百合の葉に隠れないで

美野哲郎

第四話 『最初で最後のデートの終わり』(脚本)

百合の葉に隠れないで

美野哲郎

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〇カウンター席
レイン「──」
月居ゆず葉「──」
「──」
  ──
  ──
月居ゆず葉「あー、美味しかった」
月居ゆず葉「午後もエスコートしてくれるのかな?」
レイン「お姉さん。率直に聞いてもいいですか?」
月居ゆず葉「ええ どうぞ?」
レイン「私とお姉さんが付き合える確率って 今どれくらいですか?」
月居ゆず葉「へっ!?」
月居ゆず葉「それを今、聞いちゃう?」
レイン「だってお姉さん 今日はデートというより」
レイン「まるで、私に良い思い出を作ってくれようとしているみたいで」
月居ゆず葉「バレちゃったか」
月居ゆず葉「ええ そうね そのつもりでした」
月居ゆず葉「あなたがこれからもそのまま、 自分にウソをつかず生きていけるように」
月居ゆず葉「今日が、そのための 成功体験になればいいなって思ったの」
レイン「・・・ごめんなさい 変な気を遣わせて」
レイン「私のこと 真剣に考えてくれたんですね」
レイン「で・す・が!」
月居ゆず葉(ビックリしたぁ)
月居ゆず葉(ムダに勢いある子なのよね・・・)
レイン「私は、ただ思い出が 欲しい訳じゃないんです」
レイン「私にとって今日の成功体験があるとすれば」
レイン「それはお姉さんと・・・」
月居ゆず葉「・・・?」
レイン「その前に あの、お姉さん」
レイン「”ゆず葉先輩”って 呼んでもいいですか?」
月居ゆず葉「うん?」
月居ゆず葉「”先輩”は気が早過ぎるんじゃない?」
月居ゆず葉「大学の情報ならこれからも役に立てるから 進路はもっと真剣に考えようよ」
レイン「あ・・・」

〇マンション前の大通り

〇カウンター席
レイン「わ、忘れてくださいっ その──」
レイン「”ゆず葉さん”って、 お呼びしてもいいでしょうか」
月居ゆず葉「別に構わないけど?」
レイン「それでは、ゆず葉さん」
レイン「私にとって今日の成功体験は、 ゆず葉さんと恋人同士になる事ですよ」
月居ゆず葉(おあっ!?)
月居ゆず葉(・・・ドキドキ)
レイン「──」
  ──まっすぐで、強い瞳
  ──心配しなくても
  私なんかより、ずっと強い
レイン「年下だからって、 甘えようだなんて思っていません」
レイン「私が、ゆず葉さんを守っていきたいんです」
月居ゆず葉「──はい。わかりました。レインちゃん」
レイン「”ちゃん”付けは無しでお願いします」
月居ゆず葉「ええ。じゃあ、レイン。 私も気持ちを切り替えるね」
月居ゆず葉「午後のデートで、真剣に考える。 あなたと恋人同士になれるかどうか」
レイン「は、はいっ!!」
レイン「ちなみに今、その確率はどのくらい──」
月居ゆず葉「『0』よ」
レイン「えー!? なんでなんで? こんなに楽しかったじゃないですか」
月居ゆず葉「楽しいだけで、やっていけると思うの?」
レイン「え?」
月居ゆず葉「さっきからレインが大声で話すから もうこのお店来づらくなっちゃった」
客「──」
客「──」
客「──」
レイン「──」
レイン「──!?」
レイン「ジロジロ見ないでくださーい!!」
  ────!?
月居ゆず葉「その度胸、分けて欲しいわ・・・」

〇店の入口
月居ゆず葉「あー、恥ずかしかった」
レイン「ゆず葉さん 一般論で逃げないでくださいね」
レイン「人の目とか関係なく 私との相性で判断してください」
月居ゆず葉「・・・人の目からは、逃げられないよ この世界にいる限り」
レイン「どういう事です?」
月居ゆず葉「ある日いきなり 少数派が多数派になる魔法はないってこと」
レイン「・・・ありますけどねー」
月居ゆず葉「私の言ってる意味、伝わってる?」
レイン「──同性愛者が、この世界で ”普通”に暮らしていけるなんて夢物語」
レイン「不公平な現実は現実としてずっとある そういう事ですよね?」
月居ゆず葉「え? ええ、そう・・・」
月居ゆず葉「私なんかに言われるまでもなく、 レインだってずっと考えてるよね」
月居ゆず葉「ごめん ちょっと今のは よくないお姉さんムーヴだったわ」
レイン「だったら、 この世界を出て行けばいいだけです」
月居ゆず葉「?」
レイン「連れて行ってあげますよ、新しい世界へ」
月居ゆず葉「ふえ? どうやって?」
レイン(『ふえ?』 だって かーわい)
レイン「午後のデートプランは──」

〇映画館の入場口
  ──映画館です

〇映画館のロビー
月居ゆず葉「わー、ちょっと待って」
月居ゆず葉「しばらく来てない間に 知ってるシリーズの続編がいっぱい」
レイン「ふふ ゆず葉さんはどれが見たい?」
月居ゆず葉「え~? レインに見たい映画があって 来たんじゃないの?」
レイン「私も大体知ってますから ゆず葉さんの好きな映画見ましょうよ」
レイン「映画サークルですもんね? きっと私より詳しいはず」
レイン「いっぱい、好きな映画の話 聞かせて欲しいなって」
月居ゆず葉(・・・)
レイン「ゆず葉さん?」
月居ゆず葉(この子、なんていうか──)
月居ゆず葉(女慣れしてない?)

〇映画館の座席
レイン「意外-、流行りの邦画コメディなんて」
レイン「映画サークルの大学生は こういうの見ないかと思ってました」
月居ゆず葉「ムッ 何その偏見」
月居ゆず葉「今は自由な学生の時間を活かして 選り好みせずあらゆる映画を観ること」
月居ゆず葉「それがうちの映画サークルの方針なの 流行から目を背けるなとも言われてるわ」
レイン「ゆず葉さんは、映画好きになった きっかけってあったんですか?」
月居ゆず葉「きっかけ? うーんとね」
月居ゆず葉(・・・等身大の同性愛者が出る作品を すがるように探し求めたから)
月居ゆず葉(なんて言えないしなぁ)
月居ゆず葉「あ、あのね 好きなラジオ番組で 映画評のコーナーがあったから」
月居ゆず葉「そこで自分が観た映画と 感想を照らし合わせるのが楽しかったの」
月居ゆず葉「レインは? 映画好きになったきっかけ」
レイン「ん~ 私は・・・」
レイン「私が好きだった先輩が、 映画好きだったからです」
月居ゆず葉「・・・ふ~ん?」

〇映画館の座席
レイン「あ 始まりますよ」
月居ゆず葉(・・・なんだろう)
月居ゆず葉(今、少し、モヤってした)

〇黒背景

〇古い本

〇映画館の座席
月居ゆず葉「あ・・・あは 面白かったね みんな笑ってたし」
レイン「そうですか?  ゆず葉さんが楽しかったなら良かったです」
レイン「みんな、笑ってましたね」
月居ゆず葉「そ、そうね・・・」
レイン「あの動物園の飼育員さんが ゲイだってわかるシーン」
レイン「何がそんなに面白かったんです? 私、笑いどころがよく・・・」
月居ゆず葉「えっと、そっか、そうだよね レインたちには失礼な笑いよね」
月居ゆず葉「あーあ だから日本映画ダメなんだなー」
レイン「? そこまではいってないですけど」
月居ゆず葉(”私もそこ めちゃくちゃ引っかかった-!”)
月居ゆず葉(そのくらい素直に言えば良かった? ただの鈍感な女になってしまった)
レイン「ゆず葉さんも 同じところに 気づいてくれてたなら嬉しいです」
レイン「次はアメコミ映画見ましょうよー」
月居ゆず葉「そうね レインはどのヒーローが好き? 今日、予告編で流れたさ・・・」
レイン「(ニヤニヤ)」
月居ゆず葉「──」
月居ゆず葉「ち、違うよ? これは 次のデートの約束とかじゃないからね?」
レイン「はーい」

〇映画館のロビー
月居ゆず葉「私 ちょっとお手洗い」
レイン「はい」
  ──
レイン「でも私 今日 結構うまくやれてるんじゃない?」
レイン「・・・」
レイン「ゆず葉さん まだかな」
風間 泰人「おー レイン」
レイン「・・・あ」
風間 泰人「どうだ? 月居さんは ちゃんと優しくフッてくれたか?」
レイン「・・・なんだ そういうことだったんだ」
風間 泰人「うん? どうした お前、まさか」
風間 泰人「本気で、月居さんと 付き合えると思ってたのか?」
レイン「・・・こんな」
レイン「こんなひどい伝え方しなくっても」
???「うん? うわっ」
レイン「あっ!?」
レイン「ああっ ごめんなさい」
???「い、いや こちらこそ・・・」
???「・・・」
風間 泰人「おーい、レインー?」
月居ゆず葉「レイン、ごめんね~ おトイレ混んでて」
月居ゆず葉「って、アレ? ・・・えっと」
風間 泰人「いや、風間ですよ」
風間 泰人(初めて告白した人に 名前忘れられてる・・・)
月居ゆず葉「ごめんごめん 冗談だってば風間くん」
月居ゆず葉「あれー? レイン見なかった?」
風間 泰人「あ それがその 今ちょっと まずいタイミングだったのかも」
月居ゆず葉「──へ?」

次のエピソード:第五話 『今度は間違えない』

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