モンスターペアレント

マヤマ山本

モンスターペアレント(脚本)

モンスターペアレント

マヤマ山本

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モンスターペアレント
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〇コンビニ
  ココは繁華街にほど近い、どこにでもあるようなコンビニエンスストア

〇店の事務室
  事務所内には、人影が2つ
  1人は、どこにでも居るようなアルバイト店員
  もう1人は、やはりどこにでも居るような少年
  ──あくまでも、『そう見える』というだけの話だが・・・
店員「ねぇ、ボク わかってる?」
店員「万引きは、立派な犯罪なんだよ?」
フィーリオ「・・・・・・」
店員(ったく、近頃のガキは・・・)
店員「もうすぐお父さんが来るから、たっぷり怒られるといいよ」
フィーリオ「あーあ、連絡しちゃったんだ 知〜らない」
フィーリオ「店員さんの方が、無事で帰れないかもね」
店員「一体、何言って・・・?」
  コンコン
店員「おっ、来たみたいだな。どうぞ〜」
???「失礼します」
パドレ「この子の父です」
店員「!? か、かかか、怪人〜!?」

〇黒
  『モンスターペアレント』
フィーリオ「俺はフィーリオ、怪人だ」
フィーリオ「え? 怪人に見えないって?」
フィーリオ「この世界の怪人で”怪人”の姿になるのは、成人男性だけ」
フィーリオ「だからまだ、こんな人間みたいな姿をしているけど」
フィーリオ「いずれ立派な怪人になるため、今のうちから悪い事をして人間に迷惑をかけているんだ」

〇ネオン街
フィーリオ(だから今日も、褒められると思っていたのに・・・)
フィーリオ「・・・何でだよ、父ちゃん」
フィーリオ「あんな店員、父ちゃんなら楽勝だろ? それなのに・・・」

〇店の事務室
パドレ「この度は息子がご迷惑をおかけしまして・・・」
店員「い、いえ、その、子供のした事ですし 今日はもう、お帰りにいただいて大丈夫ですので・・・」
パドレ「ありがとうございます 帰るぞ、フィーリオ」

〇ネオン街
フィーリオ「ヘコヘコ頭下げちゃってさ」
フィーリオ「『悪い事したら謝る』なんて、人間のする事だぜ?」
フィーリオ「俺達、怪人だろ?」
パドレ「お前はまだ、怪人じゃない」
パドレ「怪人の子供だ」
フィーリオ「は? 同じだろ?」
フィーリオ「いつか俺にも角や牙が生えて、立派な怪人になって」
フィーリオ「正義のヒーロー達をぶっ倒してやるんだ」
パドレ「・・・フィーリオ 立派な怪人になりたいのなら、覚えておけ」
パドレ「怪人に必要なのは、正義だ」
フィーリオ「は? 正義はヒーローだろ?」
パドレ「もちろん、ヒーローも正義だ」
フィーリオ「両方正義って、意味わかんねぇ」
パドレ「・・・空を見ろ、フィーリオ」
  言われるがまま、空を見上げるフィーリオ
  そこにはただ、漆黒の闇が広がっているだけだった
パドレ「星は見えるか?」
フィーリオ「ううん、見えない」
パドレ「見えるようになったら、お前も立派な怪人だ」
パドレ「それまでは、良い子にしていろ」
フィーリオ「そういう父ちゃんは、立派な怪人なのかよ?」
パドレ「何?」
フィーリオ「偉そうな事言って、子供扱いして」
フィーリオ「そんな立派な怪人さんなら、さっさとヒーロー倒してくれよ」
パドレ「・・・・・・」
フィーリオ「どうせ、恐いんだろ?」
フィーリオ「ヒーローと戦うのが ヒーローに負けるのが」
フィーリオ「でも、俺は違う」
フィーリオ「俺は絶対、父ちゃんよりも凄ぇ怪人になってやるんだ!」
パドレ「フィーリオ・・・」

〇一軒家
  ココは、どこにでもあるような住宅街
  ──ではなく、怪人だけが生活する区域『怪人区』の一画

〇男の子の一人部屋
モリエ「あの子、そんな事言ったの?」

〇ダイニング(食事なし)
モリエ「イヤね、もう反抗期かしら?」
パドレ「・・・その割には、嬉しそうだな」
モリエ「そんな事ないわよ?」
モリエ「ただ、アナタはいきなり難しい話しすぎ」
モリエ「子供にする話じゃないわよ」
パドレ「むぅ・・・すまん、しかし・・・」
モリエ「『時間がない』のよね?」
パドレ「!?」
モリエ「女を舐めないでね、お見通しなんだから」
パドレ「・・・フッ、敵わないな」

〇養護施設の庭
  ココは・・・人間の言葉で表すなら『公園』に近い場所
  フィーリオは空を見上げていた
フィーリオ(昼間だし、やっぱ星は見えねぇか・・・)
アミ「フィーリオ!」
フィーリオ「痛っ」
ベン「ラッキー、貰いっ」
アミ「ボケっとすんな、バカ!」
フィーリオ「『バカ』って言うな、バカ」
フィーリオ「取り返しゃいいんだろ? オラっ!」
ベン「あぎゃっ!?」
  ボールを強引に奪い返すフィーリオ
  尚、人間も怪人もサッカーのルールに違いはない
フィーリオ「ほら、見たか?」
アミ「フィーリオ、それファウルだから」
ベン「そうだよ、ひどいよ〜」
フィーリオ「は? あれくらい普通だろ?」
フィーリオ「むしろそんなんだから、試合で勝てねぇんだろうが」
ベン「別に俺は、楽しくサッカー出来ればそれでいいから」
フィーリオ「だから、勝たなきゃ楽しくねぇだろ?」
アミ「もう、その辺にしときな」
フィーリオ「何だよ、アミ」
フィーリオ「俺、間違った事言ってるか?」
アミ「間違ってない、フィーリオは正しい」
フィーリオ「ほら見ろ」
アミ「でも、ベンも間違ってない どっちも正しい」
ベン「でしょでしょ」
フィーリオ「は? 何だそれ、意味わかんね・・・」

〇ネオン街
パドレ「怪人に必要なのは、正義だ」
パドレ「もちろん、ヒーローも正義だ」
フィーリオ「両方正義かよ、意味わかんねぇ」

〇養護施設の庭
フィーリオ「そうか、そういう事だったんだ」
ベン「? なに一人で納得してるの?」
フィーリオ「いや、別に」
アミ「でもまぁ、フィーリオが荒れる気持ちもわかるけどね」
フィーリオ「? 何の話だ?」
ベン「・・・もしかして、まだ知らないの!?」

〇一軒家

〇ダイニング(食事なし)
  ダダダダ・・・
フィーリオ「父ちゃん!」
パドレ「どうした? 『ただいま』も無しに」
フィーリオ「ヒーローと戦うって、本当なの?」
パドレ「・・・そうか、聞いたか」
フィーリオ「何でだよ、何で父ちゃんが・・・」
フィーリオ「俺のせい? 俺が煽ったから?」
パドレ「それは違う、もっと前から決まっていた事だ」
フィーリオ「・・・嫌だよ」
フィーリオ「止めてよ、断ってよ!」
パドレ「そういう訳にもいかないのだ」
フィーリオ「でも・・・」
パドレ「・・・フィーリオ、少し付き合え」
フィーリオ「え・・・?」

〇山の展望台(鍵無し)
  そこは、見晴らしの良い丘の上だった
  眼下には住宅街やネオン街の灯りが広がり、上空では星の光が闇夜に映えていた
フィーリオ「へぇ、こんな穴場あったんだ〜」
パドレ「・・・不思議には思わないか? 街の中心部では見えない星が、ここでは簡単に見る事が出来る」
フィーリオ「バカにすんな、それくらい知ってる」
フィーリオ「地上の灯りが明るすぎると、星の光が見えなくなるんだろ?」
パドレ「・・・よく勉強しているな」
フィーリオ「まぁね」
パドレ「しかし皮肉なものだ」
パドレ「光こそが、光の邪魔となっている」
パドレ「いわば『光の敵は光』」
フィーリオ「どうしたの、父ちゃん? いきなり語り出しちゃって」
パドレ「似ているとは思わないか?」
  ネオン街を指差すパドレ
パドレ「あのネオン街が、人間の正義」
  夜空の星を指差すパドレ
パドレ「そして、あの星の光が怪人の正義」
パドレ「正義同士故に共存出来ず、争い」
パドレ「敗れた側の正義は、見えなくなってしまう」
フィーリオ「・・・・・・」
パドレ「フィーリオにはまだ難しかったか」
フィーリオ「・・・いや、最近ちょっとだけわかってきた」
フィーリオ「『どっちも正しい』って事、あるんだよな」
フィーリオ「だから、どっちも譲れないんだよな」
パドレ「そうだ、いわば『正義の敵は正義』」
フィーリオ「正義の敵は、正義・・・」
パドレ「よく『正義は勝つ』などと言うが、あの言葉は正確ではない」
パドレ「『正義なき者に勝利はない』、それだけの話だ」
フィーリオ「じゃあさ、父ちゃんの正義って何?」
フィーリオ「ヒーローに負けたら、父ちゃんは死ぬんだぞ? 残された俺達はどうすんだよ?」
フィーリオ「そんな危険を冒してまでヒーローと戦うなんて、どんな正義だよ!?」
パドレ「それはな、父さんが怪人だからだ」
フィーリオ「何だよソレ、全然わかんねぇよ!」
パドレ「・・・なら、力づくで止めるか?」
フィーリオ「・・・えっ!?」
パドレ「フィーリオ、お前は正しい」
パドレ「それは、お前の正義だ」
パドレ「だが・・・もうわかるだろう?」
フィーリオ「・・・・・・」
  拳を握りしめるフィーリオ
  そんなフィーリオを優しく抱き寄せるパドレ
パドレ「フィーリオ、あの場所が見えるか?」
  パドレが指したのは、怪人区と人間区の緩衝地帯にある採石場だった
パドレ「父さんは、あの場所でヒーローと戦う」
パドレ「ココからなら、安全に見届けられるだろう」
フィーリオ「父ちゃん・・・」
パドレ「フィーリオ、立派な怪人になれよ」

〇山の展望台(鍵無し)
  パドレとヒーローの決戦当日
  フィーリオは母とともに、戦いの行方を見守っていた
フィーリオ「父ちゃん、行け! そこだ!」
モリエ「アナタ・・・」
パドレ「フィーリオ、立派な怪人になれよ」
パドレ「角を折られる事もあるだろう」
パドレ「牙を抜かれる事もあるだろう」

〇山の展望台(鍵無し)
パドレ「尻尾を切られる事も、翼をもがれる事もあるだろう」
パドレ「それでもまっすぐに、自分の正義を貫ける怪人になれ」

〇山の展望台(鍵無し)
パドレ「約束だぞ、フィーリオ・・・」
フィーリオ「あ、危ない!」
フィーリオ「父ちゃ〜ん!」

〇ダイニング(食事なし)
モリエ「アナタ・・・」
モリエ「アナタの妻になれて、私は幸せだったわよ」
モリエ「本当に・・・」

〇男の子の一人部屋
フィーリオ「・・・許さねぇ」
フィーリオ「ヒーローめ、絶対許さねぇ!」
フィーリオ「いつか、俺が父ちゃんみたいな立派な怪人になったら」
フィーリオ「父ちゃんの敵、絶対に取ってやるからなっ!」
  その時、空にキラリと輝くものが見えた
  それが星の光だったのかどうかは、わからない

〇宇宙空間
  ──あくまでも、『そう見えた』というだけの話だが・・・
  - 完 -

コメント

  • 街の光と夜空の光の例えが秀逸でした。どちらかが明るすぎると片方が見えないということ。つまり絶対的な正義はないということか。素晴らしいモンスターペアレントの子であるフィーリオは将来どんな怪人になるんだろうか。

  • 知っているモンスターペアレントとは違い、素敵な親子愛のお話でした。
    正義は勝つ…今まで、深く考えることはなかったもののそれぞれの正義があること忘れません。

  • 一般的なモンスターペアレントとは真逆な素晴らしい怪人両親でした。確かに、『正義は勝つ!』という言葉の意味を深く考え始めました。とても分かりやすい道徳的な物語だと思います。

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