怪人デリバリー

蔦峰トモリ

怪人デリバリー(脚本)

怪人デリバリー

蔦峰トモリ

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怪人デリバリー
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〇土手
近所の子供たち「くらえ怪人!」
近所の子供たち「草むらに隠れてわるさしてんのか~!」
灰色の怪人「・・・」
近所の子供たち「きったねえー!どっかいっちまえー!」
炎の怪人「オイてめぇら何してやがんだアァーン!!?」
近所の子供たち「ウワー!ずらかれずらかれー!ギャハハ!」
炎の怪人「チッ どいつもこいつもナメやがって」
炎の怪人「魔力がありゃ 全員消し炭にしてるとこだ クソガキどもがよ・・・」
炎の怪人「おいフォポス大丈夫か?」
フォポス「・・・」
炎の怪人「聞いてる?」
フォポス「むっ?」
フォポス「ああバルマか すまない」
フォポス「イナゴ捕りに集中していた」
バルマ「なに頬赤らめてんだ お前エアガンで撃たれてたんだぞ」
フォポス「そうだったか?」
フォポス「まあよくあることだ」
バルマ「よくあるじゃねーのよ」
バルマ「弾撃たれながらイナゴ捕まえてる姿 自分で想像してくれよ」
バルマ「俺が泣けてくるぜ」
フォポス「イナゴを馬鹿にするな うまいぞ」
バルマ「そっちじゃねーよ」
みすぼらしい老人「あ~フォっちゃんや」
みすぼらしい老人「ブルーギル釣れたよ、いるかい」
バルマ「うわっ」
バルマ「爺さんどっから・・・」
フォポス「この辺りで暮らす恭介という男だ」
フォポス「魚、いいのか恭介 なら俺が火を準備しよう」
フォポス「イナゴもいるか?」
恭介「いいねえ 釣り餌にしてみるか」
恭介「ほいじゃもうひと釣り行ってくるかの」

〇土手
バルマ「お前ホームレスとつるんでるわけ?」
バルマ「「閃雷のフォポス」で恐れられてた 面影はどこへやらだ」
フォポス「・・・昔の話だろう」
バルマ「お前さあ、もっと立場考えろよ?」
バルマ「俺らが強く反撃できなくなったのを いいことに」
バルマ「人間たちは怪人を底辺扱いして」
バルマ「自分らの都合のいい社会にしやがった」
バルマ「それに順応してるってことは そういう世の中を肯定してるようなもんだ」
フォポス「・・・怪人が虐げられることに 賛同しているわけではない」
フォポス「だが 好戦的なことがしたいわけでも──」
???「え~コホン」
???「ご歓談のところ失礼致します 怪人のお二方」
見知らぬ男「突然声をお掛けし恐れ入ります ワタクシこういう者でございます」
バルマ「ルーパーテクノロジーズCEO──ウーパ」
バルマ「ルーパーってあの、ルーパーイーツの?」
ウーパ「おお ご存知頂いていたとは光栄です」
フォポス「なんだそれは」
バルマ「メシとかを店から家に宅配するやつだろ?」
ウーパ「今では料理だけでなく幅広い商品をお届けする「ルーパーデリバリー」となり」
ウーパ「世界中でご利用頂いております」
ウーパ「と、それはさておき」
ウーパ「実は怪人の皆様に 折り入ってご相談がございます」
ウーパ「是非弊社に協力して頂けませんでしょうか」
バルマ「協力ぅ?」
ウーパ「ハイ、単刀直入に申し上げますと」
ウーパ「お2人に 我が社の配達員になって頂きたいのです」
バルマ「ハ、ハア!? ふざけんなよ!」
バルマ「んな人間のパシリみてえなこと 俺らがやるわけねーだろ!」
ウーパ「ご安心ください、こう見えて私めは 怪人の皆様方の眷属のようなもの」
ウーパ「何を隠そう、我が真なる望みはッ」
ウーパ「この世界に再び魔力を取り戻すこと!」
ウーパ「そして世界の覇権を怪人のものにすることなのです!」
フォポス「目にも止まらぬ早さで着替えた!? そして何故!?」
ウーパ「気分を盛り上げるために 衣装を用意して参りました」
ウーパ「さて」

〇源泉
ウーパ「かつて魔力に満ちたこの地から」

〇埋立地
ウーパ「突如全ての魔力が失われて早幾年」

〇大企業のオフィスビル
ウーパ「私はその真実を追究するため」
ウーパ「研究に励んで参りました」

〇センター街
ウーパ「我々の配達員に 専用のアプリを使わせ」

〇住宅地の坂道
ウーパ「水面下で各地の 魔力反応の強度を計測したところ」

〇土手
ウーパ「まだこの大陸には膨大な魔力が 休眠していることを突き止めています」
バルマ「それって」
フォポス「まだ能力が使える可能性があるという事か」
ウーパ「ハイ、ですが魔力を解き放つには 何らかの刺激が必要そうでして」
ウーパ「そこで怪人の皆様には」
ウーパ「各地の魔力反応の強い場所で」
ウーパ「ご自身の能力を行使してみてほしいのです」
バルマ「要するに配達員に紛れて潜入調査しろと?」
ウーパ「簡潔に申し上げればそういうことです」
バルマ「ふーん」
バルマ「やってやってもいいぜ」
バルマ「人間に思い知らせてぇことはゴマンとあるからな」
フォポス「思い切りがいいな・・・」
バルマ「お前こそやるんだバカっ」
フォポス「えっ」
バルマ「お前いい加減にしろよ?」
バルマ「どうも人間に肩入れしてるみてえだが」
バルマ「自分が怪人ってことわかってるよな?」
フォポス「わ、わかっているさ」
バルマ「じゃ、決まりだな」
ウーパ「有難うございます! では明日から早速──」

〇河川敷
フォポス(流されるように同意してしまったが これでよかったのだろうか──)
恭介「フォっちゃん、お仕事を始めるのかい?」
恭介「フォっちゃんは怪人なのに 人の役に立とうとしとるなんてなあ」
フォポス「いや、これはその 色々とわけありでな・・・」
恭介「昔はわしも大手の企業に勤めておってな」
恭介「だが上層部で数々の不祥事が発覚し」
恭介「会社は倒産」
恭介「イメージ悪化の影響は 無関係な社員にも及んだ」
恭介「わしは世間から全てを裏切られたようで 自暴自棄から立ち直れんかった」
恭介「いつしか家族にも 愛想を尽かされてしもうたな」
フォポス「そんなことが・・・」
恭介「むなしくて片意地張って」
恭介「これが自分の生き様などと 言い聞かせてきたが」
恭介「ここにフォっちゃんが来て」
恭介「健気な姿を見ていたら思ったよ」
恭介「もっと早く素直になれていれば こうはならなかったかもしれんとなぁ」
フォポス「恭介・・・」
フォポス「俺にとって此処は 居心地の良い場所だと思っているし」
フォポス「そんな過去がありながら」
フォポス「他人に――ましてや怪人の俺に 手を差し伸べられるなど」
フォポス「簡単なことではない」
フォポス「尊敬に値する」
恭介「かっかっか」
恭介「フォっちゃんは優しいからのぉ」
恭介「けど、わしより未来があるモンが そんな事を言うもんじゃない」
恭介「わしみたいな後悔はしちゃいかん」
恭介「自分の居場所は自分で見つけるんじゃ」
恭介「お前さんの姿に 勇気を貰える者がきっとおるよ」
恭介「このわしもそうだったんじゃから」

〇空
恭介「頑張りなさいな、フォっちゃん」

〇繁華な通り
  翌日
ウーパの通信「では」
ウーパの通信「慣れないうちは通信でサポートするので」
ウーパの通信「実践で一連の流れをやってみましょう」
フォポス「まずは品物を指定の店舗で受け取るのだな」

〇カフェのレジ
店員「いらっしゃいま──」
店員「か、怪人!?」
フォポス「ルーパーデリバリーだ」
店員「えっ!?」
店員「配達員!?」
フォポス「注文番号は8310Cだ」
店員「へ!?」
店員「あ、確かに・・・」
店員「少々お待ち下さい、準備いたします!」

〇二階建てアパート
  ピンポーン♪
アパートの住民「はーい」
フォポス「ルーパーデリバリーだ」
アパートの住民「どうも~」
アパートの住民「っちょ、え!?」
アパートの住民「怪人!?」
フォポス「受け取れ」
アパートの住民「ふぇ、あっはい」
ウーパの通信「フォポスさん」
ウーパの通信「この辺りの反応が良さそうです 試していただけますか?」
フォポス「わかった」
アパートの住民「えっなに」
フォポス「どうだ」
アパートの住民「どう??」
ウーパの通信「う~んイイ感じです!」
ウーパの通信「引き続きお願いします!」
フォポス「うむ」
アパートの住民「イマドキの怪人て あんななのか・・・」

〇空き地
  それから数日
フォポス「また鳴った」
フォポス「雨の日は注文が多いのだな」
フォポス「次の配達先はここだが」
フォポス「どう見てもただの空き地だ」
フォポス「この場合どうすれば?」
ウーパの通信「あーそれはイタズラ注文かもしれません・・・」
ウーパの通信「取り締まっているのですが 未だ漏れがあるようで」
ウーパの通信「すみません・・・」
フォポス「そうか」
フォポス「ではこの品物はどうする」
ウーパの通信「よろしければ貰って頂けると・・・」
フォポス「俺が?」
ウーパの通信「ハイ」
フォポス「そ、そうか」
フォポス(しかし貰っていいと言われてもな)
フォポス(そうだ)
フォポス(それなら恭介にくれてやろう)

〇河川敷
フォポス「恭介」

〇土手

〇川沿いの原っぱ
フォポス(恭介が使っていた 小屋のほうにもいない)
フォポス「どこだ? 恭介」
???「あー怪人の兄ちゃん!」
ホームレスの知り合い「恭介さんとよく一緒にいた連れだね」
ホームレスの知り合い「恭介さん、先日亡くなったんだよ」
フォポス「な、に・・・!?」
ホームレスの知り合い「年か、持病か、気の毒だね・・・」
ホームレスの知り合い「兄ちゃんが来てから 楽しそうにしてたから」
フォポス(・・・)
フォポス(先日まであんなに 元気にしていたではないか)
フォポス(・・・ん?)
  書きかけの手紙が
  小屋の机に置かれていた
フォポス(恭介が家族に宛てて書いていたようだ)
  よく見ると棚の奥にも
  同じような手紙が詰まれている
フォポス(本当は、ずっと会いたかったのだろうか)
フォポス(・・・)
フォポス(人間の身体は脆い)
フォポス(なのに苦悩までその身に 押し込めようとするのは何故なのか)
フォポス(恭介・・・)

〇白いアパート
フォポス(恭介の事で気が重いな・・・)
フォポス「次は──あそこか」

〇アパートの玄関前
フォポス「む?」
高圧な男「いいから開けなさい」
高圧な男「こうしていても 何の解決にもならないだろう」
フォポス(注文者か?)
高圧な男「何かね?」
フォポス「ルーパーデリバリーだ」
高圧な男「何? 怪人が配達を?」
高圧な男「ルーパー社はイメージを顧みない会社なのか?」
高圧な男「適当に置いて行ってくれ 取り込み中だ」
フォポス(となると注文者は室内か)
フォポス(代金引換の指定なのだが)
高圧な男「もうすぐ選挙の大事な時期だ」
高圧な男「自分の娘が引きこもりなど つまらん難癖を付けられかねん」
高圧な男「早く更生して学校にも──」
高圧な男「君、まだ居たのかね?」
フォポス「俺も注文者に用がある 一応仕事でな」
高圧な男「仕事、ねぇ」
高圧な男「社会貢献のままごとか知らんが」
高圧な男「そういう人間の支援活動だけでも 膨大なカネが掛かるというのに」
高圧な男「そこに怪人が入るスキマなどない」
高圧な男「お前らのような社会のお荷物は」
高圧な男「おとなしく野垂れて 消えてくれるほうが世のためだ」
フォポス「排他的な思想だな」
高圧な男「思想?」
高圧な男「『一般論』だよ」
高圧な男「国民はお前たちを 汚いものを見る目で視るだろう」
高圧な男「お前たちの存在価値を 物語る全てだ」
フォポス「・・・何かを見下していなければ 気が済まないのか お前は」
高圧な男「あ?」
フォポス「仮にそういう者が排除されたとして」
フォポス「残されたお前たちでまた 罵り蹴落とし合うのだろう」
フォポス「くだらんな」
高圧な男「おい 口を慎めよ」
フォポス「──姿も境遇も違えど」
フォポス「幸福を願いたかった者がいたんだ」
フォポス「互いの理解を嘲った先には何もない」
フォポス「他者を、同じ人間でさえも 容易に蔑視する狭量なお前如きが」
フォポス「一体何をもたらせると言うのか──!」
高圧な男「生意気なんだよゴミが──っ」

〇アパートの玄関前
フォポス「!? これはっ・・・!」
高圧な男「なんだ!? 電気が周囲に!?」
高圧な男「ヒッ・・・くるな、やめろ」
高圧な男「たすけ・・・っ!」
???「やめて・・・!」
ひきこもりの少女「やめて、ください」
ひきこもりの少女「それでも・・・私の父なんです」

〇アパートの玄関前
フォポス「こいつが勝手に気絶しただけだ」
フォポス「それよりお前が注文者か?」
フォポス「代金を貰おうか」
ひきこもりの少女「えっ・・・と」
ひきこもりの少女「は、はい いまお持ちします」
フォポス「確かに」
ひきこもりの少女「すみません、助けていただいて」
フォポス「助けて?」
ひきこもりの少女「えっと・・・」
ひきこもりの少女「ドア越しに様子を伺っていて」
ひきこもりの少女「父があれほど意見されるのを 初めて見たので・・・」
ひきこもりの少女「・・・」
ひきこもりの少女「私、なんにもできなくて」
ひきこもりの少女「情けないって 頭で分かっているのに」
ひきこもりの少女「体が動いてくれなくて ずっと閉じこもって・・・」
フォポス「現にお前は 自分から出てきたわけだが」
ひきこもりの少女「そ、そうですね そういえば」
フォポス「俺を止めたのは何故だ?」
ひきこもりの少女「えっ」
フォポス「この男はお前にとって 脅威なのだろう?」
ひきこもりの少女「脅威・・・」
ひきこもりの少女「そう、なのかな」
ひきこもりの少女「でも」
ひきこもりの少女「たとえそうでも そうじゃなくても」
ひきこもりの少女「誰かを傷つけるのは いけないことだから・・・」
フォポス「・・・」
フォポス「恭介も似たような気持ち だったのかもしれんな」
フォポス「次の配達がある こいつの後片付けは任せたぞ」
ひきこもりの少女「怪人さん・・・」

〇大企業のオフィスビル
  翌日

〇研究所の中枢
  あの電気はやはり魔力によるものだったらしい
ウーパ「魔力復活の兆し、これほど喜ばしいことはありません!」
ウーパ「あぁっ!」
  そして興奮しながら着替えていた
  そういう嗜好の持ち主なのだろう・・・

〇ファストフード店
  この仕事は
  恭介が俺に遺したもののような気がして
  これからも続けていくつもりだ
  だが
  いつか本当に魔力が甦るとき
  俺はどうするだろう
  そう言うとバルマに若干キレられたが──
  できれば俺は
  恭介も喜べるような
  そんな未来を見つけたい
フォポス(この手紙もいつか 届けてやれるかもしれないしな)
フォポス「次の配達先は──」
「あっ」
フォポス「配達員だったのか?」
ひきこもりの少女「あっいえ」
ひきこもりの少女「私も・・・配達員 やってみようと」
ひきこもりの少女「やれることから始めてみようと」
ひきこもりの少女「決心できました」
フォポス「そうか」
ひきこもりの少女「あのっ!」
ひきこもりの少女「私、怪人さんに救われました」
ひきこもりの少女「貴方が勇気を届けてくれたから・・・」
ひきこもりの少女「本当に、ありがとうございました!」
フォポス「・・・勇気を?」

〇河川敷

〇ファストフード店
フォポス「・・・」
フォポス「そうか」

コメント

  • すごい、スチルの完成度が公式作品かな?という感じで、とても効果的でナチュラルでした。特に能力発動がかっこいい……!
    高速お着替えには笑いましたw
    恭介さん切ないけど、いつか手紙が届いて欲しいですね。

  • テンポのいい会話とストーリーで面白かったです!
    挿絵も凄く素敵でした😀

  • 高低差がクッキリと見える社会(川べりと高層ビルの背景が印象的ですね)の中を、荷物を届けるために走り回る小さき者たちに胸が締め付けられました。虐げられる存在が、また再び上にあがるための力を手にした時、世界はどうなるのか、思いを馳せるだけでもハラハラします。

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