夢幻奏話

きらそね

Ep.1-4 凪(脚本)

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〇西洋風の部屋
ランス「はい、どうぞ」
奏太「ありがとうございます・・・」
ランス「いったいどうしたの?」
ランス「なにか・・・あった?」
奏太「あ、いや、ええと・・・」
奏太「・・・・・・」
奏太「貧血・・・? みたいな」
ランス「貧血、って──」
奏太「そんなことより!」
奏太「悪いやついないのに、なんで俺ここに来たんですかね?」
奏太「女神サマ、タイミング間違えちゃったとか?」
ランス「・・・」
ランス「──そうだね。 僕もそれが不思議でならなかったんだけど」
ランス「カナタくんの話から、ひとつの仮説を立てることができた」
奏太「仮説・・・ですか?」
ランス「でもその前に、──アル」
ランス「鬼獣が出たっていうのは本当?」
アルヴァ「ああ」
ランス「森に戻ったのは、泉の結界を確かめるため?」
アルヴァ「ああ、そうだ」
アルヴァ「残念ながら結界に穴はナシ 呪印にも傷ひとつ付いてなかったぜ」
ランス「外から入りこんだ可能性はゼロか なら、残党じゃないね」
アルヴァ「だろうな」
奏太「・・・えっと・・・?」
ランス「あのね、カナタくん」
ランス「君があの泉で鬼獣に遭遇したっていうのは ものすごく・・・良くない兆候なんだよ」
ランス「ベラトルムが討たれてからこれまで、 新たに鬼獣が出現することはなかった」
ランス「残党こそいたけれど──」
ランス「それも、各国の騎士団や軍部隊をはじめ、 結成された討伐隊によって一掃されている」
ランス「とはいえ、あくまで人の手だ」
ランス「閉ざされた森や未踏の山岳地帯なんかでは いまだに姿を現すこともあると聞く」
奏太「その”残党”ってヤツじゃ──?」
ランス「ないと思うよ」
ランス「あの泉はね、国が抱える大切な聖地なんだ」
奏太「聖地・・・ アルヴァも聖域とかって言ってた──」
ランス「そう。だから、魔術師たちの張った結界によって守られている」
ランス「国の要である王都同様の、強力な結界だよ」
奏太「ってことは、鬼獣たちは入れない──?」
ランス「うん。触れただけで消滅するだろうね」
奏太「ふ、触れただけで!?」
奏太「でも、じゃあなんで・・・?」
ランス「考えられることは2つに1つだ」
ランス「ベラトルムの復活か あるいは、それに代わる何かが現れたのか」
ランス「カナタくんが来たタイミングと、新たな鬼獣の出現──」
ランス「考えたくはないけど、無関係とは思えないよね」
ランス「ましてや君が異界から来たのなら、 少なからず空間にひずみが生じたはず」
ランス「そこに鬼獣をねじこんだ可能性もある。 狙いはおそらく、導き手となる──」
奏太「・・・俺、ですか?」
ランス「あくまでも推測だけどね」
ランス「アルはどう思う?」
アルヴァ「・・・さぁな」
  アルヴァは林檎をもてあそんでいる。
  視線すら
  上げようとしない──。
奏太「・・・なあ」
奏太「なんでおまえ、さっきからそんな興味なさそうなの?」
奏太「ベラなんとかと戦った勇者なんだろ」
アルヴァ「だからなりゆきだったッつってんだろーが」
奏太「なりゆきでもなんでも勇者だろ」
アルヴァ「勇者勇者うっせェな 嫌いなんだよその呼び方、古くせぇ」
奏太「たしかに・・・ 導き手のほうがなんかカッコイイよな」
奏太「いってぇ!!!!」
奏太「この距離でリンゴ投げんのやめろよな すげー痛いんだぞ、ソレ!!」
アルヴァ「っつーかテメェ、わかってんのか?」
奏太「な、なんだよ」
アルヴァ「そんなノンキなこと言ってられる立場じゃねぇだろ」
アルヴァ「お前がもし本当に導き手なら──」
アルヴァ「泉で襲われたアレの大群と真っ向から戦うことになるんだぞ」
奏太「それは・・・」
奏太「ちょっと気色わるいかも」
アルヴァ「そこじゃねぇだろ・・・」
ランス「ははは、二人ともなんだか気が合うみたいでよかったよ」
「どこが──」
「・・・・・・」
  フン、とアルヴァが鼻を鳴らして
  そっぽを向く。
  奏太も窓のほうへ顔を向けた。
  村の景色は、
  いつのまにか茜色に染まっている。
奏太(なんか・・・いっきに疲れた・・・)
  ──グゥウウウ
ランス「・・・・・・」
アルヴァ「・・・デケェ腹の音」
奏太「・・・す、すいません・・・」
ランス「時間も時間だし、ごはんにしようか エリーもそろそろ帰ってくるだろうし」
ランス「続きは、また明日にでも話そう」
奏太「な、なあ。エリーさんって・・・?」
アルヴァ「姉貴」
奏太「ああ、ランスさんの──」
  ──ぐぅうう
アルヴァ「・・・おまえ、ほんとノンキだな」
奏太「・・・返す言葉もございません」

〇西洋風の部屋
エリー「導き手?」
  アルヴァの姉、ランスの妻
  ”エリー”
エリー「どうして今になって──」
ランス「さあ、僕にもわからないんだけど」
アルヴァ「・・・・・・」
ランス「カナタくんいわく『女神サマがタイミング間違えちゃったんじゃないか』──ってさ」
奏太「えッ!?」
ランス「ね?」
奏太(う・・・笑顔の圧・・・)
奏太「・・・っすかね」
エリー「ふーん・・・?」
エリー「なんだかよくわからないけど──」
エリー「でも、これなら何があっても安心ね」

〇西洋風の部屋
ランス「カナタくんの口に合うといいんだけど」
  四人で囲んだ食卓に
  ランスの作ってくれた料理が並ぶ。
奏太「や、めちゃくちゃうまそーっす」
奏太「いつもランスさんが作ってるんですか?」
ランス「いつもってわけじゃないけど、 僕のほうが家にいることが多いからね」
ランス「それにエリーに任せると やたら量が多くなるか味が濃くなるし」
エリー「しょうがないじゃない 教会ではいつも大鍋で作ってるんだもの」
奏太「教会・・・?」
エリー「近くの町の教会よ よくお手伝いに行ってるの」
エリー「鬼獣の被害にあって両親を亡くした子供たちが暮らしてるから──」
エリー「炊事のほかにも簡単な読み書きを教えてあげたり、遊び相手になってあげたり」
エリー「ランスは月に何度か王都に行って、 家庭教師をしてるのよ」
ランス「本業は民俗学の研究なんだけどね」
奏太「・・・魔法使いじゃないんですね」
ランス「魔法使い?」
ランス「ああ・・・はは あれは昔取った杵柄というか──」
ランス「使えなくはないんだけど、魔術に関してはあんまりいい思い出がなくてね」
奏太「トラウマ的な・・・?」
エリー「おばあさまが・・・ね」
奏太(ランスさんのおばあちゃん──って)
奏太(あの狂気の本を書いたひとか・・・)
ランス「幼いころに叩きこまれたんだけど それはもう、本ッ当に厳しくてね」
ランス「遊ぶ自由もないし寝る時間も削られるし」
ランス「あまりにもキツくってやめちゃったんだよ」
奏太「な、なるほど・・・」
エリー「ねえ、カナタくんの世界は?」
エリー「どんなところ? どんな人が住んでるの?」
エリー「導き手みたいな伝説はある?」
奏太「えっと・・・」
奏太「どんなってのは説明が難しいし 伝説ってわけじゃないんですけど──」
  奏太は先ほど思い浮かべた
  カッパや天狗の話をしてみる。
ランス「異界の民間伝承か、おもしろいね」
ランス「どういう経緯で発祥したんだろう 由来とか知ってる?」
エリー「ねえねえ、どんなふうな見た目なの? 悪さとかもする? どんな悪さをするの?」
奏太「や、俺もあんまり詳しくは・・・」
「・・・・・・」
奏太(そんな残念そうな顔しなくても・・・)
奏太「詳しくはないんですけど、えっと、他にもいろいろあって──」
  奏太は数で勝負とばかりに──
  鬼や吸血鬼や狼男、
  はてはゾンビと戦う映画の話まで
  持ちだした。
エリー「すごいわ。私たちなんて鬼獣だけでも大変だったのに・・・」
エリー「カナタくんの世界の人たちはみんな強いのね」
奏太「あ、いや、ゾンビは映画の話だし カッパも天狗も実際いるわけじゃないし」
奏太「だから俺たちみたいな一般人は何かと戦ったりとかもなくて──」
奏太「すげーのんびり暮らしてるっていうか」
エリー「そう・・・平和なのね、うらやましいな」
奏太「でも、ここも今は平和だって── ベラなんとかがいなくなったから」
エリー「・・・そうね」
エリー「今は平和よ、すごく でもほんの少し前までは、いつも──」
エリー「いつ、誰がいなくなるかわからない怖さがあったから」
アルヴァ「・・・」
エリー「今でもときどき”平和”が信じられなくなるの」
エリー「変な話でしょ?」
奏太「・・・」
奏太(こういうのって、悪いヤツを倒したらそれで終わりなんだと思ってたけど・・・)

〇空
  考えていたほど『この世界の物語』は
  シンプルではないのかもしれない。
  たとえ世界がハッピーエンドを迎えても──
  一度こころをむしばんだ闇は薄れることなく、ずっとそこに在り続ける。
  平穏に生きてきた自分でさえ、
  ふとした拍子に苦い記憶がよみがえって気が沈んだりするのだから──
  彼女のそれは、きっと想像できないほどの苦しみをともなうのだろう──・・・

〇西洋風の部屋
  ベラトルムの復活は、あくまで推測だとランスも言っていた。
  確証のない話で、無駄に不安を煽る必要はないのだ。
エリー「・・・あ、ごめんね、変な話しちゃって」
エリー「今は私たちも、ほんとに、すごーくのんびり暮らしてるのよ」
エリー「誰かさんは平和ボケしすぎて腑抜けちゃったみたいだけど」
アルヴァ「・・・・・・」

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