異界のお祭り(脚本)
〇森の中
クズハ「・・・」
クズハ「あれ? ここは・・・どこなの?」
気が付けば私は知らない土地の森の中に居るみたいだった。
クズハ「このままここに居ても何も始まらないし、移動しようかしら。そしたら誰かに会えるかも・・・」
〇森の中
私が外に出たのは何年ぶりだろうか。
地方から都会に出て初めて務めた会社がブラック企業で、そこでメンタルを病んでしまい
以来、安いアパートを借りて引きこもる日々。
その際唯一の暇つぶしが、自分が傷つかな都合の良い『妄想の世界』を作って自分をそこに投影する事。
クズハ「ははっ・・・なにしてんだろ私。 無駄に時間を消費してこのまま将来誰にも気づかれづにひっそりと孤独死するかもな」
クズハ「それならこのまま知らない場所で誰にも迷惑かけないように死んだ方が・・・」
クズハ「・・・」
クズハ「いやそれはまずい!そうなったら死後私が妄想して記録した黒歴史の数々が身内にばれる!」
クズハ「いや、身内どころか赤の他人にまで晒される!それは何としても阻止しないと!」
クズハ「──っ、あら? 何か向こうに『明かり』が見えるわね。何かしら?」
どうやら神社のようだ。
森にいても危ないし、私は一旦あの神社に避難させてもらう事にした。
クズハ(緊急事態だし、神様も許してくれるでしょう)
〇森の中
クズハ「失礼致します(侵入したけどバチが余らないかしら)」
クズハ(・・・いったいここは何の神様をお祀りしてるのかしら)
良く見ると神社の内部に、この神社の由来らしき壁画が描かれている
クズハ「へぇ・・・そうなの・・・それで?」
クズハ「ちょっと意味不明で怖いわね。 早く誰かに会いたいわ」
クズハ「・・・」
クズハ「えっ? 急に外から賑やかな音楽が・・・」
クズハ「そっちに行ってみよう!」
私は神社を後にして賑やかな音のする方へと橋って向かった。
〇お祭り会場
ワイワイ
キャッ、キャッ
クズハ「うわっ!なんなのこの人込み、今のご時世でありえないでしょ。 (皆マスクしてないし・・・・・・)」
クズハ(相当規模が大きくて賑やかだわ。こんなの久しぶりね)
クズハ(とりあえず、人気のある場所に出れて良かったわ。けど、この後どうしよう・・・)
???「クズハさーん!!」
???「やっぱりクズハさんだ・・・」
???「来てくれて嬉しい、ずっと君を待ってたんだ」
クズハ(知らない土地のお祭りで、見知らぬ少年から自分の名前を呼ばれたわ。 いったい・・・誰?怪しんだけど)
???「クズハ・・・さん? ・・・どうしたの?」
クズハ「ひいいいい!! ちょっと待って、めちゃくちゃ困った顔が眩しすぎる!」
クズハ(なんなのよ・・・ この、いきなり目の前に美少年が表れてから『ずっと待って』たとか言う展開)
クズハ(もしかして新手のナンパなのかしら?)
クズハ(いやいやありえないでしょ! いくらなんでも私とこの少年だと年齢違いすぎるし)
クズハ(よ、よーし・・・ ここはひとつ嘗められないように大人として注意しするわ!)
クズハ「あー、その・・・少年、 どこで私の名前を知ったのかしらないけれど」
クズハ「あんまし年上のお姉さんをからかうような真似をしたらいけないわ」
クズハ「じゃないとおイタが過ぎて、お姉さん君の事を襲っちゃうかもよ~♡(精一杯の虚勢)」
???「えっ・・・・・・」
クズハ「あっ・・・な、なーんちゃって」
クズハ(いやあああああ!! やっちゃったー!!)
クズハ(セクハラじゃんこれ。キモイよね、生まれてきてごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!)
???「べ、別に・・・いい、ですよ。 クズハさんになら・・・僕・・・」
クズハ(はっ!? 一瞬意識が別の方向に行きかけたわ)
クズハ(これはあれかしら? 今までモテなたことが無さ過ぎて妄想を拗らせすぎたかのかしら)
クズハ「・・・妄想」
クズハ「分かったわ!これ全部私の都合のいい妄想が夢として現れてるんでしょ!」
クズハ「だとしすれば、ナイス『現世』で寝ている私。そうとわかれば今この瞬間をとことん楽しんでやるわ!」
〇お祭り会場
クズハ「少年よ!」
少年「な、何クズハさん」
クズハ「あなた、こんないい歳した年中引きこもり陰キャのブス(言い過ぎ)の私をナンパしてどうしたいの?」
クズハ「他にあなたと同年代の若くて可愛い女の子が居るでしょ?」
少年「そ、そんな事ない! クズハさんはいつまでも綺麗だ!」
少年「そ、それにどうしたいかなんてそれは・・・キミと・・・一緒にデートしたいです」
クズハ「グフッ(吐血)・・・・・・」
クズハ(ほーらコレどう考えても私の考えた都合の良い妄想でしょ)
クズハ(じゃないとこんな恥ずかしい事目の前で言われないし)
少年「あ、あの・・・・・・僕じゃ、ダメかな?」
クズハ「勿論OK」
少年「やったー! うれしいよ。それじゃエスコートするね、ついてきて」
クズハ「あっ、ちょっと少年・・・・・・」
見ず知らずの少年が急に私の手を掴んで引っ張る
少年の手はひんやりと冷たい温度で、私は思わず自分が緊張して体温が上昇した手の温度がバレてしまうんじゃないかと焦った
クズハ「えっ・・・何、急に止まってどうしたの?」
少年「・・・」
クズハ(やば、手汗がバレたかな・・・)
クズハ「ごめん。私体温高いから(嘘)手汗いっぱいで少年に不快な思いさせたね」
少年「ううん、違うんだ。クズハさんの手があまりにも温かいからビックリしちゃって・・・・・・」
少年「それに不快じゃないし、寧ろ久しぶりの感覚で懐かしく感じたんだ」
クズハ「そうなんだ・・・・・・。 ところで少年は名前なんなの?」
少年「えっ・・・、クズハさん、僕の事覚えてないの? ──だよ」
少年の名前は周りの音にかき消されて聞き取れなかった。なのでもう一度聞こうとしたが──
少年の表情があまりにも悲しそうだったので、私は尋ねるのをやめた
クズハ「あ──思い出した! けど今のあなたの姿をみてると少年って呼んだ方がシックリくるからそう呼び続けるわ」
少年「ははっ、確かにそうかもしれないね・・・」
少年「随分時間が過ぎちゃったんだなぁ・・・」
クズハ「ま、まぁそう落ち込まずに」
クズハ「それよりマセた少年よ。気をとりなおしてこのクズハお姉さんが楽しめるようにエスコートして見なさい!(調子に乗る)」
少年「よーし・・・任せてよクズハさん!」
少年「僕、クズハさんとどうしてもデートしたくて、あの日からずっとここで長く待ちながらデートの計画を練ってたんだ!」
クズハ「ほほう、ならお手並み拝見と行こうじゃないの(急に上から目線)」
クズハ(ど、どんだけ都合よすぎるのよこの妄想。しかも今私ニヤついて絶対にキモイ表情になってるわ)
クズハ「デュフフフフ!」
こうして私は謎の少年の見るからに精一杯のエスコートを受けながら祭り会場に向かった。
〇射的コーナー
少年「くっそ・・・・・・当たらない」
クズハ「ふふっ、どれお姉さんに貸してみなさい・・・そりゃ!」
ぬいぐるみ「きゃいん!」
少年「すごい、クズハさん! 射的うまいんだね」
少年「それにくらべて僕は下手・・・。 折角いい所みせようとしたのに」
クズハ「はいはい落ち込まない。 コツがあるから教えてあげるわ」
そういって私は少年のひんやりと気持ちいい感触の腕をつかみ、大胆にも体を密着させながら射的のコツを教えた
少年「く、クズハ・・・・・・さん!?」
クズハ「どうしたの、的は向こうにあるんだから、ちゃんと集中しなさい」
少年「う、うん・・・!」
屋台の店主「アタッ! ば、馬鹿野郎!俺は的じゃねえ!」
クズハ(しまった、私のアプローチが刺激的過ぎて少年の手元を狂わせてしまったわ)
少年「も、もう! クズハさん! 大胆過ぎるよ!」
クズハ「ご、ごめん少年・・・」
二人の間に嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気まずい空気が流れた
クズハ「と、とりあえずもう一度射的をしましょう」
少年「う、うん」
〇射的コーナー
クズハ「おじさん、もう一度射的の弾を買うわ」
屋台の店主「毎度あり──500円」
クズハ「はい、500円」
屋台の店主「・・・ダメだ。 この500円玉は受け付けない」
クズハ「はぁ!?なんでよ!どっからどう見ても本物の500円玉でしょ!」
屋台の店主「・・・年号が違う」
クズハ「年号? (どれどれ)」
先程店主に渡した500円玉を確認すると、確かに最近新しくなった『令和』の新500円玉だった
クズハ(はぁ・・・確かに現実世界でも機械が間に合わずに新500円玉が使えないこともあるけどさぁ)
クズハ(別に妄想の世界にまでそれを当て嵌めなくても良いでしょ、現世にいる私)
屋台の店主「おう、こっちの年号なら受け付ける。 それと他の店でも『令和』とか言う年号がついた硬貨は扱えないぜ」
クズハ「えっ、ホントに!?」
急いで財布の中身を確認すると、ほとんどの小銭が令和の年号が刻まれている。
クズハ(普段から自分が『お金持ち』って設定の妄想も取り入れとくんだったわ)
少年「クズハさん、ここはエスコートしてる僕が払うよ!」
マジックテープ式財布「バリバリ」
クズハ(あー・・・あるある、そのぐらいの年齢の子達なら皆最初はこういう財布でバリバリ鳴らすのよね)
クズハ「いいから少年、流石に大人が子供に奢られる訳にはいかないわ」
少年(こ、子供・・・そうかぁ)
さっきとは違う微妙な空気が流れた。
〇神社の出店
祭り客「────っ」
祭りの客2「──っ!?」
ヒソヒソ・・・、ヒソヒソ・・・、
クズハ(皆私達をジロジロ見て話してるわ・・・)
クズハ(──っ、それもそうよね。だっていい歳した女が若い男の子とデートしてるんだもの)
少年「クズハさん、次は──」
クズハ「──少年。悪いけど、私もう夢から覚めて現実に戻るわ」
少年「そんな、もう少し待ってよ。打ち上げ花火が上がるからせめてそれまで・・・」
クズハ「わかったわ。久しぶりに花火も見てみてみたいし・・・」
少年「ありがとうクズハさん。それじゃ僕、花火を眺めながらついでに食べられるものを買ってくるよ」
クズハ「あ、それならお金を渡して・・・」
使えないお金の数々
少年「クズハさん! ここは僕が大人っぽい所見せるよ。 だからクズハさんのお金なんかいらない!」
クズハ「そ、そう・・・そこまで言うんなら (男の子って急に熱くなるわね)」
クズハ(あっそうだ。いい事思いついたわ)
クズハ「ならば少年、クズハお姉さんの好みそうなものを予想して持ってきたまえ」
クズハ「そうすればお姉さん奮発してご褒美あげちゃうかもよ・・・デゥフフ(数年ぶりに女性扱いされて調子に乗る)」
少年「く、クズハさんが、僕にご褒美!?」
少年「よ。よーし・・・行ってくるね!」
クズハ「ちょ──少年っ(早っ)」
クズハ「思春期の少年のリビドーは凄まじいわね。 (下手にからかわない方が良かったかも)」
やれこらせ~♪ どっこいせ~♪
やれこらせ~♪ 踊りゃんせ~♪
クズハ(何かしら・・・この独特なリズムの・・・音色と掛け声)
やれこらせ~♪ どっこいせ~♪
やれこらせ~♪ 踊りゃんせ~♪
ここから少し離れたところが賑やかだった。
少し気になった私は、少年が戻ってくるまでの間、少しだけその賑やか雰囲気を覗いてみる事にした
〇お祭り会場
やれこらせ~♪ どっこいせ~♪
やれこらせ~♪ 踊りゃんせ~♪
クズハ「何これ・・・、もしかして盆踊り?」
この時、私は踊り手達がそれぞれ腕に何か抱えて踊っている事に気が付いた
祭りの客2「ほら、あなたも一緒に櫓を囲んで踊りましょうよ」
祭りの子供1「ハイ!これお姉さんのだよ。 これを抱えて!」
クズハ「えっ、ちょっと、何なのこれ・・・」
クズハ「ひっ──!?」
私が持たされたのは『自分自身の遺影』だった
そしてよく見るとここで踊っている老若男女全員が自分自身遺影を持って楽しそうに踊っていた
やれこらせ~♪ どっこいせ~♪
やれこらせ~♪ 踊りゃんせ~♪
・・・
クズハ「あ・・・あ・・・あああ!」
〇清潔な浴室
クズハ「もう・・・人生疲れた・・・死にたい」
〇お祭り会場
思い出した。
私は自ら命を断った・・・
クズハ「嫌だ、・・・怖い。こんな世界に居たくない。私はもっと楽しい世界を妄想してそこに行きたい」
クズハ「そうだ・・・」
クズハ「私・・・まだ生きたい!」
クズハ「向こうはつまらない世界だったけど、簡単に死んじゃいけない世界だった気がする!」
帰らないと・・・
〇お祭り会場
少年「クズハさーん!!」
少年「もう、勝手に移動しないでよ・・・」
少年「・・・クズハさん?」
クズハ(この少年はいったい何物かしら。 怪しいし、一体私をどうするつもりかしら)
少年「あっ・・・はじまった」
花火の火の粉が降り注ぎ、地上を照らすと、少年の真の姿が浮かび上がった
少年「はいこれ、かき氷の『ブルーハワイ味』。 確かクズハさんってこの味が好みだって ”前に行ったよね”」
クズハ「──っ」
〇森の中
ここはあの世の世界。だけど私はまだかろうじで現世で生きている気がする・・・
だからまだこの世界から脱出できる筈
あの世の祭り会場から『森』を行き、さらにその森を抜けると大きな『坂道』が見えた
〇岩穴の出口
クズハ(坂の先が・・・見えた! 向こうが現世・・・)
クズハ・・・サン
クズハ「・・・」
コッチ・・・向イテヨ
クズハ(ダメ・・・ここまできたらもう振り向いてもいけないし喋ってもいけない)
クズハ(歩き出そう──前に!)
アノ時・・・ズット待ッテタノニ・・・来ナカッタ・・・
君ニ・・・──ッテ、伝エタカッタ・・・
クズハ(ごめんね・・・──君)
後日談につづく
クズハさんの心の声が、どれも私の呟きそうなものばかりでツボです。共感しっぱなしですw ラストは確かに、イザナギの黄泉比良坂シーンですね。背景もぴったりですね
祭り、雅、ホラーな雰囲気で、すごく異界感が出ますね! 行ってみたい雰囲気の世界観なのですが、やめておいた方がよさそうです。