九番宝石の向こう側

てんなな

救護義務(脚本)

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〇諜報機関
管制官「・・・どうして勤務開始3分で所属不明船なんて引くのよ、昨日呑みすぎた罰ってわけ?それとも、前の子に嫌われたかしら」
管制官「進路は錨泊区域に最短、発熱量は高めだけど、武装を出してるって高さではないわね。警備艇を待機状態にして、通信を──」
管制官「こちら、連邦中継駅舎"アルゴ"管制室。そこの船、とりあえず所属標示出してもらえるかしら」
北村 悟「あー、おはよう管制。こちら呼出符号D-25899、北村 悟(きたむら さとる)だ」
北村 悟「悪いが、船の所属も無線標識装置の場所も分からねえから、ご要望には応えられねえ」
管制官「グーテン・モルゲン、北村さん。どういうこと?雇い主はあなたの業務中行方不明を届け出ているわ、ついでに無断欠勤でクビね」
北村 悟「やっぱそうか、じゃなくて。ちゃんと話すと長くなるんだが・・・仕事中に遭難してな、宇宙船を拾ったんだ」
北村 悟「宇宙船舶安全法に基づいて、沈没船所有権取得の手続きをしたい」
礼奈(沈没はしてないつもりなんだけど?)
北村 悟(法律の都合ってやつだ、我慢してくれ)
管制官「要望はわかりました。・・・停泊位置を指示するから、いったん船を止めて、警察船の事情聴取を待って」
北村 悟「おう、了解した」
管制官「はぁ。通信終了」
(どうしてこうなったんだか・・・)

〇コックピット
  北村が船に乗り込んで、30分。役人相手に勝手に沈没船扱いする、30時間前。まだ互いの名前も聞いていない頃。
北村 悟「思ったよりちゃんと船だったな・・・」
礼奈「なんだと思って来たんですか?・・・あ、あたしが家って言ったから、小惑星に見えてきたとか?」
北村 悟「サカナ型の船ってとこだな、ギリギリで見た幻覚じゃなくて良かったよ。・・・ところで、勝手にブリッジまで入れて良かったのか?」
礼奈「どうせ、私しかいないし。事情はだいたい聞いたし。誰も助けに来てくれないとか、大変ですねー」
北村 悟「すると悲しい反論はしないでおくが、冗談でもひとりだけなんて言わない方がいい」
北村 悟「こんな時代でなくても、男はいつ海賊に転身したっておかしくない生き物だからな!!」
北村 悟「仲間がここをモニターしているぞ、ぐらい脅されたって文句は言えない身の上だぞ、俺は。・・・本当にひとりなのか、こんな宙域で」
礼奈「これ答え方間違えたら海賊が生まれるやつ?嘘でも言ってないだけでもないよ、半径一光年以内に、仲間はいません」
礼奈「たぶんね」
北村 悟「たぶんかよ・・・変なやつだな」
北村 悟「それとも、生体中枢演算装置ってのは、君みたいな変なのが選ばれるもんなのか?なぜひとりで居るんだ」
礼奈「女の子に対して変なやつは失礼なんじゃないの」
北村 悟「宇宙の片隅で気まま旅をすることに決めた変な娘です、って自称するならそっとしておくさ」
北村 悟「だとしても、俺の良識なら女の子って歳の人間を”船に組み込んだり”はしねえが。良識の無い大人にいくらか心当たりがあるんでね」
礼奈「意外と詳しそうだね、おじさん。事情を詮索せず仲間のところに送ってもらう、ってのは良識に入らないのかな」
北村 悟「無断乗船者なもんで、良識を説かれると弱いな。賢いやつなら、そうすると思うし、ちょっと前まで迷っていたが」
礼奈「迷ったのにどうして口にしちゃうかな」
北村 悟「舵ひとつ間違えたら死んでた俺ぐらいには、困ってるように見えた。気のせいなら恥ずかしさで死ぬから、エアロックを開けてくれ」
礼奈「誰が開けるか」
北村 悟「・・・俺が悪かったから、車椅子から威嚇してくるのはやめてくれ」
礼奈「今のも込みで、子供扱いされているみたいで腹は立つかなー?」
北村 悟「子供だと思ってたらこんな訊き方はしねえさ。親はどこだいって聞くところからかね」
礼奈「決めた、腹立つ」
礼奈「・・・」
礼奈「尋ねたのはそっちだからね」
北村 悟(そりゃ、レディに自分から秘密を明かせとは言わねえさ)

〇砂漠の滑走路
礼奈「そうは言っても、ほとんど”覚えてない”のが一番の問題で、あんまり答えられることはないんだけど・・・」
北村 悟「そりゃあ残念、と言いたいところだが、思い出せる範囲で良いだろ。それとも、やっぱり要らんお節介だったかな」
礼奈「要らんお節介だよ、って言いたいけど、困ってるのは本当」
礼奈「ここは確かに私の家で、操縦もできるけど、どうしてここにいるのか分からないの」
北村 悟「基本から始めてみようか。 お嬢さん、お名前は?」
礼奈「『れいな』」
北村 悟「俺は北村 悟(きたむら さとる)だ。 名字でもファミリーネームでもいいが、れいなだけか?」
礼奈「たぶんね。ファミリーネームってなに?」
北村 悟「意味としては、家族の名前だな。俺の親兄弟はいまんとこ、みんな北村を名乗ってる」
礼奈「家族は、分かる。 そっか、分かると家族が誰か探せるって話だね」
北村 悟「そういうこった。とはいえ、船のコアになる段階でほぼ別れるから、無いこと自体は不思議じゃねえ」
北村 悟「今の推理は、宇宙に出る前の記憶がなくて、たぶん帝国語圏出身だろうってところだが、操縦はできるのか」
礼奈「いまがもう、ちょっと動かした後だし、身体の一部というか・・・コアとか、埋め込まれたっていうと変な感じがする」
北村 悟「帝国とか、地球連邦って言葉に覚えはあるか?」
礼奈「まったく。記憶喪失とか、海賊って言葉なら覚えはあるよ」
北村 悟「ネガティブな言葉ばかり出てくるな・・・意味は後で教える。すると、俺を駅舎まで送ってくれ、と言ってもわからない感じか」
礼奈「おじさんは最悪、近くの青い星に放り出せばいいかなって思ったんだけど、その後どうしよ、ってねー」
北村 悟「だいたい飲み込めた。優しく下ろして欲しかったらちょっとは助けろ、だな」
北村 悟「だが、記憶なしにそこまで肝が据わっているなら、話はそんなに難しくない」
礼奈「そうなんだ。後は遭難してたようなおじさんに任せて大丈夫か、ぐらいかな?」
北村 悟「せめて北村さんって呼んでくれりゃ、きっちり恩返しさせてもらうぜ?」

〇宇宙ステーション
管制官「そういうことであれば、外装だけで十分特徴的ですから、何点か伏せて公示すべきでしょうね。偽の名乗りを防ぎやすいので」
北村 悟「面倒くさそうにしてた割に親身になってくれるじゃないか。いや、助かるが」
管制官「状況は不可解で面倒でも、記録をさらえば裏付けは取れますから。お仕事としては簡単です」
管制官「公示送達の期限は次の定時報を冥王星が受信してから72時間。 その間は指定座標から動かないようにしてください」
管制官「それでもし、誰も所有権を主張しなければ、あの船はヘル・北村の登録になります」
北村 悟「ああ、そうはならんだろうと思っているが・・・」
管制官「そうかしら。嫌味のつもりはないですけど、Dコードに船1隻と女の子ひとり、面倒見られるのかしら」
北村 悟「どういう意味だ。連邦の記録まで当たるなら、すぐ持ち主は割れると思うんだが。船なら造船記録か船籍登録があるはずだ」
管制官「ふふ、そうだといいですね。どちらにせよ、気をつけてください。すぐ売り飛ばしたりしたら、個人的に人身売買で通報しますから」
北村 悟「・・・どこの法律でも起訴されないことぐらい、知ってるだろうに」
北村 悟「宇宙に出る女ってのは、人に厄介なお題を突きつけるのが好きになるもんなんかね」
管制官「もう1人、怒らせちゃってますものね〜。それとも2人かな?」

〇埋立地
  宇宙空間で大きな問題になるのが、誰のか分からない宇宙ごみを、いつまでも片付けられないことだ。
  地球連邦としては、片付けるのは誰でも良い。
  だから、遺棄され誰も所有権を主張しない人工物は、褒美代わりに拾った人間のものになる。拍子抜けするほど簡単に。
  北村の予想はあっさりと外れ、彼女と、彼女の家(からだ)は、どこにも身寄りがないことが確定してしまった。
  彼女は本当に独りだった。
北村 悟「事実、そうだって話なんだから、仕方ない。 わざと名乗り出ないって線も、ありえなくはないが」
  本当にそうならぶん殴ってやりたい、とまでは口に出さないが、誰も彼女を助けないというのならば。
  彼女の困りごと。
  当面の針路を指し示すのは、自分(おとな)の役目だ。

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