姫たるもの(脚本)
〇ホストクラブ
サイオン「同類じゃん!? 明らかに同類だろ!!! 姫なにやってんの!?」
マリンたそ「サイオンくんがかまってくれないんだもん・・・ ブーさんのギルドの子、ヒーラー多いしマリンたそが入る枠なんてないし・・・」
なんかこのネカマ、謙虚アピールしてる・・・
???「だけども、マリンたそ上手だから教わりたいって子、うちのギルドいっぱいいるわよ?」
マリンたそ「教えるようなガラじゃないって・・・」
とにかく。
このムキムキのセーラー服のオカマとマリンたそ・・・もとい姫川は結構親密な仲のようだ。
サイオン「・・・帰っていいすか?」
マリンたそ「帰らないでよぅ!!!」
???「そうよ、せっかく来たんだから遊んでってちょうだい?」
サイオン「ホモホモしいスクショをとってSNSに上げる趣味はないので・・・」
???「でもアタシ、マリンたそのお気に入りって聞いて一度会ってみたかったのよ~~?」
サイオン「お気に入り・・・」
奴隷の間違いでは?
サイオン「なるほど?」
コミュニケーション取りませんとシャットアウトするのもよろしくないし、少しくらい話してもいいか───
高級そうな椅子にキャラクターを座らせて、机上のドリンクを飲むエモーションを使う。
???「慣れてるのねぇ、操作」
サイオン「ん、まあ」
マリンたそ「ねえ、ブーさん。 マリンたそ、あっちの新人ホストくんがいっぱいいる方にいってきてもいい?」
???「ええ、いいわよ」
マリンたそ「わぁい♡ いっぱいかまってもらお~~~♡」
うわキッショ・・・じゃなくて。
私を置いていくな、お前のフレンドだろ・・・!!
???「二人きりに、なっちゃったわねぇ」
サイオン「置いていかれた気分ですよ・・・」
女装マッチョと二人きり。
これがリアルだったらケツの危機を感じるところだ。
サイオン「それで、イヴェリコさんはなんでブーさんって呼ばれてんスか」
イヴェリコ「名前がイベリコ豚っぽいから・・・?」
イヴェリコ。
彼もまた有名なプレイヤーだ。
白百合アリスがマスターをしていたギルド【ロマネスク】のメンバーでギルド戦では要注意とマークされるほどの廃プレイヤー。
それがまぁ、なぜホストクラブなんてしているのか。
サイオン「アレ(マリンたそ)と長いんですか」
イヴェリコ「まぁねぇ。10年来かしら。 弟みたいなモノよ、あの子」
弟・・・
マリンたそがネカマということも承知で今も付き合いをしているのか。
サイオン「その弟さん、他人の弱み握って囲いをさせてるんですけど・・・」
イヴェリコ「脅されて遊んでる割には、随分と真面目にプレイするのね?」
・・・・・・確かに。
私はなんでこんなに真面目に姫川の囲いをしてるんだろう。
こんなやつ、放置して別ゲーにでも行けばいいのに。ご丁寧に課金なんかして。
サイオン「・・・このゲーム、別に嫌いじゃないんで」
イヴェリコ「よかった」
イヴェリコ「ところで、マリンたそとどのくらい遊んでるの?あの子、けっこう強いでしょ?」
サイオン「はい、絶望的に姫プに向いてないレベルで上手いですね・・・」
イヴェリコ「そうなのよ、マリンたそってすっごく安心できるヒーラーなのよねっ」
サイオン「なんであんなことしてるんでしょうねぇ」
虚無の会話の中、マリンたそが向かったテーブルに視線を移すと・・・
マリンたそ「えぇっ!? マリンたそにプレゼント・・・!?」
「はい!!!!」
マリンたそ「気持ちは嬉しいけど・・・ マリンたそにプレゼントするより、自分に使ってほしいな? ふたりとも、回復職でしょ?」
「マ、マリンたそさん・・・!!」
もらえよ、姫だろ
お前が欲しがってた貢ぎ物だぞ
サイオン「ほんっと、姫に向いてねぇな・・・」
イヴェリコ「いいのよ、アレで。 アレがマリンたその姫道・・・」
サイオン「ひめどう・・・?」
イヴェリコ「貢いでもらって、相方という名のバーチャル彼氏を作る・・・それもまた一つの姫道・・・」
いや、だから姫道ってなんだよ
イヴェリコ「姫たるもの、常に楽しませる存在であれ────」
イヴェリコ「囲いの騎士くんたちから金品を搾り取り、振りまく愛嬌を恋慕に誤変換させる──」
イヴェリコ「そんな半端な、詐欺師みたいな姫道では白百合アリスを超えられないでしょ?」
サイオン「・・・ははは、白百合アリスは詐欺師って言いたいんですか?」
ああ。
マリンたそと親しくして、放逐している時点で、この人は白百合アリスにとっての理解者の一人だとわかっているのに──
私は底意地の悪い、ひねくれた質問をなげかける。
イヴェリコ「そんなことは絶対ないわっ!」
イヴェリコ「白百合アリスは──みんなが思うような姫じゃない」
イヴェリコ「だからこそ、あんな結果になってしまったことが悔しくて────」
サイオン「いいんですよ、別に。 そんなに必死で否定しなくても。 きっと身内の戯言、そう流されてきたんでしょう」
イヴェリコ「──────っ!」
サイオン「だけど、それでもいいんです。 白百合アリスは極悪非道の売女の悪徳姫プレイヤー、それでいいじゃないですか」
汚名をすすぐとか、そういうことを今更しても何にもならない。
サイオン「わかる人だけわかってればいいでしょう、白百合アリスが姫じゃなかったことなんて」
白百合アリス、そもそも彼女は姫なんかではなく────
イヴェリコ「いや、まあ白百合アリスは「姫」だったわよ?」
サイオン「・・・・・・・・・・・・」
サイオン「まぁじで?」
〇ヨーロッパの街並み
マリンたそ「遊んだ~~~~!!! いっぱいSSとった~~~!!!! 後で加工しよ~~~!!!」
サイオン「・・・・・・・・・・・・」
置いて行かれた挙げ句、女装マッチョと謎の会話をしていた私の気持ちにもなれ姫川
サイオン「あのさぁ、マリンたそ」
マリンたそ「なぁに?」
チャットログ上でしかないが、なんとなく機嫌がよいのがうかがえる。
サイオン「白百合アリスって姫だと思う?」
マリンたそ「これまた唐突だね? うん、姫だと思うよ?」
マリンたそ「姫ってさ、エンタメなんだよ」
サイオン「エンタメ?」
マリンたそ「うん」
マリンたそ「いわばオンラインゲームという陰キャの巣窟に咲いた一筋のアイドル、それが姫・・・・・・」
サイオン「ひでえ言い方だな」
マリンたそ「つまるところ、姫はまわりを楽しませてこその姫なのね。だからエンタメ、アイドルってことなんだよ?」
サイオン「・・・その理論でいうと、白百合アリスはまわりを楽しくさせていたのかな」
マリンたそ「うん」
〇美しい草原
白百合アリス「【ロマネスク】には慣れましたか、Ivyさん」
Ivy「はい!!! めっちゃ楽しいっす!!!」
白百合アリス「────そう、よかった」
〇ヨーロッパの街並み
サイオン「そっか、そうだったよなぁ」
サイオン「マリンたそ、お前とはいい酒が呑めそうだ・・・」
マリンたそ「え? じゃあ飲む?」
サイオン「・・・・・・・・・・・・」
マリンたそ「・・・・・・・・・・・・」
サイオン「・・・・・・・・・え?」
マリンたそ「じゃあ明日の夜ね?」
サイオン「・・・・・・・・・・・・」
サイオン「お前の姫道、しかと心に刻んだぜ・・・・・・」
マリンたそ「────は? 姫道?」
「・・・・・・・・・・・・」
〇黒背景
──ねえ白百合アリス。
いつか君が戻れる日が来るのだろうか。
そのときは一人ぼっちじゃないよ、きっと。