花園トライアングル

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読み切り(脚本)

花園トライアングル

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〇ハイテクな学校
アンタレス「・・・」
桜庭詩穂「はあっはあっ・・・」
  ここは私立ガーデニア高校正門前。
  桜庭詩穂は世界の敵”鎧虫(がいちゅう)”と戦っていた。
  鎧虫を屠る駆除兵として。そして、主である貴音に仕える騎士として・・・・・・。
桜庭詩穂「はああァあ──!!」

〇高い屋上
花澤貴音「トキジ君。はいあーん♡」
毒島時司「あーん♡ ってなるかい!! あほらしい!」
花澤貴音「えー。ほんとトキジ君っていけずなんだからあ」
桜庭詩穂「おいブス。お前、貴音様が心を込めて作った卵焼きを食べないつもりか?」
毒島時司「誰がブスや。大体な。こういう箱入り娘が作った飯なんざ、まずいに決まって・・・・・・いってえ! なにすんねん! ご褒美や!」
桜庭詩穂「・・・・・・蹴られて喜ぶなんて真正のマゾヒストだな。冗談はその似非関西弁だけにしろ」
花澤貴音「ふふ。ほんとトキジ君っておもしろーい。でもね、その卵焼きは詩穂ちゃんが作ってくれたのよ」
桜庭詩穂「貴音様。どうしてそれを言ってしまうのですか?」
毒島時司「ホンマか! 桜庭絶対料理うまいやろ。いただきまーす」
毒島時司「ってなんでやねん! なんでまた蹴り飛ばすんや。さっき食えって言ったやろ!  まあ桜庭の美脚を堪能できてうれしいけどな」
桜庭詩穂「ほんっとうに気色が悪い」
桜庭詩穂「申し訳ありません、貴音様」
花澤貴音「いいのよ。それよりも気をつけてね」
桜庭詩穂「お心遣い感謝します。貴音様も虫が寄ってきたら、すぐにご連絡ください。 それに、そこの変態に構うのはほどほどに」
毒島時司「そりゃどーも」
  詩穂は時司に一瞥をくれると、足早に屋上を去っていった。
花澤貴音「・・・・・・追わなくていいの?」
毒島時司「なんでそんなこと聞くんや。あんたは俺と二人きりになれて嬉しいんとちゃうんか。 それとも、あれか。それは自意識過剰かいな」
花澤貴音「そうね。二人でこの時間を楽しめるのなら私は嬉しいわ」
毒島時司「そいつはよかった」
花澤貴音「そう、二人でね。あなたの心はいつも詩穂ちゃんに向かっているもの」
毒島時司「・・・・・・気を悪くしたなら、すまん。この通りや」
花澤貴音「謝らないで。私、絶対あなたを振り向かせてみせるから」
毒島時司(ちょっと助けただけのに、どうして俺なんや。 この顔に大企業のご令嬢。引く手あまたやろ)

〇荒廃した街
毒島時司(・・・・・・一か月前、俺は花澤が鎧虫に襲われているところに出くわした)
アルデバラン「ふるるるる・・・・・・」
毒島時司(今にもそいつは、花澤に襲いかかりそうやった)
毒島時司(いや、そいつだけやない──)
毒島時司(俺も花澤に牙を突き立てたくて、辛抱たまらんかった。 直感した。花澤は蜜人(みつびと)やと。 だから、俺は)
毒島時司「おい、あんた。うちの生徒やろ!?」
花澤貴音「危ないから離れてなさい」
毒島時司「その落ち着きよう、あんた何度もこんな風に修羅場乗り越えてきたんか?」
花澤貴音「そういうあなたも、ね」
毒島時司「ご明察。やから取引せえへんか」
花澤貴音「取引?」
毒島時司「そうや。今から俺があんたを助ける。その代わり、あんたには二つの条件をのんでもらう」
花澤貴音「言ってみなさい」
毒島時司「簡単や。一つはこれから起こることすべて他言しないこと──」
毒島時司「もう一つは、あんたをかじらせてもらうことや」
アルデバラン「ふるららららァ!」
毒島時司「どうやらタイムリミットや! 返事はどないすんねん!」
花澤貴音「・・・・・・あなたを信じるわ」
毒島時司「あんた、いい買い物したで!!」
毒島時司(俺は、すぐさま花澤の腕に噛みつき、)
花澤貴音「っつ!」
アンタレス(鎧虫アンタレスへと変身した)
アルデバラン「ふ、ふ、ろろろ・・・・・・」
アンタレス(このクワガタ野郎は雑魚やった。問題は・・・・・・)
桜庭詩穂「貴音様、その腕は!」
桜庭詩穂「そうか・・・・・・。お前がやったんだな!!」
アンタレス(阿修羅のように怒り狂うその顔にもドキっとしてもうた)
アンタレス(入学式のとき一目ぼれやった。それから一年、必死に話を振ってもつれない彼女とこんな形で会うなんて)
桜庭詩穂「死ね! 失せろ! 彼女にこれ以上近寄るな──!」
アンタレス(ついとらんかったな。ほんま)
  アンタレスは桜庭に傷を負わせることがないよう、慎重に撤退していった。

〇高い屋上
毒島時司(それからや。花澤が俺にべったりなのは。 まあ、おかげで桜庭と接点ができたのは不幸中の幸いやったな)
毒島時司(それに。俺はこいつを邪険に扱えへん。蜜人の力は絶大やった。俺はもう二度と自分の意志で変身できへんくなった)
花澤貴音「だからね。私はお互いありのままで、分かり合いたいと思うの」
毒島時司「そりゃ嬉しいけど・・・・・・」
花澤貴音「けど?」
毒島時司「俺は桜庭に他の男が寄ってきてたらそんなこと言えへん」
花澤貴音「これでも花澤家の娘だもの。器は広くなくちゃ」
毒島時司「せやな。じゃあ、お言葉に甘えてもええか?」
花澤貴音「もちろん。あの姿のあなたも大好きだから」
  時司の胸元にしなだれる貴音。かぐわしい花の香りが彼の鼻腔をくすぐった。
毒島時司「おま。びっくりするからやめろ」
花澤貴音「・・・・・・ね、早く」
毒島時司「・・・・・・失礼するで」
毒島時司(俺は、最低や──バケモンになっても、そう思えるだけマシなのかもしれんけどな)
アンタレス「ほな。行ってくるで」
花澤貴音「ほんと。いけずな人・・・・・・。それに、あの子も不器用ね」
  時司はこうして何度も虫の脅威から町を、そして詩穂を守っていたのだった。

〇ハイテクな学校
アンタレス「なんや、雲行きがあやしゅうなってきたなあ」
桜庭詩穂「てやァ──!」
アルゲティ「きぞぞぞ」
アンタレス「あかん!」
アンタレス(なかなかやるやん。とんがり頭のくせに)
桜庭詩穂「アンタレス!?」
アンタレス(ほな! さいなら)
アンタレス(花澤の影響やろうな。こんなに近くまで来たのは初めてやが)
桜庭詩穂「お前何しに来た」
アンタレス(あんたを守りに来たんじゃ ボケ・・・・・・)
桜庭詩穂「答えられるわけがないよな。お前はしょせん人の心を失った怪物なんだから!」
桜庭詩穂「わたしから家族を奪った。血も涙もないただの悪魔! お前に助けられるたび、虫唾が走るんだ!!」
アンタレス「・・・・・・え」
アンタレス「そうやったんや・・・・・・」
桜庭詩穂「なに?」
毒島時司「そんなこと教えてくれへんかったやん」
桜庭詩穂「毒島、どうして」
毒島時司「すまんかった。俺、勝手に、あんたが傷つくの見たくないって思うとった」
桜庭詩穂「ふざけるな! お前は自分が何をしたかわかっているのか? どうせ貴音様の腕の傷を増やしているのも全部お前の仕業なんだろ!?」
毒島時司「・・・・・・」
桜庭詩穂「お前は貴音様の心を弄んで、彼女を凌辱し続けたんだ! バケモノが、地獄に落ちろ!」
毒島時司(バケモノ、か。そうや。そんなことはとっくの昔にわかっとった)
毒島時司(どんなに桜庭に惹かれても。本能は蜜人の芳香に夢中やった。できうるなら吸っていたいと四六時中考えとった)
毒島時司(俺には、桜庭に恋する資格どころか、本来なら花澤に顔向けもできん人間や。いや、もう人間はやめてるけどな)
毒島時司(さすがに、これはご褒美やない)
毒島時司「なんでや。なんで俺から理性を奪わなかったんや、アンタレス」
花澤貴音「やめて!」
  紙一重。貴音の頭蓋をかち割る前に、駆除用ブレードは動きを止めた。
  ほぼ同時に、雲はより厚くなっていった。

〇高い屋上
毒島時司(桜庭は花澤になだめられながら、帰っていった。あのときの敵意のこもった眼差し。一生、忘れられへんな)
毒島時司「お嬢様が傘もささずにこんなところに来るもんじゃないで」
花澤貴音「お嬢様とか、虫だとか関係ないわ」
毒島時司「広いね。器が」
花澤貴音「一応、フォローはしといたわ。あなたは自我を保っている、人間に戻れる鎧虫だって。私を噛むのも互いの合意の上で──」
毒島時司「しまいや」
花澤貴音「え?」
毒島時司「もう俺はあんたから蜜を吸わんってことや」
花澤貴音「・・・・・・そう」
毒島時司「えらい物分かりがええなあ」
花澤貴音「いつかこんな日が来ると思っていたから」
毒島時司「同感やな。俺もいつか自分が人間じゃなくなるときが来ると思っとったから」
花澤貴音「いいえ。あなたは人間よ。少なくとも今の時点では、立派な一人の男の子」
毒島時司「なんであんたは俺のこと買ってくれるんや」
花澤貴音「多分、あなたの強さに恋したの」
毒島時司「どういう・・・・・・?」
花澤貴音「あなたは虫になっても自分の意志で選んできた。戦うことも、恋することも。そしてその過程で誰かを傷つけることさえも」
毒島時司「自分の意志? そんなもん、この身体にあるわけがない。あんたを目の前にした蜜吸いたいと思うのはおかしいやろが!」
花澤貴音「普通の人間にだって似たようなことあるわよ。眠りたい、食べたい、犯したい。誰だってその欲望を抑えて生きているじゃない」
毒島時司「だとしても俺はあんたを傷つけた。身も心も! すべては桜庭を守るという建前で、下心を覆って! 人間でも許されへん、こんなん」
花澤貴音「そうね。私、傷ついたわ。いつもあの子のお尻をおいかけるんだもの」
毒島時司「言い方・・・・・・」
花澤貴音「美脚がどうのこうの言っていたのはあなたの方でしょ?」
毒島時司「とりあえず、ぐう、とだけは言っておく」
花澤貴音「でもね。私、そんなあなたが好きなのよ。虫に飲み込まれてもおかしくない中で、自分の意志を強くもっているあなたは強いと思う」
毒島時司「なんや、それ。またストレートな・・・・・・」
花澤貴音「いいじゃない。たまにはあなたもふざけていないで真剣にアプローチしてみたら?」
毒島時司「見え透いた慰めは必要ない」
花澤貴音「あら。そんなことないと思うけど」
毒島時司「あんた、ほんまに言うとるん?」
花澤貴音「・・・・・・来たわね」
毒島時司「なにが──うわ、あいつも傘ささないで正門で仁王立ちしとる・・・・・・」
花澤貴音「行ってきなさい」
毒島時司「ほんま、あんたには足向けて寝られんわ」
花澤貴音「惚れた弱みってやつかしらね」
毒島時司「──すまん。前言撤回してええか?」
花澤貴音「構わないわ」
毒島時司「さんきゅ」

〇ハイテクな学校
桜庭詩穂「お前は今、どっちのつもりだ。アンタレスなのか。それとも、毒島時司なのか」
アンタレス「俺は、毒島時司や」
桜庭詩穂「そうか」
アンタレス「やる気しかあらへんな」
桜庭詩穂「当たり前だ。わたしは今ここですべてを断ち切る。――ブス、お前への未練をだ」
アンタレス「は?」
桜庭詩穂「ブス! わたしはお前が憎い」
桜庭詩穂「貴音様の寵愛を受けるお前が!」
桜庭詩穂「それなのに、意に介さずわたしに絡んでくるのも!」
桜庭詩穂「黙ってわたしを守るためについてきてくれていたことも!」
アンタレス「っ!!」
桜庭詩穂「お前は鎧虫だ! 虫のくせに、人間面をする! それが少しでも興味深いと思ってしまった」
桜庭詩穂「アンタレスの正体がお前だと知ったわたしの気持ちを少しでも考えてみろ、馬鹿者!」
桜庭詩穂「なんなんだ。お前は。どうして、わたしの前に現れたんだ」
アンタレス「簡単や。俺はあんたのことが好きだからや」
桜庭詩穂「だからどうしてと聞いているんだ!」
アンタレス「一目ぼれや」
桜庭詩穂「馬鹿な。貴音様の方が素敵な女性なのに」
アンタレス(なんか、デジャブやなあ)
アンタレス「ええんや。俺は、あんたがタイプなんや」
毒島時司「それに、あんたも俺を外見では差別せえへん。これ、めっちゃうれしいことなんやで」
桜庭詩穂「姿かたちが変わったくらいで、接し方など変わるものか」
毒島時司「今までおうてきた奴ら、そんな奴らばっかりやったで」
桜庭詩穂「ふん。お前もたいがいだな」
毒島時司「で。どないするんや」
桜庭詩穂「なにが」
毒島時司「だ、だから・・・・・・」
桜庭詩穂「なんだ。もじもじして。相変わらず気持ち悪いな」
毒島時司「つきおうてくれへんのかっちゅうことや!!」
桜庭詩穂「はあ!? 待て。今の話からなんでそうなる」
毒島時司「直接言葉にせえへんとわからんのか。この鈍感!」
桜庭詩穂「女々しいなお前は!」
花澤貴音「じゃあ私がもらってもいいよね? 詩穂ちゃん」
桜庭詩穂「た、貴音様?」
毒島時司「あんた、全部見とったん?」
花澤貴音「ふふ。トキジ君もかわいいところあるんだねー」

コメント

  • 怪人と人間の関係に「蜜に吸い寄せられる虫」という概念を落とし込んだ発想に驚きです。禁断の三角関係という蜜の香りに読者も吸い寄せられるように夢中で読みました。

  • お嬢様の腕をかじって鎧怪人に変身するパターンってとっても羨ましいです。好きな娘には敵意を向かれてなんだかやるせないです。

  • 彼のようなタイプを好きになる貴音ちゃんの気持ちも、詩穂ちゃんのような子にひかれる彼の気持ちもとてもよくわかります。怪人もなにも通りこして、この三角関係の行方が気になります!

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