新興秘密結社《ワルイカ》参上!(脚本)
〇ゆるやかな坂道
酔った女「飲み過ぎちゃった」
???「ふふ、もうすぐ着くよ」
〇一戸建ての庭先
酔った女「一軒家?」
???「仲間とルームシェアしてるんだ」
???「さ、入って」
〇シックなリビング
???「はい、水」
酔った女「ありがとう」
酔った女「ねぇ? 一緒に住んでる人たちは?」
???「寝ちゃったみたいだね」
酔った女「じゃあ二人きりってわけね」
酔った女「ねぇ、私もう我慢できない」
???「あぁ、僕もだ でも、待って」
酔った女「え?」
???「焦らずじっくり楽しもう 目を閉じて」
酔った女「もう、じらすんだから」
酔った女「はい、閉じたわよ」
ルーキー(クククッ! これから血も凍りつく絶望を味わうとは知らずに呑気だな!)
酔った女「ねぇ? もういいでしょ?」
酔った女「私これ以上は──」
酔った女「っ!?」
酔った女「え、何っ!?」
ルーキー(いいぞ、その恐怖に引き攣った顔!)
酔った女「あぁ、そんなっ」
ルーキー(声にならない叫び!)
酔った女「こんなの、こんなのって・・・」
酔った女「興奮しちゃうじゃな~い!!」
ルーキー「は?」
酔った女「私、ずっと憧れてたのアブノーマルなプレイに!」
ルーキー「へ?」
酔った女「も~、そんなコスチュームどこで売ってるの~?」
ルーキー「いや、ちょっと?」
酔った女「あぁっ、これから一体どんなプレイが待ち受けてるのか、想像しただけでっ!」
ルーキー「あの、もしもし?」
酔った女「私、先にシャワー浴びてくるわね!」
ルーキー「あのいや、ちょっと? え、ウソ? マジ!?」
ルーキー「え~~~?」
〇一階の廊下
臨戦態勢の女(同居人も!?)
臨戦態勢の女(そう、そうなのね! ここはアブノーマルの館なのねー!)
臨戦態勢の女「あの、お邪魔してます 今日はお手柔らかに」
姫「エッ!? ア、イヤ、ドモッ・・・」
姫「エ、エェッ!?」
〇シックなリビング
姫「どゆ事!?」
ルーキー「それが」
姫「なんで人間が家の中をウロウロしてんの!?」
ルーキー「いやその」
姫「鼻歌まじりにシャワー浴びてるわよ、怪人のアジトで!」
ルーキー「ちと演出に失敗しまして・・・」
姫「あんた何回やらかせば気が済むのよ!?」
総統「ただいま~っと」
姫「あ、総統! またルーキーのヤツがぁ~」
総統「はいはい、今度は何だ?」
〇シックなリビング
総統「──ふぅ」
総統「さっきの方には記憶を消去してお帰り頂いた 湯冷めしないといいが」
ルーキー「ご、ご迷惑を」
姫「アンタねぇ!」
総統「まぁまぁ!」
総統「最初は誰だって失敗するもんだ」
姫「総統はルーキーに甘い!」
総統「お、落ち着くんだ姫よ」
姫「だいたい何でコソコソ人攫いみたいな事を続けないといけないわけ!?」
姫「しかもビビらせるだけビビらせて普通に帰すって何!?」
姫「もっと、ブティック襲撃とか、スイーツビュッフェ立て籠もりとか、アイドル監禁洗脳とかしたーい!」
ルーキー(し、私利私欲にまみれてる)
総統「ば、馬鹿を言うなっ 我々《ワルイカ》は新興秘密結社なのだ」
総統「派手に動き回って大手結社に目を付けられたら、色々とやり難いだろっ」
総統「今は目立たたず、着実に基盤を作る時なの!」
総統「《ワルイカ》の邪悪なイメージを世間に浸透させる!」
総統「そのためには人間社会に溶け込んで、身近な恐怖になる事!」
総統「そして同時に、活動資金を確保する事が先決で──」
姫「総統のじゃない?」
総統「バ先の店長からだ」
総統「静かに」
総統「スゥーーーッ・・・ はい、もしもしぃ~!」
総統「お疲れ様ですぅ~! はい! はい、はい!」
総統「深夜のシフトが足りない!?」
総統「了解ですぅ~! すぐに向いますぅ~! 大丈夫です、大丈夫ですぅ~!」
総統「はい、失礼いたしますぅ~!」
総統「さて・・・」
総統「よし!」
総統「結社の未来のため、ネカフェのバイト行ってくるわ!」
「行ってらっしゃ~い!」
ルーキー「総統、バイトばっかりしてますけど、怪人として大丈夫なんですかね?」
姫「さぁ? 本人がイイならイイんじゃない? 私働きたくないし、助かるわ~!」
姫「さっ、夜更かしはお肌の天敵!」
ルーキー(もっと頑張らなくては!)
〇空
──翌朝
〇シックなリビング
総統「おはよう諸君」
「ざ~す」
総統「朝のミーティングを始める」
総統「何か議題は?」
姫「はーい! 前を通る度にワンワンうるさい近所の犬を締め上げたい件について~」
総統「却下だ」
姫「じゃあ、出先で「部屋のクーラー切ったっけ?」って聞いてきて、こっちまで不安にさせる上司がウザい件について~」
総統「さっきからなんだ、しょーもない! もっと怪人としての矜持を持て! あと最後のは俺か? 俺の事か!?」
総統「いいか、何をするにも目立たずさりげなくだ! くれぐれも他の結社とのイザコザは避けるように!」
「は~い」
総統「では最後になるが」
総統「兼ねてからの懸案事項」
総統「あのビルについて!」
〇一戸建ての庭先
総統「我々から」
〇大企業のオフィスビル
総統「陽の光を奪った」
総統「あの忌々しいビル!!」
〇オフィスのフロア
三色戦隊《スケダチジャパン》トーキョー支部 新社屋
赤井「今月も、怪人シバいてノルマ達成!」
青島「これはマズいですね」
青島(この成績では海外支部への栄転が遠のいてしまう また怪人を買収しますかね)
黄村「なんだ、社食のメニュー表かと思ったら成績表か」
赤井「てか、黄村~ お前まだスーツ届かないの?」
黄村「サイズが特注になるんで、まだしばらくかかりそうであります!」
青島「だからって、生身で戦う事ないのでは?」
黄村「この脂肪のおかげで怪人の攻撃も防げますし、問題無いであります!」
赤井「よし、来月も怪人シバきまくろーぜ!」
〇一戸建ての庭先
〇シックなリビング
総統「スケダチジャパンめ! いよいよ堪忍袋の緒が切れるぞ! 日照権を奪い返す!」
姫「洗濯物も乾かないしね~」
総統「他にもある!」
総統「我々の切り札・・・ 《超魔導粒子砲》のエネルギーチャージが、ち~っとも進まんのだ!」
姫「あー、あのソーラー充電?」
総統「そうだ」
〇研究装置
総統「いつの日かムカつく相手に食らわせる予定の《超魔導粒子砲》のエネルギーは、太陽光で賄っている」
〇シックなリビング
総統「しかし、あのビルが太陽光を遮った!」
姫「じゃあ、爆破しよ、爆破ッ! ヒーローのアジトを発破解体!!」
総統「だから目立っちゃダメなんだって!」
〇開けた交差点
ルーキー(マズい、早くこのアイスを姫さんに届けないと、八つ当たりで近所の犬が締め上げられてしまう!)
ルーキー「ん?」
〇大企業のオフィスビル
ルーキー「総統、なにを!?」
総統「おぉ、ルーキー!」
総統「いや、押したらちょっとズレるかな、と思って」
ルーキー「ズレるわけないでしょ! なにバカな事を! 誰かに見られたらどうするんです!?」
ルーキー「ったくもう!」
〇ゆるやかな坂道
ルーキー(何を考えてるんだ総統は!)
ルーキー(僕は、このままでいいのか?)
ベテラン「ルーキー君、だね?」
〇ビルの裏
ルーキー「な、何のご用でしょう?」
ベテラン「そう、しゃっちょこばらずに」
ベテラン「君に良い話を持って来たんだ」
〇シックなリビング
姫(・・・)
姫(遅い)
〇ビルの裏
ルーキー「引き抜き? 僕を!?」
ベテラン「我が《ハラスメントパラダイス》では、ヤル気のある若い力を求めている」
ルーキー(超大手秘密結社のハラパラに勧誘されるなんて!)
ベテラン「君のような有望株が、あんな肥溜めのような結社で燻ったままでいいのか?」
ルーキー「有難い話ですが、総統は裏切れません」
ベテラン「総統? あー、あのバイトを五つも掛け持ちしてる本末転倒怪人の事を気に掛けているのか?」
ルーキー「ソフトクリームマシーンからの直食いがバレてネカフェのバイトはクビになったので、今は四つです」
ベテラン「そんな事はどーでもよろし!」
ベテラン「とにかく、心の声に耳を傾けてみたまえ 総統のやり方に不満があるのでは?」
〇シックなリビング
総統「ただいま~」
総統「なぜルーキーは正座を?」
総統「ま、まぁいい、飯だ、飯!」
〇シックなリビング
姫(コイツら食べる時だけ静かだわ)
〇立ち食い蕎麦屋の店内
ニュースフラッシュ!
「スケダチジャパンのイエロー、怪人と大食い対決!」
本日、都内蕎麦店で勃発した大食い対決は、終始イエローが圧倒、怪人は涙目敗走しました──
〇シックなリビング
姫(こいつ、絶対小食でしょ 対決方法間違えてるって)
姫(ってか、なんでコイツだけいつも顔出ししてんのかしらね?)
姫(あ)
姫「閃いたっ!」
〇アパートのベランダ
ルーキー(メール?)
怪人なら、大きい事を成し遂げるべきだ
よく考えるんだな
ルーキー「・・・」
〇渋谷のスクランブル交差点
〇ゲームセンター
黄村「よし、そのまま!」
黄村「やった!」
???「クレーンゲーム上手なんですね~」
黄村「え?」
姫「私、ヘタっぴでいつも失敗しちゃって~」
黄村「ああ、そそっ、その」
姫「器用な人って憧れちゃう!」
黄村「ああ、ああの、よよ、よければ、これっ」
姫「くれるの?」
姫「ありがとっ!」
姫「スケダチジャパンのイエローさん、ですよね?」
黄村「えっ! あ、はい」
姫「いつもテレビで見てて思ってたんです カッコイイなぁ~って」
姫「少し、お話しませんか?」
総統「アイツえげつねぇ~!」
〇シックなリビング
続いてのニュースです──
〇銀行
本日正午、渋谷区銀行で強盗事件が発生
犯人と思われる怪人が現金一億円を持って逃走しました──
〇シックなリビング
ルーキー「あれは!」
〇アパートのベランダ
怪人なら、大きい事を成し遂げるべきだ
〇シックなリビング
ルーキー(大きい事、それを実現させるためには・・・)
〇大企業のオフィスビル
〇オフィスのフロア
赤井「今月もシバいたわー!」
赤井「アイツ最近変わった?」
青島「イメチェン、ですかね?」
黄村(あぁ、姫ちゃん!)
〇神社の石段
〇神社の本殿
黄村「お待たせ!」
姫「全然待ってないよ、来てくれてありがとっ!」
黄村「話って何だい?」
姫「実はね・・・」
黄村「花火大会?」
姫「知ってる? この神社の伝説」
黄村「伝説?」
姫「そう、この神社から花火を見たカップルは、一生結ばれるっていう」
黄村「っ!!」
黄村(そんな話聞いた事ないけど、でも! つまりそれって・・・)
黄村「みみ、見よう! 一緒にココから花火! そそ、そして、そしてーーーっ」
姫「でもダメなの」
黄村「なして!?」
姫「だって」
姫「あのビルが邪魔なんだもん」
黄村「え?」
〇大企業のオフィスビル
〇神社の本殿
黄村(あれはスケダチビル!)
姫「あのビルのせいで花火隠れちゃう」
姫「一緒に花火を見て、黄村さんと結ばれたいのに」
黄村「あああ」
黄村「あああぁぁぁっ」
黄村「しゅぽーーーーっ」
黄村「姫ちゃん、任せて」
姫「え?」
黄村「僕が何とかする」
姫「ホ、ホント? 合法、非合法にかかわらず、どんな手段を使ってでもあのビルを消し去るなんて・・・ そんな事できるの?」
黄村「できる! そして・・・」
黄村「結ばれよう」
姫「黄村さん!」
総統「あの女マジ怖ぇ」
〇空き地
ベテラン(ルーキーのヤツ)
ベテラン(入社する代わりに契約金一億寄こせとは、大した男だ)
ベテラン(強盗で得た一億がパァだが、まぁいい)
ベテラン「しかし白昼堂々受け渡しって、どういうつもりだ?」
赤井「その話、本当か?」
黄村「はい!」
青島「例の強盗犯を見つけたなんて匿名のタレコミ、当てになるはず──」
「メッチャ怪しいヤツいたーーー!」
赤井「すみませ~ん」
ベテラン「ん?」
ベテラン(コイツら!)
赤井「ども、ども~ いやぁ良い天気ですね~」
青島「こんな暑い日にそんな厚着で大丈夫です? マスクまでして」
黄村「ちょっとカバンを見せてもらっても?」
ベテラン「な、なんだお前ら! ジリジリとにじり寄ってくるな!」
赤井「確保ーーーっ! 青島、中身を!」
青島「合点!」
ベテラン「や、やめろ!」
黄村「一億、ありますな」
赤井「詳しくは署で聞こうか?」
ベテラン「こうなったら仕方ない!」
赤井「正体を現したな!」
ベテラン「一気に片を付けてくれる!」
〇大企業のオフィスビル
〇空き地
赤井「巨大化!?」
黄村「この時を待っていたぁ!」
黄村「第一種戦闘配置! ジャンボバナナトラップ発動ッ!!」
〇大企業のオフィスビル
ベテラン「踏み潰してくれるわ!」
ベテラン「ん?」
ベテラン「バ、バナナーーーッ!?」
〇空き地
赤井「ビルが」
青島「怪人の下敷きに」
黄村「ペチャンコだぁー!」
黄村「姫ちゃん、やったよ!」
赤井「住む場所もなくなった」
青島「しゅ、出世がぁ~」
〇アパートのベランダ
「やったーーー!」
総統「上手くいった!」
姫「ハラパラの仲間になると見せかけて、スケダチ共とやり合わせるなんてね!」
ルーキー「姫さんの色仕掛けがあってこその作戦でしたよ!」
姫「うふっ」
総統「ハラパラのヤツも伸びてるし、一石二鳥だ!」
総統「お前たち、立派に成長したなぁ!」
ルーキー「大きい事、やってやりましたよ!」
総統「これでエネルギーも充電できる!」
総統「大手秘密結社への階段、駆けのぼるぞー!」
「おーーーっ!!」
〇ゆるやかな坂道
赤井「まさかノーカラーに降格だなんて」
青島「しかも宿ナシ」
赤井「アラスカ支部に飛ばされた黄村よりはマシか?」
〇雪山
〇ゆるやかな坂道
赤井「この先どう──」
赤井「ん?」
〇一戸建ての庭先
〇シックなリビング
総統「これからは、もっと戦力が必要だ!」
総統「そこでだ──」
総統「来た!」
〇一軒家の玄関扉
赤井「シェアメイト募集の張り紙を見たんですが」
総統「ようこそ!」
総統「あがって!」
赤井「は、はい」
総統「ところで、お仕事は?」
赤井「その、ボランティア的な」
総統「それは感心ですなぁ! とにかく、これからよろしく! ガハハハハッ──」
〇空
彼らの悪だくみは、つづく
せんぶり様
気にかけて頂きありがとうございますm(_ _)m
怪人荘、楽しそうで住みたいですね~💛
イイ者側の方がノルマ厳しいブラック企業ぽくて、怪人荘の方がアットホームなのが良いです。楽しませて頂きました!!
アットホームな悪の秘密結社ものが好きなので、とっても面白かったです。姫ちゃん可愛い!でも、いくら姫ちゃんが可愛くても、黄村さんはアラスカ行きが妥当だと思いました。
ビル背景とキャラクターで、巨大化演出凄いです。
戦隊では定番の怪人の巨大化ギミックを生かしてる話って、今回のコンテストでは意外にもあまり見かけないんですよね。自分も目から鱗でした。
怪人が人間臭い日常を過ごしている、というのは、特撮番組でも最近では珍しい要素ではなくなっていると思いますが、今作の何気ない会話での絶妙な庶民感はすごく親近感が湧いて楽しかったです。