9 まどろみのかんげき(脚本)
〇女の子の一人部屋
いろみ「ああー疲れたー」
お風呂を済ませ、私はパジャマでベッドにダイブする。
いろみ「・・・・・・・・・・・・んあー」
まだ眠るには早いけど、うつぶせのまま身体の力を抜くと、だんだん瞼が閉じていく。
しかし、枕元に置いたスマホのブゥンという振動によって、私の意識は即座に引き戻された。
莉々子「『今週いろみちゃんにかまってもらってない』」
画面を覗くと莉々子からのメッセージだった。
学校が始まってからは、顔を合わせる程度でしかない。
クラスではほとんど話さない。
私と莉々子はそれぞれ違う友だちと仲良くしているから。
莉々子「『かまって』」
莉々子「『いろみちゃん、お話しましょ』」
莉々子「『きゃっきゃっ』」
莉々子「『・・・・・・いいじゃん、ケチ』」
立て続けにメッセージが流れてくる。
いろみ「寂しがりかっ」
なんて言葉にすれど、一気に眠気が吹き飛ぶあたり、私も嬉しいに違いない。
とはいえ素直に、『わーありがとー莉々子ー』と送るのはシャクだ。
いろみ「『なに?』」
いろみ「『忙しいんだけど』」
いろみ「・・・・・・なんて、全然忙しくないのだけど」
実際にはするべきこともある気はする。
宿題とか、色々
莉々子「『ちょっとだけ! ほんのちょびっとだけでいいから! ね!』」
莉々子「『お願いっ!』」
莉々子「『m(__)m』」
なんか必死な気がした。
同時に、実は迷惑かもとか考えてるのかな、なんて。
いやいや、もちろん莉々子に限ってそんなことはないのだろうけど・・・・・・
いろみ「『はあ』」
いろみ「『で、どうしたの?』」
莉々子「『いろみちゃんの眠る時の写真が欲しいかななんて』」
いろみ「・・・・・・なんだそりゃ?」
思わず口に出しながら、私はメッセージを打ち込む。
いろみ「『つまり自撮りが欲しいと?』」
莉々子「『うん』」
いろみ「『お話しましょはどこにいった!?』」
莉々子「『お願いいろみちゃん』」
莉々子「『ここで一生のお願い使ってもいいから!』」
莉々子「『ね!』」
いろみ「どれだけ必死なのよ!」
でもこういう子の一生のお願いって、きっと無限にあるんだろうなぁ。
教室では大人しいけど、好きな相手にはグイグイくるみたいだし。
迷惑かと思ってるかもって、そう考えるだけ私がアホだったんだな、うん。
遠慮とか絶対ない。
いろみ「よい、しょっと」
私はスマホのフロントカメラで自分の顔をパシャリ。
そしてそのまま送信。
いろみ「『はい、これでいい?』」
莉々子「『わーありがとういろみちゃん!』」
莉々子「『一生大事にするね♥』」
いつも教室で会ってるのに、そんなに嬉しいものなのかな。
いろみ「『喜んでもらえたなら、まあ』」
いろみ「『バラまかないでよ』」
いろみ「『そこは絶対だかんね』」
莉々子「『しないよそんなこと』」
と、即メッセージが飛んでくるのは、信用していいものかどうか。
莉々子「『じゃあ、お返しに』」
莉々子「『ちょっと待ってね』」
いろみ「『んん?』」
何か準備が必要なのだろうか?
手持ち部沙汰になった私はベッドから降り、明日の支度をしつつ返事を待つ。
しばらくすると写真が送られてきた。
莉々子の自撮りだ。並行位置で、証明写真みたいにならないようやや横向きに撮影されている。
ぱっちりと開いた目。嬉しそうな口元。
そして艶のある黒髪が、むきだしの肩に少しかかっている。
・・・・・・って、
いろみ「『まさか裸で寝てるの!?』」
莉々子「『ちがうよ~』」
莉々子「『肩ひもが見えるでしょ!?』」
莉々子「『ネグリジェ!』」
莉々子「『どやっ(`・ω・´)』」
裸族ではなかったようだけど、そんなふうに威張られても・・・・・・。
莉々子「『いろみちゃん、肩が見えたからって裸だと思うなんて』」
莉々子「『えっちだな~』」
莉々子「『いろみちゃんのえっちー』」
いろみ「~~~~ネグリジェだってほとんど変わらないでしょ!」
いろみ「『バカ。もうしらないわ』」
いろみ「『しっしっ』」
莉々子「『あはは、いろみちゃんがおこだー』」
莉々子「『いろみちゃん今日もかわいい~』」
いろみ「くっ」
ぎゅっとスマホを握りこむ。
今すぐ放り投げたい。
もちろんしないけど。
いろみ「かわいいのは、どっちよ・・・・・・」
私は先ほど送られてきた莉々子の自撮りを改めて画面に映して、ひとりこぼす。
なんとなく胸が温かくなるような、軽くなるような、そんな感じだった。
ただし、それ以降届いたメッセージには、すべて既読スルーしてやるのだった。