ここが俺(私)の蔵杏大学

萩野 須郷

エピソード12〜少女よ、前を向け〜(脚本)

ここが俺(私)の蔵杏大学

萩野 須郷

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〇校長室
学長バルバロッサ「・・・上田。リオを連れてきたぞい」
上田「ありがとうございます、学長」
上田「・・・あの・・・リオ先輩。さっきは、リオ先輩の事情も知らずに余計なことを口走って、すみません」
リオ「・・・おじいちゃんから、全て聞いたんでしょ。私のテレポートについて・・・」
リオ「自分しか飛ばせないテレポートなんて・・・意味がない」
リオ「私は自分しか守れない。隣にいる人は・・・一人も救えないの」
リオ「こんな・・・こんな欠陥品な私のせいで、おじいちゃんも、一族も、みんな・・・」
上田「リオ先輩。あなたは欠陥品なんかじゃありません」
上田「先輩のテレポートは情報収集だったり、偵察だったり・・・色々と役に立ってるじゃありませんか」
上田「そりゃあ、学長やシキブ先輩に比べたらちょっと地味な立ち位置ですけど・・・」
上田「でも、それぞれが自分の最大限の力を発揮して、物事を解決に導いてる」
上田「リオ先輩のテレポートは、その大事なパーツの1つだと思います」
上田「前衛の学長やシキブ先輩だけでは足りない。リオ先輩という後衛もいるからこそ、うまく歯車が回ってるんです」
上田「実際、俺が聖裁大学の魔物を操る魔法使いとばったり鉢合わせたとき・・・」
上田「リオ先輩がちょうどテレポートで来てくれたから、俺は自分が何をすればいいか理解し、行動することができました」
上田「まあ、ちょっとドジっちゃって、結局敵を逃しちゃいましたけど・・・」
学長バルバロッサ「そうじゃな。マジで反省しろよ、上田」
上田「も、もう十分反省しましたよ!」
上田「・・・え、えーと、とにかく。俺が言いたいのは・・・」
上田「適材適所があるってことです。自分しか飛ばせないなら、飛ばせないなりにできることがあると思うので・・・」
上田「それに、学長から聞きましたよ。リオ先輩、魔法以外で自分が戦う術を身につけようとしている・・・って」
上田「リオ先輩は自分の能力を広げようとしている。その向上心があるから、欠陥品じゃなくて・・・そう、まだ未完成品というか!」
上田「まだ伸び代があるというか!」
上田「もしかしたら、今後の修行によっては、自分以外もテレポートできるようになるかもしれないというか!」
リオ「・・・何だか・・・私を無理やり慰めようとしている感が半端ないわね・・・」
上田「い、いやその・・・こういう時って、何を話せば良いかわからなくて・・・」
上田「考えがまとまってないので、変なこと言ってるかもしれないです。でも、リオ先輩にこれだけは伝えたいです」
上田「一人で何もかも抱え込まなくて大丈夫です。今のリオ先輩の周りには、たくさんの魔法使いがいますから!」
リオ「・・・・・・!!」
上田「デパートの時は、リオ先輩は一人だった。だからこそ、当時の苦しみも一人で背負ってるんだと思いますけど・・・」
上田「当時の出来事は、学長もシキブ先輩も俺も知っている。だから、苦しみをみんなに分けても大丈夫です」
上田「もし大丈夫じゃなかったら、リオ先輩の周りに人は集まらないはずですからね」
上田「・・・リオ先輩。良い加減楽になってください」
上田「俺たちは同じ魔界同好会で、仲間なんですから」
上田「みんなで誰かを救うことができればそれで良い。だから、聖裁大学も、蔵杏大学も、俺たちで救いましょう!」
リオ「・・・・・・そうか・・・・・・」
リオ「確かに私は、一人で何もかもやろうとしていた節があったわ・・・」
リオ「でも・・・そうね。確かに、今は一人じゃない。自分ができないことを、誰かに補ってもらえば良いのよね・・・」
リオ「当時はそれができなかった。あの時の苦しみ、悲しみ全て、自分の心の中にあるタンスに鍵をかけて仕舞い込んでいたけど・・・」
リオ「今は、しまった扉の鍵を開けてくれる魔界同好会のみんながいる。私の闇に包まれた荷物を持ってくれる存在がいる・・・」
リオ「誰かを頼るって、こんなにも心が軽くなるものなのね・・・」
リオ「・・・ありがとう、上田。私の気持ちに寄り添ってくれて・・・」
上田「・・・へへへっ、そんなの、どうってことないですよ!」
リオ「じゃあこれからは、どんどんこき使っていくから、覚悟しといてね」
上田「・・・え・・・えええ〜〜!?それはちょっと違うような気が・・・」
リオ「何でよ、あんた私の後輩でしょ。先輩の言うことは聞かないとダメなのよ」
上田「そ・・・それだと俺はただのパシリになるじゃないですか〜〜!!」
学長バルバロッサ(・・・リオの笑顔・・・まるで付き物が落ちたようじゃの)
学長バルバロッサ(・・・「みんなで誰かを救うことができればそれで良い」、か。そうじゃな・・・確かに、誰が救ったかは問題ではない)
学長バルバロッサ(大事なのは、「困っている誰かをちゃんと救えたか」なんじゃよな・・・)
学長バルバロッサ(わしは、王族に仕える者として、「自分が自分が」という気持ちで魔法を使ってきたが・・・)
学長バルバロッサ(自分自身の功績などどうでも良い。他力本願になったとしても、他人を救えればそれで良いんじゃよな・・・)
学長バルバロッサ(きっとそれが、魔界同好会が存在する意味でもあるんじゃろうし・・・)
学長バルバロッサ「さあさあ2人とも、世間話はここまでじゃ」
学長バルバロッサ「いかにして聖裁大学に乗り込み、シキブを救うか。・・・その作戦を立てるぞい」
上田「・・・はい、わかりました」
リオ「・・・シキブ先輩、大丈夫かな・・・」

〇地下室
  一方その頃、聖裁大学では・・・
シキブ「・・・聖裁大学の魔法使いさん」
シキブ「私たち蔵杏大学魔界同好会と共に、聖裁大学の学長に立ち向かいませんか?」
シキブ「あなたはただ「恩に対する義務感」で、蔵杏大学に危害を加えている・・・」
シキブ「そんな誰も幸せにならない義務なんて、さっさと捨ててしまいなさい」
レイ「・・・・・・私は・・・・・・私は・・・・・・」
「・・・失礼するぞ。調子はどうだ?」
学長「・・・おい、これはどういうことだ?」
学長「なぜ蔵杏大学の生徒が椅子に固定されていない?痛めつけたような跡も全然ないではないか。一体何をしていたんだ?」
レイ「が、学長。例の、蔵杏大学の新入りの情報はこの女からちゃんと聞き取りましたわ」
レイ「なので、この女はもう用済み。ですので解放してあげたのですわ」
学長「ほう・・・情報を聞き出せたか。それなら良いが・・・」
学長「俺の命令なしに、なぜ勝手に解放するんだ?俺がいつ、その女は用済みだと言った?」
学長「こいつは人質として役に立つ。蔵杏大学の奴らを聖裁大学に誘き寄せるための餌としてな」
学長「だからもう一度椅子に固定するんだ」
レイ「・・・わかりましたわ」
学長「それと、この女を適当に痛めつけておけ。蔵杏大学の奴らがやって来た時に、絶望の表情をするに違いないからな」
学長「その顔が俺は見たくてたまらない・・・ククッ・・・面白いことになりそうだぞ・・・」
シキブ「・・・失礼。あなたが聖裁大学の学長ですの?」
学長「・・・何だ。俺に気安く口を聞くな、下等魔法使いが」
シキブ「・・・なるほど。これは・・・予想以上のゲス野郎ですわね」
シキブ「こんな人が一つの国を治めていたなんて。信じられませんわ」
シキブ「こんな低脳な王様を持って、民衆はさぞ苦労したでしょうね」
学長「・・・こいつっ・・・よくもそんな舐めた口を・・・ッ!!」
シキブ「あら、なんなら私と今ここで勝負します?私、あなたに負ける気がしませんわよ」
シキブ「私はあなたに勝ち、この仮面の女の子を蔵杏大学に招き入れたいと思っていますの」
レイ「!!」
シキブ「あなたのわがままで、純粋な女の子の心を縛り続けるなんて許しませんわ」
学長「別に俺は縛っているつもりはない。ただその女が俺の手足になると、自ら買って出ているだけだ」
シキブ「あなたに縛りつけているという自覚がない時点で、あなたの精神がどれだけ野蛮かがわかりますわ」
シキブ「さあ、私と戦いなさい。容赦はしませんわよ」
学長「・・・この女・・・ちょっと痛めつけるだけでは物足りないな・・・こうなったら・・・」
レイ「が、学長!お待ちください!!」
学長「・・・なんだ。お前も俺の邪魔をするのか?」
レイ「そういう訳ではありません。ただ、今は他にやるべきことがありますわ」
レイ「おそらく、これから蔵杏大学の生徒が、この女を助けに聖裁大学に乗り込んできます」
レイ「その中には、例の新入りもいるはずですわ」
レイ「だとしたら、私たちはその新入りを倒すための策を練らなければなりません」
レイ「この女を痛めつけるのはその後でも遅くはありませんわ」
学長「・・・・・・・・・・・・それもそうだな」
学長「では、さっき言ったとおり、この女を椅子に固定させておけ。変な行動をされないようにな」
学長「その後お前は学長室に来い。この女から聞いた情報を話してもらうぞ」
レイ「・・・わかりました」
「・・・クウン・・・」
学長「・・・なんだこの犬は。どっから入った?」
学長「・・・気に食わん顔をしているな。おい、ついでにこの犬を処分しておくように」
学長「・・・女。命拾いしたな。まあ、どうせ少し寿命が伸びただけだがな」
学長「後でお前には絶望を味わわせてやるぞ・・・ククッ・・・それじゃあ、またな」
シキブ「・・・ふん。何ですの、随分偉そうにして。気に食わないのはこっちですわよ」
シキブ「で、あなたはどうしますの?私を椅子に縛りつけて、わんちゃんを処分しますか?」
レイ「・・・・・・ッ!!」
シキブ「ま、できませんわよね。でも何もしないというのもそれはそれで問題ですわ」
シキブ「あの学長がまたこの部屋に入ってくるかもしれないですし」
シキブ「ですので、私のお願いを聞いてくれませんか?」
レイ「お願い・・・ですか?」
シキブ「一つ、私を椅子に縛り付けること」
シキブ「二つ、あなたの魔物で、わんちゃんを蔵杏大学まで送ること」
シキブ「そして最後に・・・。あなたの魔物で、これを蔵杏大学に届けてほしいんですの」
レイ「・・・これは・・・。そんな・・・私には、できませんッ・・・!!」
レイ「この手紙を届けたら、私は王様に背くことになってしまいますわ・・・」
シキブ「あんな王様、背いたって良いんです」
シキブ「奴は、あなたのことなんて、1㎜も想っていない。100%、自分の私利私欲のために行動しているだけですわ」
シキブ「あなたも良い加減、その事実を受け入れるべきです」
レイ「・・・・・・ッ!!」
シキブ「ですので、私の言うことを聞きなさい。良いですか、これは命令です」
シキブ「あなたが救いたかったわんちゃん・・・自らの手で処分したくないのなら、私の言う通りにするのです」
レイ「犬を送ることには・・・了承します。ですが、この手紙は届けられませんわ、絶対に・・・!」
シキブ「届けなさい。届けないと、あなたの人生は、今までと何も変わりませんわ」
シキブ「あなたにはもっと明るい未来がお似合いですわ。あんな不幸を招く学長のそばにいたら、あなた、後悔しますわよ?」
シキブ「・・・そういう訳で、よろしく頼みますわね」
レイ「・・・私は・・・私は・・・絶対に手紙は送り届けません・・・!」
レイ「私は生涯ずっと王様に尽くすと決めたのです・・・だから・・・」
シキブ「あなたの心が、本当にそう決めたんですの?」
レイ「!!」
シキブ「あなたの心には、ずっと違和感があったんじゃありませんの?でも義務感という重りで、ずっとごまかし続けてただけ・・・」
レイ「・・・違う・・・絶対にそんなんじゃ・・・!!」
シキブ「それに、あなたは何だかんだで王様の命令に背いたことをしている。私を椅子から解放したのもそうですわ」
シキブ「もう心の叫びを押しつぶすのには限界が近づいている。良い加減、楽になさい」
レイ「・・・黙れ・・・私は・・・そんなんじゃ・・・!」
シキブ「お前が黙れ。つまらない意地張ってんじゃねえよ」
シキブ「自分のやりたいことくらい、自分で決めて行動しろよ。いつまでも誰かの後ろをついていくだけじゃダメなんだよ」
シキブ「背中だけじゃなくて、お前にはもっと見るべき世界が広がっている。一度後ろから前に出てみろよ」
レイ「・・・うぐぐ・・・くうう・・・ッ!」
シキブ「・・・さて。私が言いたかったことは以上ですわ」
シキブ「それでは、私を椅子に縛りつけなさい。そしてその後、わんちゃんと手紙を蔵杏大学に送り届けること」
シキブ「・・・頼みましたわよ。私、あなたがやってくれるって、信じていますから」
レイ「ぐっ・・・」
レイ(・・・どうして・・・どうして・・・敵である私のことを信用なんてできるの・・・)
レイ(どうして・・・こんなにお人好しなのよ・・・!あの子だってそうだった・・・)
レイ(あの子のお人好しのせいで私は・・・私は・・・)
レイ「どうしてよォォォォ〜〜〜〜!!」

次のエピソード:エピソード13〜出陣〜

コメント

  • シキブ先輩ステキッ!
    前話に続いてとってもイイお話ですね。上田くんのセリフも心に響きます、序盤の姿を見ていなければ……w

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