読切(脚本)
〇清潔なトイレ
ハイドロブレイン「あーあ、疲れた・・・」
ハイドロブレイン「トイレに居る時だけだな・・・ 心が休まるのは・・・」
ドン!ドン!ドン!ドン!
ハイドロブレイン「な、なんだ・・・」
ハイドロブレイン「様子がおかしいぞ・・・」
〇要塞の回廊
ハイドロブレイン「ドロボーだったのか?」
長谷川「どうしました?」
ハイドロブレイン「長谷川か・・・ 騒がしかったが何かあったのか?」
長谷川「それが・・・ 春子様が訪問されまして・・・」
ハイドロブレイン「春子だと! 珍しいな・・・!」
長谷川「王の間にお通ししております」
長谷川「やれやれ・・・」
〇城の会議室
春子「おひさー!」
ハイドロブレイン「おおー、春子! 久しいな~何年ぶりだ」
ハイドロブレイン「今日はどうしたんだ?」
春子「実はね・・・」
春子「正義のヒーローが街に現れたの・・・」
ハイドロブレイン「なんだ、そのありきたりな設定は・・・」
春子「どきどき街に現れるお父さんが噂になって退治するとのたうち回っているみたい・・・」
ハイドロブレイン「私は犬の散歩ぐらいしか街には出ていないだろ!?」
春子「お父さん・・・ そんな身なりで犬の散歩って言っても・・・」
春子「誰も信じてくれないわ・・・」
ハイドロブレイン「な、泣くな! それで、その正義のヒーローてのはどんな奴なんだ」
春子「プラダーマンと名乗っている黒覆面の男よ 中二病を患っている残虐非道なやつよ・・・」
ハイドロブレイン「ヒーローなのに残虐非道って・・・」
ハイドロブレイン「大人として、そのプラダーマンとやらと話し合ってみます・・・」
春子「頑張ってね・・・お父さん・・・(お父さんは何でそんな容姿なの・・・)」
〇公園のベンチ
プラダーマン「出たな!怪人め! このプラダーマンが成敗してくれる!」
猫1「にやぁ~」
プラダーマン「うるさい!黙れ! 問答無用だ!」
プラダーマン「アトミックファイナルアタック~!」
プラダーマン「ひ、ひぃ~」
プラダーマン「逃げやがったな!これが正義だ!」
ハイドロブレイン「な、何をしてるんですか!?」
プラダーマン「うわ! か、怪人だ・・・」
ハイドロブレイン「あなたがプラダーマンですか?」
プラダーマン「(こいつ本物の怪人だ・・・強そうだしどうしよう・・・)」
警察官A「どうしました?」
ハイドロブレイン「この人、猫を苛めてました」
警察官A「う、うわ~!なんだお前は!」
ハイドロブレイン「ハイドロブレインと申します」
警察官A「その恰好は着ぐるみかなにかか?」
ハイドロブレイン「違います 私怪人でして・・・」
警察官A「か・い・じ・ん・って・・・(ひくわぁ~)」
ハイドロブレイン「もちろん善良な怪人ですよ!」
プラダーマン「お巡りさん・・・僕はこの怪人を倒すために悪と戦っていたのです」
警察官A「二人とも署まで来なさい」
〇警察署の入口
警察署
〇取調室
警察官A「君は異世界から来たというんだね?」
ハイドロブレイン「24年前の事です・・・ 閃光に包まれた私は屋敷ごと、この世界に迷い込んだのです・・・」
警察官A「それが本当だとして、君は何をしているんだね? 世界征服かね?」
ハイドロブレイン「征服なんてとんでもない!! 私はごく一般の怪人ですよ・・・(娘もいるし・・・)」
ハイドロブレイン「普段は怪人の特殊能力を使って街のお助けマンをしています。 いわゆるなんでも屋ですね」
警察官A「その容姿でなんでも屋って・・・」
プラダーマン「お巡りさん、怪人の言うことなんて信じてはダメです」
プラダーマン「きっと怪人の能力で悪の限りを尽くしてますよ!」
ハイドロブレイン「でしたら私の会社に来てください。 職場を案内しますので・・・」
〇大企業のオフィスビル
ハイドロブレインの会社
〇オフィスのフロア
ハイドロブレイン「ここが私のオフィスになります」
警察官A「うぁ~」
プラダーマン「うぉ~」
秘書 立花「こんにちわ~ 社長の秘書をしております。 立花と申します」
警察官A「ひ、秘書・・・(何者なんだよ・・・)」
プラダーマン「訳が分からん・・・」
秘書 立花「私共は社長の特殊能力を頼りにこの会社を運営しております」
秘書 立花「迷子猫の捜索から政府からの極秘の任務まで全て社長一人でこなして頂いております」
秘書 立花「何故なら社長には怪人の特殊能力がありますから・・・」
秘書 立花「社長、政府からの要請です。 宇宙ステーションの落下が確認されたので力を貸して欲しいとの事です」
ハイドロブレイン「わかりました・・・ 落下はまずいので宇宙の別の場所に移動させて処分しようと思います」
〇地球
ハイドロブレイン「ここまで来たら大丈夫かな・・・?」
ハイドロブレイン「パワフルビーム!」
ハイドロブレイン「さあ帰ろう・・・」
〇オフィスのフロア
ハイドロブレイン「ただいま~ 滞りなく対処しました」
秘書 立花「お疲れさまです」
警察官A「何も知らずに失礼いたしました!」
ハイドロブレイン「良いんですよ・・・ この身なりですからね・・・良く間違われます・・・ハハハ・・・」
プラダーマン「いや!こいつは絶対悪いことをしている! だって怪人だもん・・・」
警察官A「な、何を失礼な・・・」
ハイドロブレイン「良いんですよ・・・ ところで君は何歳なんだい?」
プラダーマン「19歳・・・」
ハイドロブレイン「良かったら家に遊びにおいでよ。 ひとっとびだから・・・」
プラダーマン「え!! う、うわぁ~!」
警察官A「・・・」
秘書 立花「お見送りいたします・・・」
警察官A「は、はい・・・」
〇要塞の回廊
長谷川「おかえりなさいませ!」
ハイドロブレイン「変わりはなかったか?」
長谷川「春子様がお帰りになられました」
ハイドロブレイン「お客さんを連れてきた。プラダーマン君だ」
長谷川「いらっしゃいませ!!」
ハイドロブレイン「王の間にお茶を運んでくれ」
〇城の会議室
ハイドロブレイン「まあ、寛いでください・・・」
プラダーマン「僕をこんなところに連れてきて何を企んでいる!?」
ハイドロブレイン「君が私の事を誤解してる様なので打ち解けようと思って・・・」
プラダーマン「(誤解だと・・・!誤解も何も怪人じゃん!?)」
ハイドロブレイン「こう見えて私は猫好きなんですよ」
ハイドロブレイン「おいで~」
猫1「にやぁ~」
プラダーマン「あっ!?(その猫はさっきの・・・!?)」
猫1「ごろにゃ~ん(スリスリスリ・・・)」
ハイドロブレイン「私の猫なんです」
プラダーマン「(動物好きをアピールして良い人ぶっているのか?怪人だけど・・・)」
ハイドロブレイン「撫でてみますか? 可愛いですよ・・・」
プラダーマン「(何だ・・・この怪人は・・・只の人の良いおっさんじゃないか・・・)」
プラダーマン「(僕は間違っているのだろうか・・・?)」
ハイドロブレイン「(そろそろ打ち解けてきたかな・・・?) せっかくなので屋敷の中をご案内します」
プラダーマン「は、はい・・・」
〇魔王城の部屋
スケルトンレード「こんにちわ~」
プラダーマン「うわ!(骸骨だ!!)」
ハイドロブレイン「この屋敷には私の他にいろんな怪人がいます」
牛丸「いらっしゃ~い」
プラダーマン「うぉ!!(何か強そうなのが来た!!)」
ハイドロブレイン「みんな良い怪人ばかりですよ・・・」
〇闇の要塞
ハイドロブレイン「今日は花火大会をやるんです。 良かったら見て行って下さい」
〇花火
プラダーマン「(想像してた怪人と全く違うなぁ・・・)」
ハイドロブレイン「どうです? きれいでしょ?」
プラダーマン「(何かむなしくなってきたなぁ・・・)」
プラダーマン「(帰ろうかなぁ・・・)」
ハイドロブレイン「私はこの世界にはない特殊能力で色々な事をしてきていますが、悪いことに使うつもりはありません」
ハイドロブレイン「そして正義のために使っているなんて、きれい事も言いません」
ハイドロブレイン「自分のできる事をしてこの世界で生きて行こうと頑張っていたら、こんな感じになりました」
ハイドロブレイン「世間とは関わらずにひっそり静かに暮らしていく事も考えたのですが、無理がありました」
ハイドロブレイン「容姿がこの様なので悪目立ちしますからね」
プラダーマン「(そりゃ怪人だからなぁ・・・)」
ハイドロブレイン「君は正義のヒーローらしいですが、その正義を私に向けるのは間違いだと思います・・・」
プラダーマン「はい・・・そうですね・・・」
〇闇の要塞
ハイドロブレイン「わかってくれましたか・・・」
プラダーマン「ごちそうになりありがとうございました (もう帰ろう・・・) 帰ります・・・」
ハイドロブレイン「またいつでも遊びに来てください」
老人A「ぎゃー怪人だ!!」
オプシーマン「出たな!怪人め!! このオプシーマンが成敗してくれる!!」
ハイドロブレイン「・・・」
ハイドロブレインに平穏な日々が訪れるのはいつの日か・・・
ハイドロブレインのような万能な存在でも唯一勝てないものが、外見に対する世間の偏見だなんて、つくづく世知辛いなあ。彼のコツコツ草の根キャンペーンがもどかしい。マスメディアを使って大々的に社会貢献アピールをしてほしい。と、一読者ながら真剣に考えてしまった。それはそうと、春子の母親(=ハイドロブレインの妻?)ってどんな人なんでしょう。猛烈に気になりました。
善良な怪人と分かってはいても、やっぱり、見た目で他者を決めつけてしまう。それが人間なのだな、と考えさせられる作品でした。冷静な警察官やかわいい猫など、出てくるキャラクターたちにほっこりしました。
相手に身の上をわかってもらうため、ハイドロブレインがしている努力は素晴らしいです。私達はなにかと外見でその人となりを判断しがちですが、彼のように真摯な表現で伝える技術こそ必要ですね。読んでいて、とてもいい気持ちになれました。