11時に来るおばさん(脚本)
〇CDの散乱した部屋
そのおばさんは──
前触れもなくやって来た──
男「あ?誰だ?」
男「どうせ新聞の勧誘か何かだろ?」
男「無視しとこ・・・」
男「もうひと眠りだ・・・」
無視しておけば、観念して帰るだろう。
そう軽く考えていた。
男「粘るねぇ・・・」
男「どんだけ鳴らしても出ねーから!さっさと帰れよ!」
男「おい!おい!うるせぇよ!」
男「何考えてんだよ!」
男「何なんだよ!異常すぎだろ!」
男「あーわかった!わかった!」
男「出りゃー良いんだろ?出りゃ!」
今思えばこの「出る」という判断は、おそらく間違いだったんだろう
しかしこの時の俺には、そんな事を考えてる余裕はなかった
〇古いアパート
男「なんスか?」
おばさん「・・・・・・」
男(何なんだ?このおばさん・・・)
何処にでも居る普通のおばさん──
俺がそいつに対して抱いた第一印象はその程度だった・・・
男「あの・・・なんスか?さっきから」
男「うるさいんスけど・・・」
男「迷惑なんスよね・・・」
おばさん「・・・・・・」
男「あの・・・何か言ったらどうっスか?」
おばさん「・・・・・・」
男(あークソ!何なんだよ、・・・)
おばさん「貸して・・・ください・・・」
男「は?貸して?」
おばさん「1000円・・・貸してください」
男「はぁ?1000円?」
このおばさんの一言は、のちに俺を地獄の底に突き落とす悪魔の言葉だったなんて
この時の俺は知る由もなかった。
男「金?」
おばさん「1000円貸してください」
男「いや、無理っスよ・・・」
おばさん「何ですか?1000円だけですよ?」
男「1000円だけって・・・」
男「何で見ず知らずのアンタに、俺が金貸さなきゃいけないんスか?」
男「他をあたってください」
おばさん「貸してください・・・」
男「金に困ってるのかもしれませんけど」
男「何度言われても答えは変わんないっスよ」
男「そういう事なんで!それじゃ!」
おばさん「・・・・・・」
〇CDの散乱した部屋
男「何なんだよ!あいつ・・・」
男「気色悪いババアだったなぁ・・・」
男「まぁ、気にする事もねぇか・・・」
男「あんな奴について考えるだけ時間の無駄だ」
男「さぁ!さぁ!もうひと眠りだな・・・」
もうあのおばさんが来る事は無いだろう
そう思っていた
〇CDの散乱した部屋
──翌日──
男「あ?誰だ?」
男「うるせぇな・・・」
俺の脳裏には、昨日のおばさんの姿が浮かんでいた
男「いや・・・まさかな・・・」
男「おい!おい!マジかよ・・・」
男「わーった!わーった!出てやるから!」
男「何なんだよ!クソがよ・・・」
男「出てやるから叩くなっつーの!」
男「迷惑な奴だなぁ・・・」
〇古いアパート
男「あの・・・」
男(はぁ〜・・・またコイツかよ・・・)
男「あの・・・なんスか?」
おばさん「900円貸してください」
男「はぁ?900円?」
おばさん「900円貸してください」
男(同じ言葉連呼しやがって!RPGの村人かよ!)
男「昨日も言ったっスけど、貸しませんから」
おばさん「昨日は1000円で、今日は900円です」
おばさん「900円貸してください」
男(昨日とは違うって言いてーのか?このババア)
男(そういう問題じゃねぇっつーの!)
男「あの・・・金額の問題じゃないんスよね」
男「昨日も言ったっスけど、見ず知らずのアンタに俺が金貸す理由がないんスよ」
男「いくら言われても貸しませんから」
男「それじゃ!」
おばさん「・・・・・・」
〇CDの散乱した部屋
男「何考えてんだ?あのババア・・・」
男「二日連続って、頭沸いてんのか?」
男「まさか、明日も来るなんて事・・・」
男「ないよな・・・さすがに・・・」
〇古いアパート
しかし、悪い予感は見事に的中した。
翌日──
おばさん「800円貸してください」
また翌日──
おばさん「700円貸してください・・・」
そのまた翌日──
おばさん「600円貸してください・・・」
そのまた翌日──
おばさん「500円貸してください・・・」
そしてまた翌日──
おばさん「400円貸してください・・・」
さすがにもうウンザリだ!
俺が何か恨まれるような事でもしたのか?
どこかで会った事あったか?
いや知らない・・・初めて見る顔だ
しかも奇妙な事に、毎日同じ時間、11時にそのババアはやって来るんだ
何が目的なんだ?
明日もまた来たら問い詰めてやる!
〇CDの散乱した部屋
──翌日──
男「来やがったな!絶対あのババアだ!」
男「今日こそ問い詰めてやる!」
男「覚悟しろよババア!」
〇古いアパート
男「はい・・・どちら様・・・」
そこには嫌と言うほどに見慣れた、ババアの姿があった
男(やっぱババアだ!)
男(もう我慢の限界だ!)
男「何なんだよ!毎日毎日!うるせーんだよ!」
男「貸さねぇってのが分かんねぇのか!あ?」
おばさん「300円貸してください・・・」
男「だから貸さねぇっつってんだろ!何回言ったら分かんだ!ババア!コラ!」
男「警察呼ばれてぇか?あ?」
おばさん「300円貸してください・・・」
男「いい加減にしやがれ!」
隣人「あの・・・うるさいんですけど?」
隣人「やめてくれません?」
男「あ?うるせぇよ!関係ねぇ奴は消えろ!」
隣人「逆ギレですか?」
男「うるせぇ!文句があんならなぁ、このババアに・・・」
男「って、あれ?」
そこにババアの姿はなかった
隣人「誰もいないじゃないですか」
男「いや、さっきまで居たんだって!」
男「毎日毎日、金貸せって、俺の家に・・・」
隣人「これ以上うるさくされるの迷惑なんですよ」
隣人「次うるさくしたら、大家さんに言いますから!」
男「いや、だから・・・」
隣人「それじゃ!」
男「・・・・・・」
〇CDの散乱した部屋
男「あぁあぁぁぁ亜ァ亞ァァァあ!」
男「何なんだよ!何なんだよ!」
男「くそ!クソ!糞!クソ!クソぉぉぉぉぉぉ!」
男「あーイライラする!イライラする!」
男「俺が何したってんだよ!」
男「あぁあぁぁぁ亜ァ亞ァァァあ」
男「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
この時俺はノイローゼになっていた
〇総合病院
その日の夕方に病院に行ったら、鬱、自律神経失調症と医者から診断された
これじゃ仕事も出来ないじゃないか!
この時の俺は絶望を味わっていた。
〇古いアパート
それからもババアは2日連続でやってきた
おばさん「200円貸してください・・・」
そして今日──
おばさん「100円貸してください・・・」
俺はもう、身も心もボロボロに傷つきまくっていた
しかし心なしか余裕があった。
やっと解放されたんだ──
最初にババア来た時は1000円──
それから、日を追うごとにその金額は100円づつ減っていき、今日は100円
したがって明日は0円。当然0円貸すなんて無理な話。もう、あのババアが来ることもないだろう
そう安心して俺は深い眠りについた。
〇CDの散乱した部屋
そして翌日──
俺の眠りを、嫌と言うほどに聞き慣れた『あの音』が妨げる。
男「う、うー・・・ん」
男「なんだ・・・?」
男「人が気持ちよく寝てんのに・・・」
男「うるせーな」
俺はまだ完全に開ききっていない瞼を指で擦りながら、時計を見る。
男「11時・・・」
不気味なくらいに規則正しく、11時きっかりに鳴り響くインターフォン
男「まさか・・な・・」
男「・・・・・・」
俺は不安を抱えながらもドアを開けた
〇古いアパート
男「はい・・・」
そこには、忘れようとしていた──
あのババアが立っていた・・・
おばさん「・・・・・・」
男(なんで今日も来てんだよ・・・)
男「な・・・なんで?」
男「だって・・・昨日・・・」
男「100円って言われて・・・」
男「その次は0円だから・・・」
男「次はない・・・筈だろ?」
男「なのに・・・何で・・・」
おばさん「90円貸してください・・・」
男「なっ!!!!!!!!!!!!」
その瞬間──
ドス黒い悪意が──
音を立てて──
俺を包み込んだ──
気がつくと俺は──
ババアの首を絞めていた──
おばさん「うぐ・・・」
男「何でだ!何でなんだよ!」
男「なんで100円刻みだったのが、急に10円刻みに変わってんだ?あ?コラ!」
男「どうして・・・」
男「どうして、こうまでして俺を・・・」
男「何の恨みがあんだコラ!」
おばさん「う・・・」
男「いや、てめーの目的とか、この際どうでもいい」
男「このまま・・・」
男「絞め殺してやる!!!!」
男「それで解決だ!!!!!!!!!!!!!!」
隣人「あの・・・いい加減に・・・」
隣人「なっ・・・」
隣人「あんた何やってる!!」
男「うるせぇ!黙れ!てめぇには関係ねぇだろ!」
隣人「その手を離せっ!」
男「お前に俺の・・・」
男「何が分かる!!!!!!」
隣人「離せって言ってるんだ!」
男「うぐっ!!!」
俺は男に思いっきり殴られ、その場に倒れ込んだ。
おばさん「・・・・・・」
隣人「おばさん!早く逃げてください!」
隣人「この人は僕が何とかしますから!早く逃げて!」
おばさん「ありがとう・・・」
ババアは足早にその場から立ち去った。
男「待ちやがれぇ!クソババァ!」
隣人「大人しくしてるんだ!」
男「クソ!離せって!」
男「俺にあのババアを殺させろ!」
隣人「だから大人しくしてろ!」
男「クソがぁぁぁぁぁぁ!」
〇通学路
おばさん「・・・・・・」
おばさん「もうそろそろかなぁ・・・」
おばさん「明日には・・・」
〇古いアパート
──翌日の11時──
おばさん「よし・・・」
おばさん「11時になったわ・・・」
おばさん「さぁ、いつまで耐えれるかしら・・・」
私は男の家のインターフォンを鳴らす
おばさん「・・・・・・」
おばさん「あれ?おかしいわね・・・」
おばさん「いつもなら、ブツブツ、何かを言ってる声が聞こえるんだけど・・・」
試しにドアノブを回してみる
おばさん「あら・・・開いてるわね・・・」
〇CDの散乱した部屋
私はドアを開き、部屋の中に入る
おばさん「・・・・・・」
男は首を吊ってしんでいた
おばさん「・・・・・・」
おばさん「やっと死んだか・・・」
おばさん「まぁ、随分粘った方だけど、昨日の90円の効果は絶大だったようね」
おばさん「そうと分かれば長居は無用ね・・・」
〇古いアパート
隣人「あっ!おばさん!」
おばさん「あぁ、あなた・・・」
隣人「昨日は大丈夫でしたか?」
おばさん「えぇ、大丈夫だったわよ」
おばさん「昨日はありがと」
隣人「世の中には相手が女性でも容赦ない奴って居ますから、気をつけてくださいね?」
おばさん「ご忠告どうも・・・」
隣人「昨日、あんな目にあったのに、今日も来てるなんて・・・」
隣人「不思議な人だなぁ・・・」
〇通学路
おばさん「さぁ!私の仕事は済んだし、報告しに行かなきゃ!」
〇応接室
おばさん「やっ!社長!」
男「よぅ!終わったか?」
おばさん「えぇ、首吊ってしんでたわ・・・」
男「上出来だ・・・」
おばさん「これで・・・」
男「あぁ・・・」
男「奴の借金は保険金で回収だ・・・」
おばさん「でもよく考えたもんよねぇ・・・」
おばさん「ひとりの多重債務者を自殺に追い込んで、その保険金で回収しようなんてさ!」
男「一般的に自殺じゃ保険金はおりねぇって思われてるが、実際は違う」
おばさん「ええ、そうね・・・」
おばさん「保険金がおりない自殺は『保険金目的』だと判断された自殺に限定されるものね!」
男「その通り・・・」
男「保険加入者が正常な判断が出来ない状態での自殺──」
男「そして、保険金目的の自殺じゃねぇと判断されたら、保険金がおりるんだ!」
おばさん「その点あいつは病院で鬱、自律神経失調症って診断されてるから」
おばさん「その条件を満たしてるって事ね!」
男「ああ!そうだ!」
男「これで利息含めて500万ゲットだ!」
男「しかし、すげぇよなぁ」
男「そんな簡単に自殺に追い込めるもんか?」
おばさん「人間なんて頭で考えてるよりも、ずっと繊細で脆いものよ・・・」
おばさん「ちょっと、恐怖を与えるだけで、コロっと逝くものよ」
おばさん「まぁ、私がターゲットにしたんなら、生かしては帰さないけどね」
男「おぉ、怖い怖い!つくづくお前が味方でよかったって思うぜ」
おばさん「でさぁ・・・」
男「あ?」
おばさん「今回の報酬なんだけど・・・」
男「あぁ、そうだなぁ・・・」
男「今回は懐に入る金がでかいからなぁ・・・」
男「200万でどうだ?」
おばさん「うっそ!そんなに?ありがと社長❤︎」
男「報酬が少ねぇからって、他社(よそ)に行かれたら困るからなぁ」
男「お前ほどの奴は、そう居るもんじゃねぇからな」
おばさん「嬉しい事言ってくれるわね」
男「まぁ、これからも、何かあったら頼むわ」
おばさん「はぁーい!」
〇通学路
おばさん「あ、そうそう・・・」
おばさん「もう、変装する必要無いんだった・・・」
女は変装マスクを投げ捨てる
おばさん?「さぁ!お金入ったし!」
おばさん?「週末はハワイでバカンスかなぁ♫」
女は軽い足取りで歩いて行く──
END
早く結末を知りたくてタップする指が止まらない作品でした。直接手を下すことなく理不尽な反復の恐怖で相手を追い込んで本人が自滅するように仕向けるなんて、これぞ悪魔の作戦。読み終わった読者が時計を見たとき11時だったらドキッとしますね。
幽霊とか呪いの類いかと思いきや、普通に人間の仕業で逆に怖かったです😨
そして面白かったです😆✊
恐ろしさでゾワゾワしますね!主人公の男が自棄になって数百円を渡したとしても、きっと翌日11時にまた来訪したのでしょうね。得体が知れないというのは恐怖感を増幅させますね!