怪物が起きる時

結城熊雄

怪物が起きる時(脚本)

怪物が起きる時

結城熊雄

今すぐ読む

怪物が起きる時
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇講義室
教授「──犯罪人類学の創始者ロンブローゾは生来性犯罪人説を唱えた」
教授「彼によれば、犯罪者になるかどうかは生まれつき決まっているということだった」
教授「しかしながら現在ではこの説は否定されていて──」
教授「犯罪には社会的要因、心理的要因が複雑に絡み合ってるという見方が一般的になっている」
学生A「先生、それはつまりどんな人でも犯罪者になる可能性があるってことですか?」
教授「その通り。犯罪者は我々とはかけ離れた別世界の人間というわけではなく──」
教授「本当に紙一重の存在なのである」
教授「だから犯罪に手を染めないためにも日々のメンタルコントロールが必要になるというわけだな」
教授「まあ、私はいま君たちが犯罪を犯していない前提で話をしているがね」
斎藤和也「はははっ」
斎藤和也「適当に取った授業だったけど、犯罪心理学なかなか面白いなぁ」
教授「本日の講義はここまで」
教授「来週は犯罪者に行われるさまざまな心理テストについて学んでいこう」

〇大学の広場
斎藤和也「ええと次の講義は二号館の304教室か」
斎藤和也「あれ?あかねちゃん?」
上条あかね「あ、かずやくん!」
斎藤和也(やっぱりあかねちゃん、めちゃくちゃ可愛いなぁ)
斎藤和也「次、統計学だよね? あの、もしよかったらさ・・・」
金城ナオト「ういーす、あかね~!」
上条あかね「なおくん!」
金城ナオト「次の授業一緒に受けようぜ~」
金城ナオト「前回さぼったからノート見してよ」
上条あかね「も~、しょうがないなぁ」
金城ナオト「あれ?そちらは知り合い?」
上条あかね「何言ってるの。同じクラスのかずやくんじゃない」
金城ナオト「あ、そうだっけ? ごめんごめん」
斎藤和也「あはははは」
金城ナオト「それじゃあ俺ら先行くんで」
上条あかね「ごめんねかずやくん。 またね」
斎藤和也「ああ、うん。 じゃあね・・・」
斎藤和也(わあ、人目もはばからず手繋いでる・・・)
斎藤和也(あの二人付き合ってたんだ・・・)

〇テーブル席
池田純「なるほど。あかねちゃんに彼氏がね~」
池田純「それでへこんでるわけ?」
斎藤和也「まあ俺みたいな地味な男は無理だってことだよな・・・」
池田純「そんな自分を卑下するなよ~」
池田純「で、相手はどんな奴だったんだ?」
斎藤和也「ああ、相手は・・・」
  ここのオムライスめっちゃうまいから、絶対食べたほうがいいよ!
金城ナオト「マジで今までで一番うまかった!」
金城ナオト「さあて、俺はハンバーグ定食にしようかな~」
如月アンナ「ちょっと!自分は頼まないんかい!」
金城ナオト「それがね、ハンバーグも今までで一番うまかったのよ!」
如月アンナ「えー、なにそれー」
斎藤和也「・・・」
池田純「ん?どうした?」
斎藤和也「いや、あかねちゃんと付き合ってるはずの金城が別の女の子と楽しそうに・・・」
池田純「え!あかねちゃんの相手って金城!?」
池田純「うわあ、まじかぁ・・・」
斎藤和也「なに?どういうこと?」
池田純「お前知らないのか。金城は遊び人で有名でさ」
池田純「金持ちだし、イケメンだし、スポーツ万能だし、モテるわけよ」
池田純「彼女なんて何人もいるみたいだぞ」
斎藤和也「え?それじゃああかねちゃんは・・・」
池田純「金城ガールズの一人になったってわけだな」
池田純「あかねちゃん純粋だからわかってないんだろうなぁ。かわいそうに・・・」
斎藤和也「そんな・・・」

〇男の子の一人部屋
斎藤和也「あー、くそっ! むかつくなぁ!」
斎藤和也「なんであんなクズにあかねちゃんを取られなきゃならないんだ!」
斎藤和也「あんなやつ、消えてしまえばいいのに・・・」
  ──あいつが憎いか?
斎藤和也「ん?なんだ?」
怪物「あいつが憎いんだろ?」
斎藤和也「わあああ!!! ば、化け物!」
斎藤和也「な、なんだおまえ? ど、ど、どこから入ってきた?」
怪物「安心しろ。俺はお前の見方だ」
怪物「金城ナオト。あいつが憎いんだろ?」
斎藤和也「・・・ああ、憎いさ」
怪物「殺してやりたいか?」
斎藤和也「そりゃあ、できるもんならね」
怪物「俺ならできるぞ」
斎藤和也「えっ?」
怪物「人間ひとりを殺すくらい造作もないことだ」
怪物「どうする?殺るか?」
斎藤和也「・・・」
斎藤和也「頼む、あいつを殺してくれ」
斎藤和也「その方が社会のためだ」
斎藤和也「あいつがいるといろんな人が不幸になる」
怪物「わかった。いいだろう」
斎藤和也「消えた・・・」
斎藤和也「何だったんだ?」

〇大教室
  翌日
  ──ガヤガヤガヤ
斎藤和也「はあ、朝から数学だるいなあ」
池田純「おい、かずや!聞いたか!?」
斎藤和也「なんだよ騒々しいな」
池田純「金城が・・・死んだって」
斎藤和也「ええっ!?」
池田純「俺も詳しくはわかんないんだけど、どうも殺されたらしいんだよ」
斎藤和也「・・・」
斎藤和也(もしかして昨日の化け物が? まさか本当にそんなことが・・・)
池田純「怖えよなぁ。 確かに恨み買いそうなやつではあるけど」
斎藤和也(そうだ、あいつはいろんな人から恨まれていた。殺されたって仕方ないんだ)
池田純「あ、あれ、あかねちゃんじゃね?」
服部静香「・・・あかね、大丈夫?」
上条あかね「うう・・・うう・・・」
斎藤和也「あかねちゃん・・・」
上条あかね「うう・・・うう・・・」
斎藤和也「聞いたよ、金城のこと」
斎藤和也「なんていうか、そんな悲しむことないんじゃないかな」
上条あかね「え?」
斎藤和也「きっとあいつ、人に恨みを買うようなことしてたんだよ」
上条あかね「それ、どういう意味?」
斎藤和也「いや、あいついろんな女の子たぶらかせてさ」
斎藤和也「ひどい男だったみたいじゃないか」
斎藤和也「言っちゃ悪いけど、こうなっても仕方ないところはあったっていうか」
斎藤和也「あかねちゃんにとってはむしろよかったんじゃ・・・」
上条あかね「最低!!」
上条あかね「人が一人死んでるんだよ!」
上条あかね「しかも殺人かもしれない」
上条あかね「理由がどうであれそんなの許されるわけないじゃない!」
上条あかね「かずやくん、どうかしてるよ・・・」
上条あかね「もしかしてかずやくんが殺したんじゃないでしょうね?」
服部静香「ちょっとあかね!言い過ぎよ」
斎藤和也「ご、ごめん・・・」
斎藤和也「あの、僕行くね・・・」

〇男の子の一人部屋
斎藤和也「金城は本当にあの化け物に殺されたのかな・・・」
怪物「どうだ、これで満足か?」
斎藤和也「おまえは、昨日の化け物・・・!」
斎藤和也「じゃあやっぱりおまえが金城を?」
怪物「ああそうだ」
怪物「まあ、お前がやったとも言えるけどな」
斎藤和也「たしかに僕が頼んだけど・・・」
斎藤和也「実際に殺したのはおまえなんだろ?」
斎藤和也「僕は悪くない。僕は無実だ」
怪物「──クックック」
怪物「お前は何か勘違いをしているな」
斎藤和也「え?」
怪物「クローゼットの奥を見てみろ」
斎藤和也「えっ、どういうことだよ?」
斎藤和也「なんだよこれ!? どうしてこんなものが・・・!」
怪物「金城をそのナイフで刺し殺したのは・・・お前だ」
斎藤和也「何を言ってるんだ!お前がやったって言ったじゃないか!」
怪物「まだわからんか。鏡を見ろ」
斎藤和也「鏡?」
斎藤和也「うわあ!なんだこれ!」
斎藤和也「僕が化け物になってる!」
  俺はおまえ自身だ──
  お前の怒りや憎しみが生んだ怪物だ──
  人は誰しも心の中に怪物を飼っている──
  怪物が目覚めたときにどう対処するかはそいつ次第──
  お前は怪物に飲み込まれてしまったな──
斎藤和也「嘘だ。そんなわけない・・・」
斎藤和也「僕が人を殺すなんてありえない!」
  よおく思い出せ。昨日の夜のことを──
  お前は金城を学校に呼び出し、ナイフで刺し殺した──
斎藤和也「違う・・・」
  お前はショックで忘れていても、身体は刺した感触を覚えているはずだ──
斎藤和也「やめろ・・・」
  肉を貫いたときの手の感触を──
斎藤和也「嘘だああああああ!」

〇川に架かる橋
斎藤和也「はあ、はあ・・・」
斎藤和也「そんなわけない。この僕がそんなことするわけ・・・」
斎藤和也「とりあえずこのナイフは処分しないと・・・」
斎藤和也「川に捨てたらわからないだろう・・・」
  ──ドポンッ
斎藤和也「これでよし・・・」
斎藤和也「・・・帰るか」
  ピロリン
斎藤和也「ん?あかねちゃんからメッセージだ」
  さっきはごめん。言い過ぎた。
  かずやくんの話聞いて、たしかになおくんはひどい人なのかもって思えてきちゃった
  直接謝りたいから、遅い時間で悪いけど、これからキャンパス来れる?
斎藤和也「あかねちゃん・・・」
斎藤和也「そうだよ。やっぱりあいつは死んでしかるべきだったんだ」
斎藤和也「僕が・・・やったとしても・・・」
斎藤和也「僕は・・・正しいことをしたんだ・・・」

〇大学の広場
斎藤和也「あ、あかねちゃん」
上条あかね「かずやくん・・・」
上条あかね「さっきはごめんね。ちょっと言い過ぎた」
斎藤和也「いいんだよ。僕の方こそ不謹慎だった、ごめん」
上条あかね「ううん、いいの」
上条あかね「・・・」
上条あかね「ところでかずやくん」
上条あかね「昨日の夜は何をしてたの?」
斎藤和也「え?」
上条あかね「なおくんを殺したの、やっぱりあなたでしょう?」
斎藤和也「え、何言ってるの?」
上条あかね「朝の発言から、あなたはなおくんをすごく嫌ってるみたいだった」
上条あかね「なんだか怪しく思えて──」
上条あかね「それであなたの後をつけてみたの」
斎藤和也「なんだって?」
上条あかね「あなたが家に帰ってからもしばらく様子を見ていた」
上条あかね「そうしたら紙袋を持って飛び出してきたの」
上条あかね「そして川へ投げ捨てた」
斎藤和也「見られていたのか・・・」
上条あかね「この紙袋でしょう?」
上条あかね「中から犯行に使われたであろうナイフと、なおくんのスマホが出てきた」
上条あかね「言い逃れは出来ないわ」
斎藤和也「ッ・・・!」
上条あかね「なおくんはたくさんの女の子と付き合ってたのかもしれない」
上条あかね「ひどい人だったのかもしれない」
上条あかね「でも、私にとってはかけがえのない大切な人だったの!」
斎藤和也「ば、化け物・・・!」
斎藤和也「や、やめろ!」
上条あかね「なおくん、仇は取ったよ・・・」
上条あかね「ずっと、愛してるから・・・」

〇雑踏
  人は誰しも心の中に怪物を飼っている──
  そいつが目覚めたときにどうするか──
  うまく飼いならして再び眠りにつかせるか──
  飲み込まれてあっち側に行ってしまうのか──
  どちらの選択をするか──
  それはすべて──
  お前次第だ──。

コメント

  • 物語の冒頭で犯罪学の講義があり、その内容がストーリー展開の伏線になっているという構成がいいですね。和也がナオトを殺したところまでは分かっても、ミイラ取りがミイラになるラストには意表を突かれました。ちなみに、私は朝起きて鏡を見ると既に怪物ですよ。

  • おおおお、主人公がハッピーで終わらないところがいいですね!
    誰しも怪物を飼っている…
    なかなか響きました。

  • 和也君にとって悲しいかなまさに怪物への具現化ですね・・。私達が日ごろニュースで耳にする犯罪の加害者が、その種類は違えど彼のようなプロセスで犯罪に手を染めてしまったのだなあと想像しました。

コメントをもっと見る(4件)

成分キーワード

ページTOPへ