炎上のシティ・ライツ(脚本)
〇渋谷スクランブルスクエア
「はあい ご通行中の一般市民の皆さん」
「朝っぱらから失礼いたしまーす」
〇渋谷のスクランブル交差点
首領ドクロワール「世界征服のお時間です」
怪人警報発令
怪人警報発令
市民の皆様は
誘導に従って避難してください
首領ドクロワール「さてと・・・」
???「待ちなさい!」
首領ドクロワール「おやあ これはエリクサー・ラボの皆さん お早いお着きで」
藤宮司令「秘密結社サンダッツ・・・ 性懲りもなく」
首領ドクロワール「おお 藤宮ちゃん 久しぶり~」
首領ドクロワール「元レジェンド魔法少女の司令官殿が 自らお出ましとは嬉しいねえ」
藤宮司令「そっちこそ」
藤宮司令「悪の首領閣下が自らお出ましなんて 何を企んでいるのかしら?」
首領ドクロワール「はっ 「悪」ねえ」
首領ドクロワール「どっちが悪なんだか」
藤宮司令「・・・っ アムリタ!」
レディ・アムリタ「はい 司令!」
レディ・アムリタ「あなたの相手はわたしがします!」
首領ドクロワール「いいねえ かかってきな お嬢ちゃん」
ゲドーベル「ならば余も手合わせ願おうか」
ティーターン「・・・・・・」
レオピオン「わーい! ボクも戦う!」
レオピオン「ねえねえ ボクの相手は君ってことでいいのかな?」
シンシャ「遊んであげるよ かかっておいで!」
首領ドクロワール(さて)
首領ドクロワール(この俺様がこんなに出張ってやってんだ)
首領ドクロワール(上手くやれよ ヤギちゃん)
〇渋谷の雑踏
ヤギーロウ「愚かな人間どもよ」
ヤギーロウ「この愛の手紙を受け取りたまえ」
ヤギーロウ「そして我が美しき炎を前に 身を焦がすがよい・・・」
〇街中の道路
ヤギーロウ「・・・やれやれ」
ヤギーロウ「今日のお仕事は こんなもんですかね」
ヤギーロウ「おや」
ヤギーロウ「首領たちは まだ仕事中でしたか」
ヤギーロウ「お手伝いに行ったほうが いいでしょうかねえ」
〇魔物の巣窟
──秘密結社サンダッツ
とある理由で生み出され
人間界をさまよう異形の集団
首領ドクロワールのカリスマ性で
かろうじて組織の体を保っている
当面の目標は
人間に取って代わる「世界征服」
と いったところだ
〇街中の道路
ヤギーロウ「いや あちらもそろそろお開きでしょう」
ヤギーロウ「私もアジトに帰りますか」
一般市民A「おい どけ!」
一般市民A「ぼーっと突っ立ってんじゃねえよ」
一般市民B「どこ見て歩いてんだ くそガキ!」
少女「きゃっ」
いさかいの声に振り向くと
少女が男たちに突き飛ばされていた
ヤギーロウ「なんと不粋な・・・」
人間同士の争いなど
どうでもよいが
目の前で醜いやり取りを
されることは我慢ならない
弱き者がさらに弱き者を虐げる
これほどまでに
醜悪なものがあるだろうか
ヤギーロウ「おい貴様ら」
一般市民A「ああ? なんだよ・・・っ」
一般市民B「ひぃっ!」
ヤギーロウの姿を見るやいなや
男たちは声もなく逃げていった
ヤギーロウ「ふん」
あみ「あ あの!」
あみ「助けていただきありがとうございました」
ヤギーロウ「別にあなたを助けたわけではない」
ヤギーロウ「美しくないものが嫌いなだけです」
ヤギーロウ「弱いものいじめは美しくない」
あみ「なるほど」
神妙にうなずく少女に
なにやら違和感をおぼえる
ヤギーロウ「あなた もしかして目が見えないのですか?」
あみ「ええ まったくの盲目というわけではないですが」
あみ「人の顔なんかは ほとんど見えません」
どうりで
ヤギーロウの姿を怖がらないわけだ
ヤギーロウ「そうですか・・・」
ヤギーロウ「この醜い世の中を瞳に映さずに済む というのは」
ヤギーロウ「ある意味では幸せなことかも 知れませんね」
あみ「・・・そんなことを言われたのは 初めてです」
あみ「ユニークな方ですね ・・・ええと」
ヤギーロウ「八木といいます」
あみ「八木さん」
あみ「わたしのことは あみ って呼んでください」
あみ「あの」
あみ「ご迷惑ついでに もう一つ お願いしてもよいですか?」
あみ「人通りの少ない場所に連れていって いただきたくて」
あみ「腕をお借りできないでしょうか」
ヤギーロウは見ての通り炎の怪人である
その炎は己の体さえ
溶かしてしまうほど熱い
ヤギーロウ自身は
すぐに回復するため問題はないが
人間が素手で触れられる代物ではない
ヤギーロウ「・・・少々お待ちを」
ヤギーロウ(人間態)「どうぞ」
ヤギーロウは
人間に擬態した腕を少女に差し出した
とくに深い意味はない
ただの気まぐれだ
〇見晴らしのいい公園
あみ「連れて来ていただいて ありがとうございます」
ヤギーロウ(人間態)「いえ・・・」
あみ「ここ よく来るんです 風が気持ちよくて」
あみ「きっと見晴らしもいいんでしょうね」
ヤギーロウ(人間態)「ええ そうですね」
高台のひらけた公園
等間隔に並べられたベンチで
恋人たちがひめやかに語らう
あみ「ほら あれ 確かここから見えるでしょう」
あみ「ご存じですか エリクサー・ラボ」
ヤギーロウ(人間態)「・・・ええ もちろん」
〇未来の都会
SF映画の未来都市のような
無駄にでかい研究施設を眺める
この街有数の
いや 世界でも指折りの医療機関
――そして我らの宿敵
〇見晴らしのいい公園
あみ「わたし あそこで目の治療を受けているんです」
ヤギーロウ(人間態)「ほお それは希望が持てますね」
あみ「ふふっ」
ヤギーロウ(人間態)「なんです?」
あみ「だって」
あみ「「心にもない」みたいな口調で おっしゃるから」
あみ「わたし目が不自由な分 耳はいいんですよ」
あみ「・・・わたし 生まれた時からこうなんです」
あみ「だから視力が弱いことを 不便に思うことはあっても」
あみ「悲しいとか 不幸だとか思ったことはありません」
あみ「さっき「見えないのは ある意味幸せ」 と言ってくれたでしょう?」
ヤギーロウ(人間態)「はい」
あみ「ちょっと嬉しかったんです」
あみ「かわいそうだと思われることが多いから」
あみ「八木さんは いい人ですね」
ヤギーロウ(人間態)「「いい人」ですか」
初めて言われた言葉に少し戸惑う
あみ「だけど わたしが最新の治療の」
あみ「いわば実験体となることで」
あみ「同じような病気の人の手助けになるなら それもいいかなって」
あみ「それに やっぱり機会があるなら」
あみ「美しいものも醜いものも この目で見てみたいもの」
少女の瞳はうっすらと濁っていたが
心は真っ直ぐ前を向いていた
鈍く光るそれを
ヤギーロウは美しいと思った
ヤギーロウ(人間態)「しかし 最近は危険なことも多いんじゃないですか」
ヤギーロウ(人間態)「エリクサーといえば本業以外に 怪人退治に乗り出していることでも有名だ」
あみ「そうですね・・・」
あみ「きっと守ってくれますよ」
あみ「レディ・アムリタが」
ヤギーロウ(人間態)「おや 彼女のファンでしたか」
あのヒーロー軍団のリーダー的魔法少女
正直ヤギーロウとしては
苦手なタイプである
あみ「ええ まあ」
あみ「・・・そんなとこです」
〇渋谷の雑踏
街の人々「うぅ・・・苦しい」
街の人々「体が熱い・・・」
街の人々「どうして あの人は私のものに ならないのだろう・・・」
街の人々「なぜ 彼女は わかってくれないのだろう・・・」
街の人々「こんな苦しい思いをするくらいなら」
街の人々「すべて すべて」
街の人々「この熱ごと燃えてしまえばいいのに」
〇ホストクラブ
ヤギーロウ「首領」
ヤギーロウ「計画は滞りなく進んでおります」
首領ドクロワール「しっかし「呪いのラブレター」だなんて 回りくどい作戦だよなあ」
首領ドクロワール「ヤギちゃんらしいけど」
ヤギーロウ「ちょっとした遊び心ですよ」
ヤギーロウ「どうせ人間をいたぶるなら 楽しいほうがよいでしょう?」
「呪いのラブレター」
それはヤギーロウが都内の郵便物に
仕込んだ仕掛けだ
その郵便物を開封したものは
強制的に差出人へ恋愛感情を抱き
恋の炎が燃え上がるほど
身体も発熱して病に倒れてしまう
ヤギーロウ「恋愛とは 人間の感情の中でも 特に厄介なものだと聞きますからね」
ヤギーロウ「我々には縁のない話ですが」
レオピオン「えー! ボクは派手に暴れるほうが 楽しいけどなあ」
ゲドーベル「余は楽しさよりも 強さを追求するのみ」
首領ドクロワール「ホント息が合わないのね お前ら・・・」
首領ドクロワール「まあ 今回はヤギちゃんの好きなように やりゃあいいさ」
レオピオン「ねえねえ 首領ちゃま」
レオピオン「ボクたちを創ったのは 本当はエリクサーの連中だって」
レオピオン「みんなにいつ言うの?」
首領ドクロワール「そりゃあ 世界征服が達成される直前だろ」
首領ドクロワール「いま言っちまって あいつらを炎上させるのは簡単だけどな」
そう
秘密結社サンダッツの正体
それはエリクサー・ラボの
遺伝子研究室から逃げだした実験動物の
なれの果てだ
人間の健康長寿を目指す研究の末
副産物的に生まれてしまった
自我と一定の知能を持つ怪人
――いわば彼らにとっての「失敗作」
秘密裏に「処分」されそうになっていた
ところを逃げだして今にいたる
首領ドクロワール「ほら どうせなら」
首領ドクロワール「最後の最後まで 自分たちを守ってくれた 「正義の味方」が」
首領ドクロワール「実はすべての元凶でしたー! って」
首領ドクロワール「人間どもを絶望させたほうが 絶対おもしろいじゃん?」
レオピオン「ふぅん そういうもんかなあ」
ヤギーロウ「私は首領のそういうとこ わりと好きですよ」
ゲドーベル「リーダーはおぬしだ 好きにするがよい」
首領ドクロワール「そんじゃ お前ら!」
首領ドクロワール「今日は前祝いだ じゃんじゃん呑むぞー!」
我々は人類に復讐する
自分たちこそが生き物の頂点だと
自惚れるエゴイストに変わり
新たに進化した生物である我々の世界を
完成させるのだ
〇高い屋上
ヤギーロウ「さてと 今日もお仕事いたしますか」
あいにくの雨だが
この程度でヤギーロウの炎は消えはしない
???「そこまでです」
ヤギーロウ「君は・・・」
レディ・アムリタ「郵便物に仕掛けをしたのは あなただったんですね」
ヤギーロウ「いつ気づいたんです?」
レディ・アムリタ「言ったでしょう」
レディ・アムリタ「目が見えない分 耳はいいんです」
レディ・アムリタ「ついでに鼻も効くんですよ」
レディ・アムリタ「エリクサー・ラボが押収した 被害者に送られた手紙から あなたと同じ香りがした」
レディ・アムリタ「あいにく あなたの容姿は知らなかったので」
レディ・アムリタ「声を頼りに 街歩きをするはめになりましたけど」
澄んだ瞳が真っ直ぐに
こちらを見つめてくる
ヤギーロウ「ああ 変身している時は見えてるんですね」
彼女の言うことが本当なら
先日の出会いは
あくまで偶然だったということか
レディ・アムリタ「どうして・・・」
レディ・アムリタ「わたしには あなたが悪い人には思えません」
レディ・アムリタ「でも人間を傷つけるなら」
レディ・アムリタ「わたしは あなたと戦わなくてはならない」
ヤギーロウ「先に傷つけたのは人間のほうでしょう?」
ヤギーロウ「あなたもエリクサーの人間なら 薄々勘づいているはずだ」
ヤギーロウ「私たちのこの体は 人間によって創られたもの」
ヤギーロウ「もちろん すべての生体実験が悪いとは言わない」
ヤギーロウ「人間が人間の平和と繁栄を優先するのは 当然のことだ」
ヤギーロウ「だけど あなたならわかるでしょう」
ヤギーロウ「人間は「自分と違うもの」に対して ・・・どこまでも 残酷になる生き物だということを」
ヤギーロウ「人間がいる限り 私たちに居場所はない」
ヤギーロウ「ただ生きていたいだけなのに」
ヤギーロウ「こんな体ではどこへも行けない」
ヤギーロウ「こんな腕では・・・」
ヤギーロウ「愛する人を抱きしめることもできない」
レディ・アムリタ「八木さん・・・」
ヤギーロウ「あみさん」
ヤギーロウ「あなたが「いい人」と言ってくれて 私は嬉しかったのだと思う」
ヤギーロウ「だけど 私は人ではない」
ヤギーロウ「人とともに生きる気もない」
ヤギーロウ「・・・あなたと出会えてよかった」
ヤギーロウ「今日のところは引きましょう」
ヤギーロウ「だけど 次に会う時は敵同士です」
レディ・アムリタ「っ、待って!」
レディ・アムリタ「八木さん!」
シンシャ「・・・アムリタ」
レディ・アムリタ「ごめん 二人とも待っててもらって」
シンシャ「いや いいんだ」
レディ・アムリタ「敵の事情なんて 知らないほうが楽なんだろうな」
シンシャ「きっとお互い様だよ」
ティーターン「剣を交える以上 こういうことはある」
レディ・アムリタ「そうだね」
レディ・アムリタ「それでも わたしたちは」
レディ・アムリタ「できることをするしかないんだ」
〇ホストクラブ
ヤギーロウ「これでいいんです」
ヤギーロウ「これで・・・」
首領ドクロワール「ヤ~ギ~ちゃん!」
ヤギーロウ「首領!」
首領ドクロワール「どしたの シケた面して」
ヤギーロウ「いえ たいしたことでは」
首領ドクロワール「ホントにぃ?」
ヤギーロウ「それよりすみません 作戦を中断してしまって」
首領ドクロワール「いやあ それはいいんだけどよ」
首領ドクロワール「それなりに収穫はあったし」
首領ドクロワール「でも頼むよ~ 貴重なブレインなんだからさあ」
首領ドクロワール「ヤギちゃんがいないと ウチの連中 好き勝手に暴れかねないし」
ヤギーロウ「ふふ それはそれは」
ヤギーロウ「お褒めにあずかり恐縮です」
首領ドクロワール「ああ それと」
ヤギーロウ「はい?」
首領ドクロワール「いやあ そのアレだ」
首領ドクロワール「・・・「魔法少女」はやめとけ」
ヤギーロウ「それは・・・」
ヤギーロウ「経験者の「ご忠告」と 受け取ってよろしいでしょうか」
首領ドクロワール「・・・好きにしろ」
街の熱を冷ますように
雨の音は一晩中 響いていた
了
事情がわかってみればサンダッツの存在も切ないですね。ドクロワールはかつて藤宮となんかあったみたいだし、エリクサー・ラボに構ってほしくてわざわざ戦いを仕掛けてるみたいにも見えてきた。悪役たちの心の機微がシリアスかつユーモラスによく描かれていて感心しちゃいました。
哀しくも美しいストーリーが素敵です。
偶然の出会いによって芽生えた、敵対する相手との複雑な感情と関係性の機微が物語に深みを生み、このあとの展開がとても気になりました!
セリフの文章も読みやすく考えられていて、テンポよくあっという間に読了してしまいました!
最後の首領の“匂わせ”も『もしかしてあの人かな?』と想像させて良かったです(*≧∀≦)
ぜひ長編化して欲しいなぁと思わせる素敵な作品でした!
人間に創り出されながら、人間から自由を奪われ敵扱いされた彼の屈辱感がとても伝わってきました。ささやかに芽生えた優しい気持ちさえ、打ち消してしまわずにいられなかった八木さんが気の毒に思えました。