ウンソーとハッカー

ソエイム・チョーク

エピソード5(脚本)

ウンソーとハッカー

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〇マンションの共用廊下
遠藤浩一「遠藤です」
木﨑瑠璃「いらっしゃい」

〇シックなリビング
  部屋はこの前に来た時とほとんど同じ
  特に飾り付けられたりはしていない
遠藤浩一「あれ、他の招待客はまだ来てないの?」
木﨑瑠璃「いえ、遠藤さんしか呼んでませんけど」
遠藤浩一「えっ?」
木﨑瑠璃「高校を出てからほとんど連絡とってないから 呼ぶような友達はいないんですよ」
遠藤浩一「そっか」
木﨑瑠璃「ほら、料理、冷めちゃいますよ」
  二人でテーブルについて、料理を食べる
木﨑瑠璃「おいしいですか?」
遠藤浩一「うん、凄くおいしいよ」
木﨑瑠璃「実は今日の料理、ケーキ以外はほとんど私の手作りなんです」
遠藤浩一「そうだったんだ 凄いなぁ」
木﨑瑠璃「えへへ」
木﨑瑠璃「じゃあ、そろそろワインを開けましょうか」
遠藤浩一「うん」
「乾杯」
  甘い・・・ワインと言うか、アルコールの入ったブドウジュースのような気がする
  まあ、ワインなんて飲んだことないから、よくわからないけど
木﨑瑠璃「あ、飲んじゃいましたね、アルコール」
遠藤浩一「えっ?」
木﨑瑠璃「今日もバイクで来たんじゃないですか?」
遠藤浩一「あ、そうか 飲酒運転になっちゃうか」
  しまった、何も考えてなかった
木﨑瑠璃「心配は要りません 泊まっていってください」
遠藤浩一「ええっ? 本気で言ってるの?」
木﨑瑠璃「こんなこともあろうかと、兄が使っていた部屋を掃除して置きました」
遠藤浩一「そ、そうか・・・」
  焦った、同じベッドで一緒に寝ましょう、何て言われるのかと思った
  いや、仮にそうなったとしても大歓迎なんだけど、心の準備とかね
遠藤浩一「お兄さんいたんだ?」
木﨑瑠璃「ええ、いました 六年前に死んじゃいましたけどね」
遠藤浩一「あっ」
木﨑瑠璃「私の兄が死んだ時、どんな気持ちになりましたか?」
遠藤浩一「えっ? もしかして、お兄さんの名は?」
木﨑瑠璃「木﨑幸雄です」
  やっぱりだ
  六年前に市内で自殺した高校生
木﨑瑠璃「もしかして少し嬉しかったんじゃないですか?」
遠藤浩一「えっ?」
木﨑瑠璃「兄が死んだ後、あなたの通っていた高校ではイジメがなくなった」
木﨑瑠璃「過ごしやすくなったのでは?」
遠藤浩一「それは・・・」
木﨑瑠璃「いいんですよ、自分へのイジメがなくなって喜ぶのは当然です」
木﨑瑠璃「兄の死にあなたに責任はない」
遠藤浩一「いつから知ってたの?」
木﨑瑠璃「ずいぶん前に、教育委員会の内部資料を盗み見して、あなたの高校でもイジメがあったことを知りました」
木﨑瑠璃「加害者は割りと早めに特定できていたんですけど」
遠藤浩一「前田たちのことを知っていたの?」
木﨑瑠璃「ええ、多少は」
木﨑瑠璃「でもまさか、被害者の方が、ウンソーイーツの配達員としてうちにくるなんて、思いもしませんでしたけどね」
遠藤浩一「最初から知ってたんじゃないの?」
木﨑瑠璃「資料では、あなたの名前はほとんど言及されてなくて」
木﨑瑠璃「確信を持てたのは この前のイタリアンの時です」
遠藤浩一「それで僕に何をしろって言うの?」
木﨑瑠璃「私まだ、何も言ってませんけど」
遠藤浩一「・・・」
  何も言われなくても、何となくわかる
  復讐をしようとしているのだろう
木﨑瑠璃「兄は遺書を残して死にました」
遠藤浩一「あ、もしかして、加害者の名前が書いてあったとか?」
木﨑瑠璃「イジメが疑われる状況で自殺者が出て、もし遺書がなかったら」
遠藤浩一「えっ?」
木﨑瑠璃「ニュースでは遺書は見つからなかったと言います」
木﨑瑠璃「遺書があって名前が書かれていなかったら 名前はなかったと言います」
遠藤浩一「うん・・・」
木﨑瑠璃「じゃあ、遺書に加害者の名前が書かれていた時は? どうなると思います?」
遠藤浩一「ど、どうなるの?」
木﨑瑠璃「なにも言わないんです 誰も、なにも言わない」
木﨑瑠璃「そこに真実があるのに、見て見ぬふりをする」
木﨑瑠璃「そんなの、イジメを肯定したのと同じじゃないですか?」
遠藤浩一「・・・」
木﨑瑠璃「私の兄は見捨てられたんです 生きている間どころか、死んだ後でさえも」
遠藤浩一「遺書には誰の名前が書かれていたの?」
木﨑瑠璃「イジメの主犯、名前は藤山郁夫」
遠藤浩一「藤山? それってまさか!」
木﨑瑠璃「藤山コインの社長です」
  そういうことだったのか・・・
遠藤浩一「木﨑さん? 藤山コインに何をしようとしているの?」
木﨑瑠璃「遠藤さん、私の復讐、手伝ってくれませんか?」
  木﨑さんは僕に手を伸ばす
  どこか壊れた笑みを浮かべながら
  僕は、その手をそっと握った

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