エピソード1(脚本)
〇黒
1981年 12月24日
〇街中の道路
夜空に舞う粉雪。
ケーキを抱えて幸せそうな人々の間を、有島孝雄(ありしまたかお)が自転車で全力疾走する。
有島孝雄「・・・っ!」
自転車が転倒する。
有島孝雄「頼む! 誰か嘘だと言ってくれ!」
〇コンサート会場
美奈「皆さん、ごめんなさい! 私・・・私は!」
ステージ上の美奈が客席に頭を下げる。
会場内に沸き起こる、どよめきと悲鳴。
〇会場の入り口
有島孝雄「ハァ・・・ハァ」
香田武志「隊長!」
有島孝雄「嘘だよな? 嘘だと言ってくれ」
「・・・・・・」
有島孝雄「ミーナだぞ! 俺たちの女神だ!」
「・・・はい」
有島孝雄「ふざけるな! 認めるか!」
坂下徹「隊長!」
香田武志「ミーナの意志なんです! 美奈ちゃんが決めたことなんですよ!」
有島孝雄「・・・うぅ」
〇空
「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!!」
〇黒
翌日。
サンタが送ってきた最悪のクリスマスプレゼントは——
人気アイドルの美奈、俺たちのミーナの引退と結婚報告のニュースだった。
〇白
わがままなユニコーン
〇電車の中
35年後——2016年
〇オフィスビル
〇オフィスの廊下
『スターライト弁護士事務所』
〇事務所
フロア内では弁護士や事務員たちが忙しそうに動き回り、あちこちで怒号が上がる。
デスクに座り、書類整理をする有島。
三倉聡子「有島さん、おはようございます。 佐々木さんの件なんですが・・・」
有島孝雄「その件はもう終わりだと昨日も言っただろう」
三倉聡子「ですが、佐々木さんはまだ奥様を愛してらっしゃいます」
三倉聡子「すぐに裁判に持ち込むより、もう少し話し合いの場を——」
有島孝雄「何度言ったら分かるんだ」
有島孝雄「弁護士が愛なんて言葉を持ち込んでどうするんだよ」
三倉聡子「・・・・・・」
有島孝雄「千の言葉より証書だよ。 佐々木さんは奥さんのために何か1つでも形になるものを残していたか?」
三倉聡子「それは・・・」
有島孝雄「愛なんてない。情に流されるな。 本人が納得するなら裁判するだけして、さっさと次に進めばいい」
三倉聡子「有島さんはないんですか? 誰かのことを本気で愛して、追いかけたこと」
有島孝雄「・・・っ」
有島孝雄「・・・ない」
三倉聡子「・・・そうですか、わかりました。 10時から新規相談がありますから、応接室にお願いします」
有島孝雄「三倉。優秀な弁護士は——」
三倉聡子「ドラマとは違い、複数の案件を抱えている」
三倉聡子「全てを同時進行にこなし、1つの案件にのめり込まないことが優秀な弁護士の証になる・・・ですよね?」
有島孝雄「・・・・・・」
三倉聡子「失礼します」
〇オフィスビル
〇応接室
山木俊介「失礼します」
三倉聡子「どうぞおかけください」
山木俊介はテーブルに座るなり、有島たち二人に向かって深々と頭を下げる。
山木俊介「妻と離婚したいんです。 これ以上、あの悪妻と夫婦でいることは耐えられません」
山木俊介「どうか、よろしくお願いします!」
山木がテーブルの上に封筒を置く。
それを手に取る有島。
有島孝雄「!」
山木俊介「妻をご存知ですか? 私の妻は、元アイドルの美奈なんです」
有島孝雄「!!」
思わず、ガタッと立ち上がる有島。
三倉聡子「有島さん?」
〇雑居ビル
〇立ち飲み屋
香田武志「隊長! 遅れてすみません! ちょっと部活の方でトラブル出ちゃって」
有島孝雄「だから、その隊長ってのやめろ。 お前も学校じゃあ副校長なんだろ?」
香田武志「何言ってんすか、関係ないっす。 俺にとっては、隊長は永遠に隊長っすよ」
有島孝雄「・・・実はな、大事な話があるんだ」
香田武志「?」
〇立ち飲み屋
香田武志「ミーナの弁護!?」
有島孝雄「違う! その夫のほうだ!」
香田武志「ミーナ離婚するんですか!? てか生きてたんすか!? 巷じゃあ死亡説まで出てたくらいですよ!」
有島孝雄「オレが知るか」
香田武志「隊長どうするんですか? ミーナのこと守るんですか?」
有島孝雄「守る?」
香田武志「そうですよ。 ミーナの親衛隊であるチーム・ユニコーンには、鉄の掟があったじゃないですか」
有島孝雄「・・・・・・」
香田武志「ミーナの幸せは生涯俺たちが守る」
有島孝雄「・・・ふんっ、何十年前の話してんだ」
香田武志「でも隊長、いまだに独身貫いてるじゃないですか?」
有島孝雄「それとこれとは関係ない」
香田武志「てか、ひとつ聞いてもいいですか?」
有島孝雄「?」
香田武志「今のミーナ、やっぱりおばさんになってましたか?」
有島孝雄「・・・写真を見ただけだけどな」
香田武志「?」
有島孝雄「少なとも俺の目にはミーナは驚くほど、変わってなかった。 だから一目でわかった」
香田武志「30年以上経っても!?」
黙ってコクリと頷く有島。
香田武志「やっぱり、ミーナは人間じゃないんですよ。 女神だったんですよ!」
有島孝雄「バカ言うな!」
香田武志「隊長の前に現れたのは運命ですよ! いま隊長がミーナを守らなくてどうすんですか!」
有島孝雄「・・・あのなあ、話聞いてなかったのか。 俺はミーナの夫を弁護するんだ」
有島孝雄「ミーナは敵なんだよ、敵!」
〇マンションの入り口
〇高級マンションの一室
帰宅した有島はネクタイをゆるめ、ソファに腰を下ろす。
『アイドルは、いまや気軽に会いに行ける身近な存在となり・・・』
有島孝雄「・・・・・・」
テレビを消す有島。
立ち上がり、寝室の扉を開ける。
〇黒
なぜミーナを苦しめるような案件を受けたのか、自分でもわからなかった。
だが、一つだけ確かなことがある。
35年という膨大な月日を経ても、やっぱり俺は彼女のことを・・・。