透明色の raison d'etre

いしころ

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〇レトロ喫茶
  烏羽邸からノーチラスに戻った後、一同は今後の予定について話し合った。
月白雪乃「まずはドッペルゲンガーの出所を掴みたいから、大特区周辺の捜索をしようと思うの」
月白雪乃「通常業務や各自の予定に合わせつつ、基本は二人一組で行動すること」
  通常業務の分量や本部から随時投げられる仕事なども鑑みながら、ドッペルゲンガーの情報収集に関する方針が決められた。
月白雪乃「ライセンスがないと入れない新大特区の中はとりあえず私と圭子が担当する」
月白雪乃「灯ちゃんと明日香ちゃんはペアで、新大特区の向こうにある、裂け目に近い瓦礫街の調査をお願い。 無理だけはしないで」
月白雪乃「シキちゃんはいつも通り、しばらく単独でお願い。 私たちにはない目線での調査をよろしくね」
月白雪乃「みんな、くれぐれも無茶はしないで、怪我だけは気を付けてね」

〇渋谷駅前
  後日、大特区ゲート付近────
蘇芳灯「おはようございます、遅くなってすみません」
浅葱明日香「おはよう、灯。 こちらこそ、休日にありがとう」
蘇芳灯「平日は学校があって通常業務には参加していないので、これくらいはなんて事ありません」
  明るく答える灯の背中には、いつもの”細長い筒”が背負われている。
  この、どこからどう見てもただのスクリーンケースである筒の中にまさか火を噴く刀が入っているだなんて、誰も思わないだろう。
蘇芳灯「それに瓦礫街での捜索は、私の人探しにも進展があるかもしれないので」
浅葱明日香(人探し・・・? そういえば、出会ってもう一ヶ月くらいになるけど、私、灯のこと全然知らないな)
蘇芳灯「さ、行きましょう明日香さん! 大特区ゲート前はキラキラ人が多くてどうにも苦手です」
浅葱明日香「え、あ、待ってまって。 今日は瓦礫街に向かうのに、バスを使おうと思う」
蘇芳灯「バスですか? ・・・そっか、今日は圭子さんが居ないから、車を呼びつけられないんですね」
浅葱明日香「そう。 灯だけならテラの操作で脚力増強して自力で行けるかもだけど・・・ ごめんね、足引っ張って」
蘇芳灯「あ、いえ、そんな。 私もあれそこまで得意じゃないですし!」
蘇芳灯「私のコレもなかなか重いし、明日香さんのソレも結構な重量ですよね? 体力の温存ができるのはありがたいです」
  そう言って灯が指差すのは明日香の背負っているリュックである。
  中身は言わずもがな、スペアの拳銃と替えのカートリッジだ。
浅葱明日香「うん、ありがとう。 あ、ほら! ちょうどバスが来たっぽいよ。 行こう、灯!」
蘇芳灯「はいっ!」

〇バスの中
  新大特区外壁周遊バス車内────
蘇芳灯「新大特区の周囲の大壁周りだけを周遊するバスなんてあるんですね」
浅葱明日香「新大特区から放射状にいくつかの追憶街が広がっているからね。 私もバスがあるのは昨日調べてて初めて知ったよ」
蘇芳灯「瓦礫街の調査・・・ということでしたけど、このバスでどうやってアクセスしますか?」
  声をひそめて、灯がこそっと尋ねてくる。
浅葱明日香「テラのパイプラインで働く人がよく使う停留所があるんだ。 そこから森に迂回すると、圭子曰く古いトンネルがあるって」
  内緒話をするように、明日香も小声で応じた。
  無人運転のバスに乗客も明日香たち以外に後数人しか居ないとはいえ、あまり迂闊な話はできない。
浅葱明日香「瓦礫街はもう行政が完全に切り捨ててるから、そのトンネル自体ももう長いこと放置されてるって話」
  つまりそのトンネルで瓦礫街に行こうが何しようが、何が起ころうとも、行政、特に公安隊は感知しない、ということだ。
蘇芳灯「あの人は、なんでそんなこと知ってるんでしょうね」
浅葱明日香「ね。 詳しいなら道案内もできるし、私じゃなくて圭子がこっち担当の方が良かったと思ったんだけど・・・」
蘇芳灯「明日香さんで良かったです! あの人と組むと・・・なんというか、疲れるんですよ、ホント」
  そう言うと灯はふいっと窓の外を向いてしまった。
  本人が居ない所で悪口染みたことを言ったことへの罪悪感なのか、少しバツが悪そうだ。
浅葱明日香(灯、なんだかんだで素直な良い子だよなぁ・・・)
  初対面の時の印象は戦闘の場で対峙していたということもあって、年不相応な落ち着きと冷徹さを感じたが。
  付き合いが長くなると、やはり年相応で礼儀の正しい、とても育ちの良い子だということが分かってきた。
  だからこそ、灯がどんな理由で13班に身を置いているのか、気にならないわけではなかった。
浅葱明日香(とはいえ・・・ これ以上車内であれこれ話すのも危ないかな)
  明日香もそっと口をつぐんだ。
  2人の間にスッと沈黙が生まれたが、特に居心地の悪いものでもなかった。
  タイヤが道を転がる音を聞き車体の振動を感じながら、明日香はバス停に着くまでの間色々な事に考えを巡らせてみた。

〇洞窟の入口
浅葱明日香「・・・これか」
  パイプラインの停留所から森へ逸れ、しばらく歩いた所にそれはあった。
蘇芳灯「思ってたより入口が綺麗です。 ・・・つまり、誰かが定期的に使ってる、ということですね」
浅葱明日香「そうだね。 戦闘になるかも、気をつけて行こう。 もう一般の人はいないと思うし、手に銃持っててもいいかも」
蘇芳灯「私も筒は一旦ここに置いて、ここからはいつでも刀を抜けるように鞘で行きます」
  少しずつだが、緊張が高まってくる。
  一般的に、異形はテラの多い場所に現れる。
  この先の瓦礫街は、空間の裂け目にもかなり近い。
  異形の群れに出くわしてもおかしくはないだろう。
  加えて、こんな所に出入りするのは。十中八九で裏社会の人間だ。
  即戦闘とはならずとも、面倒ごとになるのは間違いない。
浅葱明日香「私が前を歩いて索敵するから、灯は後ろを頼んでも良い?」
蘇芳灯「飛び道具の明日香さんが後衛の方が良いんじゃないですか? 私は近接の方が得意ですし」
浅葱明日香「索敵は急に間近で敵と遭遇することは少ないと思うけど、背後からの襲撃は気がつかないうちに急接近されることもあると思うから」
浅葱明日香「気配を察知するのが得意な灯に頼みたいの。 どうかな?」
蘇芳灯「わかりました、ありがとうございます。 明日香さんも索敵気をつけてくださいね」
  明日香と灯は顔を見合わせて互いを確認するように軽く頷き、トンネルへと足を踏み出した。

〇岩の洞窟
  薄暗いトンネル内部で、2つの足音が反響する。
蘇芳灯「・・・特に何の気配もしませんね」
浅葱明日香「用心に越したことはないけど。 ・・・結構立派なトンネルだね、これ」
蘇芳灯「裂け目ができた時に街を分断した巨岩に、物資を届けるためにトンネルを掘った・・・といったところでしょうか?」
浅葱明日香「かもね。 瓦礫街の周りは地割れも酷くて、アプローチできるルートもかなり限られてるって言うし」
  声をひそめてでも会話をしていないと感覚がおかしくなってしまいそうな薄闇が続く。
浅葱明日香「・・・・・・」
蘇芳灯「・・・・・・」
  バスの車内とは打って変わって、緊張を自覚させるこの沈黙は明日香の肺を押しつぶすような息苦しさを感じさせた。
浅葱明日香「・・・ねぇ、灯」
  たまらず、明日香は小声でバディを呼んだ。
蘇芳灯「どうしましたか?」
浅葱明日香「えっと、答えたくなかったら答えなくて良いのだけれど・・・ 灯は、誰かを探して13班にいるの?」
蘇芳灯「・・・ふふっ 明日香さん、緊張で沈黙に押し潰されそうでしたか?」
浅葱明日香(図星っ・・・!!)
浅葱明日香「あ・・・なんかごめんね、雑談みたいなノリで・・・ 索敵中なのに・・・」
  図星を指された明日香の気まずさとは裏腹に、くすくすと小さく笑う灯。
蘇芳灯「構いませんよ。 私も少し気が滅入ってきていたんです。 さっき中途半端に話を終わってしまっていたのも良くなかったですね」
蘇芳灯「警戒はしつつ、じゃあ少しだけ私の話を聞いてくれますか?」
浅葱明日香「・・・ありがとう。 こちらこそ、よろしくお願いします」
  刀にゆるく手はかけたまま、明日香の背後でぽつり、ぽつりと灯が言葉を紡ぎ出した。
蘇芳灯「私は、私の両親の仇を探しているんです」
蘇芳灯「私がまだ一歳の頃・・・ ある日突然男が家に押し入ってきて、両親を殺したそうです」
蘇芳灯「私も刺されたらしいですが、瀕死の母が私にありったけのテラを注いでくれて、一命を取り留めました」
  童話を語って聴かせるような、穏やかな声で語る灯。
蘇芳灯「私は両親の顔をロクに覚えていません。 写真を見ても、懐かしさなんて少しも感じられません」
蘇芳灯「でも、あの日の犯人の顔は、この瞼の裏に強く焼き付いているんです。 あの男の顔が、私の一番古い記憶・・・」
蘇芳灯「私の家族を奪った人間の顔が一番古い記憶なんて、酷い冗談だと思いませんか? だから私はその男を探しているんです」
浅葱明日香「・・・?」
蘇芳灯「探して、見つけ出して、私の記憶からもこの世からも切り離すんです。 そうして私はやっと、あの男の居ない人生をおくれる」
  穏やかな語り口とは裏腹に、ハッキリとした言葉は確かに研ぎ澄まされた積年の暗い感情をまとっていた。
  灯がどういう表情をしているのか、明日香には見当が付かなかった。
  索敵中が故に振り返ることもできない。
蘇芳灯「明日香さんに、聞きたいことがあるんです」
  数歩分の足音が響いたのち、灯が明日香に問いかけた。
蘇芳灯「明日香さんは、あの日何があったかの真実が知りたいと仰っていましたよね?」
浅葱明日香「ええ。 誰が、何のために、私の家族と『私』を殺したのか・・・ それが知りたくて私は13班にいるよ」
蘇芳灯「知るだけで良いんですか?」
浅葱明日香「え?」
蘇芳灯「もしその犯人と目論見が分かって、全ての真実が明らかになったとして・・・ 明日香さんはそれだけでいいんですか?」
浅葱明日香「・・・それは、復讐しないのか?っていう質問と捉えていいのかな」
蘇芳灯「・・・いえ、すみません。 私の感覚を押し付けるつもりはなくて、ただ、気になって・・・」
浅葱明日香「犯人は憎いよ。 でも今は、その犯人がどこのどいつかも分からなくて、正直言って感情を向ける先も分からないの」
浅葱明日香「だから、今はただ、知りたい。 実際知った先に自分がどうなるかとかは全然想像もつかないや」
  憎悪に燃えて復讐に走るか、失ったものの大きさに絶望するのか、はたまた全てが分かってスッキリしてしまうのか。
  自分のことなのに、少しだって予想もできそうにない。
蘇芳灯「そう、ですよね。 すみません、つまらないことを聞いて」
浅葱明日香「ううん。 こちらこそ、色々話してくれてありがとう。 また少し灯りのことを知れて嬉しいな」
蘇芳灯「ふふっ なんか改まって話すと、ちょっと面白いですね」
蘇芳灯「まぁ、そんなこんなで、夜な夜な家を抜け出しては怪しい連中の所に赴いて辻斬りみたいなことをしていたら」
蘇芳灯「たまたま出くわしてしまった圭子さんに捕まって、雪乃さんに拾ってもらった、という経緯です」
浅葱明日香「なるほどね」
蘇芳灯「休日や放課後に事務仕事やノーチラスの店番や捜査を手伝って、代わりに裏社会の情報を単独の時よりもずっと安全に集められます」
蘇芳灯「雪乃さんには、とても感謝してるんです。 あのまま続けていたら、いずれ返り討ちに遭って犬死にだったと思いますし・・・」
浅葱明日香「私も同じ。 素人の私を仲間として迎えてくれて、鍛えて、こうして捜査に参加させてくれてる」
浅葱明日香「頑張らなくちゃね 自分のためにも、雪乃のためにも」
蘇芳灯「はい!」

〇岩穴の出口
  そうこうしているうちに、トンネルの出口が見えてきた。
  風の吹く音が、少しずつ近づいてくる。
  明日香は、久しぶりの強い光に、目を少し細めた。

〇荒廃した街
浅葱明日香「うわぁ・・・」
蘇芳灯「あんな長いトンネルを抜けたのに、こっちにあるのは思った以上に普通の街の廃墟なんですね・・・」
浅葱明日香「昔は、今の新大特区からこの辺りまで、ずーっと大きな街が広がってたらしいよ」
浅葱明日香「空間の裂け目まで作った例の兵器によって生じた不規則な地殻変動の外縁がこの辺りだったんだね」
浅葱明日香「今の新大特区がある辺りも、たまたま被害が大きくなかっただけで、少しでも違ったらこうなってたんだろうな・・・」
  昔の大きな街並みの面影を少し残した廃墟は、少しの物悲しさと破壊兵器の凄まじさを2人に見せつけていた。
浅葱明日香「・・・さて、何か手掛かりになりそうなものがないか、ちょっと歩き回って色々見てみよっか」
蘇芳灯「そうですね。 ここでじっとしていてもしょうがないですもんね。 ざっと見て回って、簡単な地図を作りましょう」

〇荒廃したセンター街
浅葱明日香「繁華街の広場・・・かな? 結構ビルも傷んでて危ないな・・・」
蘇芳灯「・・・? 明日香さん、これ、何かの足跡・・・?」
浅葱明日香「!! ホントだ 結構大きい、人じゃない。 異形・・・!? しかも複数!!」
浅葱明日香「まずいよ灯、すぐに移動しよう!! ここは多分異形の・・・!!」
爬虫類型「グギョッギョッギョッギョッ!!」
  言い終わるよりも早く、廃ビルの1つから、オオトカゲに似た形で口の裂けた巨大な異形が飛び出してきた。
浅葱明日香「灯下がって!!」
蘇芳灯「っ!?」
  ガァン、と廃墟群の中で銃声が轟く。
爬虫類型「ギギギギギキガガガ」
浅葱明日香「硬いっ・・・!!」
蘇芳灯「ダメ押しっ・・・!!」
爬虫類型「ギ──────────────」
蘇芳灯「伏せて明日香さんっ!!」
爬虫類型「ぐギャッッ!!」
爬虫類型「グギョッグギャギャギャギャギャ!!!!」
浅葱明日香「次々と・・・!!」
  連射で弾幕を張り、複数現れた敵の注意を集めつつ足を止める明日香。
蘇芳灯「っっ──!!」
爬虫類型「キシャアアアアァ──」
  明日香の作った隙を突き、灯は高速で接近して一体ずつ確実に仕留めていく。
浅葱明日香「もうひとつっ!!」
爬虫類型「グギョッ──・・・」
浅葱明日香「・・・ふぅ、とりあえずはひと段落?」
蘇芳灯「ですね・・・。 フォローありがとうございました」
浅葱明日香「こちらこそ、灯がしっかり切り込んで行ってくれたから、確実に倒していけたよ」
蘇芳灯「それは、明日香さんがしっかり銃で敵の意識を逸らしつつ動きを止めてくれたから・・・」
蘇芳灯「私の動きを先読みして射線をずらしてくれていたので、安心して前に出られましたし」
浅葱明日香「もしかして私たち、良い感じのバディ?」
蘇芳灯「ふふっ・・・ かもですね」
  顔を見合わせて小さく笑い、控えめにハイタッチをした。
浅葱明日香「囲まれる前に移動しよっか。 ドッペルゲンガーも灯の仇も、こんな所に長居はしないでしょう」
蘇芳灯「そうですね。 次は・・・」

〇荒廃したショッピングモール
  学校の校舎や教会、ショッピングセンターなどの廃墟を回った明日香と灯。
  段々と陽が傾いて来たが、手がかりは掴めずにいた。
  幾度となく繰り返された異形との戦闘。
  明日香と灯は息の合った連携的なんとか退けて来たものの、疲労は蓄積していた。
浅葱明日香「ここは・・・デパートか何かの残骸みたい」
浅葱明日香「灯、今更だけど、探索する場所ってどういう基準で決めてるの?」
蘇芳灯「こういう、元々賑やかだった場所の方が流れ着いた人間って溜まりやすいんです」
蘇芳灯「私が一人で夜な夜な辻斬り紛いのことをしていた時も、繁華街の空きビルや古い駅舎なんかを特に念入りに探索していました」
浅葱明日香「なるほど、それで今回もそういう所を選んでるってわけか」
蘇芳灯「多くの人間が訪れることを前提に作られた建物は、廃墟になってもそれなりに過ごしやすいみたいなので・・・」
蘇芳灯「とはいえ境界はまだ、異形に遭遇してばかりで、なんの成果も挙げられていませんが・・・」
浅葱明日香「探索初日だし、居ない場所が分かっただけでも良い成果だと思う。 この辺りの損壊が比較的少ない大きめの建物はここでラストだし」
蘇芳灯「あと、廃倉庫とかは人が滞在するようには出来ていませんが、中が広いのでそれなりに物を持ち込めばある程度快適な拠点になります」
浅葱明日香「じゃあ、ここがダメだったら一回戻って、次の機会に中の広い倉庫とか体育館みたいなのを回ろう」
蘇芳灯「はいっ!」

〇荒廃したショッピングモールの中
浅葱明日香「・・・入口付近は異形なし、と。 じゃあ、一番上まで行って、そこから下に降りながら探索しよっか」
  早速探索を始めようと一歩踏み出した、その時だった。
???「おーい、ちょいちょいお前ら。 ストーップ」
「っ!?」
  その男が現れたのは、突然だった。
  全く気配を感じさせなかったその男は、気が付いたら2人の背後に立っていた。
浅葱明日香(容易く背後を・・・!! 全然気が付かなかった──!!)
蘇芳灯「何者ですか!?」
???「何者ですか、じゃねーよ。 そっちこそ他人のテリトリーにズカズカと・・・」
  吠えたかと思った矢先、男は訝しげな顔で明日香をまじまじと眺めた。
???「・・・アレ? アサギじゃん。 なんだ、雰囲気変わった?」
浅葱明日香「・・・は?」
???「あ? え、アサギだよな、お前」
???「探し物が見つかったーつってちょっと前に出て行ってから戻って来ねーし心配してたんだぜ?」
  先程までの好戦的な態度とは打って変わって、かなり友好的に話しかけてくる。
浅葱明日香「・・・どうやらビンゴみたいね」
???「え? 何、お前アサギじゃねーの??? アサギじゃん?」
  どうやら明日香のことを知っていそうな男。
  話しぶりも、ドッペルゲンガーが明日香を探していたと考えると辻褄が合う。
  とりあえず、すぐに戦闘という感じではないが、どう話を切り出したものかと明日香は考えを巡らす。
蘇芳灯「あなた達は、こんな所で何を?」
???「テメェこそなんなんだよガキが。 偉そうに話しかけてんじゃねぇぞ、人間!!」
蘇芳灯「っ・・・」
浅葱明日香(この人もしかして、異形・・・!?)
浅葱明日香(だとしたら戦闘になったら厄介ね・・・ 出来るだけ穏便に、情報を引き出したいところだけれど・・・)
???「お前、やっぱアサギだよな。 気配が一緒だもんよ。 なにがあった?」
浅葱明日香「・・・悪いけど私、どうやら記憶が曖昧みたいね。 新大特区の向こうの追憶街で保護された所からしか記憶がハッキリしてないの」
???「あぁ? マジかよ〜 それで、よりにもよって、そんなガキとつるんでるのか、勘弁してくれよホント」
???「保安隊だろ、そのガキ。 記憶無くして敵さんと仲良しこよしは困るぜ」
蘇芳灯「──何故私が保安隊だと?」
???「あ? んなもんテメェみたいに、「自分はマトモです」みたいな図々しい面して入ってくる奴なんざ保安隊に決まってんだよ!!」
蘇芳灯「・・・・・・」
浅葱明日香「・・・敵? 私は保安隊と戦おうとしていたの?」
???「・・・マジで全部忘れてんの?」
浅葱明日香「・・・えぇ、残念ながら」
???「・・・そうかぁ。 となると、どうすっかなぁ──」
  頭をガシガシとかきながら、男が悩むような素振りを見せる。
???「教えてやってもいいんだけどさ、そこのガキが保安隊の本隊を連れて来たら厄介だしなぁ。 どする? そいつ先殺っとく?」
浅葱明日香「それは・・・得策じゃないと思う。 今日は実は私の記憶探しで保安隊に警護してもらいながらここに来てるの」
  じっくり考える暇はない。
  灯に危害が加わらないよう細心の注意を払いつつ、嘘と本当を織り交ぜて話を合わせる。
浅葱明日香「もし私やこの子が今日戻らなかったら、どの道本隊が捜索に来ると思う・・・」
浅葱明日香「逆に、記憶喪失の私や下っ端のこの子が何かを報告したところで、保安隊はこの”捨てた土地”には簡単には寄り付かないと思う」
???「ま、それもそうか。 中途半端な部隊なら俺らで殲滅できるし、俺らが対応出来ねえ規模の部隊が来るリスクはこのガキには無いか」
???「良かったなクソガキ、お前が無力な下っ端で。 無事にお家に帰れるぞ」
浅葱明日香(ごめん、灯・・・!!)
  男に嘲笑われ、拳を強く握り込んで地面を睨みつける灯。
  しかし、戦闘になってしまうことを回避はできた。
  明日香は直感的に悟っていた。
  灯と2人がかりで戦っても、この男には勝てそうにないと。
???「んじゃ、せっかく戻ってきたアサギに教えてやるよ」
  勿体つけるように男はわざとらしく咳払いをした。
  そして、続いた言葉に、明日香と灯は驚きと衝撃で立ち尽くすことしかできなかった。
???「アサギ、お前は、俺ら『ウロボロス』と手を組んで新大特区の保安隊転覆を目指す、テロリストだ」

次のエピソード:真実のカケラ

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