読切(脚本)
〇CDの散乱した部屋
朝が来た、今日もいつもと変わらない朝が来てしまった・・・
何も変わらない朝、毎日同じ作業、何も変わらない自分に日々毎日イライラしている
誰も助けてくれない、自分ではどうする事も出来ない現実がいつも突然襲い掛かって来る・・・
部屋はとてつもない臭さで満たされていた
吉野 特盛(クソ・・・俺を殺す気か?・・・)
余りの臭さに目が覚め頭痛と吐き気がしていた
トイレの方から匂いがする原因も想像つく
正直ワクチン摂取を受けるより怖い、事実を受け入れるのが
心を落ち着かせる為、立ち上がり窓の外を覗いてみた。
吉野 特盛「誰か助けろー!?」
外を歩いている通行人にいい放った、何も知らずに生きている人間に腹が立つ
吉野 特盛(小便したくなったな・・・)
勇気を振り絞りトイレへ行く事を決心する
トイレの場所は俺の部屋の向かい、この山奥にある怪人寮の住人がトイレで便を済ませる音がいつも聞こえる
部屋を出て目の前にある共同トイレへ向かい、扉を開けると非常に臭い匂いが充満していた
吉野 特盛「オイ!怪人のやる事じゃねぇぞ!いい加減にしろよ!」
〇個室のトイレ
吉野 特盛「ウンコあるじゃねぇか!!」
便器の中には大量の大便が残っており、床にも大便が散乱し強烈な匂いを放っていた
吉野 特盛「オイ!またやっただろ出てこい!」
隣の部屋に住むアホにドアを叩きながら知らせる
今日もまたこれ、のそのそとアイツが部屋から出てくる、もっと早く歩け!
アホ「どうしたん?」
吉野 特盛「どうしたじゃねぇよ!!ウンコ流してねぇじゃねぇかよ!?」
アホ「流し忘れた・・・」
吉野 特盛「流し忘れた?小学生のガキだってトイレしたらちゃんと流すんだぞ!?怪人だからってふざけてんじゃねぇぞ!」
吉野 特盛「犬や猫じゃねぇんだぞ!ウンコも床に撒き散らしやがって、ちゃんと便器の中に大便する事も出来なくなったのか?」
アホ「トイレは一人で出来るもんたまたま忘れただけだよ・・・」
吉野 特盛「出来てねぇじゃねかよ!これで何度目だと思ってやがるんだ!?」
アホ「じゃあこれからはワイが流し忘れた時は吉野が黙ってトイレを流せば良いだろ!?」
吉野 特盛「なに逆ギレしてんだよ、お前のウンコを何で俺が流さないけねぇんだよ!」
吉野 特盛「動物園の飼育員じゃないんだぞ!?これ以上ふざけた事ぬかすと本当に殴るぞ!」
アホ「殴れば良いだろ!?殴ったら今まで通りトイレは流さないし、ウンコもそのままだ!床にもウンコしてやる!?」
吉野 特盛「本当に動物園になるだろが!!バカか何でトイレ流さなくなるんだよちゃんと流せよ!」
吉野 特盛「それに何でお前だけマスクしてんだよ!俺は直にこの臭い匂いを吸ってんだぞ!」
アホ「感染対策・・・」
吉野 特盛「感染対策する前にウンコ流せよ!マスクする前にトイレは流さないのかよ!」
アホ「もういいだろこんな事で言い争うのは・・・」
吉野 特盛「お前のせいだろが」
吉野 特盛「いいからさっさと流せよ!何やってんだよ?」
アホ「ヘイヘイ」
吉野 特盛「これから朝勤の仕事だから俺は職場に行くけどお前夜勤だよな?」
吉野 特盛「掃除のおばちゃんが来る前に床もキレイにしとけよ、この寮はウンコも的もに出来ないやつがいると騒ぎになるぞ」
もう朝の出勤の時間だ俺はこれ以上怒るのをやめ職場の工場に向かう事にした。
〇ビルの地下通路
工場内通路
今日は1時間早く来て会議室に集まらないといけない
ここが会議室か・・・仕事前に大事な話合いがあるらしい?めんどくせぇ
嫌なヤツ「遅いぞ!!5分も遅刻だぞ何をやっていたんだ!?」
吉野 特盛「特には何も喫煙所で一服して来ただけです」
嫌なヤツ「会議の後からでも行けるだろ!!」
吉野 特盛「ここが今日の会議室すか?初めて来る場所なんで時間かかりました広いんでここの工場」
嫌なヤツ「ロッカールームから喫煙所に行くよりここに来るほうが近いだろうが!」
吉野 特盛「タバコ吸わないと落ち着かないですよ、俺が暴れてもいいんすか?」
嫌なヤツ「知るかー!!このヤニカス野郎!」
吉野 特盛「もういいじゃないですか、会議は終わりました?」
嫌なヤツ「終わってる分けないだろ!お前達のような非正規社員のために全員来てから始める」
吉野 特盛(するのかよめんどくせぇ講習会かよ)
嫌なヤツ「中に入って座れ」
吉野 特盛「ヘイ」
俺は会議室の中に入った
〇大会議室
中には大勢の怪人がすでに待機していた
チビなヤツ「オイ!もっと気温下げろ暑いだろが熱中症にさせる気か?」
失礼なヤツ「よう久しぶりだな」
吉野 特盛「誰だてめえ?初めて会うけど」
失礼なヤツ「日本には慣れたか?」
吉野 特盛「俺は生まれも育ちも、日本生まれ日本育ちの純日本人だが?外国人留学生に見えるか?」
失礼なヤツ「お前さんゴンザレスじゃないのか?」
吉野 特盛「ゴンザレスは親父すよ」
失礼なヤツ「どうりで肌も白くなって胸毛が無くなってると思ったらゴンザレスは?」
吉野 特盛「今はアフリカに帰って祖父と暮らしてます、じいちゃんがサル痘にかかって大変だって」
失礼なヤツ「それは大変だなゲイなのか祖父は?」
吉野 特盛「はい 祖父はゲイで黒人で仏教徒です」
失礼なヤツ「めちゃくちゃだな、祖父がゲイだったのは誰から聞いたんだ?」
吉野 特盛「親父からです、自分も子供が出来たら教えようと思います」
失礼なヤツ「教えなくて良いだろ」
失礼なヤツ「親父さん背中に大きな傷があったけどあれは?」
吉野 特盛「あれはマサイ族にやり投げられたんです、牛に間違えられたみたいで」
失礼なヤツ「現地の人からしたらご馳走だもんな」
失礼なヤツ「お前さん母親は日本人か?」
吉野 特盛「いや、ブラジル人ですだからハーフすね」
失礼なヤツ「そうか大変だな」
吉野 特盛「いや全然っす」
吉野 特盛「それにしてもこれで全員すか?」
失礼なヤツ「まぁこのご時世だからな、会議も少人数で行う様に各地で小規模に集まるようになった」
チビなヤツ「オイ!早く始めろよ、この時間も給料出るんだろうな?」
嫌なヤツ「わかった始めよう、これから緊急の会議を始める!」
嫌なヤツ「いつもより早くここに来て急遽集まってもらったのは」
嫌なヤツ「皆さんもうご存知だと思いますが、二日前に起こった事件の事です・・・」
やはりあの事か・・・
〇電車の中
電車内に無敵の怪人が現れた・・・
車両にいた乗客に特殊能力である発火の力で火を付け4人を殺害し多くの怪我人を出した事件
怪人は誰も居なくなった車両で火を強め一酸化炭素中毒で死亡した、最後に自殺したのである
誰かに命令された理由ではなく死ぬ事に躊躇が無く、他人を巻き込んで死のうとする怪人を無敵の怪人と呼んでいる
怪人の動機はわかっておらず、凶悪事件として世間に大きく報じられた
親兄弟は居なく友達は誰一人いない、学生時代の同級生がこんな事するとは思わなかったとマスゴミが報道している・・・
とここまでは報道された内容だが、怪人は実はこの会社の工場で働く派遣社員だった
そして俺が今住んでいる寮、怪人寮に同じく入寮して住んでいた怪人であった
確かに誰かと話している所は見た事なく、いつも一人でいて誰も話し掛けない
俺は話した事は無く寮の食堂でもいつも一人で飯を食べていた
〇大会議室
嫌なヤツ「お前ら非正規雇用のグズどものせいでまたこの会社の評判が悪くなったてしまったが」
吉野 特盛「・・・」
失礼なヤツ「・・・」
嫌なヤツ「あんな頭がおかしくなった怪人と一緒にされるのは迷惑なのだ、我々も同じなのでは?と世間から見られてしまう」
嫌なヤツ「イカれた怪人の思考、感情など分かる訳ないが、近年こうした事件が増えているのも事実」
吉野 特盛「・・・」
嫌なヤツ「そこでこれから無敵の怪人が出現せぬように怪人同士コミュニケーションをとり・・・」
バカだそんな事で無敵の怪人が居なくなる訳ない根本的に間違っている
この理不尽な社会、この狂った世界が無敵の怪人を生み出し続けている・・・
だから誰にも止められない止めようともしない
ヒーローはこの社会、世界を変えたりはしない、いつも怪人が現れてから対処するだけ
この世界に本当の正義のヒーローなんて存在しない、いるのは正常な人間か正常でいられなくなった人間だけだ
無駄な時間だこんな事のために貴重な時間を使って話し会うなんてバカげてる
嫌なヤツ「お前ら底辺のゴミが無敵の怪人にならぬよう指導してるのだ」
嫌なヤツ「狂った怪人はこの社会から排出してはならない、我々や社会全体を守るために・・・」
吉野 特盛「・・・」
〇倉庫の搬入口
長かった話し合いは終わり今日も意味の無い時間が過ぎて行く
チビなヤツ「俺は派遣会社の正社員だがなお前らとは違う」
派遣の正社員て何だよ正規の奴隷契約だろ、搾取されてるのに気づけ!!
失礼なヤツ「今日は会えて嬉しかったよ、また何処かで会おう」
吉野 特盛「はい」
失礼なヤツ「アイツ本当バカだし上の言う事なんか聞き流せばいいよ」
(笑)
吉野 特盛「出会えて良かったです」
会議室を出て喫煙所に向かい一服してから現場に向かった。
これからまた1日同じ作業のくだらない仕事が始まる
〇家の廊下
日曜日アイツの部屋をノックし一緒に酒を飲む事にした
吉野 特盛「オイいるか?」
アホ「はい、吉野か何に?」
吉野 特盛「俺の部屋で酒飲むか」
アホ「イヤです」
吉野 特盛「何でだよ?」
アホ「ゲームの途中だから」
吉野 特盛「一緒にゲームやれば良いだろ」
〇CDの散乱した部屋
酒を飲みながらテレビを視ていると
アパートに住む20代女性の部屋に侵入し刃物で刺し殺害したとして怪人の男を逮捕しました。
アホ「吉野に似てるね、吉野がやったんじゃないの?スパチャのし過ぎでクレカ止まったて言うてなかった?」
吉野 特盛「似てねぇだろふざけてんのか!?」
吉野 特盛「もうこんな事件ばっかだなテレビ消せ!」
アホ「最近暗いニュースばっかだね嫌になるよ」
吉野 特盛「俺はお前がウンコを流さない方が嫌なんだが」
アホ「頑張ってみる・・・」
吉野 特盛「頑張る必要の無い当然の事だろ」
アホ「次にウンコをしたらノックして呼ぶから流す所ちゃんと見ててね」
吉野 特盛「何でお前と一緒にウンコを流す所を見ないといけないんだよ!!」
アホ「流し忘れないか怖いんだよ見ててくれないと」
吉野 特盛「嫌に決まってんだろ一人で出来るようになれよ」
アホ「うん わかった」
吉野 特盛「何もわかってないだろ」
吉野 特盛「それにしてもお前のウンコたまにすごい臭いし大量にするけど、一体何食ったらああなるんだよ」
アホ「ヒ・ミ・ツ」
吉野 特盛「秘密て何だよきめぇなぁ」
吉野 特盛「俺はもう寝るからさっさと出てけよ」
部屋から追い出し俺は寝る準備をした
〇黒背景
布団に横になり天井を見つめる
今日もまたくだらない一日が終わる、時間だけが無駄に消費されて行く
何も変える事が出来ず、何も変わる事の出来かった自分が今日もまたここにいる
吉野 特盛(今日も俺じゃなかっただけだよ・・・)
目を閉じて先日あった事を考える、今まで出会った人、祖父の事、ウンコの臭い、無敵の怪人の事
俺が話し掛ければ何かが変わったのか?
この社会から弾かれて壊れた怪人なんて沢山見てきた、真面目な人ほどこの社会の歪みに呑まれ狂って行く
俺が知らない理不尽で不条理な出来事なんて世の中沢山起こっている
汗水垂らして働いても、職場で一日中座って何もしないおじさんの方が給料が高い、同じ仕事量でも給料が違う
だってそうだろこの社会の仕組みが格差を生むだから、これがこの世界の真実で事実だろ
だからどうする事も出来ない、こうやって流されて生きて行くしかないだ
・・・俺達は・・・
「無敵の怪人」の正体とは、自暴自棄になって周囲を巻き込んで自殺しようとする人間。つまり、現代社会全体が「無敵の怪人」の製造工場。吉野の「今日も俺じゃなかっただけ」というセリフを他人事に思える人はいないかもですね。この話をコメディというジャンルで提供する皮肉まで含めて作品なのだと受け取りました。
怪人をアバターに、現代社会の縮図を見たような気がします。
怪人でなくても吉野さんのように嘆いている人間は山ほどいると思います。時事問題を取り入れたシュールな話題を、あほな隣人との会話が上手く混同していてよかったです。