エピソード19〜気づいて〜(脚本)
〇黒
・・・確かに、これで丸く収まった・・・。
蔵杏大学と聖裁大学の軋轢はなくなった。
バルバロッサ学長とリオは、モルダート学長、セリーナちゃんと和解した。
聖裁大学魔術部の人たちは、もうモルダート学長に酷使されることはなくなった。
シキブさんは保健所で保護されていた犬と幸せに暮らし、上田さんはいつもヘラヘラしてて楽しそう。
モルダート学長は大好きな孫が目覚めて幸せいっぱいだし・・・。
その孫・セリーナちゃんも、まるであのデパートの一件が無くなったかのように生き生きとしている。
・・・でも、私は?
あの、デパートが崩壊した日。セリーナちゃんから中途半端に回復魔法を受け・・・。
今でも全身に痣が残り、顔は醜い。
みんな無事救われた。それなのに・・・。
レイ「私だけ・・・。心と身体の傷が癒えない、なんて・・・」
レイ「本当は、セリーナちゃんが無事であることを喜ばないといけないのに・・・」
レイ「私だけがまだ救われていない。私だけまだ辛い思いをしている。どうして・・・こんなに自分のことしか考えられないんだろう」
レイ「・・・誰か、助けて・・・」
レイ「私、まだ救われてないの・・・。お願い、誰か気づいて・・・」
「気づいてよ・・・!!」
〇黒
「・・・あの、レイさん。ちょっと良いですか?」
レイ「・・・・・・!!あ・・・・・・」
レイ「・・・上田さん・・・」
上田「・・・どうしました?さっきから、ちょっと顔色が悪いような・・・」
レイ「い、いいえ、何でもありませんわ」
レイ「ヘンタイは私に話しかけないでくださいまし」
上田「おォい!!ヘンタイって呼ぶな!!誰からの入れ知恵ですか全く!!」
上田「それより、あなたに話したいことがあって・・・」
レイ「何ですの?告白ですか?私、あなたみたいにすぐ女に手を出しそうな男、嫌いですわよ」
上田「いやいやそんなんじゃないですって!ちょっと傷つくこと言わないでくださいよ!」
上田「そうじゃなくて、あなたの傷のことです」
レイ「・・・・・・!!」
上田「あなたの全身に残った痣・・・。現代の医療では、治せないんですよね?」
レイ「・・・そう、ですわね」
レイ「セリーナちゃんのように、時を戻しても無理ですわ。この痣を作ってから、既に10年は経過しています」
レイ「流石のあなたも、10年も時を戻すのは無理でしょう?」
上田「・・・ちょっと・・・厳しいですね」
レイ「・・・なら、もう解決策はありませんわ」
レイ「私は一生、この傷と生きていくしかないんですの」
レイ「それが、宿命ですのよ」
上田「・・・でも、セリーナ様の魔法を使えば・・・。治せるんじゃないですか?」
レイ「・・・なるほど。回復魔法・・・」
レイ「あなたがセリーナちゃんの魔法をコピーして、私の痣を治すとでも?」
上田「・・・ええ。その通りです」
レイ「・・・ふふっ。残念ですが、それは無理・・・ですわ」
レイ「私はモルダート学長から、セリーナちゃんの魔法について聞きましたの。彼女の魔法は、傷を治す力があります。しかし・・・」
レイ「傷を治すためには、傷を塞ぐ「皮膚」が新たに必要になりますのよ」
レイ「いわば、彼女の魔法は皮膚の移植手術を行うようなもの・・・」
レイ「そうなると、私の痣の場合、多くの皮膚が必要になりますの」
レイ「・・・そんなの、用意できる訳ないでしょう?いくら魔力が強いあなたでも・・・ね」
上田「・・・じゃあ、デパートが崩壊した時、セリーナ様はあなたに魔法をかけてましたけど、それって・・・」
レイ「ええ。セリーナちゃんが自分自身の皮膚を、私に移植していたんですのよ」
レイ「ちゃんと魔法をかければ、綺麗に移植されるようなんですけど」
レイ「中途半端に行えば、私の顔のように・・・。まるで、火傷した後のようになるんですのよ」
上田「・・・・・・」
レイ「だから、もう良いんですわ。私、もう諦めましたので」
レイ「ですので、どうか私のことは気にせず。10年間、この顔でしたのよ?もう慣れっこですわ」
上田「・・・でも、本心じゃそう思ってないですよね」
レイ「!!」
上田「・・・実は俺、モルダート学長から提案されたことがありまして・・・」
レイ「・・・!モルダート学長が・・・ですか?」
上田「「俺の皮膚をレイの傷を塞ぐのに使ってほしい」・・・って」
レイ「え・・・!?学長の皮膚を・・・!?」
上田「まずレイさんの傷を治して、その後モルダート学長の時を戻せば、学長の身体は何ともなかったことになる・・・」
レイ「・・・それ・・・本当に、モルダート学長自身がそう考えたんですか?」
上田「そうですよ。ずっとあなたを苦しめてきたので、せめてもの償いに、とのことです」
レイ「・・・ですが、仮に学長の考えた方法でやるとしても・・・。本当に治せるかどうか・・・」
レイ「その位、セリーナちゃんの魔法は繊細なんですの。セリーナちゃん自身も扱いに困っていたんですのよ。うまくいく保証なんて・・・」
上田「・・・確かに、そうかもしれません」
上田「でも、やらないと何も変わらない。そうですよね?」
上田「・・・それに、もし失敗したとしても。俺はとりあえず3日間は時を戻せます。いくらでもチャレンジできますよ」
レイ「・・・・・・何というか。本当に、都合がいい魔法ですわね、あなたの力って」
上田「ま、まあ、そうかもしれませんが」
上田「でも、せっかくこんな力があるんです。使わない方が損でしょう!!」
上田「・・・ということで、どうでしょう?レイさんが承諾すれば、すぐに始められますよ」
上田「あ、そうそう。魔法をかけている間はレイさんも学長も麻酔をかけるので、痛みはないと思います。そこは安心してください」
レイ「・・・・・・そう、ですわね」
レイ「・・・わかりました。私、あなたの力を信じることにしますわ。よろしくお願いいたします」
上田「・・・任せてください。一発で終わらせますから」
上田「では、俺はモルダート学長に連絡を取ります。都合がつき次第、やりましょう!」
レイ「・・・まさか、モルダート学長が、自らの身体を犠牲にして私を助けてくださるなんて・・・」
レイ「・・・やっぱり・・・学長は。私を引き取ってくれた時と何ら変わってない・・・」
レイ「私の味方であり続けた・・・とっても優しい、おじいさまですわ・・・」
〇女の子の部屋
〜3日後 上田's sweet home〜
「・・・ってうわあ!もうこんな時間か!」
上田「今日は魔界同好会のみんなでショッピングに出かけるから、12時に駅前集合なのに・・・」
上田「只今の時刻、12:30・・・。時既に遅し・・・」
上田「うわ、リオ先輩とシキブ先輩から怒りのメッセージが来てる・・・。さっさと出発する準備しないと」
『・・・では、次のニュースです。本日の最高気温は、なんと40度に達する見込みとのこと!』
『皆さん、水分補給はしっかりとしてお過ごしください!』
上田「げえ・・・40度・・・?いやいや、今はまだ春だしそんな狂った気温になる訳ないだろ・・・」
『・・・あ、すみません間違えました!40度ではなく、20度です!全然高くありませんでした!』
上田「なんだこの天気予報、いい加減だなあ・・・」
上田「・・・ってこんなことしてる場合じゃない!い、行ってきまーす!!」
『・・・えー、続いてのニュースです』
『設立から急激に人気を博していた聖裁大学でしたが、学長が、本日付けで辞任することになりました』
『聖裁大学の学長については、先日駅構内に動物を解き放ち、列車の運行に多大な影響を及ぼしたのではと憶測がなされていました』
『今回の辞任が、その事件と関連があるかどうかは不明です。学長自身も、報道陣の前に姿を見せず、何も説明はありません』
『その無責任な態度に、大学内外から批判の声が上がっています。真実を明らかにすべき、説明責任を果たすべきだ・・・と』
『また、聖裁大学はこの他にも、他大学への破壊活動、学生への虐げを行っていたとの情報が上がっています』
『真偽は不明です。しかし、これらの情報や憶測、学長の態度により、聖裁大学の人気が落ちることは必至ではないでしょうか』
『現に、聖裁大学に在籍している学生が、次々と他大学に編入手続きを行なっている模様です』
『1年前に突如設立された大学は、儚く閉校してしまうのでしょうか・・・』
レイさんにかかる明るい見通しと、モルダート学長の身辺に関する不穏な動き、最終回目前でも盛りだくさんですね!
そんな中で再登場の上田くんのお部屋、やっぱり破壊力抜群ですねww 直前のイケメンっぷりが台無し。。