【第7話】女帝・翠玉(2)(脚本)
〇明るいリビング
翠玉(スイギョク)「貴方の願いが私を呼び寄せたことに、必ず何か大きな意味があるはずよ?」
トオル「意味・・・」
翠玉(スイギョク)「まあ、頑張りなさい。 お返し、楽しみにしてるからー!」
そう言うと翠玉は、
あっという間に皿の中へと消えた。
トオル「え、お返しって? 聞いてないんだけど!」
アベンチュリ「トオルさん。何事もタダより怖いものは無いと言うでしょう?」
トオル「え、これ僕がお金払うの?」
アベンチュリ「チッチッチッ」
アベンチュリは、ニヒルな表情で、モフモフの前足を器用に顔の前で左右に振った。
アベンチュリ「私たち精霊はお金のやり取りはしません。何が見合うかは、この件が終わってから考えましょう。それより急いだ方がいいかも」
トオル「急ぐ?何を?」
アベンチュリ「あの女性も、自分の子供を刺した相手が現在のクラスメイトであることを知りました。あの様子だと何をしでかすか分かりません」
トオル「た・・・確かに・・・」
天音鈴子「あの人・・・子どもの夢を邪魔する何かがあれば排除する!って言ってたわよね」
トオル「ああ、ハッキリそう言ってた」
アベンチュリ「誰かとの記憶を差し出してまで、息子さんの未来を見たいと言ったぐらいです。その覚悟は並大抵のことではないでしょうね」
天音鈴子「相当に取り乱していたし、刺される前に刺してやる!ぐらいの極端な考えに行き着いていても不思議ではないかも・・・」
トオル「そんな・・・!」
トオル「どうしよう、早く止めないと!でも住所なんて分からないしどうすれば・・・」
アベンチュリ「住所は分かりませんが、息子さんの制服で小学校を特定することは出来ませんか?」
トオル「なるほど・・・!」
僕は、アベンチュリに見せてもらった未来の映像を、必死で思い出した。
〇教室
確かこんな感じの教室で・・・
制服は・・・
シックな色合いのブレザーとボトム。女子は高級感が漂う清楚なワンピース。
そうだ、思い出した!
トオル「分かったぞ!あの制服は、隣駅の私立の小学校だ。鈴子が通っていたから間違いない!」
〇明るいリビング
天音鈴子「あら、そうなの?すごい偶然ね!」
アベンチュリ「今は・・・朝の6時ですか」
トオル「もうそんな時間? どおりで眠いわけだ・・・」
トオル「鈴子は、もう休んで? あとは僕たちでなんとかするから」
天音鈴子「・・・ありがとう」
アベンチュリ「後ろの席のあの子が登校するのを、門の前で待ち伏せしているかもしれませんね」
トオル「とにかく僕たちも行こう!」
トオル「えーっと、自転車の鍵どこだっけ」
アベンチュリ「トオルさん!電車で行きましょう!」
トオル「え?ああ、そうだな!」
電車で行く。トオルはその選択を、このあと激しく後悔することになる。
〇広い改札
アベンチュリ「ふおおおおお楽しかったー!」
アベンチュリ「電車、好きなんですよー!」
アベンチュリ「初めて乗った時めちゃくちゃ楽しくて!もう1回乗りたいなぁと常々思っていたのです!」
トオル「アベンチュリ・・・僕は恥ずかしい・・・」
アベンチュリ「どうしたのです?」
トオル「ぬいぐるみのフリなんて・・・ どう考えても無理があるよ・・・」
トオル「ぬいぐるみのでかさじゃないよ?自分の大きさ把握してる?結構でかいよ?」
駅に着いたものの、切符を買う直前に、アベンチュリが犬だったことに気付いた僕は
タクシーで行くことを提案した。
だがアベンチュリは
「ぬいぐるみのフリをするから大丈夫」と、自信満々に目を輝かせたのだった。
トオル「地味に重いしさあ、そのうえ僕、翠玉からもらった杖まで持ってるんだよ?」
トオル「メルヘンすぎるだろ・・・」
トオル「皆にめっちゃジロジロ見られた・・・」
アベンチュリ「細かいことは気にせずに! さあ、行きましょう!」
〇大きな木のある校舎
小学校は、駅からすぐだった。
アベンチュリ「あ!いました!あの人です!」
女性は校門から少し離れたところで、小学校の様子を伺っているようだった。
時間が早いからか、登校してくる小学生は、まだひとりもいない。
女性はかなり苛立っているのか、ソワソワと落ち着きが無いように見える。
トオル「手に・・・何か光るモノを持ってる。 あれは・・・なんだろう?」
アベンチュリ「まさかナイフ・・・」
トオル「そ!そんな・・・この距離じゃ分からないけど、そう言われたらナイフに見えるな・・・」
トオル「くそっ!悪いことばかり想像してしまう」
アベンチュリ「大丈夫。まだ間に合う」
アベンチュリ「トオルさん!花のカッカラを!」
アベンチュリ「さあ、電車の中で教えた通りに唱えて!」
トオル「やっぱ言うの?あの呪文・・・」
〇魔法陣2
トオル「ああ・・・気が重い・・・」
アベンチュリ「呪文無しで魔法が発動出来るぐらいの力がつくまでの辛抱ですよ、トオルさん」
アベンチュリ「頑張れ~頑張れ~」
トオル「うう・・・」
トオル「よし」
トオル「逆巻く欲望を巻き戻す慈悲の声。翠玉の力を宿す花のカッカラよ。惜別を撫でる知恵と安らぎに、蒼亡の花を降らせ!」
〇花模様3
辺り一帯が柔らかい光に包まれ、どこからともなく花びらが降り注いだ。
何だろう。
僕はこの感触を知っている。
温かな光が、まるで僕を優しく抱き締めてくれるかのような感覚に陥る。
心地よい。
僕は気持ちよくて、思わず目を閉じた。
〇花模様3
女性「な!何よ、この花!」
女性「・・・」
彩り豊かな花びらが、女性に降り注ぐ。
自分の体に微かに触れる花びらたちを、女性は呆然と、ただ静かに見つめた。