怪人は推し活に夢中です(脚本)
〇諜報機関
ネム「お呼びですか、ボス」
ボス「おぉ、ネムか。来たな」
ボス「新たな任務だ」
ネム「犯罪組織の動向調査、ですか」
ボス「敵との交戦を考慮し」
ボス「カイザーとタッグを組んでもらう」
ネム「カイザー・・・」
ネム「誰とも組みたがらない、あの一匹狼と・・・?」
ボス「ここ最近、カイザーの様子が気がかりでな」
ボス「今や、あいつは組織のエースだ」
ボス「カイザーのフォローもお願いしたい」
ボス「異例の編成だが、頼んだぞ、ネム」
ネム(めんどくせ〜〜〜)
ネム「はっ、承知しました」
〇研究施設の廊下(曲がり角)
ネム「おーい、カイザー」
ネム「ボスより指令が下りたわよ」
ネム「・・・カイザー?」
ネム「いるんでしょ、開けるわよ」
〇研究装置
どこまでも高く Fly high♪
どこまでも高く Jump high♪
Yeah, Yeah♪
カイザー「Yeah, Yeah♪」
カイザー「はぁー、勇斗くん・・・」
カイザー「マジでカッコ良すぎだろ・・・♥」
ネム「・・・」
カイザー「お、ネム、どうした?」
ネム(大丈夫か、こいつ・・・?)
〇研究装置
ネム「あんた、最近様子がおかしいよ」
ネム「さっきまで、一体何を見てたの?」
カイザー「おっ!よくぞ聞いてくれた!」
カイザー「『スター☆シャワー』のライブ映像だ!」
ネム「すたー・・・?」
カイザー「見てくれ!」
カイザー「俺の推し、蒼井勇斗くん!」
ネム「アイドルじゃないの・・・」
ネム「あんた、いつの間にハマってたのよ」
カイザー「聞きたいか?」
カイザー「しょうがないな・・・」
ネム(なんかムカつく・・・)
カイザー「あれは、たしか」
カイザー「半年前だったか・・・」
ネム(しまった、話が長くなりそうだ)
〇渋谷のスクランブル交差点
チンピラ「ひぃいいい!」
チンピラ「何なんだ、あの化け物は!?」
カイザー「逃げるな」
チンピラ「助けて、助けてください!!!」
カイザー「これも任務だからな」
カイザー「恨むんなら、己の弱さを恨むんだな」
カイザー「あばよ、哀れな人間よ」
チンピラ「うわぁあああ!!!」
気づいて 君の痛み♪
Ask yourself♪
カイザー(歌!?)
カイザー(大型ビジョンの映像か!?)
〇幻想
蒼井勇斗「気づいて 君の気持ち♪」
蒼井勇斗「Love yourself♪」
蒼井勇斗「逃げないで 君の苦しみは♪」
蒼井勇斗「君が一番わかってるだろ♪」
これが、蒼井勇斗くんとの出会いだった
透き通った歌声で歌う、彼の姿から
思わず、目が離せなかった
俺だけに語りかけているかのような
夢見心地な感覚に包まれた
ふと、その瞬間
俺の中の何かが、満たされていったんだ
〇研究装置
カイザー「一目惚れだった」
カイザー「それ以来、任務が楽しくないことに気がついて」
カイザー「勇斗くんの推し活に没頭してるのだ」
ネム「推し活・・・?」
カイザー「いわゆる、ファンによる応援活動、だな」
ネム「・・・アンタ、組織で一番強いのに」
ネム「最近おとなしいなー、なんて思ったら」
ネム「まさかアイドルに夢中になっていたとはねぇ・・・」
カイザー「アイドルを馬鹿にするなよ」
カイザー「ネムも観てみろ、きっとハマるぞ!」
ネム「アタシが?」
ネム「お断りだね、人間の娯楽なんて興味ない」
カイザー「いいから!ほら!」
ネム「ちょっと!」
ネム「ったく・・・」
〇星
黄瀬スバル「我慢しないで 大丈夫♪」
黄瀬スバル「いつも強気な 君を抱きしめたい♪」
蒼井勇斗「頑張っている 君にご褒美♪」
おぉ・・・
「僕のスマイルは 君だけのものだから♪」
黄瀬スバル「今だけは 僕を独り占めして♪」
おぉお・・・!
おぉおおおお・・・!!!
〇研究装置
カイザー「どうだった?」
ネム「・・・」
ネム「・・・悪くないわね」
カイザー「だろう!?そうだろう!?」
カイザー「実はネム、折り入って頼みがある」
ネム「なによ、急に改まって」
カイザー「3日後『スター☆シャワー』ライブ公演」
カイザー「一緒に行ってくれないか?」
ネム「はぁ?」
カイザー「俺はこの見た目だからな」
カイザー「他のファンの方々を驚かしてしまう」
カイザー「そこで、ネムの変身能力だ」
カイザー「俺たちが人間に変身し、平穏にライブを観たい」
ネム「いやいや、任務はどうすんのよ!?」
カイザー「どうせ、敵対組織の調査とかだろう?」
カイザー「適当にボスに報告しといてくれ」
ネム「えぇー・・・」
カイザー「彼らのライブパフォーマンス」
カイザー「実際にこの目で観たくないか?」
ネム「うぐ・・・!」
ネム(実はちょっと見てみたい)
ネム「・・・はぁ」
ネム「わかった、協力する」
カイザー「ほんとうか!?」
ネム「言っとくけど、あたしの変身能力は万能じゃないからね」
ネム「ボスにはあたしから上手く報告しとくから」
カイザー「ありがとう、ネム」
カイザー「そうと決まれば、早速出かけるぞ!」
ネム「えっ、出かけるってどこへ?」
カイザー「コラボカフェに決まってるだろう!」
ネム「よくわからないけど、ちょっとまってね」
ネム「はい、これでバッチリでしょ」
カイザー「十分だ!ありがとう!」
ネム「あ、アタシも変身しとこ」
ネム「さ、行きましょうか」
〇ファミリーレストランの店内
ウェイター「おまたせしました〜♪」
ウェイター「『キラキラ☆勇斗ブルーハワイ』です♪」
カイザー「うぉおおお!」
カイザー「おいしそ〜!」
ネム「・・・ちょっと」
ネム「これがライブと何の関係があるのよ」
ネム「カフェでドリンク飲んでるだけじゃない」
カイザー「何を言う!関係大アリだ!」
カイザー「このコラボカフェはライブとの連動企画」
カイザー「ライブ前の1週間のみの、限定メニュー!」
カイザー「いわば、ライブの前夜祭!」
カイザー「当日までにライブへの期待感を上げることは、とても大切なことなんだ!」
ネム「なるほど・・・前夜祭ねぇ・・・」
ウェイター「おまたせしました〜♪」
ウェイター「『キラキラ☆スバルオレンジ』です♪」
カイザー「おっ、ネムは黄瀬スバルくん推しか!」
カイザー「スバルくんの王子様スマイル、素敵だよな!」
ネム「・・・ふんっ、ほっといてよ」
ネム「・・・おいしっ」
〇雑貨売り場
ネム「今度は100円ショップ?何か買うの?」
カイザー「ファンサ用のうちわを作る」
カイザー「そのための材料集め、ってとこだな」
ネム「ファンサ?」
カイザー「ファンサービスの略でな」
カイザー「推しが客席に手を降ったり、投げキスしたりとかしてくれる」
ネム「えっ、アイドルってそんなことまでしてくれるの!?」
カイザー「推しから希望のリアクションを貰えるんだ」
カイザー「最高だろう?」
ネム「おぉ・・・」
ネム「それで?どんなうちわを作るの?」
カイザー「ああ、このデザインで作ろうと考えてる」
ネム「あんた、意外と器用ね・・・」
カイザー「推しに全力なだけさ」
カイザー「早速帰って、ネムの分のうちわも作るぞ!」
ネム「はいはい・・・」
ネム「あっ、これかわいい」
ネム「この紐でリボン作って付けたいな」
カイザー「まかせとけ!」
〇諜報機関
調査報告書
目撃情報を基に、商業施設の現地調査を行った。
◯月✕日 午後1時
組織の幹部が出入りするカフェで張り込む。
目立った動きなし。
◯月✕日 午後3時
組織の幹部が訪れる100円ショップで張り込む。
目立った動きなし。
◯月✕日 午後4時
同じく組織の幹部が―
ボス「・・・」
ジャビ「ボス、呼んだかぁ?」
ボス「来たか、ジャビ」
ボス「お前には、カイザーの裏切りを阻止してほしい」
ジャビ「裏切りぃ!?」
ジャビ「あいつに限ってそれはないだろぉ!」
ボス「まだ確証はない」
ボス「だが、カイザーが組織を裏切る可能性が出てきた」
ボス「もしかしたら、ネムも・・・」
ジャビ「まじかよ・・・」
ボス「手段は問わない」
ボス「あいつの裏切りの現場を押さえ、始末しろ」
ジャビ「・・・わかったよ」
ボス「・・・」
〇コンサート会場
カイザー「いよいよだな・・・」
カイザー「リアルの勇斗くんに会える」
ネム「準備バッチリね、変身も大丈夫そう」
カイザー「ふぐっ・・・ぐっ・・・」
カイザー「嬉しくて、涙が出そうだ・・・」
ネム「既に泣いてるじゃない・・・」
ネム「あっ」
〇コンサート会場
蒼井勇斗「ねぇ気づいてる? その笑顔♪」
蒼井勇斗「作り笑い 君らしくないよ♪」
黄瀬スバル「ねぇ隠してる? 心の涙♪」
黄瀬スバル「そっと僕が 拭いにいくよ♪」
「ここにいるよ Stay in your heart♪」
「君が生きている限り いつまでも♪」
カイザー「勇斗くん・・・やっと会えた・・・」
ネム「おぉ・・・スバルくん・・・」
ネム(やばい、楽しいかも)
〇コンサート会場
黄瀬スバル「追いかけて 君を抱きしめたい♪」
蒼井勇斗「君はヒーロー You are my HERO♪」
「高鳴る胸の鼓動 Wow Oh Oh Oh♪」
「Wow Oh Oh♪」
ネム(これは、夢中にもなるわ)
ネム(カイザー、大丈夫かしら・・・)
カイザー「〜〜〜!!!」
ネム(泣いてるのか、笑ってるのか)
ネム(よくわからない顔をしてるわ・・・)
ネム(よかったわね、カイザー)
〇コンサート会場
カイザー「!?」
カイザー「なんだ!?どうした!?」
ジャビ「げぇっへっへ!」
ジャビ「カイザァー!見つけたぜぇ!」
カイザー「ジャビ!?」
カイザー「なんでお前がここに!?」
ジャビ「おめぇ〜、まさかとは思ってたが」
ジャビ「人間の布教活動に参加していたとはなぁ!」
ジャビ「これは、ボスに対する立派な背徳行為だなぁ!」
ジャビ「つーことは、お前は裏切り者確定だなぁ!」
ジャビ「今!ここで!お前をぶっつぶす!」
カイザー「・・・」
カイザー「何を言ってるのか、さっぱりわからないが」
カイザー「ライブを中断させた行為は重罪だぞ・・・」
カイザー「無事に帰れると思うなよ・・・」
カイザー「ジャビ!!!」
ネム「あっ!まずいっ!」
ネム「熱くなってはだめっ!カイザー!」
ネム「変身能力が・・・解除されちゃう!」
カイザー「!?」
いやぁああ!怪人が、もう一体!!!
助けて!助けてぇ!!!
カイザー「いや、待ってくれ!」
カイザー「俺は、ライブの参加者であって・・・!」
カイザー「皆さんに危害を加えるつもりはない!」
ネム「カイザー!危ないっ!」
カイザー「ムッ!」
カイザー「ぐぁあああ!!!」
ジャビ「げぇっへっへ!」
ジャビ「どうしたぁ?動きが鈍いぞぉ?カイザァー」
ジャビ「人間のマネごとをして、善人になったつもりかぁ?」
ジャビ「なぁ!おい!」
ジャビ「お前は今まで何人の人間を殺してきた!?」
ジャビ「お前がどれだけ事実から目を背けようが」
ジャビ「お前の殺しの罪は消えねぇ!」
ジャビ「無慈悲に弱者を蹂躙し」
ジャビ「どんな任務も、顔色一つ変えず遂行する」
ジャビ「お前はもう、人間じゃない」
ジャビ「『怪人』なんだよぉ!カイザァー!」
カイザー「ぐっ・・・」
ネム「避けてっ!カイザー!」
ジャビ「死ねぇえええ!!!」
〇モヤモヤ
・・・俺がアイドルを好きになったのは
・・・現実逃避だったのか?
毎日、毎日、毎日
人を殺すことに、慣れてしまっていた
だが彼らには、愛する人間や家族がいた
俺は、何も考えず、ただひたすら
彼らの全てを奪っていった
全てを奪ってもなお
自分の中の何かが乾いていく・・・
蒼井勇斗「逃げないで」
蒼井勇斗「君の苦しみは」
蒼井勇斗「君が一番わかってるだろ!」
そうだ、俺は
俺は!!!
〇コンサート会場
ジャビ「なにっ!?」
カイザー「ジャビよ」
カイザー「お前の言うことは間違っていない」
カイザー「たしかに、俺の犯した罪は消えないさ」
カイザー「だがな」
カイザー「空っぽだった俺に、魂を吹き込んでくれた」
カイザー「勇斗くんの歌は、俺に罪の意識を気づかせてくれた」
カイザー「自分を受け入れて、やり直せるって」
カイザー「教えてくれたんだよ」
カイザー「ここが俺の、スタートラインだってなぁ!!!」
カイザー「うぉおおおおお!!!」
ジャビ「ぐっ、がっ・・・」
カイザー「気づいて 君の痛み Ask Yourself♪」
カイザー「気づいて 君の気持ち Love Yourself♪」
ネム(・・・?)
ネム(カイザー、何を歌って・・・)
ネム(もしかして、『スタート☆ライン』!?)
ネム(あいつ、ファンを気遣って・・・)
ネム(まったく・・・しょうがないわね)
ネム「思い出して 君の苦しみは♪」
ネム「君が一番 わかってるだろ♪」
ネム(くぅ〜〜〜恥ずかしい〜〜〜!!!)
「・・・!」
蒼井勇斗「よし」
黄瀬スバル「やろう!」
「みんな!いくよー!」
〇コンサート会場
蒼井勇斗「泣くも笑うも♪」
黄瀬スバル「自分次第 Wow♪」
「ここが 君のスタートライン♪」
ここが 君のスタートライン♪
カイザー「おぉおおおおお!」
ジャビ「ぐぉおおおおお!」
蒼井勇斗「未来は!」
黄瀬スバル「君の心が!」
カイザー「一番、知っている!!!」
〇諜報機関
―翌日
ボス「なんで呼ばれたか、わかってるな」
「はい・・・」
ボス「会場での一部始終、ジャビから聞いたぞ」
カイザー(終わった・・・絶対消される)
ネム(あー・・・アタシ死ぬわ、最悪)
ボス「コホン」
ボス「組織の方針を大幅に変更することにした」
ボス「これからは、人的被害を極力出さないよう、任務を遂行してほしい」
ボス「あと、時々は慈善活動も取り入れていく」
ボス「これら全て、組織を拡大していく上で必要だと、私が判断した」
「はい?」
ボス「以上だ」
ネム「ちょっと!一体何がどうなってるの?」
カイザー「うーん・・・」
カイザー「あっ」
カイザー「ネル、ボスのデスクの上、見てみろ」
ネム「えっ?」
ネム「ははーん」
カイザー「アイドルは世界をも救う、か」
カイザー「勇斗くん、一生推せる・・・!」
ネム「アンタと推しが被っちゃうわね」
カイザー「今度、ボスもライブに誘うか」
ネム「そうね」
おしまい
うぉおおー!!!!!!😭✨めっちゃ良いお話です!!!!!咲良綾さんからお勧めいただき読ませていただきましたぁー!!!!!😭✨
最後の歌のところで涙がポロリと…😢✨
カイザーが愛らしくてまっすぐで良いですね✨あとボスもまさかのファンになってくれて良かったです✨
元気が出るお話でした!!✨
ありがとうございます✨😆
なにこれ…めっちゃ面白い…!
私も推しに生きる糧を貰っている人間なので、わかる、わかるよカイザー…と共感の嵐でした😂
ネムさんが初めてアイドルを見せられた時、おおおお!って言語化出来ない声を上げてたところも自分を見てるようでした😂
クライマックスのバトルシーンは笑えるけど胸熱な展開になっていて、読んでる方は感情ぐちゃぐちゃ😂
感想200文字じゃ全然足りないです!
推しへの純粋な想いが伝わってきて、じんときました。好きなことを好きだと言えるカイザーは素敵です。読後感が爽やかでした!