怪魔剣士はそろそろ負けたい

螺子巻ぐるり

読切(脚本)

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〇コンビニの店内
コンビニ店員「いらっしゃいませ~ こちら合計で、1997円になります」
コンビニ店員「お待たせいたしました 次のお客様、どうぞ」
???「うむ この弁当、温めを頼む 箸は一膳要るが、レジ袋は要らぬぞ」
コンビニ店員「えっ!? か、怪人!?」
コンビニ店員「ひゃ~! 助けてください!」
???「──むぅ 直前まで気配を消しても レジでの会話はやはり無理か・・・」
???(やはり怪人のままでは・・・・・・ 弁当を温めて貰うことすら 叶わぬのだな・・・・・・)
???「すまぬな、店員よ。 驚かすつもりは無かったが・・・ フッ、つまらぬ言い訳だ」
???「やはり私は、負けねばならぬ。 負けてこの姿を捨て、無様な生活を、 終わりとせねば・・・!」

〇森の中
  ──10年前
霧矢紅人「止めるんだ小十郎! その力は、お前の身を滅ぼす!」
???「知った事か! それで貴様に勝てるのなら・・・ 何を犠牲にしても構いはしない!」
霧矢紅人「人に戻れなくなるんだぞ!? どうしてそこまでして、 力を求めるんだ!?」
???「フッ・・・分からないのか? お前がいるからだよ」
???「私はお前に勝ちたい! その為になら、人の姿など どうだって良いのだ!!」
???「うぉぉぉぉッ!! 邪身、転変ッ!!」
???「──どうだ これが私の新たな力──」
怪魔剣士コジュウロウ「怪魔剣士・コジュウロウだ!」
霧矢紅人「コジュウロウ・・・ どうして・・・」
怪魔剣士コジュウロウ「私を止めたくば、殺す気で来いッ! ──それが私の、唯一の望み!!」
霧矢紅人「クソ・・・ やるしかないのか、コジュウロウ!?」
  ・・・・・・だが、結局
  あいつが私を殺す事は無かったし、
  私もあいつを倒す事は叶わなかった
  故にこの身に宿した呪いは続き、
  私はつまらぬ人生を、
  漫然と・・・続けてしまっている

〇公園のベンチ
怪魔剣士コジュウロウ「さて、いただくとしよう ──むっ・・・」
怪魔剣士コジュウロウ(箸を貰い忘れているではないか・・・)
東雲汐音「ねぇ、そこの怪人さん!」
怪魔剣士コジュウロウ「・・・私の事か 何の用だ、娘」
東雲汐音「私、さっきのコンビニにいたんだけど ・・・怪人さん、箸忘れたでしょ 多めに貰って来たけど、いる?」
怪魔剣士コジュウロウ「・・・・・・!」
怪魔剣士コジュウロウ「確かに・・・ 忘れたが・・・」
東雲汐音「いるの? いらないの!?」
怪魔剣士コジュウロウ「う、うむ かたじけない、いただこう」
怪魔剣士コジュウロウ「しかしな、娘よ 私のような怪人に声を掛けるのは、 恐ろしくはないのか・・・?」
東雲汐音「セルフレジにあたふたしてる怪人が 怖いわけないでしょーが!!」
  ──衝撃だった
  確かにセルフレジの操作には不慣れで、
  箸を忘れたのも、慌てたせいなのだが
  娘は震えていた
  本当は怖いのに、
  理屈をつけて勇気を振り絞ったのだろう
  その姿が私には、妙に眩しく思え──
レッドファイター「見つけたぞ、怪人! その女の子を離せ!!」
東雲汐音「えーッ!? わたし、なにもされてないよ!?」
レッドファイター「通報があったんだ! 君も危ないから離れて!」
怪魔剣士コジュウロウ「ふむ・・・ まぁ、怪人の性よな 来るがいい若造。試してやる」
東雲汐音「怪人さんもなんでッ!? なんも悪い事してなかったよね!?」
怪魔剣士コジュウロウ「怪人がヒーローを名乗る者と戦うのは、 ごくごく自然なことだろう ──コイツが真にヒーローなのかは 別としても・・・な」
レッドファイター「なにっ・・・!? 満点試験でレッドファイターに 選ばれたオレの実力、見せてやるぜ!」
レッドファイター「レッドブラスター!!」
怪魔剣士コジュウロウ「ぬるい・・・」
レッドファイター「うわ、効いてない!?」
怪魔剣士コジュウロウ「──魔人剣、夜津咲」
レッドファイター「ぐ、うぅ・・・ ここは一旦退く! 君も逃げてね!!」
東雲汐音「えええ・・・ 一撃でやられちゃった・・・」
怪魔剣士コジュウロウ「はぁ・・・ やはりアイツ以外、 私を倒せるような戦士はいないのか」
東雲汐音「怪人のおじさん・・・ 本当は負けたい、みたいな言い方するね」
怪魔剣士コジュウロウ「よく分かったな ・・・この身に受けた呪いは 負けて死ぬことでしか解けることは無い」
東雲汐音「えっ・・・ 負けたいどころか死にたいの? なんでっ!?」
怪魔剣士コジュウロウ「見ていたのなら分かるだろう 怪人の身では、マトモな生活は送れぬ」
怪魔剣士コジュウロウ「我が身の不始末とはいえ・・・ 生きる意味を見失った今、 この生活はあまりにも虚しい」
怪魔剣士コジュウロウ「さりとて手加減を選べぬというのが 我が身の不器用さよな・・・」
東雲汐音「よく分かんないけど・・・ そういうの、良くないと思う! 怪人のおじさんも、他に楽しいことを 探したらいいのに」
怪魔剣士コジュウロウ「・・・余計な話をしたな 忘れろ、娘 そして私のような怪人には、 あまり関わらないことだ」
怪魔剣士コジュウロウ「それと・・・おじさんは辞めろ 怪魔剣士コジュウロウだ」
東雲汐音「忘れろって言ってから自己紹介した!?」
東雲汐音「ならコジュウロウも「娘」はやめて わたしの名前は東雲汐音だよっ!」
東雲汐音「それじゃあ、お箸はあげたからね! ちゃんと食べて、ちゃんと生きるんだよ~!!」
  呼び捨てだった──
  
  ──さておき、東雲汐音との会話は
  私にとって、久しぶりの人間らしい会話
  ・・・安らげるひと時だった
  こうした他愛ない時間さえ、
  怪人となった私には得難い幸福だ
  
  だからこそ、想うのだ
  私は倒されなければならない
  負けて・・・
  怪人としての味気ない生を、
  終わりにしなければならない

〇ラーメン屋のカウンター
怪魔剣士コジュウロウ「──恐れずに聞いて欲しい 豚骨ラーメン、麺はバリ堅で、トッピング追加にメンマと半ライスを頼みたいのだが」
ラーメン店長「うわぁラーメン怪人か!? 悪ぃが余所行ってくんなっ!」
怪魔剣士コジュウロウ「むぅ・・・ やはりラーメン屋もダメか 胆力のありそうな店主だったのだが」
怪魔剣士コジュウロウ(先日の娘・・・ 東雲汐音のように会話できる者は やはりそうそういないのだな・・・)
怪魔剣士コジュウロウ(やはり怪人の身では、 人生の楽しみなど、他に見つけようも あるまいよ・・・)
テレビ「──次のニュースです 本日、マハラ町の異界科学研究所にて 怪人の襲撃事件が発生 特務ファイターが出動したものの──」
怪魔剣士コジュウロウ「特務ファイター・・・ 昨日の戦士の所属するチームか あの実力では厳しいだろうな」
怪魔剣士コジュウロウ「敗北から学び、強くなれる逸材であれば いずれは私を倒す事も叶うだろうが・・・ あの様子では、望みも薄いか」
テレビ「現在、研究所所長の 東雲修吾さんと、その娘、 東雲汐音さんが建物内に取り残されており──」
怪魔剣士コジュウロウ「──東雲、汐音?」

〇研究施設のオフィス
レッドファイター「うわぁぁぁっ!! 満点試験のこの俺が・・・!!」
東雲汐音「うぅっ・・・ そんな気はしてたけど、 やっぱ一撃でやられてる・・・!!」
フレムネスト怪人ヴォルケス「他愛ないですねぇ それではここの研究データは 我ら異界侵蝕族フレムネストの為に──」
東雲汐音「だ・・・だめっ!! ここの研究は、 困っている人を助ける為のものなんだから」
東雲修吾「ぐっ・・・ やめろ汐音・・・ 逃げるんだ・・・」
東雲汐音「お父さん!! ケガしてるんだから 喋っちゃだめだよ!!」
フレムネスト怪人ヴォルケス「黙るのは貴女もですよ 邪魔をするというのなら・・・」
フレムネスト怪人ヴォルケス「──焼き潰しますよ?」
東雲汐音「ひぅ・・・!!」
???「──それは困るな」
フレムネスト怪人ヴォルケス「・・・!! 何者です!?」
怪魔剣士コジュウロウ「光も闇も断つ刃 ──怪魔剣士、コジュウロウ」
東雲汐音「コジュウロウ!? なんでここに!?」
フレムネスト怪人ヴォルケス「怪魔剣士コジュウロウ・・・ その名は知っていますよ」
フレムネスト怪人ヴォルケス「暴龍帝国ドスガリウスや 機怪猟兵マキアゲイルを倒した 地球最大の戦力、霧矢紅人・・・ 彼とライバル関係にあった、怪人剣士」
フレムネスト怪人ヴォルケス「ですが彼が『死んだ』後は、 表舞台に立つことは無かった筈ですが ・・・どういう風の吹き回しです?」
怪魔剣士コジュウロウ「アイツは死んではいない ・・・消えただけだ」
怪魔剣士コジュウロウ「おかげで私は死に損なったが・・・ 貴様には関係の無い話だ」
フレムネスト怪人ヴォルケス「それは失礼しました で・・・何の用です? まさか、邪魔立てするおつもりで?」
東雲汐音「あっ・・・!! まさかコジュウロウ 死にに来たんじゃないよね!?」
東雲汐音「こ、ここで死なれても迷惑だからね! そういうつもりなら早く帰って!!」
怪魔剣士コジュウロウ(・・・またか 内心では恐ろしい癖に 私の心配をしてみせるのだな、汐音は)
怪魔剣士コジュウロウ「安心しろ、汐音 死にたいだけで死ねる身ではない ここへ来たのは──」
怪魔剣士コジュウロウ「──割り箸の礼がまだだ、と思ってな」
フレムネスト怪人ヴォルケス「は・・・割り箸? ずいぶんつまらない理由で 我々に盾突くんですね?」
怪魔剣士コジュウロウ「貴様には分かるまい 小さな勇気の尊さ ちょっとした親切の有難さ・・・」
  ──ああ、思えば
  
  アイツはそれを知っているから、
  どんな敵とも戦えたのだろう
  知っているから、私を止めたのだろう
  私は力だけを求めた、
  心の弱き怪人だ
  今でも、負けることばかりを期待している
  
  けれど──
怪魔剣士コジュウロウ「──至極残念だが 貴様に私は倒せまいよ」
フレムネスト怪人ヴォルケス「戯言をッ!!」
怪魔剣士コジュウロウ「満点男よりはマシだが ──ぬるいな」
フレムネスト怪人ヴォルケス「効いてない、ですって!?」
怪魔剣士コジュウロウ「──魔人剣、夜津咲──」
フレムネスト怪人ヴォルケス「ぬぅ・・・ ──ふふっ、残念でしたね! 我が身は焔!! 斬撃など痛くも痒くも──」
怪魔剣士コジュウロウ「──百禍、両断」
フレムネスト怪人ヴォルケス「なッ・・・ばッ・・・」
フレムネスト怪人ヴォルケス「バカなァァァァァッッ!!!?」
怪魔剣士コジュウロウ「──やはり、また 私が負けることは無かったな」
東雲汐音「コジュウロウ~!!!!!!」
東雲汐音「ありがとうコジュウロウ!! コジュウロウは命の恩人だよ~!!」
怪魔剣士コジュウロウ「やめろ、怪人相手に 言ったハズだ、これは割り箸の礼だと」
怪魔剣士コジュウロウ「それにしても・・・フレムネストか 少しは骨のある相手だったが、 この分では、私を倒す逸材は期待出来んな」
東雲汐音「もう・・・またそんなこと言って 生きる意味が無いなら探せば良いのに」
怪魔剣士コジュウロウ「無理を言うな、汐音 やはり怪人として在る限り、 それは叶わぬ願いなのだ」
東雲汐音「なら、いい方法があるよ?」
怪魔剣士コジュウロウ「なに? それは一体なんだ!?」
東雲汐音「怪人じゃなくて、 ヒーローになっちゃえば良いんだよ!」
怪魔剣士コジュウロウ「・・・・・・・・・・・・」
怪魔剣士コジュウロウ「・・・何を言いだすかと思えば 馬鹿馬鹿しい・・・」
東雲汐音「えー でも今日のコジュウロウは わたしにとってヒーローだったけどな」
東雲汐音「ヒーローとして有名になれば、 コジュウロウを怖がる人もいなくなるよ!」
  有り得ない話だ、と私は思う
  ヒーローとは、人の為に死力を尽せる者
  力より、強き心を持つ戦士のこと
  私はアイツのようには成り得ない
  何処まで行っても、私は死に損ないの
  怪人でしかないのだ
  
  ──それでも
怪魔剣士コジュウロウ「──ではな、汐音」
東雲汐音「うん また会おうね、コジュウロウ!!」
  その日の私の胸には
  10年の間、感じた事のない充実感が
  満ち満ちているのだった・・・・・・

コメント

  • 武士語で話す怪人というのも独特の味わいがあっていいですね。「忘れろ」と言った後で自己紹介するコジュウロウとそれにツッコむ汐音には笑ってしまった。最高のコンビ、そして親友になれそうな二人だなあ。

  • 最強なのに、コンビニ行けない、ラーメン食べれない人生(怪人だから怪人生?)って、辛すぎる…(T-T)
    ガンバレ小十郎、せめてカップラーメンを食べれる生活を目指して!(何か違う?)

  • 怪人コジュウロウは死ぬ為に行動しても何故か死ねない。でも心はなんだか優しいところがあるんですね。ヒーローとして頑張って生きてください。

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