第一話 願いが叶うサイト(脚本)
〇黒
あなたの願いを入力してください。
願いの入力を確認しました。
あなたへの指令。
ひとり選んで■■■■■■
制限時間内に達成してください──。
〇教室
江藤拓真「ふぁぁあ・・・。ねむ・・・」
あくびをしつつ、机の上にある進路調査票をながめる。
まだ、江藤拓真(えとうたくま)と自分の名前が書かれているだけだ。
進学希望にも就職希望にも〇をつけていない。
江藤拓真「めんどくせー。でも、書かないと帰れないしなー」
特にやりたいことはないけど、とりあえず、進学希望に〇をつけた。
自分の進路を決めた高揚感も不安感もわいてこなかった。
将来を左右するかもしれない紙を眺めていると、教室の扉が開いてクラスメイトの比嘉恭一(ひがきょういち)が入ってきた。
比嘉恭一「あれ、江藤まだ残ってたの?」
江藤拓真「ん、ああ。進路希望まだ出してないから」
比嘉恭一「あー、そっか。一応、今日までだっけ」
江藤拓真「比嘉は忘れ物?」
比嘉恭一「日直だから、教室を閉めに来たんだ。報告に行くついでに、進路希望、先生に出してこようか?」
江藤拓真「あー・・・、うん」
でもまだ志望大学がまだ書けていない。
いつまでも書けていないのが言いづらくて、なんとなく、比嘉に質問してみようと思いついた。
江藤拓真「なぁ、比嘉はもう進路希望出した?」
比嘉恭一「出したよ」
江藤拓真「すぐ決まった?」
比嘉恭一「オレやりたいことあるから」
江藤拓真「へー、すごいじゃん。なに?」
比嘉恭一「父さんと同じ道に進みたいんだ」
江藤拓真「比嘉のお父さんて確か・・・警察、だっけ?」
比嘉恭一「え、なんで知ってるの」
江藤拓真「女子が噂してた」
さわやかイケメンの比嘉恭一は、女子か ら人気だ。
比嘉君がどうしたこうした、という噂が聞く気がなくても聞こえてくる。
比嘉恭一「そんな噂までされてるんだ。恥ずかしいな・・・」
江藤拓真「はー。進路希望出してないの俺だけかー」
比嘉恭一「夏海(なつみ)さんもまだみたいだけど」
江藤拓真「ああ、学校来ないもんな」
夏海(なつみ)アズは芸能活動をしていて、たまにしか、というか、めったに学校に来ない。
江藤拓真(そういえば夏海が表紙の雑誌を買いに行くとか女子が話してたっけ)
夏海アズは明日、小テストがあることなんて知らないだろうし、進路に悩むこともないんだろう。
特別なやつがうらやましい。比嘉だって、その気になれば芸能活動ができそうなイケメンだ。
江藤拓真「今日はまだ進路希望出せそうにないし、帰って明日の小テストの勉強でもするわ」
比嘉恭一「そっか。じゃあ教室閉めるよ」
〇男の子の一人部屋
江藤拓真「・・・だめだ。全然、頭に入ってこない」
小テストの勉強はまったくはかどらなかった。
寝転がって、サイト巡りを始める。
最近見ているのは都市伝説や、あやしげな噂を集めたサイトだ。
すごく興味があるわけじゃない。
ただの暇つぶしだ。
江藤拓真「・・・願いが、なんでも叶うサイト?」
ある都市伝説に目がとまった。
なんでも願いを叶えてくれるサイト。
そこへの接続方法を特別に教えます、と書かれている。
江藤拓真「そんなもんがあるなら、明日の小テストも楽勝だな」
江藤拓真(どうせ釣りだろうけど)
勉強がはかどっていないし、暇つぶしになればいいかと思ってタップした。
するとすぐに、携帯が震える。受信したメッセージを確認すると、ただアドレスだけが書いてあった。
タップする。古めかしいサイトが開いて、『あなたの願いを入力してください』と表示された。
江藤拓真「急に言われても思いつかないな・・・明日の小テストの答えを教えて、でいいか」
願いを入力すると『あなたへの指令』と表示された。
江藤拓真「『クラスメイトからひとり選んで電話をかけてください』?」
江藤拓真「なんだこれ。なにかやらないといけないのかよ。しかも制限時間があるのか?」
めんどくさい、やめよう、とベッドの上に携帯を放り出した。
だけど、刻々と減っていく制限時間が気になってしまう。
江藤拓真「電話かけるのは・・・、こいつでいいか」
適当に選んで電話をかける。何回かのコール音の後に、眠そうな声が聞こえてきた。
友人「・・・はい。なんの用?」
江藤拓真「えっ、あー、特に用ってわけじゃ・・・」
江藤拓真「あ、そうだ。明日の小テストのことで聞きたいことあってさ」
友人「小テスト・・・? とっくに諦めて寝てたわ・・・」
江藤拓真「悪い、悪い。自分で調べるわ」
電話を切ると、表示されていた『指令』の文字は『達成』に変わって、制限時間のカウントもなくなっている。
少し楽しみな気持ちで待つ。だけど、なにか起きる気配はない。
江藤拓真「・・・ま、当たり前か」
いい加減、勉強するか、と机に戻って開きっぱなしにしていたノートを見る。
すると、びっしりと書きこみがあった。
江藤拓真「え・・・なんだこれ・・・こんなに書いてたか・・・? いや、やってなかったはず。でも、これ、俺の字・・・?」
ノートには明日の小テストの範囲が整理されて書きこまれている。
たしかに俺の字なのに、俺が書いた覚えがない・・・。
江藤拓真「まさか、これが明日の小テストの答え?」
サイトに書いた願いが本当に叶ったんだろうか?
そんなこと起こらないだろう、と思いつつ、試してみる気でノートに書いてあることを暗記した。
〇教室
教師「今回、満点はひとりだけだ。江藤拓真!」
江藤拓真「え・・・」
教師「この調子でがんばれよ」
江藤拓真「は、はい・・・。ありがとうございます」
江藤拓真(全然、勉強してなかったのに満点・・・。無意識のうちに勉強してた、ってことはないよな・・・)
昨日見た古いサイトのことが頭に浮かんだ。
江藤拓真(やっぱり、あのサイトの力、なのか・・・?)
〇屋上の入口
休み時間、俺はサイトを確認するために、あまり人が来ない廊下に移動した。
江藤拓真(あのサイト・・・、よかった開ける)
なんとなくだけど、もう開けなかったら、と不安になっていた。
サイトは相変わらず、何年前に作られたんだ、と思えるデザインで存在している。
江藤拓真(何年前どころか、十年以上・・・いやもっと前につくられたのかもしれない)
江藤拓真(あの都市伝説は本当だった、ってことだよな)
実際に、小テストの答えがわかったのだから。
江藤拓真(もし、あのサイトが本物なら・・・。受験も楽勝なんじゃないか?)
江藤拓真(受験だけじゃない、就職だって・・・)
そこまで考えて、はっと気づいた。
江藤拓真(受験とか就職とか真面目に考えるなんてバカじゃないか。 もっと手っ取り早い方法があるだろ)
例のサイトには『あなたの願いを入力してください』と表示されている。
江藤拓真「金持ちになって遊んで暮らしたい、って願いでもかなえてくれるんだよな?」
願いを入力してすぐに『あなたへの指令』と表示される。昨日と同じだ。
江藤拓真「指令はなんだ? なにをすれば・・・」
江藤拓真「な、なんだよ、それ・・・」
サイトの画面には『クラスメイトからひとり選んで殺してください』と表示されていた。