エピソード2.平助と魔法のクッキー(脚本)
〇病院の待合室
野上 叶香「はぁ・・・・・・ はぁ・・・・・・ はぁ・・・・・・」
十六夜 節那「親父さん・・・・・・!! 頼む、無事でいてくれ・・・・・・!!」
看護師「野上 平助(のがみ へいすけ)さんのご家族の方ですね。どうぞ、こちらです」
〇手術室
お父さん「・・・・・・」
野上 叶香「お父さん!! ねぇ、目を開けて!!」
看護師「一刻を争う状況よ。あまり期待を持たせる事は酷だから・・・・・・正直に言うわね」
看護師「奇跡はあり得ないわ。覚悟しておいてね」
野上 叶香「い・・・・・・」
野上 叶香「いやぁあぁああ!!」
〇病院の廊下
十六夜 節那「おい、叶香」
野上 叶香(私、さっきまで願い事は自分で叶えるって誓ったばっかりなのに・・・・・・)
十六夜 節那「おい」
野上 叶香(これじゃあ・・・・・・)
十六夜 節那「おい、叶香!!」
野上 叶香「魔法のクッキーに頼るしかないじゃない!!」
十六夜 節那「はぁ? お前何言ってんの?」
十六夜 節那「って、おい!! お前どこ行くんだよ!!」
十六夜 節那「ったく、叶香の母ちゃんもいねぇのに一人で突っ走りやがって・・・・・・」
十六夜 節那「待ちやがれ!!叶香!!」
〇病院の待合室
野上 叶香「魔法のクッキーさえあれば、お父さんはきっと助かる!!」
野上 叶香「待っていてね、お父さん!! 絶対に助けてみせるからね!!」
十六夜 節那「こら待て叶香!! こんな非常時にどこ行こうとしてんだよ!!」
野上 叶香「クッキーを取りに行くの!!」
十六夜 節那「馬鹿野郎!! お父さんがヤベェ時に何考えてんだよ!!」
野上 叶香「クッキーがあればお父さんは大丈夫なの!!」
十六夜 節那「大丈夫じゃねぇのはお父さんとお前の頭だ!!」
パシーン!!
野上 叶香「なっ、何するのよ!! いきなり叩く事ないじゃない!!」
ざわ・・・
ざわ・・・
ざわ・・・
十六夜 節那「流石にやり過ぎたな。 場所変えっぞ」
野上 叶香「ちょっと何するのよ!! 離して、離してってば!!」
〇屋上の入口
十六夜 節那「よし、ここなら落ち着いて話も出来るだろ」
野上 叶香「どうしてここまで連れてきたの!? 私は急いで家に帰らなきゃいけないのに!!」
十六夜 節那「危篤の親父さんを置いて家に帰らなきゃいけない納得が行く理由を教えてくれ」
野上 叶香「そ、それは・・・・・・」
野上 叶香(魔法のクッキーを使ってお父さんを助けたいって言ったら、節那は信じてくれるかな?)
野上 叶香(無理だよね。昔から節那はオカルトの類の物は一切信じないタイプだったし・・・・・・)
野上 叶香(どうしよう・・・・・・)
十六夜 節那「・・・・・・魔法のクッキーって何?」
野上 叶香「ど、どうしてそれを知ってるの!?」
十六夜 節那「さっきお前言ってたじゃん」
〇病院の廊下
野上 叶香「魔法のクッキーに頼るしかないじゃない!!」
〇屋上の入口
野上 叶香「あっ・・・・・・」
十六夜 節那「今日の伊集院の様子といい、魔法のクッキーっていう穏やかじゃない単語といい、そして親父さんの事故といい、」
十六夜 節那「無関係だと決め付けるには不自然な事が重なり過ぎている」
十六夜 節那「まぁ、大体何があったかは察しが付くけど出来ればお前の口から真相を聞きたいな」
野上 叶香「でも・・・・・・」
十六夜 節那「俺はオカルト的な類の物は信じないタイプだが・・・・・・」
十六夜 節那「友達の言う事は信じるタイプなんだぜ」
十六夜 節那「毎日泣きベソかいてた時からの付き合いのお前なら尚更だ」
十六夜 節那「だから下手な嘘は付かずに正直に話してくれ」
野上 叶香「うぅ・・・・・・!!」
野上 叶香「節那ー!! ごめんねー!!」
〇屋上の入口
数分後
十六夜 節那「はぁ、なんでも願いが叶う魔法のクッキーねぇ・・・・・・」
野上 叶香「やっぱり信じられないよね?」
十六夜 節那「お前じゃなきゃ信じねぇよ」
十六夜 節那「・・・・・・親父さんは一刻を争う事態だが、俺は魔法のクッキーに頼るのはちょっと待った方がいいと思ってる」
野上 叶香「どうして!?」
十六夜 節那「願いを叶えるのには、 必ず代償ってモンが付くんだ」
十六夜 節那「今はまだ確証はねぇけど、お前が伊集院と両思いになりたいと願った代わりに親父さんが事故に遭った」
十六夜 節那「そして今度はお前が親父さんを助けたいと願いながらクッキーを食べると、代償として誰かに不幸が起こる」
十六夜 節那「代償がお前の母親の命だったら、どうする?」
野上 叶香「ヒッ!?」
十六夜 節那「代償が分かんねぇ以上クッキーには手を出さない方がいい」
野上 叶香「それじゃあ、節那はお父さんを諦めろっていうの!?」
十六夜 節那「ちげぇよ!! やり方を変えるんだよ!!」
野上 叶香「やり方?」
十六夜 節那「そうさ。奇跡を捕まえるんだ」
十六夜 節那「叶香、アイツに連絡だ」
〇手術室
ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・
看護師「ここまでのようね・・・・・・」
看護師「ごめんなさい・・・・・・」
「I made you wait!! 私の患者はここだね!!」
看護師「このネイティブな発音の英語と全世界の人類のポジティブを吸い取り生きているウザったらしい声は!?」
伊集院 才「もう大丈夫だ!! 後はこの奇跡の天才医師 伊集院 才(いじゅういん さい)に任せたまえ!!」
〇病院の廊下
伊集院 累「マイスイートハニー♪ 僕を頼ってくれて嬉しいよ♪」
野上 叶香「まさか伊集院君のお父さんがお医者様だったなんて・・・・・・」
十六夜 節那「お前、本当にコイツの見てくれしか見てねぇのな。こいつのお父さんの事は何の面識も無ぇ俺ですら知ってんだぞ?」
野上 叶香「うっ、そ、それは・・・・・・」
伊集院 累「いいのさ。これからお互いの事を知っていけばいいのさ。マイスイートハニー♪」
野上 叶香「ヒッ!?」
十六夜 節那「はいはい。ここは病院だし、コイツは今大変なんだからイチャつくのは後にしてくれ」
伊集院 累「おっと、ハニーを困らせてしまった様だね!!」
伊集院 累「ハニー、安心してくれ!! 君のお父さんは必ず、僕の父が助けてくれる!!」
伊集院 累「私の父に治せない患者はいない。 だからもう心配しなくてもいい。 僕が保証するよ!!」
野上 叶香「・・・・・・」
野上 叶香「ありがとう!!伊集院君!!」
〇病院の廊下
数時間後
伊集院 才「お嬢さん」
野上 叶香「は、はい!!」
伊集院 才「もう大丈夫だ。安心しなさい」
野上 叶香「よっ・・・・・・」
ガタッ!!
伊集院 累「ハニー!?」
十六夜 節那「おい、大丈夫か!?」
野上 叶香「良かったよぉ!!!!」
〇病院の待合室
十六夜 節那「落ち着いたか?」
野上 叶香「うん。 ・・・・・・もう、諦めかけていたから」
十六夜 節那「だな」
野上 叶香「本当に、良かった・・・・・・」
十六夜 節那「そうだな」
野上 叶香(魔法のクッキーに頼らなくても、誰か身近な人に頼る事が願いを叶える近道になる)
野上 叶香(節那に嘘をついたままだったら、 無理にでも家に帰ってクッキーを食べていたら)
野上 叶香(きっと奇跡は起こらなかった)
野上 叶香(一人で抱え込む前に、誰かに相談してみよう。きっと思わぬ形で良い方向に進むと思うから)
十六夜 節那「しかし、叶香の母ちゃんはどこ行ったんだ?」
野上 叶香「あっ、そういえばお母さんは!?」
十六夜 節那「いや、今更気付いたんかい」
野上 叶香「だっ、だって、お父さんの事もあったから・・・・・・」
十六夜 節那「親父さんが無事だって事、電話して伝えろよ」
野上 叶香「あっ、うん、そうだね!!」
おかけになった電話番号は、電波が届かない場所にいるか、電源が入っていない為、お繋ぎ出来ません。
野上 叶香「あれ、おかしいなぁ。 お母さんに繋がらないよ?」
十六夜 節那「お、おい、叶香!!」
野上 叶香「どうしたの?」
十六夜 節那「テレビを見ろ!!」
今日の夕方、朝谷市(あさやし)にお住まいの野上さん宅が
火事が起こり今も消火活動を行なっております。
藁にも魔法のクッキーにも縋りたい叶香さんと、冷静にその代償まで想像する節那くん、好対照ですね。この2人のやり取りは、願望・欲望と代償・リスクについて考えさせられますね。そして驚きのラスト、これも代償でしょうかね?