怪人さんとお嬢様

青井井蛙

怪人さんとお嬢様(脚本)

怪人さんとお嬢様

青井井蛙

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〇けもの道
(クソッ、油断した・・・)
(このオレが怪我するなんて)
怪人さん(ここは・・・どこだ)
怪人さん(クソ。こうなったら適当に人間でも襲って・・・)
お嬢様「まぁ!? なんてこと!」
怪人さん「ア?」
お嬢様「その凶暴な角、硬い皮膚、あなたはまさか・・・」
お嬢様「なんて・・・」
お嬢様「なんて大きなクワガタムシでしょう!!」
怪人さん「・・・は?」
お嬢様「あの角の尖り具合、きっと”森の主”に違いありませんわ!!」
怪人さん「なに言ってんだこいつ」
お嬢様「さぁクワガタさん、わたくしと一緒に来ていただきますわよ」
怪人さん「・・・おい、ちょっと待て」
お嬢様「まぁ!クワガタさんは喋るのですね!驚きですわ」
怪人さん「さっきから喋ってるだろうが!」
怪人さん「大体オレ様はクワガタムシじゃねぇ! 怪人様だ、怪・人!!!」
お嬢様「カイ、ジン・・・?」
怪人さん「おう。やっとわかったか」
お嬢様「えぇ。カイジンさん、というお名前なんですね」
怪人さん「だーっクソッ!!」
怪人さん「いいか!怪人っつーのは!!!」
  怪人は木の棒を拾い、地面に『怪人』と文字を書いた
お嬢様「怪、人」
怪人さん「そう!オレ様は人間どもが恐れおののく怪人様だ!!」
怪人さん「何人も人間を襲ってきた、恐ろしい怪人様なんだよ!!!」
怪人さん「・・・わかったか。間抜けな嬢ちゃん」
お嬢様「・・・はい」
お嬢様「・・・・・・怪人さん」
怪人さん「なんだ?今さら怖くなったか?」
お嬢様「あの・・・お願いがあるんです」
怪人さん「ア?お願いぃ?命乞いなんざ聞かねぇぞ」
お嬢様「いえ・・・」
お嬢様「もし聞いてくださるなら、何をしても構いません」
怪人さん「お、おう・・・やけに物分かりがいいな」
怪人さん「まぁ、オレ様は寛大だから、最後の願いくらい聞いてやろう」
怪人さん「で、願いっつーのはなんだ」
お嬢様「・・・・・・わたくし」
お嬢様「怪人になる方法を教えて頂きたいのです」
怪人さん「・・・・・・・・・は?」

〇豪華な部屋
怪人さん(『怪人になる方法を教えて欲しい』か)
「・・・・・・」
怪人さん「つーかムダに豪華だなこの家!」
お嬢様「お待たせしました~」
お嬢様「春採れのダージリンですわ お口に合うといいですけれど」
怪人さん「お、おう。なんかわりぃな」
怪人さん「ズズズ・・・」
怪人さん「・・・こりゃうめぇ!緑茶のような爽やかな味と軽やかに抜ける香りがたまらねぇ」
怪人さん「砂糖はスプーン13杯、オレ様の好みをよくわかってるじゃねぇか・・・」
怪人さん「ってやってる場合か!!」
怪人さん「んで嬢ちゃん、具体的に何してぇんだ」
お嬢様「そうですわね。あなたのことが知りたいですわ」
お嬢様「例えば・・・今はどんな生活をされてますの」
怪人さん「生活だぁ?」
怪人さん「どうって・・・人間を襲うだろ、後は人間を襲って、人間を襲って・・・」
怪人さん「・・・・・・」
怪人さん(オレ様の生活ってそれだけか!?)
お嬢様「とっても素敵な生活ですわね!」
怪人さん「んなわけあるか!そっちのがよっぽどいい生活してるだろうが!」
お嬢様「いい生活、ですか・・・」
お嬢様「そういえば、どうして怪人さんは人間を襲うのです?」
怪人さん「そりゃお前、オレ様たちのエネルギーになるからだよ」
お嬢様「なるほど・・・」
お嬢様「では、わたくしにも人間の襲い方を教えてくださいませ!」
怪人さん「いやなんでそうなる」
怪人さん(こいつもしや、オレ様と同じ怪人・・・いや、成り立てほやほやとかなんじゃねぇか)
怪人さん「なぁ、嬢ちゃんは誰か恨んでいるヤツでもいんのか」
  強い恨み、憎悪、嫉妬、怒り・・・そんな己でも制御できない激情を抱いたとき、人間は怪人になることがある。
怪人さん(オレ様はとっくの昔にそんなもん忘れちまったが・・・)
お嬢様「・・・恨み?」
お嬢様「そんなもの・・・ありませんわ」
怪人さん「そうかい」
「おうコラ!?出て来いや!?」
怪人さん「なんだ!?表が騒がしいな」

〇古い洋館
悪い人「おいガキ!いんのはわかってんだ!」
お嬢様「あ、あの・・・」
悪い人「ちっ。やっと来やがったか」
お嬢様「前にも言った通り、お金は無いんですの・・・」
悪い人「あぁっ!?んだと!?」
悪い人「てめぇ、クソガキが」
怪人さん「・・・おい」
悪い人「あ!?んだてめぇ」
怪人さん「オレ様は怪人だ!!」
怪人さん「お前、ヤクザもんか?」
悪い人「・・・てめぇには関係ねぇだろ」
怪人さん「確かにこの嬢ちゃんがどうなろうとオレ様には関係ねぇ」
お嬢様「・・・怪人さん」
怪人さん「でもよぉ・・・」
怪人さん「人間を襲うのがオレ様の仕事なんだぜぇ!!」
悪い人「・・・てめぇ」
悪い人「俺に楯突くってわけだな、怪人の分際で」
お嬢様「か、怪人さん・・・」
怪人さん「嬢ちゃん、オレ様に教えて欲しいって言ったなァ・・・」
お嬢様「え、確かに言いましたが・・・」
怪人さん「ちょうどいいからよく見てろ」
怪人さん「今から実技の時間だぜぇぇぇ!!!」
お嬢様「え?」
怪人さん「うおぉぉらぁぁぁ!!!」
怪人さん「怪人パンチ!!!」
悪い人「ぐはっ!?」
怪人さん「怪人キーック!!!」
悪い人「ウグッ!?」
怪人さん「そしてとどめの・・・」
怪人さん「怪人乱れ打ちぃぃぃ!!!オラオラァァァァ!!!!」
悪い人「うっ・・・」
悪い人「く、くそ・・・」
悪い人「てめぇ、このままで済むと思うな・・・覚えてろよ・・・」
お嬢様「怪人さん・・・」
怪人さん「オレ様の技はどうだ?」
怪人さん「中々イカしてただろぉ?」
お嬢様「・・・」
お嬢様「ふふふ」
お嬢様「とてもかっこよかったですわ・・・技名以外は」
怪人さん「っんだと!?」
怪人さん(でもマァ、こいつを守れてよかった・・・)
怪人さん「・・・ん?」
怪人さん「ちげぇちげぇ!オレ様はただ人間を襲いたいだけで・・・ブツブツ」
お嬢様「どうなさいましたの?」
怪人さん「・・・なんでもねぇ」
怪人さん「それより、今度はこっちが聞かせてもらうぞ」
お嬢様「・・・・・・」

〇豪華な部屋
お嬢様「・・・という訳でして」
お嬢様「要するにわたくしの家は借金まみれ。借金取りに追われている状況なんですの」
怪人さん「おいおい・・・」
怪人さん「怪人のオレ様でもドン引きする状況じゃねぇか」
怪人さん(怪人になりてぇってのは、あいつらに抵抗してぇってことか)
怪人さん「で、嬢ちゃんの親は何してんだ」
お嬢様「わたくしを置いて逃げ出したきり、連絡もありませんわ」
お嬢様「昔は面倒を見てくれる人がいましたけど・・・今は誰もいなくなってしまって・・・わたくし、ひとりですの」
怪人さん「嬢ちゃん・・・」
お嬢様「でも、怪人さんに会えたので良かったですわ」
怪人さん「いや言ってる場合か!」
お嬢様「ふふ・・・わたくしは泣かないんですのよ」
怪人さん「ちっ、肝が据わった嬢ちゃんだ」
怪人さん「しかしあの森にいたってことは、逃げようとしてたっつーことか」
お嬢様「いえ?」
お嬢様「幻のオオクワガタを捕まえたかったんですの」
怪人さん「はぁ!?」
怪人さん「のんきにクワガタ採りだぁっ!?」
お嬢様「昔聞いたことがありますの。あの森には伝説の森の主がいるって・・・」
お嬢様「売ればきっと売れば大金になりますわ」
怪人さん「・・・やっぱダメだこいつ」
怪人さん「はぁ、しょうがねぇな」
怪人さん「あいつがまた来たらオレ様が追っ払ってやるよ」
お嬢様「・・・いいんですの?」
怪人さん「今日だけだぞ!今日だけだからなァ!」
お嬢様「怪人さん・・・」

〇古い洋館
怪人さん「チッ・・・」
怪人さん「マジで来やがったな、クソ野郎が」
悪い人「てめぇ、昼間の」
怪人さん「寝静まった頃に来るとは卑怯なヤツめ」
悪い人「なんで怪人がガキの味方してんだよ!」
怪人さん「うるせぇ!なんかムカつくからだ!死ね!!」
悪い人「フッ・・・死ぬのはてめぇの方だ」
怪人さん「ア?」
怪人さん「怪人・・・だと」
悪い人「やっちまえ!」
怪人さん「グッ!?」
怪人「・・・死ネ」
怪人さん「グハッ!!」
怪人さん「クソッ・・・」
怪人さん(死ぬのか、オレ様)
「死ネェェェェェ!!!」
怪人さん「うおぉぉぉぉぉ!!!!」

〇黒背景
「きょうからわたくしのおともだちですね」
  ア?んだコレ
「ずっとそばにいてくださいね」
  ・・・めんどくせぇ
「このこうちゃはわたくしがいれましたの」
  物足りねぇなぁ
「そんなにおさとうをいれたらむしばになりますわよ」
  うるせぇ!オレの勝手だ!

〇森の中
???「ふふふ~ん♪」
???「・・・あら?」
???「ここは・・・どこかしら」
???「おいコラ」
???「まぁ!」
???「まぁ!じゃねぇ!」
???「勝手に屋敷抜け出した上に迷子になってんじゃねぇよ!!!!」
???「ったく。オレの手を煩わせやがって」
???「さがしてくださったのですね」
???「ったりめぇだ。てめぇの親父に面倒みろって言われてんだ」
???「じんぎをとおす、というものですね」
???「難しい言葉覚えやがって・・・」
???「さっさと戻って宿題してろ」
???「いやですわ」
???「ア!?」
???「あそばないとおうちにはもどりませんわ」
???「このやろ・・・」
???「・・・はぁ、しょうがねぇな。かくれんぼでいいか」
???「いいんですの?」
???「今日だけだぞ!暗くなったら帰るからな」
???「はい!!!」
  男は数週間前に屋敷の主に拾われた。その借りを返すため、多忙な両親の代わりに嫌々娘の面倒を見ていた
???「ったく面倒な嬢ちゃんだ」
???「ま、そのうち屋敷の金適当にくすねておさらばだ」
???「・・・嬢ちゃん?」
???「よぉ兄ちゃん」
???「・・・なんだ、てめぇ」
???「んな警戒すんなよ。わかるぜぇ、あんた、俺と同じ匂いがする」
???「どういう意味だ」
???「あんた、こっちの世界の人間だろ。うまい話があんだ。どうだ、ノってみねぇか」
???「うまい話?」
???「この先に馬鹿でけぇ屋敷がある。富豪が住んでんだが、実は汚ぇ商売で儲けててな」
???(うちの屋敷のことか)
???「今そいつの一人娘が森の中にいるみたいでよ。どうだ?」
???(こいつ、オレが嬢ちゃんの面倒見ていること知らねぇのか)
???「・・・どうって、何が」
???「兄ちゃん鈍いなァ!そいつをかっさらうに決まってんだろ!」
???「・・・」
???(確かにどうせロクでもない金持ちだってのはわかってた)
???(それに借りってのもどうでもいい・・・むしろこいつの話に乗ればメリットがある)
???「どうだ、兄ちゃん」
???「・・・断る」
???「アァ?」
???「誰がんな面倒なことやるかよ」
???「・・・てめぇ」
  『じゃぁ、てめぇには死んで貰うしかねぇなぁ』

〇けもの道
???「はぁ、なんとか追い返せた・・・うっ!?」
???(ああクソッ、油断した・・・)
???(このオレが怪我するなんて・・・)
「どこにいますのー?」
???「・・・まずいな。こんな姿であいつに会うのは」
???「ちっ・・・」
???「・・・・・・」
  男は身体の怪我を庇いながら、地面に文字を書いていく
???「・・・もうあんなガキの面倒見なくていいなんて、清々するぜ」
「じゃあな・・・」
???「ぜんぜんみつかりませんわね・・・」
???「これは・・・」
???「あのひとのじ・・・しゅくだいをみてもらったから、おぼえてますわ・・・」
  『嬢ちゃんへ
   オレは幻の森の主を探してくる
   もうあの屋敷には帰らねぇ
   おまえとはさよなら、だ』
???「え・・・」
???「そ、そんなぁ・・・」
  森の中に、静かに少女の泣き声が響いた。
???「チッ、ガキの泣き声は傷に響く・・・」
???「血が止まらねぇ」
???「・・・死ぬのか、オレ」
???「・・・・・・クソッ」
「おい、もうすぐあの屋敷だ!」
「見つけたやつ全員やっちまえ!」
???「・・・さっきのヤツ、仲間を呼んできやがったか」
???「クソ野郎どもめ・・・!!」
???「人の腹刺しやがって・・」
???「・・・あいつのこと、泣かせやがって!」
  絶対に許さねぇ・・・

〇黒背景
「・・・ちゃんとおべんきょうしてますわ」
「わたくし、もうなきませんの」
「もりのあるじは、わたくしがみつけますわ」
「だから、おねがい」
お嬢様「怪人さん──」

〇可愛らしい部屋
怪人さん「・・・ん」
怪人さん「ここは」
お嬢様「怪人さん!」
お嬢様「起きましたのね。よかった・・・」
怪人さん「お前・・・」
怪人さん「そうだ!あいつらどうなった!?」
お嬢様「あなたが倒してくださったんですのよ・・・」
お嬢様「でも倒れてしまって・・・どうにかこの部屋まで運びましたの」
怪人さん「そうか。ならよかった」
怪人さん(オレは・・・ちゃんと守れたんだな・・・)
怪人さん「しかし嬢ちゃん、よくオレ様のこと運べたな」
お嬢様「えぇ。オオクワガタを運ぶ練習をしておいて良かったですわ」
怪人さん「どんだけでけぇの想定してたんだよ!」
怪人さん「・・・」
怪人さん「もう泣かないんじゃなかったのか」
お嬢様「え・・・あ・・・」
お嬢様「・・・ねぇ、怪人さん」
怪人さん「ん?」
お嬢様「わたくしが泣かないように・・・ずっとそばにいてくださいませんか」
怪人さん「・・・」
怪人さん「たく・・・しょうがねぇなぁ」

〇豪華な部屋
  こうして二人は末永く仲良く暮らしたとか──
お嬢様「ま!またそんなにお砂糖いれて!」
怪人さん「うるせぇ!オレ様の勝手だ!!」
  End

コメント

  • 笑える話かと思ったら、意外と泣ける話でホロリ(T-T)
    それにしても、悪い奴が連れてきた怪人は、どこから来たんでしょうね…
    何はともあれ、2人で仲良く暮らしてね!
    (悪い奴や逃げた両親は、こちらで処分するので…)

  • 人外と少女の組み合わせいいですよね。
    怪人さんと少女との心染み入るお話でした。
    どちらも本当に優しくて、お互いを思い合える素敵な二人です。

  • 前半部は怪人さんとお嬢様の噛み合わない会話とその空気感を楽しんでいたのですが、、、とっても心に染み入る後半部で。無頼者と思っていた怪人さんの、真っ直ぐな心根に感動です。

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