怪人派遣会社営業担当・魁島カイジ(脚本)
〇岩山
説明をば、致しましょう
スーパークライム「ムク〜っ、まだ・・・まだまだなのだ!」
スーパークライム「スーパークライム様は、こんな所では終わらないのだ!」
この星には、世界征服を企む悪の組織と・・・
サイレンレッド「残念だったな、閻魔エージェンシー」
サイレンレッド「コレでゲームセットだ!」
それを阻止すべく戦う、人類のヒーローが居るのです
「サイレンK砲!」
スーパークライム「ムギャアァァァ!」
サイレンレッド「へっ、楽勝だぜ!」
サイレンブルー「まぁ、前にも倒した事あるヤツだったからな」
サイレンピンク「色変えただけで別物のフリするとか、マジ草だよね」
サイレンブルー「そんなに面白いか?」
サイレンレッド「さぁ、勝利の警鐘鳴らして帰ろうぜ」
「了解」
──このように、スーパークライム様は倒されました
〇岩山
閻魔エージェンシー 本部
魁島カイジ「お悔やみをば、申し上げます」
〇怪しげな祭祀場
魁島 カイジ「ですが、今何より大事なのは・・・」
魁島 カイジ「問題点を洗い出し、改善する事ではありませぬか?」
キキ「『問題点』と言うと、具体的には?」
魁島 カイジ「安易なリペイントや再生怪人などでは、ヒーローに太刀打ち出来ぬ事は証明済みです」
魁島 カイジ「ですが、弊社のサービスをご利用いただければ御社に大きな利益を・・・」
ユウジ「すみません、遅くなりました」
キキ「何をしていたんですか、お客様をお待たせして」
ユウジ「申し訳ない」
ユウジ「回収したスーパークライムのガワを改造していて・・・」
ユウジ「ところで、そちらの方は?」
魁島 カイジ「お邪魔をば、しております」
魁島 カイジ「我ら『地獄を配達る(くばる)者』、怪人専門人材派遣会社デリバリーヘル営業担当──」
魁島 カイジ「魁島カイジでございます」
〇黒
『怪人派遣会社営業担当・魁島カイジ』
〇地球
説明をば、致しましょう
最初の悪の組織が誕生してから、既に半世紀以上
数多の組織が世界征服を試みました
しかし同時に、人類を守るヒーローも次々と誕生
彼らによって、毎年のように悪の組織は滅ぼされ
何とか生き残った組織も、深刻な予算不足により
満足な数の怪人を確保する事すらままぬ有様──
〇公園のベンチ
一方、所属していた組織が壊滅して路頭に迷う怪人も増加
十戒人クロス「何か良い求人はないものか・・・」
そんな中、今注目を集めているのが──
十戒人クロス「何々、怪人派遣会社・・・?」
〇オフィスビル前の道
デリバリーヘル 本社
魁島カイジ「この度は、ご応募いただき誠にありがとうございます」
〇役所のオフィス
魁島 カイジ「デリバリーヘルの営業担当、魁島カイジでございます」
十戒人クロス「十戒人クロスだ」
魁島 カイジ「十戒人様・・・珍しいご苗字ですね」
十戒人クロス「苗字ではない、肩書だ」
魁島 カイジ「失礼をば、致しました」
魁島 カイジ「ではクロス様、ご登録いただいた内容によりますと・・・」
魁島 カイジ「怪人業は未経験、ですか」
十戒人クロス「・・・内定を貰っていた組織が、壊滅したんだ」
十戒人クロス「ココは『未経験可』と書いてあったが?」
魁島 カイジ「はい、問題ございませぬ」
魁島 カイジ「戦闘員のアルバイト経験がお有りの方も稀にいらっしゃいますが・・・」
魁島 カイジ「応募者の方のほとんどが未経験ですから」
十戒人クロス「なら、良い」
魁島 カイジ「それに技能検定1級の必殺技をば、お持ちのようで」
魁島 カイジ「でしたら、むしろ引く手数多ですよ」
十戒人クロス「ほう、例えば?」
魁島 カイジ「オススメはコチラですね」
魁島がクロスに見せるタブレット端末の画面には、次の内容が表示されている
派遣先 :鬼一族
勤務地 :鬼ヶ島
業務内容:桃太郎及びそのお供の討伐
魁島 カイジ「いかがでしょう?」
十戒人クロス「島か・・・遠いな」
魁島 カイジ「そうですか・・・では、コチラは?」
魁島がクロスに見せるタブレット端末の画面には(ry
派遣先 :魔王軍樹海支部
勤務地 :森の砦
業務内容:勇者一行の撃退
魁島 カイジ「いかがでしょう?」
十戒人クロス「悪くないな」
魁島 カイジ「ただ1つ、問題がありまして」
魁島 カイジ「敵である勇者一行が樹海に辿り着いてからの勤務になりますので、開始日が読めぬのです」
十戒人クロス「それは困るな・・・出来るだけ早く仕事がしたい」
魁島 カイジ「即日希望ですね、でしたら・・・」
魁島 カイジ「あ、コチラ最近新規で入った案件なのですが」
魁島がクロスに見せるタブレッt(ry
十戒人クロス「ほう、閻魔エージェンシー・・・」
〇怪しげな祭祀場
キキ「はじめまして、閻魔大王様の美人秘書・キキと申します」
十戒人クロス(美人・・・?)
キキ「申し訳ございません」
キキ「現場担当幹部が、今日も席を外しておりまして」
魁島 カイジ「お忙しいのですね」
説明をば、致しましょう
派遣スタッフの現場初日は、営業担当が同伴する事が多いのです
キキ「では担当幹部が来る前に、諸々の説明をさせていただきますね」
〇黒背景
説明をば、致しましょう
閻魔エージェンシーは『古の時代に封印されし閻魔大王の復活』という企業理念のもと──
〇荒廃した遊園地
人類に厄災をば、振りまいているのです
クライム「ムククク、人間よもっと苦しむのだ!」
「ウー!」
???「そうは行くか!」
しかし、そこに立ちはだかるは人類のヒーロー
緊急侍隊(きんきゅうじたい)サイレンジャーなのです
サイレンレッド「お前らの好きにはさせないぜ!」
クライム「来たな、サイレンジャー」
クライム「冥奴(めいど)ども、このクライム様を守るのだ!」
「ウー!」
サイレンレッド「ザコどもに用はねぇ」
サイレンレッド「さっさと道を開けやがれ!」
彼らの戦力は絶大で、幾度となく敗北した結果──
〇怪しげな祭祀場
キキ「今、怪人不足に陥っているのです」
十戒人クロス「なるほど・・・」
キキ「あ、こういった情報は口外しないで下さいね」
キキ「たとえ、口が裂けても」
十戒人クロス(・・・笑うところか?)
魁島 カイジ「承知をば、致します」
ユウジ「お待たせしました」
ユウジ「毎度毎度遅くなって申し訳ない」
ユウジ「現場担当幹部のユウジです」
キキ「また随分と派手にやられましたね」
ユウジ「かたじけない」
魁島 カイジ「最近の幹部様は大変ですね」
魁島 カイジ「自ら現場に赴き、ヒーローと戦わねばならぬとは」
ユウジ「怪人不足ですから、仕方ありません」
ユウジ「穴埋めをするのも、幹部である自分の仕事です」
魁島 カイジ「しかしコレでは、若者が出世したがらぬ気持ちもわかります」
ユウジ「そうですよ、やはり上司というものは」
ユウジ「『ロクに仕事もしないで良い給料貰いやがって!』」
ユウジ「──なんて思われるくらいがちょうど良いですよね」
魁島 カイジ「心中をば、お察し致します」
十戒人クロス「・・・ところで、1つ聞いてもいいか?」
ユウジ「失礼しました、何でしょう?」
十戒人クロス「アンタ、人間じゃないのか?」
ユウジ「? そうですけど?」
十戒人クロス「何故、人間が怪人の組織に?」
ユウジ「いけませんか?」
ユウジ「人間だからって、人間の味方をする必要はないでしょう?」
十戒人クロス「・・・良い答えだ」
ユウジ「ありがとうございます」
ユウジ「では早速、最初の出勤日の調整を・・・」
〇ボロい倉庫の中
タッタッタッ──
十戒人クロス「・・・来たか」
サイレンレッド「そこまでだ、閻魔エージェンシー!」
〇赤(ダーク)
サイレンレッド「燃える消防魂」
サイレンレッド「サイレンレッド!」
〇青(ダーク)
サイレンブルー「正義の警察魂」
サイレンブルー「サイレンブルー!」
〇ローズピンク
サイレンピンク「慈愛の救急魂」
サイレンピンク「サイレンピンク!」
〇ボロい倉庫の中
「緊急侍隊サイレンジャー!」
十戒人クロス「よく来たな、サイレンジャー」
十戒人クロス「『降参だ』と申せば、許してやるぞ?」
サイレンブルー「誰がそんな事・・・って、アレ?」
サイレンブルー「何か今までの敵と雰囲気違くないか?」
サイレンピンク「デザイナー変わった? まさか、テコ入れ?」
サイレンピンク「マジ草」
サイレンレッド「倒すべき敵だって事に変わりねぇ」
サイレンレッド「行くぞ!」
「了解!」
十戒人クロス「コッチもかかれ〜!」
「・・・・・・」
十戒人クロス「おい、聞いてんのか!?」
「うー」
(・・・ったく、派遣が調子に乗りやがって)
十戒人クロス(──なんて思ってるんだろうな)
十戒人クロス「仕方ない、だったら俺が・・・!」
〇オフィスビル前の道
魁島カイジ「そうですか、負けましたか」
〇役所のオフィス
魁島 カイジ「それでも、生き延びただけ素晴らしいですね」
魁島 カイジ「何とか月末まで頑張っていただいて」
魁島 カイジ「契約をば、更新してもらいたいものですね」
ユウジの声「では今後とも、よろしくお願いします」
ツー、ツー、ツー
魁島 カイジ「それにしても、気になるのは十戒人クロス」
魁島 カイジ「もしかすると、もしかするのでは・・・?」
〇岩山
〇怪しげな祭祀場
キキ「一体、何事ですか!?」
冥奴「ウー、ウー」
キキ「あの派遣バイトが、謀反!?」
十戒人クロス「そういう事だ」
冥奴「ウー!」
ユウジ「どういうつもりだ!?」
十戒人クロス「『理由を申せ』と? 面白い」
十戒人クロス「『人間だからといって、人間の味方をする必要はない』」
十戒人クロス「そう申したのは、アンタだろう?」
キキ「ま、まさか・・・」
ユウジ「『怪人が怪人の味方をする必要はない』とでも?」
十戒人クロス「わかっているじゃないか」
十戒人クロス「怪人がいるから、ヒーローや争いが生まれる」
十戒人クロス「だから俺は怪人の本拠地に入り込み、内部から壊滅させ戒める」
十戒人クロス「それが十戒人だ!」
キキ「アナタの思い通りにはさせません!」
ユウジ「ダメだ、キキさん!」
十戒人クロス「くらえ、必殺」
十戒人クロス「クロスファイヤー!」
「ぎゃあああ!」
十戒人クロス「ハハハ・・・」
十戒人クロス「何者だ!?」
魁島 カイジ「困るんですよね、クロス様」
魁島 カイジ「弊社の看板をば、背負っているご自覚はしていただかないと」
十戒人クロス「アンタ・・・何故ココに?」
魁島 カイジ「調査をば、致しました」
魁島 カイジ「近年、自滅したと見られる組織内に『十戒人』と名乗る怪人が在籍していた事」
魁島 カイジ「その事例が複数回確認出来る事・・・」
魁島 カイジ「弊社は世界中の『悪の組織情報』に精通していますから」
十戒人クロス「流石だな」
十戒人クロス「なぁ、俺と組まないか?」
十戒人クロス「アンタ達の人脈を使えば、色んな組織に入り込めそうだ」
十戒人クロス「その代わり、アンタ達の会社は1番後回しにしてやる」
十戒人クロス「どうだ?」
魁島 カイジ「冗談をば、言わないでいただきたい」
魁島 カイジ「クロス様はこの場で、お亡くなりになるというのに」
十戒人クロス「何!?」
魁島 カイジ「『派遣』という怪人の新しい形は、当初様々な批判も受けました」
魁島 カイジ「それでも世界観をば超え、『怪人』という財産をば有意義に使い」
魁島 カイジ「今後この世界の救世主になり得る存在と信じて草の根運動をば続け、やっと花開き始めてきたのです」
魁島 カイジ「クロス様の今回の行為は、その芽をば摘みかねぬ愚行」
魁島 カイジ「怪人界の未来をば脅かす、十戒人クロスに」
魁島 カイジ「この魁島カイジが鉄槌をば、下します!」
十戒人クロス「何を偉そうに」
十戒人クロス「言っておくが、俺は1人で組織を潰せるほど・・・」
十戒人クロス「強・・・い・・・ん・・・」
魁島 カイジ「説明をば、致しましょう」
魁島 カイジ「派遣会社の営業担当は、現場仕事な経験もあるものなのですよ」
〇オフィスビル前の道
派遣スタッフの急な欠勤や退職の穴埋め、あるいは──
〇役所のオフィス
魁島 カイジ「かけたご迷惑をば、償うとか」
ユウジ「それにしても、お強かったですね」
魁島 カイジ「ユウジ様こそ、あの状況で生き永らえるとは素晴らしい」
ユウジ「キキさんには悪い事をしました」
ユウジ「咄嗟に盾にしてしまって」
魁島 カイジ「やむをば、得ぬ事かと」
ユウジ「ところで、皆は元気ですか?」
魁島 カイジ「えぇ、無事に派遣先は見つかりましたよ」
〇港の倉庫
スーパークライムネオ「ムクククク、スーパークライムネオ様が相手してやるのだ!」
仮面騎士ブラン「噂の派遣怪人か・・・久々に倒し甲斐がありそうだ」
〇役所のオフィス
魁島 カイジ「元気かどうかは、預かり知らぬ所ですが」
魁島 カイジ「そういうユウジ様は?」
ユウジ「自分は一旦、人間社会に戻ります」
ユウジ「閻魔エージェンシーもサイレンジャーも、壊滅してしまいましたから」
〇組織の本部
サイレンジャー基地
〇廊下のT字路
サイレンレッド「ブルー・・・ピンク・・・ちくしょう!」
サイレンレッド「まだだ・・・俺の火事場のクソ力、見せてやる!」
魁島 カイジ「では最後にあの技をば、拝借しましょう」
魁島 カイジ「クロスファイヤー!」
サイレンレッド「ぐあああっ!?」
魁島 カイジ「コレで責任をば、果たしましたからね」
〇役所のオフィス
ユウジ「『登録された必殺技なら何でも扱える』なんて、羨ましい特技です」
ユウジ「いっそ、悪の組織を立ち上げては?」
魁島 カイジ「いえ、現場仕事は退屈ですから」
魁島 カイジ「おっと、電話ですか」
魁島 カイジ「失礼をば、致します」
ユウジ「お構いなく」
魁島 カイジ「お電話ありがとうございます」
魁島 カイジ「『我ら地獄を配達る者』、怪人専門人材派遣会社デリバリーヘル営業担当──」
魁島 カイジ「魁島カイジでございます」
〇オフィスビル前の道
- 完 -
カイジは武器商人みたいなもので、ヒーローと怪人の供給バランスが程よく保たれるように画策してるんですね。本当の悪者は分かりやすい怪人などではなく、古今東西いつの世もスマートな裏方稼業なんだなあ、としみじみ。
こういう頭がキレるというか、弱肉強食の世界も嫌いではありません。
現実世界は中々そううまくはいかないですが、こういう物語上では明るくなる良い人物がいると心が救われる気がします笑
営業担当カイジさん、私にはなかなか好きなキャラクターでした。やる事がよくも悪くもスマートだからです。私も派遣契約で働いていましたが、担当の営業の方はとても良い方ばかりでしたが、ワーカー側にもクライアント側にもへりくだっていて、私には無理だなあという印象でした。