エピソード41(脚本)
〇怪しげな酒場
「誰かが耳元で囁いた気がした・・・・・・その方法なら、誰にもバレずに邪魔者を消せると」
そう言った。確かに。これを聞いた時、僕の頭に浮かんだのは女神モリアテの事だった。
あの女神が、ハルソンの背中を押したのではないか。きっかけを作ったのではないか。
ロク「証拠はない、けど・・・・・・もしそうならどこから」
ハルソンの子供時代からだろうか。偶然、収れん火災の発生の瞬間を見た時から、モリアテに操作されていたのだろうか。
だとしたら、人の人生をなんだと思っているんだ。神だとしても、やって良い事と悪い事がある。
ロク「いや、結局証拠がない・・・・・・はぁ」
今のところは、何もない事を願うしかない。神の気まぐれが起きない様に。でもいつかは。
僕の頭にモリアテが笑っている姿が浮かぶ。心底楽しそうに、笑う姿が。
これは僕の想像なんだろうか。それともモリアテが見せているのか。
ジョマ「さっきから、何をブツブツ言ってるんですか」
ロク「あ・・・・・・ジョマ、起きてたの? ちょっと考え事だよ」
さっきまで突っ伏していたジョマが、体は起こしていないけど、顔だけこちらを向けていた。
深く考え事をしていたせいで、全然気づかなかった。
ジョマ「ロクの良い所はよく考える所ですけど・・・・・・それがそのまま悪い所でもありますね」
気だるそうに体を起こして、ジョマが続ける。
ジョマ「めちゃくちゃ、険しい顔してましたよ・・・・・・もうちょっと楽に生きましょう」
にへらぁと笑ったジョマは、持っていたジョッキを掲げる。しばらくその状態で静止していた。
てっきりそのまま飲むのかと思ったら、こちらを睨むように視線を向けてくる。
ジョマ「何をボーとしてるんです、乾杯ですよ、乾杯!」
ロク「あっあぁ、そういう事」
僕は、急いでそばにあったコップを持ち上げて、ジョマのジョッキに当てた。
ジョマ「乾杯です」
ロク「何に乾杯なの?」
僕の言葉に、ジョマは少し不機嫌そうな表情を浮かべる。
ジョマ「白ける事言わないでください」
ロク「あぁ・・・・・・乾杯」
僕の言葉に満足したのか、笑顔になったジョマはジョッキをあおって、残っていたお酒を飲みほした。
ジョマ「ぷはぁ」
ロク「いい飲みっぷりで」
ジョマ「ありがとうございます」
嬉しそうにジョマが言った後、お酒のお代わりを頼んだ。本当に楽天家だ。
でもそれを見ていると、なんだか気持ちが楽になってくる。
ジョマ「ロク・・・・・・これからよろしくお願いします」
ジョマがふいに、微笑んで言った。
ロク「あっ、うん、よろしくね」
僕も言葉を返す。
僕はこれからここで生きていく。とりあえずは目の前の事に、集中していくしかないだろう。
モリアテの事は放置できないけど、今は考える事はやめよう。でも、いつかは、僕はそんな事を考えながら、ジュースを飲みほした。