〇古いアパートの一室
一ノ瀬綾「すごーい、ここが漫画家さんの部屋かぁ」
まらすけ「・・・なるほど。それで、家を飛び出して、あの子と仲直りして、うちに来たと」
まらすけ「いや、なんで僕のうちに!?」
花木真奈央「すみません、師匠。自宅には帰りづらくて・・・」
まらすけ「だとして、どうしてあの子まで」
花木真奈央「せっかくだから、師匠に綾と会ってほしかったんです。 ほら、彼女のことよく見てください」
一ノ瀬綾「まらすけセンセー、あたしこんなにたくさん、エッチな絵が描いてある本読むの初めてです！」
まらすけ「むむむ・・・」
花木真奈央「どうですか、師匠」
まらすけ「なんだかあの子は、こちらの想像力を掻き立ててくるな！」
花木真奈央「そう！ 綾を見ていると、創作意欲がドクドク湧いて止まらないんです！」
まらすけ「これが生JKの破壊力か・・・」
花木真奈央「私も一応JKなんですけど・・・」
　　RRRRRRR
まらすけ「ん、鹿嶋からだ。もしもし、人の幸せな時間を邪魔して、なんの用？」
鹿嶋の声「あ、まらさん。賢者タイム中でしたか。すんまへん」
まらすけ「違うよ！」
鹿嶋の声「ちょっと、真奈央がそっち行ってないかと思いまして」
まらすけ「ああ、ちょうどいるけど」
花木真奈央「?」
まらすけ「うんうん。えっ、真奈央の父親が!?」
花木真奈央「!」

〇雑誌編集部
花木幸男「鹿嶋さんはどちらへ？」
渋井豪「いま娘さんを迎えに行っています」
花木幸男「私もどこにいるかわからないのに、あなた方にはわかると」
渋井豪「子は親のいないところで成長するものですよ。全て把握するなんてできないもんです」
花木幸男「・・・・・・」
渋井豪「・・・・・・」
氷谷雪子「粗茶ですが、どうぞ」
花木幸男「こんな下品で低俗なところでも、女性が働いておるんですな」
氷谷雪子「・・・それは悪口のおつもりですか？」
花木幸男「なんだと？」
氷谷雪子「下品、低俗、そんな言葉で傷つく人間しかいない世界で生きてきたのですね。 ずいぶんとぬるい世界です」
花木幸男「目上の者への敬意が足りないようだな」
氷谷雪子「目上？ はて、私の方が身長は高そうですが」
花木幸男「からかうのもいいかげんにしろ！」
渋井豪「雪子、やめなさい」

〇小汚い廊下
鹿嶋紳助「地獄みたいな雰囲気や。戻りとうない。てか、雪子も火に油注いでどないすんねん」
まらすけ「怖いもの知らずな子だねー」
花木真奈央「あんなドSな人、初めて見ました。 はぁはぁ・・・」
鹿嶋紳助「おい、急に興奮スイッチ入れんなや」
花木真奈央「もっと、よく見せてください」
まらすけ「おい、押すなよ。あっ！」

〇雑誌編集部
花木真奈央「いてて・・・」
花木幸男「真奈央」
花木真奈央「お父様・・・」
花木幸男「帰るぞ」
花木真奈央「お父様、待ってください！」
花木幸男「話は後だ。こんなゴミ溜めみたいなところ、さっさと離れたいんだ」
鹿嶋紳助「なにっ、ゴミ溜めとはなんや！」
渋井豪「鹿嶋、なぜここに花木真奈央がいる。こいつの連載は無くなった。もううちとは関係ない人間のはずだが？」
鹿嶋紳助「そ、それは・・・」
渋井豪「それに、なぜお前もいる？」
まらすけ「・・・お久しぶりです、編集長」
鹿嶋紳助「まらさんには、真奈央の師匠になってもろうとったんです」
鹿嶋紳助「編集長を前屈みにするような傑作を作るために」
渋井豪「ふう、勝手なことを」
花木幸男「きみが娘と漫画を描いているのか？」
まらすけ「あ、いえ、その、描いているというか、修業をしているというか・・・」
花木幸男「なんでもいい。金輪際、うちの子に関わらないでくれ。 これ以上、娘の邪魔をしないでくれ」
花木真奈央「お父様、なんてこと言うの！」
まらすけ「どちらかと言うと、僕の方が邪魔されてるんだけど・・・」
花木幸男「娘はあんたらと関わるようになってからおかしくなった」
まらすけ「もともとおかしかったけど・・・」
花木幸男「ハッキリ言って、この子はこんなところにいるような子じゃない」
花木幸男「学校では生徒会長を務め、成績もトップ、高校を出たらイギリスへ留学し、将来は日本の未来を背負っていくような子だ」
鹿嶋「・・・・・・」
まらすけ「・・・・・・」
花木幸男「こんなことして、娘の人生に汚点を残したくないんだ！」
花木真奈央「放してください！」
花木幸男「真奈央、どういうつもりだ？」
花木真奈央「・・・私は、ここにいたいです」
花木幸男「・・・後悔するぞ」
花木真奈央「・・・お父様。私は、何でもできます」
花木幸男「?」
花木真奈央「テストで一番も獲れる。一流大学にも入れる」
花木真奈央「一流企業にも入れるし、あるいは医者にも、弁護士にも」
花木幸男「ああ、間違いない。お前ならやれる」
花木真奈央「自信があるんです」
まらすけ「傲慢な奴だな・・・」