レンリもしくは悪魔の呪い

劣化烈火

レンリもしくは悪魔の呪い(脚本)

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〇岩山
キエゴ「くっそ寒いな!」
トーハ「そんなの来る前から分かってたじゃない。 高い山だっていうんだから」
キエゴ「だからといって不満がなくなるわけじゃなーい!」
トーハ「子供みたい」
キエゴ「休めそうな場所も見つからないし、さっさと目的のブツを見つけて撤退したいぜ」
トーハ「なんて薬草だっけ? とにかく山の上の方、日陰に自生する、ピンクの花を咲かせてるやつよね」
キエゴ「名前なんかどうでもいい、とにかくそれな」
トーハ「あれ?」
キエゴ「どうした?」
トーハ「あれ見て、小屋みたいなものが建ってる!」
キエゴ「なに? そんな情報は聞いてないが・・・・・・」
キエゴ「確かに小屋だな。 煙突から煙が出てる・・・・・・誰かいるんだな。 よし、ちょっと休めるかもしれないな!」
トーハ「あ、待ってよー!」

〇英国風の部屋
老人「おや お客さんとは珍しいね」
キエゴ「お邪魔します!」
トーハ「すいません、 少し休んでいきたいのですが」
老人「どうぞ。 大したもてなしもできんがね」
キエゴ「いやーこの部屋は温かいな!」
トーハ「ちょっと! 失礼でしょ!」
老人「なに、構わんよ。 それにしても、こんなへんぴなところに、何のようで来なすったかね?」
トーハ「薬草を取ってきて欲しいという人がいて、私たちその仕事を引き受けたんです」
老人「ふむ、あれか、ピンク色の花のやつかね」
トーハ「それです!」
老人「なら場所を教えてあげられるよ。 すぐ近くにもあったはずだ」
キエゴ「やったぜ!」
トーハ「助かります!」
老人「だが体も冷えているだろう、とりあえず熱いお茶でもどうかね? すぐに用意できるよ」
トーハ「ぜひ!」
キエゴ「あんたいいジジイだな!」
トーハ「ってアンタ!失礼!」
老人「ハハ。 かまわん、かまわん」

〇雪洞
キエゴ「へえ、こんなところが!」
老人「ほれ、お目当ての草も、そのへんに生えてるじゃろ」
トーハ「本当だ! 助かりました!」
キエゴ「よっし、採っちまうか! たしか10株ほど、根っこごと引き抜いてこいって依頼だったよな? 余裕で10株以上あるぜ!」
トーハ「おじいさん、それだけ採取しちゃって大丈夫ですか?」
老人「かまわんよ」
キエゴ「こりゃなんかジイさんにお礼しないとな! ジイさん、なんか手伝えることある?」
老人「ふむ。 別になにもないよ」
キエゴ「いやーなんかしてあげたいなー! そうだ!小屋の裏になんか枯れ木が生えてたじゃん! あれ撤去してあげようか?」
老人「とんでもない!」
キエゴ「へ?」
トーハ「え? どうしたんですか?」
老人「急に大声を出してすまんな。 あの木は大事なものなんだ」
トーハ「すいません、知らなかったんです」
キエゴ「悪かったなジイさん。 でもあの木完全に枯れてるみたいだったし・・・・・・。 なんか思い出でもあるのか?」
老人「ん・・・・・・ 聞きたいのなら小屋に戻って話そう」
キエゴ「おう そうしようぜ」
トーハ「キエゴはもうちょっと言葉遣いをなんとかしなさいよ・・・・・・」

〇英国風の部屋
キエゴ「ふう 意外と時間かかっちゃったな! ジイさん、またお茶もらえる?」
老人「ハハ。 いまお湯を沸かしとるよ」
トーハ「すいませんおじいさん。 でも、わたしも木のお話気になってるんです。 もしかして亡くなられた奥様との思い出の木だったり?」
老人「ふむ・・・・・・」
キエゴ「おっ 図星なのか?」
老人「ん・・・・・・ どこから話をしたものかね・・・・・・」
老人「この山には、昔、悪魔がおった。 もしかすると今もおるのかも知れん」
「悪魔!?」
老人「ああ、悪魔じゃ。 黒い肌で、背中にはコウモリの羽が生えておって、おぞましい姿をしておった」
老人「10年も前、ここで飼っておったニワトリが全滅したのじゃ」
トーハ「悪魔のせいですか?」
老人「今となっては分からん、しかしワシはそうだと思った。そしてこの山の悪魔に戦いを挑んだのじゃ。怒りに任せてな」
キエゴ「戦ったのかよ! すげえな!」
老人「ワシは悪魔を見つけ出し、ナタで切りつけた。 悪魔は怪我を負ったが、空を飛んでそのまま逃げていったのじゃ」
トーハ「それで・・・・・・その悪魔はどうなったんですか?」
老人「それ以来見ておらん。 だが、問題はそこではないんじゃ。 悪魔は去り際に、呪いをかけていったのじゃ」
キエゴ「呪い・・・・・・かよ」
老人「悪魔は言った。 お前の妻に災いあれと。あの悪魔はワシではなく妻を呪ったのじゃ」
トーハ「それで・・・・・・奥様は?」
老人「ワシは心配になり、妻がいるこの小屋に急いだ。 ようやく小屋が見えたとき、妻がドアを開けて小屋の外に出るのが見えた」
キエゴ「・・・・・・それで?」
老人「まだ遠かったから詳しい様子は分からんかった。あいつは・・・・・・ふらふらと歩いて、家の裏の方に行くと・・・・・・」
トーハ「・・・・・・」
老人「その場で・・・・・・木に姿を変えてしまったのじゃ」
キエゴ「はぁ!?」
トーハ「そんな!?」

〇英国風の部屋
老人「それがあの木じゃ。あの木は、ワシの妻、そのものなんじゃ。たとえでなく、ほんとうの意味でな」
キエゴ「に・・・・・・人間が木になるなんて話、聞いたこともないぜ!」
老人「そうだな。 だがこれはほんとうの話じゃ」
トーハ「奥様は・・・・・・10年間ずっと・・・・・・木のままなんですか」
老人「そうじゃな。 だが、もうじきワシはあいつにまた会える。 そんな気がしておるんじゃ」
キエゴ「おい それってまさか・・・・・・」
老人「ん? ワシが死ぬという意味ではないぞ」
キエゴ「違うのか」
老人「あいつがな、夢に出てきたんじゃ。 そうして言ったんじゃ」
「・・・・・・」
老人「「もうじき、また会えますよ」とな」
「・・・・・・」
老人「さて、結構遅い時間になってしまったな。 この小屋で一晩休んでいかんかね?」
キエゴ「いいのか?」
トーハ「・・・・・・お言葉に、甘えさせていただきます・・・・・・」

〇英国風の部屋
  夜遅い時間になり、老人は別の部屋に引き上げていった。
トーハ「・・・・・・不思議なお話だったね」
キエゴ「ん? ああ、ジジイの連れが木になったって話?」
トーハ「本当だと思う?」
キエゴ「あるわけないだろそんな事。 あのジイさんボケて、なにがなんだか分からなくなってんじゃねーの?」
トーハ「・・・・・・」
キエゴ「お前は本当だと思うわけ?」
トーハ「私は・・・・・・本当であって欲しい、ような・・・・・・」
キエゴ「なんでさ」
トーハ「だって、本当だったら、おじいさんはまた奥さんに会えるわけでしょ?」
キエゴ「はっ 夢の部分まで信じてるのかよ? そここそただの夢だろ?」
トーハ「うーん・・・・・・ ただの夢か・・・・・・その可能性もあるよね―」
キエゴ「もう寝ようぜ」
トーハ「うん おやすみ」
キエゴ「おやすみ」
トーハ(本当だったら・・・・・・)
トーハ(・・・・・・いいのにな・・・・・・)

〇英国風の部屋
キエゴ「ふぁ~ よく寝たな」
トーハ「・・・・・・」
キエゴ「おう、先に起きてたんだな じゃあ出発するか!」
トーハ「もう! おじいさんに挨拶ぐらいしていこうよ!」
キエゴ「ん、そうだな で、ジイさんはどこにいるの?」
トーハ「それが変なの どこにもいないのよ」
キエゴ「ふーん? どっか出かけたのかね」
トーハ「わたしもうちょっと探してみるね」
キエゴ「あ、そう」
「あっ!」
キエゴ「トーハ? どうした?」
「こっち来て!」
キエゴ「何だってんだ?」

〇雪山
  キエゴは、小屋の裏側、例の枯れ木がある場所でトーハを見つけた
キエゴ「どうしたんだよ? 例の木がどうかしたか?」
トーハ「見て」
キエゴ「あれ・・・・・・? この木って、こんな感じだっけ? 昨日はなんかもうちょっと、寂しかったような・・・・・・」
トーハ「木が、二本になってる」
キエゴ「はぁ?」
  トーハの言う通りだった。
  枯れ木に寄り添うように、もう一本、葉をつけていない木が出現していた。
キエゴ「こりゃ一体・・・・・・?」
トーハ「あのおじいさん・・・・・・」
キエゴ「ちょっと待てよ! あのジジイまで、木になっちまったって言うのか?」
トーハ「あのおじいさん、やっと、奥さんに会えたんだね・・・・・・」
キエゴ「そんな馬鹿な・・・・・・ まじかよ・・・・・・」
トーハ「あ・・・・・・」
キエゴ「なんだ?」
トーハ「見て・・・・・・ここ、二つの木の枝が、一つにくっついてる」
キエゴ「本当だ・・・・・・!? 別々の木なのに、枝がくっついて繋がってるぞ!?」
トーハ「聞いたことがある・・・・・・こういうの、レンリって言うんだって」
キエゴ「「レンリ」?」
トーハ「夫婦が、長いこと変わらず仲睦まじいことの象徴なんだって」
キエゴ「そうか」
トーハ「・・・・・・」
キエゴ「じゃ、もうジイさんに挨拶はできねえか」
トーハ「おじいさん、お世話になりました。 お元気で。 お幸せに」
キエゴ「聞こえてるのかね?」
トーハ「・・・・・・」
キエゴ「気が済んだか? じゃ、帰ろうか!」
トーハ「うん・・・・・・」
  こうして、二人は帰途についた。
  トーハが先頭を歩き、キエゴがその後に続いた。
  小屋が見えなくなる前に、キエゴは一度だけ、小屋の方を振り返った。
  空中で枝がつながった二本の木は、まだかすかに見えた。
  その姿を記憶に留めておこうとするかのように、キエゴはその二本の木をじっと見つめて。
  それから振り返り、先を歩くトーハの後を追った。
  その後は、もう振り返らなかった。
  ~終わり~

コメント

  • 山小屋を訪れる人が現れたら、そのタイミングで夫が木になるように奥さんが仕組んだような気がします。どんな事情で連理の枝になるにしろ、愛し合う一組の夫婦が確かにそこに存在したのだということを誰かに知ってもらいたかったのではないでしょうか。なんとも不思議な味わいのあるストーリーでした。

  • 10年間過ごしてきたおじいさん。山小屋での暮らしは楽ではなかったはず。でも、いつかおばあさんに会えると待っていた歳月。
    ふたりが再開出来て良かった。

  • ”比翼連理”をモチーフに物語が描かれることもありますが、大抵は”比翼”であり”連理”を描いたものは私自身は初めて見ました。とっても感情に訴える、ビターで綺麗な物語ですね!

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