青玉の行く先

結城 直人

読切(脚本)

青玉の行く先

結城 直人

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〇森の中
  惑星α(アルファ)
宇野一星「はぁはぁはぁ・・・」
怪人①「×θΛΣ~~!!」
宇野一星「もう限界だ、この辺で隠れないと」
怪人①「θΖΛΠΘ~~!!」
宇野一星「行ったか・・・とりあえず船に戻って報告しないと、何より早くこの星を脱出しないと危険だ」
  惑星探索調査隊、通称【PSE】の一員である宇野一星は惑星α(アルファ)に降り立った際、突如現れた怪人に襲われる。
  惑星αは、以前より別の調査隊が設置した複数のドローン型AIを使用し約1年間を費やし探査を行っていた。
  しかし突如AI信号が途絶えた為、原因を究明すべく一星が星に降り立った矢先の出来事であった。

〇森の中
宇野一星「船が・・・ あいつの仕業か 知性があるようには思えなかったが」
宇野一星「まずいぞ、これじゃ連絡がとれない。 水も食料も船の中だ。 本部が気づいて救援に来るとしても一週間はかかる」
  惑星αは太陽より約6億キロ離れた場所に突如現れた惑星で、その環境は地球と酷似していた
  地球の人口が飽和状態の昨今、惑星αには人類移住の大いなる期待が向けられていた
  懸念材料は人類に危険を及ぼすであろう生物の存在。
  この一年の調査では先程の様な生命体の情報は得られてはいなかったのだ。
宇野一星「ともかく落ち着こう、こんな時でも冷静に動けるよう訓練を重ねたんだ」
  一星は掌大サイズの生体感知機器を取り出し、それを見つめながら歩き始める。

〇荒地
  もう何時間歩いたろうか
  
  先の景色が一向に変わらない
宇野一星(ちょっと休むか)
  何かが顔前を横切った?
  先の岩壁に大きな穴が開いている。
宇野一星(何だ・・・)
  一星は生命感知機器を取り出す。
宇野一星(いるっ! 約100メートル地点、ちょうど空洞先に何かが)
  洞窟から出てきた砂埃が迫ってくる!
怪人②「・・・」
宇野一星「・・・」
怪人②「▽§xΓθ!!!」
  怪人のごつごつとした両手が眼前へと迫る
  恐怖で体が動かせない!
  青い閃光が怪人にぶつかった?
  その淡い光は霧晴れの様徐々に薄れて行く。
宇野一星「・・・」
宇野一星「・・・どれだけいるんだ」
?「地球の・・・日本人か・・・」
宇野一星「喋れる? しかも日本語で・・・」
宇野一星「あのっ──」
?「それは災難だったね」
宇野一星「え?」
  気付けば相手の長い腕が目先まで迫っていた。

〇研究所の中枢
  気付けばあの荒野から不可思議な場所へと移動していた。
  目先には筒状の巨大なチャンバーがあり、その中であの怪人が眠っている。
?「心配いらないよ 暫くは目覚めない」
宇野一星「ここは?」
?「ゆっくりするといい」
  相手は透明の器にさらさらと七色の粉を入れている。
宇野一星「あの」
?「同じだよ」
宇野一星「え?」
?「君と同じで私もこの惑星の調査にきてるんだ」
宇野一星「・・・そこの、その──」
?「この者も私の仲間だ 君の船を破壊したのも調査隊の者だよ」
?「彼らは調査でこの惑星に降り立った際、各々がバグが起こしさっきの様な状態になったんだ」
?「どうやらこの惑星の大気は我々の細胞を変異させるらしい そこで急遽対策を整え彼らの救助に来たという訳さ」
宇野一星「もしかして心が読める?」
?「少し違う 正確にはエネルギーの動きを読んでいるんだけど、それは今知らなくていい いずれ君達にもわかるよ」
宇野一星「さっき地球の日本人って言ったよね? 僕らの事知ってるの?」
?「地球には何度も行っている それは我々だけじゃない」
宇野一星「う、うーん・・・」
?「困惑する必要はないよ、とりあえずこれを飲んで、元気になるから」
  渡された容器の中で七色の液体が揺れている。
  大丈夫なのかこれ・・・
?「一度休んで体を回復させた方がいい 時間をおいてまた話そう」
宇野一星「ありがとう あなたの名前とかってあるんですか?」
?「どの道君達には表現できない音だから知っても意味はないよ」
宇野一星「じゃあ、アルファって呼んでいいかな?」
アルファ「・・・おまかせするよ」
  アルファは踵を返しドア外へと出て行く。
  アルファのくれた液体を飲んでみる
  
  ・・・
  
  眠い、急に・・・

〇実験ルーム
「〈ΕΞΛ、×ΠΘlΣ(ああ、発見したよ)」
「θΠΛ§Ζ、¶Η×〇(わかっている、必ず抹殺するさ)」
  ・・・

〇研究所の中枢
  ・・・
  目覚める一星。
  体の疲労はとれているようだ。
宇野一星「・・・」
宇野一星「行くか」

〇研究施設の廊下(曲がり角)
  近代的な造りの通路に出る一星は、複数のドアを尻目に歩きながらあるドアの前に立つ。
  すると──
「どうぞ」
  上下に分かれて開くドア。
  一星は固い表情のままドアの先へと進んでいく。

〇実験ルーム
アルファ「少し待って、もうすぐ体が開くから」
  アルファが眺めるスクリーンには不思議な記号が蠢いている。
  思考だけで何かを操作しているようだ。
アルファ「よし・・・ ぐっすり眠れたかい? 眠れなくても回復はしたはずだが」
宇野一星「おかげさまで ねぇ、色々聞きたいことがあるんだ」
アルファ「わかった ただちょっと外に付き合ってほしい やる事がまだ残ってるんだ」
宇野一星「・・・」

〇戦闘機の操縦席(空中)
  アルファはある乗り物に一星をいざない、二人は空のドライブに出かける
アルファ「この星は美しい、人が誕生する前の地球のようだ」
宇野一星「気になる言い方だね」
アルファ「人間は地球に適さない 地球にとっての一番のウィルスは君達人間なんだ」
宇野一星「じゃあ抹殺すればいいじゃないか? 僕にこれからそうするように」
アルファ「・・・おかしいな、言葉がわかるはずもないが」
宇野一星「自分でも不思議なんだ、けれど君の言うエネルギーを読むってのがあの時は何故か体感できた。殺意に満ちたエネルギーを」
アルファ「君は勘違いをしてる。私が抹殺しようとしているのはこの惑星の大気に潜む微生物の事だよ」
宇野一星「微生物?」
アルファ「回収した仲間の身体に寄生していたんだ、それがバグの原因だった」
宇野一星「殺さないのかい?」
アルファ「勘違いがもう一つあるね、我々やその他多くの生命体は友好的な存在だ。君達人間の方がよっぽど危険だよ」
宇野一星「・・・」
アルファ「同種で長い年月無意味な争いを続けるのも 理解に苦しむね」
宇野一星「みんな争いたいわけじゃないよ・・・」
アルファ「わかるよ。人間はその脳を進化させ、知恵を得て、生きる意味を求めだした」
アルファ「そこから生まれた欲望が年月をかけ、結果地球に多くのガンをもたらした」
宇野一星「・・・」
アルファ「ウィルスだって母体と共存するために変容するのに君たちはそれができない。そういう事だよ。いずれ地球は滅びる」
宇野一星「そんな・・・どうにかできないの?」
アルファ「ビックバンの始まりからすべては決まっていたんだ、それは例えば君達の行うビリヤードの最初の一突きに似ている」
宇野一星「ブレイクショットの事?」
アルファ「ブレイクショットの角度、力の強弱によっって、玉の行き先、入る入らないが決まるよね?」
アルファ「誰かがゲームの最中、手を加えない限り、最初の一突きで玉の未来は決まっている」
アルファ「人類誕生は同時に地球の終わりの始まりだった、だから我々が来ている」
宇野一星「どういう事?」
アルファ「我々は人類を別の惑星に移住させたいと考えている。そこでは争いも必要ない」
宇野一星「なら強制的にすればいいじゃない、滅亡するよりましだろ?」
アルファ「それは君の考えだ、この星で天寿を全うしたい者は多くいる」
宇野一星「・・・いや、僕もそのうちの一人だよ」
アルファ「・・・不思議だった、私と出会った時の君はいつ死んでもいいと覚悟していた なのに私の会話を聞いた時から変化したよね」
宇野一星「・・・」
アルファ「あの瞬間から君は死を恐怖し始めた 何故だい?」
宇野一星「・・・一ヶ月前、妻が死んだんだ」

〇地球
  妻は地球を愛していた

〇女の子の一人部屋
宇野一星「うわっ!ゴキブリだ!」
  スリッパを脱ぎ去りゴキブリめがけて振り上げる一星だったが──
愛子「だめっ!」
宇野一星「えっ?」
愛子「殺しちゃだめ、その子が何したっていうの?」
宇野一星「・・・」
  不思議な事に妻が掌を広げるとゴキブリはその上に移動した。
  窓外に差し出された妻の優しい両手。
  空に解き放たれたゴキブリはお礼するかの様、妻の眼前を一周し青い空へ飛び去っていく。

〇見晴らしのいい公園
  ベンチに座り街の景色を眺めている一星と愛子。
  
  風が愛子の長い髪をふわふわと揺らしている。
愛子「ねぇ?一星」
宇野一星「ん?」
愛子「私この星が大好き」
宇野一星「どういう意味?」
愛子「私達を巡り合わせてくれたから・・・」
宇野一星「そうだね」
愛子「だからこの星で生まれた私達はさ、できるだけ争わないで手を取り合ってこの星を守っていけたらいいと思ってる」
宇野一星「はは、どうしたの急に」
愛子「ねぇ?もし私が死んだらさ、私を風にのせてこの地球に撒いてほしいんだ」
宇野一星「やめろよそんな話」
  そっと立ち上がる妻は柵の前まで歩み、こちらに振り返り笑った。
  妻が両手を大きく広げる。
  僕は立ち上がり誘われるようその胸の中へ飛び込んだ。
宇野一星「君がいなくなるなんて考えられない 君がいないこの星で生きてはいけないよ」
愛子「あなたにはずっと生きていてほしい だからお願いしてるの」
宇野一星「どういう事だい?」
愛子「私はこの星の一部になる」
宇野一星「星の一部?この地球のかい?」
愛子「そう・・・ そしたらあなたはどこにいても私を感じる事ができる 私はあなたがどこにいてもあなたを感じる事ができる」
宇野一星「・・・愛子」
  妻は重い病に侵されていた
  心配性の僕を悲しませないよう、死ぬその日までそれを告げる事はなかった。

〇戦闘機の操縦席(空中)
宇野一星「僕は最後まで妻と一緒にいるつもりだ」
アルファ「・・・着いたよ」

〇森の中
宇野一星「宇宙船が直ってる・・・」
アルファ「直したわけじゃない 時の流れを少し変えただけだ」
宇野一星「どういう事?」
アルファ「玉の行く先をいじったのさ 本当は滅多な事がない限りは行ってはいけない事なんだ」
宇野一星「え?じゃあ・・・」
アルファ「無理だよ、地球の滅亡だけは止められない」
宇野一星「・・・世話になったね」
アルファ「さようなら宇野一星 地球の奥様にも宜しく伝えておいてくれ」
宇野一星「必ず伝えるよ・・・ ありがとうアルファ」
  宇宙船がふわりと飛び上がる。
  それはアルファの上空で一周し青い空へと舞い上がっていく。
アルファ「あの時のゴキブリが我々が乗ってた宇宙船だって言ったらどんな顔しただろうな ふふ・・・」

〇地球
  こうして僕は無事帰還した
  夢のような体験だった・・・
  宇宙船から近づく地球を眺めながら
  僕はこの星を最後まで守ろうと強く誓った

〇綺麗な会議室
長官「そうか、危険生物がいたのならあの星の調査は断念せざるをえないな あんないい星なかなかないのだが」
宇野一星「ゆっくりやっていきましょう」
長官「どうぞ」
愛子「あっ ごめんなさい、まだお話中でしたよね」
長官「終わった所です 今日帰還する事、奥さんに知らせておいたんだよ」
宇野一星「・・・」
愛子「お帰りなさい 今日は一星の好きなエビフラ・・えっ?」
宇野一星「・・・」
  気付けばあの柔らかい胸の中に僕はいる
  あの安心の香り、あの優しい温もり―
愛子「ちょっと、恥ずかしいよ」
宇野一星「うぅぅ・・・」
長官「はは、そんなに会いたかったのか、面白いやつだな」
宇野一星「・・・アルファ」

〇研究所の中枢
怪人①「あまりほめられたものじゃないね」
怪人②「何故そんな事したんだい?」
アルファ「可能性があるんだ」
「可能性?」
アルファ「あの青い玉の行く先を変えるきっかけになるかもしれないとね」
「???」

〇地球
  宇宙船の窓から姿を見せるアルファ。
  地球を眺める表情のない顔が、どこか微笑んでいるようにも感じられる。
  宇宙船が緑色の光の中へと消えて行く。
  この出会いが変化の始まりになる事を祈っている。

コメント

  • マクロの視点では、我々地球人は決定済みの青玉の行く先を軌道修正するどころかスピードを早めているだけの存在かもしれないことが分かって切ない。ミクロの視点では、一星が無事に帰還して奥さんに再会できたことが嬉しくて切ない。切ない余韻が残る物語でした。

  • 状況の変化をビリヤードの一突きに比喩したところが、すごい納得しました。アルファが異例措置として、愛子さんが死なないでいいよにしてくれたんですね。私達人間の落ち度に気づかされていくお話でした。

  • ストーリーの構成が素晴らしい!地球の日本語を喋るところやゴキブリの話が出たところで、ああ、あの時に助けた異星人だったのか。

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