正夢(脚本)
〇森の中
ミア「ヘンゼル、グレーテル、帰るよー!」
返事は返ってこない。
本をバスケットの中にしまい、来た方向へ振り返った。
夢の中では家にいなかったし、通ってきた道を今見ても家へ向かう足跡は見当たらない。
〇けもの道
森を見ると、奥へと続く道がある。
ミア(日が傾く前に、2人が怪我をする前に、2人がお腹が空いたと泣き出す前に、)
ミア(探し出さないと)
ミアは森の中へ駆け出した。
〇けもの道
ミア「ヘンゼル」
ミア「グレーテル」
ミア「どこにいるの??」
何度2人の名前を呼んだか分からない。何度2人の名前を呼んでも、返事は返ってこない。
ミア「ハァ・・・ハァ・・・・・・」
進んでも進んでも、草、草、草。
城跡なんて見えてこない。
ミア(夢ではこの辺りだったはず)
でも”夢”は”夢”。
覚えてる限りに進むけれど、アレが現実になってほしくない。
目の前に転がっているのは靴。
ピンクの生地に、ドロの汚れが少し付いている、小さな靴。
ミア「グレーテル・・・」
〇けもの道
何だか腹が立ってきた。
身体にまとわりついてくる草に、腹が立つ。
こっちに向かって飛んでくる虫に、腹が立つ。
服の中で流れる汗に、ベタつく肌に、腹が立つ。
大好きで大切な2人を見つけ出せない自分に、腹が立つ。
〇立派な洋館
ミア「見つけた」
腹が立っていたからか、早く進む足に連れられて、城跡を見つけた。
ミア「ヘンゼル!グレーテル!!」
声が聞こえるはず、この近くで。
ミア「もうすぐ暗くなるし、ママたちも心配するから早く出てきて!」
今までで1番大きい声で叫んだ、声を上げた瞬間に鳥が数匹飛び立っていった。
ミア「私が2人と遊ばなかったから?」
ミア「私が居眠りをしたから?」
ミア「ごめんなさい。 決して遊びたくない訳じゃなかった、いつも遊んでばかりだから疲れてたの」
ミア「本を読みながら2人のはしゃぐ声を聞くのが好きなの。2人ならわかるでしょ?」
ミア「今日は特に、朝からバタバタしてたから、2人のことを構ってあげられなかった。ごめんなさい」
ミア「今から帰ってお家で一緒にご飯食べよ。その後いっぱい遊ぼ。朝までだって付き合ってあげる、だから出てきて」
ギィ・・・
〇立派な洋館
バタン!!
ミア「やだ、いやだ・・・」
また風が吹いて、不気味な音とともに不安が押し寄せる。
〇要塞の廊下
ミア「ヘンゼル、グレーテル・・・」
ミア「お願い出てきて、一緒に帰ろう」
入口から伸びている廊下を、見ることしかできない。
ミア(怖くて足が進まない・・・)
夢で見た屋敷内に似ているけれど、夢より城の中は暗いし
汚いし、溶けた蝋には無数の蜘蛛の巣がかかってて、あちこち埃だらけ
こんなところにいたくない
ミア(怖い)
ガタッッ
ミア「なに・・・!?」
どうやら近くにあった燭台が倒れた様子。
ミア「誰か、いるの??」
音のした方へ、身体を向けてみた。
ミア(怖い・・・ 進めない・・・)
ドンッ
ミア「わっ・・・!?」
後ずさりした時に壁にバスケットがぶつかった。
ミア「これ・・・」
バスケットからヘンゼルとグレーテルから貰った四つ葉のクローバーが落ちた。
ミア「スゥー・・・」
ミア(怖がってどうするの、ミア。 2人は今私より大変な思いをしてるかもしれないのよ)
ミア「よし」
ミアは四つ葉のクローバーをバスケットの中にしまって、歩き出した。
ミア「暗い・・・」
足が進むようになったけれど、目の前が不安定。
ミア(なにか、灯りがあればいいんだけど・・・)
ミア「そうだ!」
ミア「たしか、この間火遊びするといけないからってマッチをこの中に放り込んだ気がする」
ミアはバスケットの中に手を入れてマッチの箱を探した。
ミア「あった! あ・・・」
あと1本。
ミア「焦らずに、大丈夫。私ならできる」
悩むより先にミアは蝋を探すことにした。
ミア(最悪木でもいいから見つかりますように)
埃まみれの廊下を歩いていると外の灯りに照らされた廊下の隅に白い棒が落ちているのを見つけた。
ミア「もしかして・・・!」
未使用の蝋を見つけた。
それに沢山。
ミア「あとは火をつけるだけ・・・」
蝋を見つけたミアは少し笑顔を取り戻してきた。
これで2人を探しやすくなると思ったみあは少し安心した。
あとはマッチで火をつけるだけ。
ミア「つくよね・・・?」
最後の1本を手に取った。
ミア「フゥー」
ミア「いける」
ミアは勢いよくマッチを擦った。
ミア「あっ」