孤独が仰ぐ、空は青

NekoiRina

【第6話】女帝・翠玉(1)(脚本)

孤独が仰ぐ、空は青

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〇明るいリビング
天音鈴子「トオル・・・大丈夫?」
トオル「ああ。ちょっと頭が痛いけど大丈夫」
天音鈴子「あの女の人、すごい剣幕で出て行ってしまったけれど・・・良かったの?」
  僕は、夢の中で見た息子の未来を
  鈴子に話した。
天音鈴子「そう・・・」
天音鈴子「貴方は特別な子だ、と大切に愛情をかけて育てるのは、とても素晴らしいこと」
天音鈴子「けれど、一歩外に出れば、誰も特別な人間なんていない。特例なんてものは無いのよ」
トオル「そうだな・・・」
トオル「「自分の子は特別だから何をしても許される」なんて、理性を失うほどの愛情は」
トオル「周りの人間を襲い、最終的には自分自身をも傷付ける刃になるんだな・・・」
アベンチュリ「理性を失うほどの愛情・・・ 昔、何かで読んだことがあります」
アベンチュリ「「親バカ」と呼ばれる人たちは、例えば学芸会で自分の子が台詞も無い「木」の役でも」
アベンチュリ「「なんて可愛い木なんだ!」と言って、喜んで写真を撮るらしいです」
天音鈴子「その気持ち、すごく分かる」
アベンチュリ「ですが、本当に愚かな親は」
アベンチュリ「「どうしてウチの子が主役じゃないんだ!」と、教師を責めるんだそうです」
トオル「「親バカ」って言葉は、むしろ褒め言葉なのかもしれないな」
アベンチュリ「そうですね。それに・・・」
アベンチュリ「「成績が良い」は才能の頂点ではなく、数ある才能のひとつに過ぎません」
トオル「「成績が良い」も「お金持ち」も、人を傷付けて良い理由には決してならないよな」
トオル「そういえば・・・」
トオル「あの女性が、息子さんの未来と引き換えに失った記憶は誰のものだったんだ?」
アベンチュリ「あの女性の母親の記憶でした」
トオル「お母さんの・・・記憶」
アベンチュリ「すでに亡くなっておられるようですが」
アベンチュリ「あの女性もまた、歪んだ愛情しか与えられない幼少期を過ごしたようです」
天音鈴子「愛情は、良い意味でも悪い意味でも」
天音鈴子「螺旋階段のように繋がっていくもの・・・なのかもしれないわね」
トオル「・・・」
トオル「その螺旋階段・・・」
トオル「僕たちで断ち切ることは出来ないかな」
アベンチュリ「どういう意味ですか?」
トオル「このままじゃあ、誰も幸せになれない」
トオル「悲惨な未来を知ってしまったのに、何もせずに見過ごすことなんて出来ないよ」
アベンチュリ「まさかトオルさんは、あんな傲慢な女性を、助けたいと願うのですか?」
トオル「僕は・・・あの後ろの席の子を救いたい」
トオル「分かってる。たとえどんなに辛くても、人を殺めるなんて絶対に許されない」
トオル「だけど・・・」
トオル「誰からも信じてもらえず、どんどん孤独になっていったあの子のことを思うと」
トオル「胸が痛むんだ・・・」
天音鈴子「トオル・・・」
アベンチュリ「・・・」
アベンチュリ「分かりました。私たちに出来ることを考えましょう。そうですね・・・」
アベンチュリ「あの魔法を使ってみましょうか」
トオル「あの魔法って?」
アベンチュリ「鈴子さん。あのお皿、少しお借りしても宜しいですか?その金色のやつ」
天音鈴子「え?これかしら?」
アベンチュリ「あ~良いお皿ですねえ。これならへっぽこ魔法使いでもいけそうです!」
トオル「へっぽこ魔法使いって・・・ まさか僕のこと?」
アベンチュリ「さあトオルさん。このお皿の上に、ハーキマーが眠る石を置いて下さい」
トオル「これのこと・・・?」
アベンチュリ「そうです。さあ、真ん中に置いて、右手をかざして下さい」

〇魔法陣2
  金色の皿にハーキマーの石を置いた途端。
  未来を見た時と同じように、周りの景色が不思議な模様空間に包み込まれた。
  アベンチュリは僕に、
  唱えるべき呪文を教えてくれた。
トオル「過去は罪を閉ざす扉。来たるべき時を経た現在は空想の果てに未来創造の言葉を示す。我の願いを叶えし者よ、此処に姿を!」
トオル「って・・・」
トオル「この長い呪文、本当に要るの?」
トオル「なんか中2病感がヤバいんだけど」
アベンチュリ「まぁこういうのは雰囲気ですから」
  アベンチュリに愚痴をもらしていると
  いつの間にか目の前に、翡翠色の着物に身を包んだ女の子が立っていた。

〇明るいリビング
翠玉(スイギョク)「ハーキマー!ひっさしぶり~!」
翠玉(スイギョク)「って・・・」
翠玉(スイギョク)「誰よアンタ、何このオッサン」
トオル「オッサンて・・・ 僕まだ18なんだけど・・・」
翠玉(スイギョク)「あらやだ、ごめんなさい?だって~、ハーキマーに呼び出されたと思ったら」
翠玉(スイギョク)「こんなオッサンが目の前にいるんだもん!ビックリしちゃうじゃない!」
トオル「オッサンて・・・また言った・・・」
アベンチュリ「あ~なるほど、翠玉ですか」
翠玉(スイギョク)「あら!アベンチュリじゃない!お久し振り!貴方もいたのね。ハーキマーは?」
アベンチュリ「ハーキマーは・・・眠っています」
アベンチュリ「貴方を呼び出したのは」
アベンチュリ「そこにいる、トオルさんです」
翠玉(スイギョク)「はあ?」
翠玉(スイギョク)「人間の分際で私を呼び出すなんて!」
翠玉(スイギョク)「私、帰ります」
アベンチュリ「ちょっと待って下さい!とりあえず、私たちの話を聞いてもらえませんか?」
  アベンチュリは、皿の中に戻ろうとする
  翠玉を必死で引き留めて、
  事の経緯を説明した。

〇明るいリビング
アベンチュリ「翠玉は「女帝」を司る精霊です」
トオル(女帝・・・強そうだ・・・)
翠玉(スイギョク)「アンタ今、強そうって思ったでしょ」
トオル「え、いや、そんなまさか」
翠玉(スイギョク)「まぁいいわ。話は分かった。子どもを救いたいという願いが、私を呼び寄せたのね」
翠玉(スイギョク)「ふーん、中々スジがいいじゃない」
アベンチュリ「私もそう思います」
トオル「スジって何・・・」
翠玉(スイギョク)「よし、分かったわ。そうね、私の「花のカッカラ」を1本譲ってあげる」
トオル「花のカッカラ?」
翠玉(スイギョク)「ちょっとアンタ!私を呼び出すなら、それぐらいちゃんと勉強しておきなさいよ!」
トオル「そんなこと言われても・・・」
アベンチュリ「翠玉が持つ「花のカッカラ」は、母性を宿す錫杖なんです」
トオル「しゃくじょう?」
アベンチュリ「簡単に言うと杖(ツエ)ですね」
翠玉(スイギョク)「そう。私のこの「花のカッカラ」を使えば、その女性は救われるかもね」
トオル「女性を救いたいわけじゃない」
トオル「後ろの席の子を救いたいんだ!」
翠玉(スイギョク)「その子を助けるためよ。アンタ、息子に説教でもするつもりだったの?」
トオル「え・・・それは・・・」
翠玉(スイギョク)「それなりの言葉を並べれば、一時的には言うことを聞くかもしれない。でも、」
翠玉(スイギョク)「そんなものは付け焼き刃でしかない」
トオル「確かにそうだけど・・・じゃあ一体、何をどうすれば未来が変わるんだ・・・」
翠玉(スイギョク)「根本的な原因を何とかしましょ?」
トオル「根本的な原因って・・・」
トオル「母親・・・!」
翠玉(スイギョク)「その通り。子ども達にとって親の影響は大きい。小学生なんて小さい子なら尚更」
翠玉(スイギョク)「私のカッカラはね、女性に宿る母性や慈悲の心を、最大限に引き出すことが出来るの」
トオル「母性や慈悲の心・・・」
アベンチュリ「良い・悪いの区別を教えること。そして、母親としての見栄やプライドの為ではなく」
アベンチュリ「お子さんの意思を尊重し、心の声に耳を傾ける。決して簡単な事ではありませんが」
アベンチュリ「花のカッカラが引き出す母性や慈悲の心がきっと、大きな助けになることでしょう」
  僕はまだ半信半疑だったが、
  翠玉から「花のカッカラ」を受け取った。

次のエピソード:【第7話】女帝・翠玉(2)

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