怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード21(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

今すぐ読む

怪異探偵薬師寺くん
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇学校の校舎

〇教室
  昼休みになり、俺と由比とスワはいつも通り3人で昼食をとっていた。
  7月も中盤になると、蒸し暑い日が続く。
  衣替え期間も終え、半袖になったとしてもじっとした暑さは変わらない。
  ぬるい扇風機の風が髪を撫でたとき、目の前のふたりが「あ」と口を開けた。
  首をかしげた、次の瞬間。
  ガバッ
「だーれだっ!」
茶村和成「!?」

〇黒
  突然視界が暗くなる。
  誰かに背後から目隠しをされたようだ。
  俺は慌てて目元を覆っている手を振り払い、後ろを向く。そこには見慣れた顔があった。

〇教室
茶村和成「薬師寺・・・」
薬師寺廉太郎「やっほー茶村」
  薬師寺はひらひらと手を振る。
  バカバカしい、と呆れて俺は弁当に箸を伸ばした。
薬師寺廉太郎「それにしても、夏はいいねぇ〜」
茶村和成「!?」
  薬師寺の指が俺の二の腕をすりすりと触る。
  夏服なのでもちろん素肌だ。
  俺は無言で拳を握り、薬師寺に正義の鉄拳を見舞いした。
薬師寺廉太郎「あうっ」
茶村和成「気持ち悪いことすんな!」
諏訪原亨輔「相変わらずですね」
  そんな俺たちの様子を眺めながら、スワと由比は苦笑いを浮かべている。
  その視線に気づいた薬師寺は、にっこりとふたりを微笑み返した。
茶村和成「それで薬師寺、なんの用だ?」
  薬師寺は俺に殴られた箇所をさすりながら、「あ、そうだ」とわざとらしくつぶやく。
薬師寺廉太郎「いや、大したことじゃないんだけど」
茶村和成「なんだよ?」
薬師寺廉太郎「今日の夜ごはんなんなのかな〜って」
茶村和成「・・・はあ」
  あまりにしょうもない理由に脱力して、ため息が出てしまった。
茶村和成「そんなくだらないことのために来たのか?」
薬師寺廉太郎「くだらなくなんかないよ! 茶村のご飯は美味しいんだから」
茶村和成「わかったよ・・・なにか食べたいものあるか?」
薬師寺廉太郎「うーん・・・カレーかなぁ」
  薬師寺はそう言ったあとに、俺と目を合わせてにぱっと笑う。
薬師寺廉太郎「まあ、茶村の愛情がこもっていれば、なんでもいいんだけどね」
茶村和成「じゃあ聞きに来るな」
薬師寺廉太郎「ひゃひゃっ、いいじゃん。 それじゃお願いね〜」
茶村和成「まったく・・・」
  おとなしく去る薬師寺の背中を見守る。
  本当にアイツ、夜ごはんのメニューを聞くために来たのかよ・・・。
由比隼人「まるで新婚夫婦みたいだな」
諏訪原亨輔「同感だ」
茶村和成「・・・なに言ってんだ」
  そうは言ったものの、微妙に否定できない自分もいた。
  複雑な気持ちで弁当を食べ進める俺に由比が質問を投げかける。
由比隼人「茶村って今、薬師寺さんと住んでるんだよね?」
茶村和成「・・・まあな」
由比隼人「薬師寺さんっていつもあんな?」
茶村和成「あー、だいたいあんな感じ」
由比隼人「ふうん。3年生なんだよな、何組? もしかしたら俺の先輩と友達かも」
茶村和成「・・・わからん」
由比隼人「あ、そうなんだ。 部活とかは入って・・・なさそうだな」
茶村和成「・・・たぶん」
由比隼人「んじゃ、普段なにしてんの?」
茶村和成「・・・さあな」
由比隼人「・・・本当に一緒に住んでんの?」
  由比は眉間にシワを寄せて肩をすくめる。
  言われてみればあいつのこと、俺もよく知らないな・・・。
  そもそもの出会いが強烈すぎて、普段なにをやってるかなんて疑問に思ったことがなかった。
  食べ終えた弁当を片付け、トイレに行くことだけ伝えて席を立つ。

〇学校の廊下
  用を足してトイレから出たところで、昼休みが終わる鐘が鳴った。
  とは言っても5時間目は自習なので焦る必要もない。
  ゆったりとした足取りで教室に戻ろうとすると、階段を降りていく薬師寺の後ろ姿が視界に入った。
  薬師寺はこれからなんの授業なんだろ。
  そう思ったところで、はたと足がとまった。
  3年の教室は上の階にある。今の時間に、薬師寺が階段を下りるのはおかしい。
茶村和成(あいつ・・・ちゃんと授業受けてるのか?)
  そう思った俺は、こっそり薬師寺のあとをつけることにした。

〇学校の校舎
  薬師寺は階段を下りたあと、そのまま校舎から出て、中庭の方へ歩いていく。
  俺は少し後ろめたい気持ちで、薬師寺のあとに続いた。
  薬師寺は中庭の奥までどんどん進んでいく。
  そして草むらの中に放置された、今は使われていない薄汚れた倉庫の前にたどりついた。
  薬師寺がポケットからなにかを取り出す。
  よく見えないけど、針金か?
  そしてカチャカチャと鍵穴をいじったかと思うと、軽快な音がして倉庫の鍵が空いた。
茶村和成「・・・・・・」
  機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら薬師寺は倉庫の扉を開き、中を物色する。
  そして立ち上がった薬師寺の手には、薄汚れたクッションが握られていた。
  すっかりくたびれたクッションを持ったまま、薬師寺は倉庫の向こう側へと歩いていく。
  俺も見つからないよう慎重に薬師寺のあとを追う。
  陰からそっと覗(のぞ)くと、薬師寺は目立たない位置に設置されているベンチに寝転がっていた。
  ポケットから文庫本を取り出して、薬師寺は寝転がった体勢で読み始める。
  薄汚れたクッションを頭の下に敷き、なんとも優雅な読書タイムだ。
茶村和成「・・・・・・」
  あいつ、やっぱり授業受けてないじゃないか。
  まあ、あいつがまともに授業受けてるところなんか想像もつかないけど・・・。
  はあ、とため息をつく。
  すると、背後から物音が聞こえた。
  振り向くと、教師がこっちに向かって歩いて来ている。
茶村和成(やば・・・)
  俺はとっさにそばの茂みの裏に隠れた。
  近くの地面を足音が過ぎていく。
  息を潜め、教師の背中が遠のいていくのを見送った。
  教師が去ったあと、安堵の息を吐いてから、薬師寺がさっきまでいた場所に目を向ける。
  しかし、そこに薬師寺の姿はなかった。
茶村和成(あいつ・・・どこ行った?)

〇学校の校舎
  少し探し回って、やっと薬師寺を見つけた。
  校舎の裏で野良猫と並んで、幸せそうな寝息を立てている。
  ひんやりとした日陰でのんきに目を閉じている薬師寺は、俺に気づく様子はない。
  自由人すぎる薬師寺の行動に呆れ、脱力した俺は薬師寺のそばに腰を下ろした。
  心地いい風が肌を撫でる。
  猫も認めるお昼寝スポットは、俺の意識も軽くすくってしまいそうだ。
  しばらく睡魔と戦っていたが、まばたきのたびに瞼(まぶた)が重くなるのを感じる。
茶村和成(あ、これ、やば・・・)

〇黒

〇学校の校舎
茶村和成「・・・っ!」
  鐘の音に驚いて身体が跳ねる。
  どうやら眠ってしまったらしい。
  薬師寺はまだ起きていないようで、俺が眠る前と全く同じ姿勢と表情で眠っている。
  俺はそっと息を吐いて、薬師寺のそばで丸まっている猫を一度だけ撫でた。
  猫は煩(わずら)わしそうに俺を一瞥(いちべつ)してから、またすぐに眠りの世界へと向かっていく。
茶村和成(っていうか、次の授業!)
  心地のいい場所からは離れ難かったが、6時間目は普通の授業だ。

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:エピソード22

成分キーワード

ページTOPへ