リモコン(脚本)
〇研究開発室
とある会社の開発室
開発室のなかで、IC基盤と配線がむきだしになっている機器に、スタッフの目がそそがれていた。
その機器は各家庭で使用しているリモコン対応式の、自社製品を、
リモコンを使用せずにただ思っただけで操作できるという試作品であった。
開発主任・武田「リモコンが家庭のなかにあふれているが、これからは思っただけで家電製品を操作できるようにしなければな」
開発課の主任である武田が自信にあふれた口調で話す。
中谷「まったくです。自社製品に限るというのがみそですよね」
中谷「このたびの製品が実用化されて販売されれば、相乗効果で我が社の製品が売れまくることは間違いありませんね」
満面に笑みをうかべている武田に、部下の中谷が同感の意を口にした。
武田は笑みを浮かべて満足げに何度も頷き、まだ二十代の女性スタッフ二人は肩をすくめて聞いている。
開発主任・武田「それではスイッチをいれて、思っただけでさまざまな製品を操作してみよう」
〇研究開発室
開発主任・武田「それではスイッチをいれて、思っただけでさまざまな製品を操作してみよう」
武田の一声により、開発スタッフの面々は思い思いにテレビや、ビデオ、照明機器、オーディオなどに思念を送った。
最初は予定どおりに思ったとおりにテレビのチャンネルを変えたり、自分の好きな音楽を聞いたりしていたのだが・・・・・・。
開発主任・武田「心の声(若い娘の聞く音楽などただうるさいだけだ)」
と、武田が思えば、
恵子「(なによ、このおやじ。退屈なニュ-ス番組ばかりみちゃってさ)」
と、女性スタッフの恵子がそう思う。
中谷「(つまらん映画だ。とばして見よう)」
と、中谷もやっぱりそう思った。
〇研究開発室
そのうち、開発室に置かれた電化製品は騎手を失った馬のような暴走をはじめ、
リモコン対応ではない電機機器までが勝手な作動をはじめた。
テレビのチャンネルはめまぐるしく変わりつづけ、オーディオから流れていた演奏が突然停止したかと思えば、
またもや鳴りはじめるが、いちフレ-ズごとにスキップして楽曲が変わりつづける。DVDはスキップを繰り返し、
一時停止を繰り返し、照明は点灯と消灯
を繰り返した。
やがてどこかの配線がショ-トしたらしく、突然すべての製品がその息をとめた。
スタッフたちはしばし茫然として、動きをとめた製品をぼんやりとながめるだけだった。
武田は思った。
開発主任・武田「(人間の思いをコントロ-ルするリモコンをはじめに開発すべきだったな)」
開発主任・武田「(それにしてうちの開発課のスタッフのやつらは自分の意思をコントロ-ルできんのか、まったく情けない)」
開発主任・武田「(良子もぼんやりしていないでさっさとかたづけろよな、まったく!)」
〇研究開発室
そのとき良子があやつり人形のように体をふるわせながら機器をかたづけはじめ、武田は自分の頭をなぐりはじめ、
恵美は突然踊りながらなにやら歌いはじめた。そして、
〇研究開発室
中谷「僕は世界で誰よりも歩美を愛している~」
と、中谷は好きな彼女の名を叫びはじめた。
どうしたことか、開発したリモコンがスタッフにまで作用しはじめたのだ。
そして疑心暗鬼に満ちた瞳で互いの顔色をさぐった。
開発主任・武田「(誰だ? 誰が思っていることなんだ?)」
武田はなおも自分の頭をなぐりつけながらそう思った。
〇電気屋
FIN
便利さを追求し過ぎた先にあるディストピアですね。この作品のアイデアが2004年なのはすごいです。AI活用の現状を鑑みれば、AIに指示されたとおりに人間の方が動く時代にはもう既になっているんじゃないかと思う今日この頃です。
この機能は、単身住まいのシチュエーションなら有用でしょうが、大家族や職場フロアのような環境では、思いの衝突でアレなことになりそうですよね。まぁ、ニンゲンには多少不便さを学習しなきゃならないので、便利さ追求は不適ですよね。便利さの追求のみでは、職場の従業員の脳内にシステム植込みされて、トップの思いでリモコン無しで操作される未来が来てしまいそうですから、と妄想が極端でしたでしょうか。
現在の家電はリモコンがないと不便です。彼らもそんな経験をしたからこそ残業をして頑張っているんでしょう。少し暴走してますが。