読切(脚本)
〇病院の診察室
──2002年
『都内・某診療所』
???「──先生、私・・・もう助からないの!?」
闇医者「雨宮さん、まあ落ち着きな・・・」
闇医者「この薬を飲めば助かるだろう。 だが・・・」
闇医者「重大な副作用が報告され、未完成のまま開発は中止された」
雨宮 美雨「重大な・・・副作用?」
〇病院の診察室
闇医者「薬を飲むと一時的に怪人になり、三つの力が付与される」
闇医者「『人間の寿命を視る力』」
闇医者「『人間の寿命を吸収する力』」
闇医者「『人間の願いを叶える力』」
闇医者「寿命を吸収した人間の願いを叶えると、 吸った寿命分、君は人間の姿に戻れる」
闇医者「物は試しって言うだろ・・・?」
〇病院の診察室
雨宮 美雨「体が・・・熱い・・・」
闇医者「すぐに慣れるさ。それじゃ、始めようか」
闇医者「俺の寿命は視えているかい?」
雨宮 美雨「・・・350,400時間」
闇医者「えーと・・・35万時間って何年だ?」
雨宮 美雨「およそ40年ですね」
闇医者「流石は元数学教師。計算速いな」
闇医者「んじゃ、次は俺の願いを叶えてもらおう」
闇医者「んー・・・バナナが食いたいな」
闇医者「俺の手を握ってくれ」
闇医者「そして、俺がバナナ食べてるところを 想像するんだ」
雨宮 美雨(先生が、バナナを食べてる・・・)
雨宮 美雨「バナナが出てきた!?どこから!?」
闇医者「──成功だよ!!素晴らしい!!」
闇医者「鏡を見たまえ、君の姿も人間に戻ってる」
雨宮 美雨「本当に寿命を吸収したって言うの!?」
闇医者「信じられないか?俺の寿命、もう一度視てみろよ。減ってるだろ?」
雨宮 美雨「・・・350,399時間」
闇医者「1時間か。 あれぐらいの小さな願いならこんなもんだ」
闇医者「払う寿命の量は願いの大きさで決まる」
〇病院の診察室
雨宮 美雨「──そろそろ1時間経つわね」
闇医者「ああ。 早く次の薬を飲まないと死んじまうぜ?」
雨宮 美雨「それを早く言いなさいよ!!」
闇医者「薬が無くなったらまた買いに来い。 在庫は大量にあるからな」
雨宮 美雨「・・・私、これからどうすればいいの?」
闇医者「・・・さあな。適当な人間の願い叶えて、適当に寿命吸っとけ。じゃあな──」
雨宮 美雨「・・・・・・・・・・・・」
〇占いの館
──20年後
『占いの館レイン』
???「あなたが、願いを叶えてくれるって噂の 占い師ですよね?」
???(・・・!!)
???「・・・どうして泣いてるんですか?」
???「──失礼しました」
レイン「レインと申します。お客様のお名前、ご年齢、ご職業を伺ってもよろしいかしら?」
竜崎 雨月「竜崎雨月。18歳。竜崎製薬の社長・・・になる予定だったけど、今は無職です」
レイン「社長になる予定だった?」
竜崎 雨月「父が社長なんですけど、僕が高校を卒業したら社長にしてくれる約束だったんです」
竜崎 雨月「でも、喧嘩しちゃって。 会社を追い出されたんです・・・」
レイン「それはお気の毒ね」
レイン「あなたの父親の名前だけど・・・ 竜崎太陽じゃない?」
竜崎 雨月「そうですけど、どうして名前を・・・?」
レイン「彼にはその昔、随分とお世話になりました」
レイン「それで、あなたの願いは何?」
竜崎 雨月「僕を竜崎製薬の社長にしてください!!」
竜崎 雨月「お金なら幾らでも払いますから!!」
レイン「──お金は結構です。その代わり・・・」
レイン「あなたの寿命、頂戴します」
竜崎 雨月「・・・ふざけてるなら帰りますよ!?」
レイン「いいんですか?社長になれなくても」
竜崎 雨月「・・・」
レイン「会社を追い出されたあなたが、どうやって 社長になるおつもり?」
竜崎 雨月「・・・!」
レイン「この機会を逃すと一生後悔するかもしれませんよ?」
竜崎 雨月「・・・!!」
竜崎 雨月「──払います。寿命・・・」
〇占いの館
レイン「──それでは、始めさせていただきます」
竜崎 雨月「!?」
竜崎 雨月「な、何だよその姿!?・・・コスプレか?」
レイン「・・・ふふ。よく出来てるでしょ?」
レイン(若いから寿命はまだまだ有るわね・・・)
レイン「それじゃ、私の手を握ってくださる?」
竜崎 雨月「・・・握りましたよ」
レイン「では、あなたの願いを叶えましょう」
レイン(彼が社長になってる姿を想像して・・・)
レイン「──はい、終わりましたよ」
竜崎 雨月(レインさんが元の姿に戻ってる・・・ それ以外は何も変わってないような・・・)
竜崎 雨月「まさか僕を騙してるんじゃないですよね!?」
レイン「明日、あなたの父、竜崎太陽さんに会いに行きます」
レイン「それまで楽しみにお待ちください」
〇豪華な社長室
──翌日
『竜崎製薬・社長室』
秘書「社長。お客様がお越しになりました」
レイン「失礼します。竜崎”先生”、久しぶりね」
レイン「私のことは覚えているかしら?」
竜崎 太陽「・・・忘れるわけないだろう、レイン」
竜崎 太陽「──いや、雨宮美雨・・・」
レイン「レインで結構よ。 ちょっと昔話でも始めましょうか」
〇占いの館
──20年前
『占いの館レイン』
レイン「いらっしゃいませ」
竜崎 太陽「『占いの館レイン』ねー。悪くないじゃん」
レイン「先生・・・どうしてここに!?」
竜崎 太陽「いや・・・店開くって聞いたから? どんなもんかなって・・・」
竜崎 太陽「客、入ってんのかよ?」
レイン「あなたが初めてのお客様よ・・・」
竜崎 太陽「そうか。じゃ、願いを叶えてもらおうか」
レイン「またバナナが食べたいとか言い出すんじゃないでしょうね?」
竜崎 太陽「・・・雨宮美雨。 君のことをもっと知りたいんだ」
それからも彼は、”願いを叶えるためだ”
と言って度々私に会いに来るようになった
どれもこれも些細な願いばかりだった
〇映画館の座席
一緒に映画を観て笑いたい──
〇アパートのダイニング
私の手作り料理が食べたい──
自分の寿命を払っていると言うのに、彼はとても幸せそうだった
彼と一緒にいるうちに、次第に私も心を開くようになっていった
そんなある日──
〇占いの館
竜崎 太陽「いいアイデアを思いついたんだが、聞いてくれないか?」
竜崎 太陽「美雨の病気が完治するようにって俺が願えばいいんじゃないか?」
竜崎 太陽「それで美雨は自分の病気が治った姿を想像するんだ」
〇占いの館
雨宮 美雨「もし・・・ 願いが叶わなかったらどうするのよ?」
雨宮 美雨「あなた、言ってたよね 払う寿命の量は願いの大きさで決まるって」
雨宮 美雨「この願いは大き過ぎる気がするの」
竜崎 太陽「やってみなきゃ分かんねーだろ!!」
雨宮 美雨「あなたの寿命全てを払っても足りなかったらどうするの!?」
竜崎 太陽「さあな。その時はその時だ」
雨宮 美雨「・・・やっぱり止めましょ。 失敗した時のリスクが高過ぎるわ」
竜崎 太陽「でも、それじゃ美雨の病気は──」
雨宮 美雨「いいの。気持ちだけ受け取っておくわ」
雨宮 美雨「ありがとう、太陽くん」
竜崎 太陽「美雨・・・」
竜崎 太陽「だったら、俺と結婚してくれ!!」
雨宮 美雨「と、突然何言ってるのよ!?」
竜崎 太陽「美雨の病気が治るようにって願いが叶わないんなら、」
竜崎 太陽「ずっと美雨のそばに居て、俺の寿命を捧げ続けたい」
竜崎 太陽「そうすれば、少なくとも俺が死ぬまで美雨は人間でいられるだろ?」
雨宮 美雨「・・・・・・!!」
竜崎 太陽「俺の寿命全てを美雨に捧げたいんだ」
竜崎 太陽「美雨。愛してるよ──」
〇病室のベッド
──1年後
竜崎 太陽「良い名前、思い付いた?」
雨宮 美雨「──美しい”雨”。太陽の光で輝く”月”──」
雨宮 美雨「雨月(うげつ)。どうかしら?」
竜崎 太陽「・・・どうして泣いてるんだよ?」
雨宮 美雨(だって・・・新しい命が芽生えたのに、 私はあなたの命を刈り続けてるのよ)
雨宮 美雨「──ごめんなさい・・・」
雨月が産まれてからしばらくして、私は何も言わずに彼と雨月のもとを去った
最低だと思った
無責任だと思った
でも、彼の寿命を刈り続けることに耐えられなくなった
彼なら、雨月を立派な子に育ててくれると信じていた
──そして昨日、雨月が帰って来た
雨が降ると太陽は輝かず、太陽が輝くとき雨は降らないから、お互いに惹かれあっていても美雨と太陽は一緒にはいられない運命だったのかも。雨月が両親の名前から付けられたのも素敵ですね。
限りある命を愛する人のために使うのも、これも人生だと思うんですよ。
大きな願いはそれなりの代償が必要な感じですが、先生は美雨さんのために使おうと思えるのって素敵です。
先生は初めから副作用も効能も理解した上で彼女にあの薬を進めたんですかね?それほどまでに、彼女に心奪われたんでしょうね。彼女が彼を思って目の前からいなくなろうとした気持ちがとっても切なく美しいです。