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5話【死にたい】(脚本)

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〇事務所
  燈は、担任に呼び出され、職員室に居た。
担任教師「間宮さん・・・」
間宮燈「は、はい・・・」
担任教師「貴方・・・クラスメイトからいじめを受けているわね?」
間宮燈「あ・・・いや・・・」
担任教師「正直に答えて!」
間宮燈「・・・・・・」
間宮燈「は・・・はい・・・」
担任教師「はぁ・・・やっぱりね・・・」
間宮燈「先生・・・私・・・」
  私は耐えた──
  耐え抜いた──
  クラスメイトからの陰湿ないじめに耐え抜いた──
  やっと、手を差し伸べてもらえる──
  助けてもらえる──
  燈は担任に希望を抱いていた──
  私を助けてくれる──
  しかし、担任の思わぬ一言が、燈を絶望の淵に叩き落とす──
担任教師「本当・・・迷惑なのよね・・・」
間宮燈「え?迷惑?どういう意味ですか?」
担任教師「だから、私の評価が悪くなるから、迷惑するって言ってるの!」
間宮燈「・・・・・・」
  あまりにも理不尽な担任の言葉に、返す言葉が無くなる燈。
  手を差し伸べめ、味方をしてくれるとばかり思っていた燈は、理想と現実の差に落胆した。
担任教師「まったく・・いじめに耐えきれずに、さっさつと不登校にでもなってくれた方が、私としてもやり易いんだけど」
間宮燈「でも私・・・」
担任教師「だってあなた、普通じゃないでしょ?」
間宮燈「普通・・・じゃない?」
担任教師「なに?その服装」
担任教師「たしかにウチの高校は、個性を重んじる校則で、服装や髪型は指定されてないわ?」
担任教師「でも貴方だけ異様よ!」
担任教師「なんでみんなと同じようにできないの?協調生や同調生をあなたから感じれないわ!」
間宮燈「でも、それってダメな事なんですか?」
担任教師「ダメとは言わないわ!けどね、それが理由でいじめを受けているのも事実よね?違うかしら?」
間宮燈「そ・・・それは・・・」
担任教師「それを理解できていない!理解しようとしていない!だから迷惑だって言ってるのよ!」
  担任の話は終始理不尽すぎた。自分の保身のために、燈を否定して、しまいには学校に来るなと言う。
間宮燈「でも私は、自分が間違ってるとは思いません」
担任教師「はいはい!あなたが皆んなと同じようにする気がないって事は十分伝わったわ」
間宮燈「だから、そうじゃなくて・・・」
担任教師「話は終わりよ・・さあ、今日は帰りなさい」
間宮燈「・・・・・・」

〇オフィスビル前の道
  燈はこの担任に心底ムカついていた。
間宮燈(協調生や同調生を感じれないって何・・・)
  そんな事をしてしまっていては、個性は「その他大勢」に埋もれてしまい、淘汰されてしまう。
  そうならないように、次世代の若者を潰してしまわないように、自由を重んじる理念のもと、校則が決まっているはずだ。
  しかし、燈は担任に怒りを露わにすると同時に、自分にもムカついていた。
間宮燈(何も言い返せなかった・・・)
  きちんと言い返す事ができなかった自分に嫌悪感を抱き、その嫌悪感は次第に、劣等感へと変わっていき
  知らず知らずのうちに、普通ではない自分が悪いのではないか?と思い詰めるようになってしまった。

〇女の子の一人部屋
間宮燈「私・・普通じゃないんだ・・・」
  気がつくと、燈は睡眠薬の瓶を握りしめていた。

〇荒れたホテルの一室
暮内亜紋「間宮様・・・」
間宮燈「暮内さん・・・」
間宮燈「この感情を処分すれば・・・」
間宮燈「私の負の感情は全部無くなるんですよね?」
暮内亜紋「ええ!その通りでございます」
暮内亜紋「そうすれば、間宮様は昏睡状態から目覚め、再び生き延びる事ができます」
暮内亜紋「処分なさいますか?」
間宮燈「・・・・・・」
間宮燈「私・・・」
間宮燈「捨てません!」
暮内亜紋「捨てない?処分されないんですか?」
間宮燈「はい・・・」
暮内亜紋「・・・・・・」
間宮燈「やっぱり・・・私・・・」
暮内亜紋「差し支えなければ、お教いただけませんか?」
間宮燈「え?」
暮内亜紋「どうして処分されないんですか?」
暮内亜紋「先ほども申し上げました通り、この感情は、間宮様が自殺なされた、最も大きな要因ですよ?」
暮内亜紋「根源を処分しなければ、間宮様はまた・・・」
間宮燈「私・・・普通じゃないないから・・・」
暮内亜紋「普通では無い?」
  暮内は燈の言葉を聞き、何かを思い出した様に、タブレット端末を操作しながら──
暮内亜紋「それは、こちらの資料に記載されているファッションの事ですか?」
間宮燈「は、はい・・・」
間宮燈「私、いわゆる原宿系というか、とにかく明るい服装が昔から大好きなんですよ」
間宮燈「なんか、明るい服を着てる時は、自分に自信が持てるような気がして・・・」
間宮燈「お気に入りなんです」
間宮燈「でも、それが皆んなからは受け入れてもらえなくて、普通じゃないって・・・」
間宮燈「たとえ、この感情を処分したとしても、私が普通じゃないのは変わりませんよね?」
間宮燈「どうせまたいじめられる未来しかない・・・」
間宮燈「それなら、いっその事、このまま・・・」
  黙って燈の暖かな眼差しで聞いていた暮内が口を開く。
暮内亜紋「間宮様にお尋ねします・・・」
間宮燈「は、はい?」
暮内亜紋「”普通”とは・・・一体なんでしょう?」
間宮燈「ふ、普通?」
暮内亜紋「普通という言葉は、様々な形に姿を変える、定義のない言葉だと、私は思っております」
暮内亜紋「言い方を変えればエゴとも言えます」
間宮燈「どういう意味ですか?」
暮内亜紋「たとえば、幼くしてお父様を事故により亡くされた間宮様にとって、お父様が居ない事は普通ですよね?」
間宮燈「そ、そうですね・・・」
暮内亜紋「しかしながら、両親が健在で、ご家族を亡くされた経験が無い方々からすれば」
暮内亜紋「お父様が居ない間宮様が普通では見えなくなってしまう事があるんですよ」
暮内亜紋「普通とは、その人物が人生を歩む過程で形成された、ある種の価値観だと、私は考えております」
間宮燈「価値観・・・」
暮内亜紋「間宮様は明るい色の服装がお好きだと仰っていましたよね?」
間宮燈「は、はい・・・」
暮内亜紋「間宮様と同じファッションセンスを持った方からすれば、間宮様は普通なんですよ」
間宮燈「私が・・・普通・・・」
  燈は目から鱗が落ちる思いだった。
  自分は周りから普通ではないと、言われ続けていたが、それは単に価値観の違いであり
  自らと同じ価値観を持っている人間からしたら普通なのだ。
暮内亜紋「普通とは、使い方を間違えれば、時に人を悲しませ苦しめ、人の命すらも奪ってしまう、凶器になり得る言葉なんです」
間宮燈「普通じゃないって、ようするに価値観の違いから出る言葉って事ですか?」
暮内亜紋「その通りでございます」
間宮燈「で、でも・・・」
暮内亜紋「私は間宮様が普通だと思いますよ?」
間宮燈「普通?私が?」
暮内亜紋「間宮様は自分の為に自由に生きるべきです」
間宮燈「自由に・・・」
暮内亜紋「そうです!周りに合わせて、自分を偽る必要などありません。自らを犠牲にする必要などありません」
暮内亜紋「それに、ファッションの話をしている時の間宮様は、とても生き生きとした表情をされていましたよ」
間宮燈(私・・・そんな顔してたんだ・・・)
間宮燈「私は・・生きていてもいいんでしょうか?」
暮内亜紋「勿論でございます!この世に生きていてはいけない人など居ないんですから!」
  自分は普通でないから、普通ではない自分がなど生きていてはいけないのだと、燈はそう思っていた。
  生きていて、周りに不快な思いをさせるくらいなら、苦しい思いをするくらいなら
  いっその事このまま感情を処分せずにいた方が周りのためにもなるし、自分の為だと、そう思っていた。
  しかし暮内は、生きるべきだと言う。
  自分の普通を貫き、自由に生きるべきだと言う。
  自分の普通を恥ずかしがらず、自分のために生きれば、いずれ自分の「普通じゃない」が「普通」になる日が訪れるかもしれない。
間宮燈「私・・処分します!負の感情・・要りません!」
間宮燈「処分してください!暮内さん!私・・生きたいです!」
暮内亜紋「かしこまりました!では間宮様の了解のもと【死にたい】を処分いたします」

〇白
  次の瞬間──
  この部屋全体を──
  暖かな日差しのような光が包み込んだ──

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