王城編 女王の夏季休暇(脚本)
〇荷馬車の中
ルセラン「んんぅ・・・」
ルイス「ルセラン様」
ルセラン「んー?」
ルイス「そろそろご到着致しますよ?」
ルセラン「・・・何処にぃ?」
ルイス「・・・何処に、って」
ルイス「タレイアですよ」
ルイス「本日から夏季休暇では無いですか・・・」
ルセラン「んんぅ・・・」
ルセラン「んー」
ルセラン「・・・はぁ」
ルイス「・・・お疲れですね」
ルセラン「夏季休暇なのはいいんですがそのために公務を一度に片付けなければならないのは本末転倒でしょう・・・」
ルセラン「昨日まで仕事尽くしでしたので眠いのですよ・・・」
ルイス「ですが今日から数日はお休みになられますよ」
ルイス「しっかりと英気を養ってください」
ルセラン「・・・」
ルイス「ルセラン様?」
ルイス「どうかなされましたか?」
ルセラン「いえルイス、貴方も昨日は私と同じ時間まで起きてたわよね?」
ルイス「はい、そうですね?」
ルセラン「そして貴方、あまり朝は強くないわよね?」
ルイス「はい、早起きは苦手ですね」
ルセラン「・・・それなのに今日はとても元気じゃない?」
ルイス「・・・」
ルセラン「眼、隈が出来てるわよ?」
ルイス「・・・」
ルイス「た、楽しみにしてて悪いですか!?」
ルセラン「いいえ、悪くは無いわよ」
ルセラン「ただそう素直な貴方を見るのが珍しいだけ」
ルイス「・・・いえ、ルセラン様が普段からきちんとしてくだされば私も心穏やかに過ごせるのですが」
ルセラン「・・・」
ルセラン「・・・そういえば、なぜそこまでタレイアが好きなの?」
ルイス「露骨にやぶ蛇だったかという表情はお控えください」
ルイス「・・・私ならともかく他の人に見られたら問題です」
ルセラン「それは大丈夫よ」
ルセラン「貴方以外にしないもの」
ルイス「・・・できれば私にもお控え願いたいのですが」
ルセラン「・・・少しばかりの私の息抜きに付き合ってちょうだいな」
ルイス「・・・少し?」
ルセラン「・・・まぁ、たまに羽目は外しますが」
ルイス「はぁ・・・、まぁ構いませんよ」
ルイス「・・・もう何年もお側付きをさせてもらっていますし」
ルイス「女王の重責も多少は分かっているつもりですから」
ルイス「・・・何故か女王の経験もありますしね」
ルセラン「・・・」
ルイス「・・・ルセラン様?」
ルイス「あの、申し訳ありません」
ルイス「冗談が過ぎましたでしょうか?」
ルセラン「・・・いいえ」
ルセラン「そこまで言うのなら、これからも変わってもらおうかと考えていただけですよ」
ルイス「駄目に決まっていますでしょう・・・」
ルセラン「それは残念、・・・さて」
ルセラン「馬車が止まったわね」
ルイス「少々お待ち下さい、ルセラン様」
〇古い洋館
ルイス「お手をどうぞ、ルセラン女王」
ルセラン「えぇ、ありがとうルイス」
ルセラン「御者の方もご苦労様です」
ルセラン「とても穏やかな運転でした」
ルセラン「思わず午睡してしまいほうな程に」
ルセラン様からの冗談を交えた労いに、御者がはにかみながら頭を下げる。
このように自然な言葉で相手に言葉をかける事ができるはこの方の凄い所だと思う。
普段のルセラン様を知らなければ思わず崇拝すら抱いてしまいそうだ。
ルセラン「どうかしましたか、ルイス」
ルイス「・・・いえ、なんでもありません」
ルイス「行きましょう、ルセラン様」
ルイス「屋敷の2階がルセラン様のお部屋となります」
ルセラン「もう、ルイスったら」
ルセラン「去年も来ているのだから分かってるわよ」
ルセラン「貴方も少しは肩の力を抜いたら?」
ルイス「・・・そう、ですね」
ルセラン様の言葉で周囲の人間の表情が柔らかくなる
そして皆がルセラン様へ敬意の視線を向けていたが、違う。
今の声掛けはきっと私の先ほどの視線への当て付けだ。
ルセラン「では、行くわよルイス」
ルイス「・・・はい」
〇豪華な部屋
ルセラン「んー──っ」
ルイス「ルセラン様、そのようなはしたない」
ルセラン「いいじゃない、その部屋には貴方しかいないんだし」
ルセラン「他の従者や警護の兵は一階でしょう?」
ルイス「それは、そうですが・・・」
ルセラン「だいたい周囲の眼、というなら貴方もさっきのは油断しすぎよ」
ルセラン「女王への不敬で投獄してしまおうかしら?」
ルイス「それは、申し訳ありませんでした」
ルセラン「もう、冗談よ」
ルセラン「たぶん私しか気付いていないから」
ルセラン「それで?」
ルイス「・・・それで、とは?」
ルセラン「いえ、貴方にしては気が緩んでいるようだから」
ルセラン「そこまでタレイアが好きなのかしら?」
ルイス「そう、ですね」
ルイス「海辺のグレイスも捨てがたいですが、どちらかといえば森に近いタレイアの方が好みです」
ルイス「・・・海は広すぎて少し恐ろしくて」
ルイス「願わくば、隠居したらこのように穏やかな場所で余生を過ごしたいと思っていますよ」
ルセラン「余生、って」
ルセラン「貴方私と同い年でしょう?」
ルイス「ですから、先の話です」
ルイス「まだこの仕事を辞めるつもりはありませんよ」
ルイス「送り出してくれた両親にも、迎え入れてくれた王城の方々にもまだまだ恩が返せていませんから」
ルセラン「・・・ルイスの両親は」
ルイス「・・・さて、元気にしているとは思いますが」
ルイス「いかんせん幼い頃から王城で女給として働いていましたからね」
ルイス「もう顔も分かりませんし、連絡もとっていません」
ルイス「あちらからの連絡もありませんから」
ルイス「・・・殿下やメイド長等にでも尋ねれば何処に住んでいるのか分かるやも知れませんが」
ルイス「口減らしに女給に出された、というのが真実だとしても驚きませんよ」
ルセラン「・・・いいえ、それは無いでしょう」
ルセラン「今ルセランの命があるのはルイスの両親のお陰です」
ルセラン「彼等が災害現場から幼いルセランを救わなければ、王族の直系は途絶えていた」
ルセラン「・・・それだけは間違いは無いのです」
ルイス「ルセラン様?」
ルセラン「・・・だから、きっと」
ルセラン「・・・きっと、両親がルイスを王城に送り出したのも、我が子を思っての事だったと思いますよ」
ルイス「ルセラン様」
ルセラン「さて!!」
ルセラン「何を夏季休暇に来てまで堅苦しい話をしているのかしら」
ルセラン「せっかくなのだし湖に行きましょ、ルイス」
ルイス「・・・はい、準備をして参ります」
ルイス「しばらくお待ち下さい、ルセラン様」
ルセラン「・・・」
ルセラン「・・・そう、それだけは」
ルセラン「それだけは、きっと、間違いでは無かったのに・・・」
〇湖畔の自然公園
ルセラン「ふぅ、タレイアはやはり涼しいわね」
ルセラン「ルイス、貴方も来なさいな」
ルイス「・・・あの、なぜ私まで服を?」
ルイス「私は別に普段の仕事着でも・・・」
ルセラン「何故って・・・」
ルセラン「貴方に似合うかな、って」
ルイス「で、でもこれってルセラン様の為に仕立てられた物なのでは・・・」
ルセラン「だから、それをルセランが着ることに何も問題は無いでしょう」
ルイス「・・・え?」
ルセラン「さて問題です」
ルセラン「今の私と貴方、どちらがルイスでどちらがルセランでしょうか?」
ルイス「・・・はぁ、お戯れはお止めください」
ルイス「こんなところを他の従者に見られたら何と思われるか・・・」
ルセラン「そんなの、どっちが本物のルセラン様なのだろうか、よ」
ルイス「・・・まったく、そんなに気に入っていらっしゃるのですか?」
ルイス「・・・数年前まではこんな事なさらなかったのに」
ルセラン「・・・ちょっと、きっかけがね」
ルイス「そんな事、・・・数ヶ月には女王即位記念の式典も控えているのですから」
ルセラン「・・・あぁ、もうそんな時期ね」
ルイス「はい、貴方様が即位して一年経ちます」
ルイス「なのでそろそろお戯れは控えて頂きたいのですが・・・」
ルセラン「・・・大丈夫よ」
ルセラン「えぇ、もうすぐ終わるわ」
ルセラン「・・・だからあと少しだけ」
ルセラン「あと少しだけ、今の時間を楽しませてちょうだい」
ルイス「え?」
ルイス「あの、どういう意味でしょうか?」
ルセラン「・・・ルセランはきっと立派な女王になるわ」
ルイス「え、えと、確かに色々ありますがルセラン様の事を女王として立派ではないと思った事はありませんよ?」
ルセラン「・・・えぇ、ありがとう」
ルセラン「貴方がそう思ってくれる事が何よりの救いよ」
ルイス「あ、あの?」
ルイス「何かありましたか?」
ルセラン「いいえ、何も」
ルセラン「たいした事では無いわ」
ルセラン「女王は大変、ってだけだから」
ルセラン「貴方にずっと変わってもらいたい位にね」
ルイス「ルセラン様・・・」
ルセラン「そんな怖い顔をしないでよ、ルイス」
ルイス「ならば怖い顔とやらをさせないでください」
ルセラン「善処しますとも」
ルセラン「まぁ、まずはこの夏季休暇を一緒に楽しむ事からね?」
ルセラン「好きなタレイアでなら貴方も笑顔になるでしょう?」
ルイス「いえ、あの、場所の問題ではなく・・・」
ルセラン「行くわよ、ルイス」
ルセラン「夕食はタレイアの名産で作られるそうだから、お腹を空かせておかないと」
ルイス「うっ、美味しそうですね」
ルセラン「だから、ほらほら」
ルイス「ル、ルセラン様!?」
ルイス「そのように手を引っ張らなくても!?」
ルセラン「せっかくだし湖を一周して見ましょう?」
ルイス「あ、あの、あまり走るとお召し物が!?」
ルイス「と、というか私の服も汚したら不味いのでは!?」
ルイス「あ、あ、あー!?」