」
  コンサインが書類をヒラヒラさせる
  条件は一部の外見のみ
  低単価だが、やらないよりはマシか
コンサイン「お前の方はどうなんだよ」
ディスバーチ「ああ・・・」
  俺は曖昧な返事をしたまま書類を取り出した
  氏名の欄には、既に早紀の名前が記入されている
  残りの項目を埋めれば、スグにでも提出可能だ
コンサイン「何だ書かないのか?」
ディスバーチ「いや・・・」
  俺が書類に手をかざすと、脳内に浮かべた情報が文字になって現れた
  必要項目が一瞬で記入される
  記入が完了すれば、自動でクライアントに送られるシステム
  これで俺の仕事は終わりだ
コンサイン「どれどれ、何所の依頼だったんだ?」
  コンサインが俺の書類を覗き込んだ
コンサイン「お、こりゃまたエグイ所だな」
ディスバーチ「・・・」
コンサイン「確かココ、他社も含めると1年で50人以上は転移されてんだろ?」
コンサイン「それも全て同じ条件で、1人ずつ・・・つまり」
ディスバーチ「・・・俺達には関係無い」
コンサイン「ま、そうだな」
  相方が言いたい事はわかる
  何十人も同じ条件で依頼している理由
  一つは単純に労働力として有能な為、可能な限り手に入れたいと考えている場合
  しかし、それなら必要人数を同時に依頼すれば良い
  短期間で繰り返し依頼を出すのは、手間なはずだ
  大手なら割引もあるだろうし
  ならば考えられる事は・・・
  送られた人間が、誰一人として期待された成果を上げられていない場合
  例えば高難度の試練を課され、全員が短期間に次々と命を落とした・・・とか
  その中でも一番可能性が高いのは、人体実験に利用されている場合だろう
  以前、同様のケースが有った
  人体実験を繰り返し行い、失敗する度に同じ人材を募集する
  条件が全く同じ理由は、一貫したデータが欲しいから・・・だった
  他にも理由は考えられるが・・・
  正直、俺達に正解はわからない
  わかる必要もない
  俺達は情報を売れば良いだけなのだから

〇東急百貨店
  数日後、俺は早紀と出会った百貨店や

〇ファミリーレストランの店内
  一緒に食事をしたファミレスを訪れた
  しかし、彼女の姿は何所にも無かった
  LINEも未読
  そして俺はクライアントからの入金を確認し、全てが終わった事を知った

〇川沿いの原っぱ
  何時もこうだ・・・
  コンサインに偉そうな事を言っておきながら、俺自身が割り切れていない
羽衣「私が転移した時も、誰かにリサーチされてたのかな・・・」
  何時しか、私がリサーチする側になってしまった
羽衣「こんな筈じゃなかったのになぁ・・・」
  後悔しても遅い
  私は確かにアノ時、自ら異世界転移を望んだのだから
  抵抗する事も出来たのに

〇謁見の間
  夢見た世界

〇闇の要塞
  生きる為の選択

〇川沿いの原っぱ
  その結果が、今の私
  異世界の怪人になった、私
  自分が産まれた世界の筈なのに、朝日がやけに眩しく感じられる
  もうこの世界は、私にとって異世界なのだと改めて思い知らされた
羽衣「さて、仕事しよ」
  私は俺になって、相方の待つ職場へと向かった
  今日もまた、新たな人材を探す為に

コメント

  • 異世界人のリサーチってすごい発想ですね。ちょっと新興宗教の入信者候補調査みたいで怖かったです。今はディスバーチとして働く羽衣もかつては早紀と同じ調査される側だったことにも驚きです。異世界に限らず、現実という地獄に嫌気がさして飛び込んだ別世界が種類が違うだけの地獄だったということはありうるでしょうね。

  • 現実社会にもブラックな仕事とわかっていても、生活の為と割り切ってやり過ごしている人は少なくないと思います。仕事は単に生きる糧と考えるか、やりがいととらえるか、縛ることなくそれぞれでいいのだと思います。

  • まず物凄い設定に驚いてしまいました。確かに異世界転生が恒常的に行われているのなら、このような調査もビジネスとして成立しますよね。ビジネスとちゃんと割り切れるのならば‥‥。切ないラストも心に刺さりました!

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