大陸横断改人紀行

高山殘照

パナワムスケク ~ ワシントンT.T(脚本)

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〇暖炉のある小屋
ランコ「わっ!」
ランコ「おじーちゃん、スキありすぎ」
デススレイバ「ランコよ ドーナツは 全身全霊で食べるものだ」
デススレイバ「そのためなら たとえ背中から斬られようと 本望というもの」
ランコ「相変わらず 食い意地張ってるね 3万歳のわりに」
デススレイバ「235歳だ!」
ランコ「あははは」
デススレイバ「今日はどうしたんだ、いったい」
ランコ「遊びに来たんだよ せっかくの休みなんだし」
デススレイバ「いや、もう出かけるぞ」
ランコ「え、なんで?」
デススレイバ「昔の同僚と、連絡取れなくてな 具合が悪いのかもしれん」
ランコ「お見舞いにいくんだ ね、一緒に行ってもいい?」
デススレイバ「一緒に?」
ランコ「うん!」
デススレイバ「・・・・・・そうか」
デススレイバ「結構な長旅だ たぶん、車中泊になるぞ」
ランコ「全然平気!」
デススレイバ「その妙にタフなところは、 誰に似たんだろうなあ」
デススレイバ「私の子か、孫か、 それとも玄孫(やしゃご)か・・・・・・」

〇森の中の小屋
ランコ「車中泊ってことは、 車持ってるってこと?」
デススレイバ「ああ 整備も毎日してるぞ」
ランコ「いつ買ったの? どんなエアカー? 新車? 中古?」
デススレイバ「ほら、そこに出してある」
ランコ「え、これ、タイヤ? 飾りじゃなくて」
デススレイバ「もちろん エアカーと違って ちゃんと地に足つけて走る車だ」
ランコ「初めて見た・・・・・・ これ、もしかして西暦時代の?」
デススレイバ「そうだ」
ランコ「走るの、本当に?」
デススレイバ「疑り深いな かつてはこれで 大陸全土を暴れまわったもんだ」
ランコ「面白い・・・・・・」
ランコ「すっごい面白いよ、これ! エアカーなしで遠出するとか 縛りプレイじゃん!」
デススレイバ「懐かしい言葉だな リバイバルブームか?」
ランコ「ね、行こ行こ! これ、どれくらい速いの?」
デススレイバ「エアカーをぶっちぎったこともあるぞ」

〇車内
ランコ「車内、普通だね・・・・・・」
デススレイバ「居住性は、大事だ」

〇山道

〇外国の田舎町

〇美しい草原

〇美しい草原

〇草原の道

〇荒野
ランコ「止まったね」
デススレイバ「止まったなあ」
ランコ「整備してるって、 言ってなかった?」
デススレイバ「給油パイプが緩んでたのは まったくの想定外だったな」
デススレイバ「おかげで燃料が全部パーだ」
「ワッハッハッハ」
デススレイバ「本当に申し訳ない」
ランコ「どうする? レスキュー呼ぶ?」
デススレイバ「いや、その必要はなさそうだ」
デススレイバ「道の先に ダイナーらしきものが見える」
デススレイバ「『ヘルフライヤの絶品地獄焼き』 だそうだ」
ランコ「どこ? 全然見えないけど」
デススレイバ「ずっと向こうだ、ずっとずっと そこまで行けば 燃料も大丈夫だな」
ランコ「ダイナーで燃料? あ、腹ごしらえってこと?」
デススレイバ「どうかな? じゃあ私が車を押すから 中でハンドル握っててくれ」
ランコ「了解!」
デススレイバ「よーし、押すぞー!」
ランコ「おお、さすが改人の馬鹿力」
デススレイバ「ワッハッハ! 元・改人軍団司令官の力 とくと見るがいい!」
デススレイバ「今なら鼻歌交じりに 押し続けることもできるぞ」
ランコ「じゃあ、押しながら なんか面白い話して」
デススレイバ「じゃあ世界を救ったヒーローの」
ランコ「その話、もう飽きたな」
ランコ「そもそもウソでしょ 1兆5千億もの敵を倒したなんて」
デススレイバ「いやいや本当だ 誰もが、アイツには感謝したもんだ」

〇シックなカフェ
ヘルフライヤ「お、いらっしゃい 改人と娘さんとは、珍しいね! どこでも好きな席に」
ヘルフライヤ「お客さん、ずいぶん疲れてるね」
ランコ「とりあえず、 おじーちゃんに飲み物を」
ヘルフライヤ「水でいいかい?」
デススレイバ「ピッチャーで頼む」
ヘルフライヤ「どうぞ」
デススレイバ「ああ、生き返った! 思いのほか遠かったな」
ランコ「さっすが私のおじーちゃん かっこよかったよ!」
デススレイバ「そうだろそうだろ」
ヘルフライヤ「おじーちゃん?」
デススレイバ「ああ、正確には『子孫』だな 人間時代から数えて、 孫の孫の孫の姪の子供で」
ランコ「違うよ 孫の孫の叔父の甥の孫だよ」
デススレイバ「まあ、とにかく子孫なんだが ご先祖様って呼ばれるのも、なあ」
ランコ「だからおじーちゃんってわけ」
ヘルフライヤ「はあー これはまた面白い人たちだ 改人は寿命がありませんからねえ」
ヘルフライヤ「どうです、これもなにかの縁 ウチの名物料理 食べていってくださいよ」
ヘルフライヤ「一皿サービスしときますよ」
ランコ「あの看板に書いてたヤツ?」
ヘルフライヤ「そう! 『ヘルフライヤの絶品地獄焼き』」
ヘルフライヤ「とくに改人の旦那には 喜んでもらえると思いますよ」
デススレイバ「そりゃ楽しみだ お願いするよ」
ヘルフライヤ「少々お待ちを!」
ヘルフライヤ「はい、どうぞ!」
デススレイバ「むむ、一見ただの丸焼きだが」
デススレイバ「スパイシーで病みつきになる皮 ジューシーかつ味わいも深い肉 この味は・・・・・・」
デススレイバ「『あの』フライドチキン! 昔、駅前とかによくあった 『あの』フライドチキンじゃないか!」
ヘルフライヤ「いやあ、鶏もスパイスもない中で 工夫しましたよ」
ランコ「おいしい・・・・・・」
デススレイバ「200年ぶりだぞ、この味! うまい! 実にうまい! 奇跡だ!」
ヘルフライヤ「絶滅した鶏に代わって サンダル鳥を使ったのがミソで」
ランコ「サンダル鳥?」
ヘルフライヤ「ご存知ない? サンダルみたいに平べったい鳥で」
デススレイバ「おかわり! 3皿追加で!」
ヘルフライヤ「なんと力強い」
ランコ「あ、私も1皿おかわり」
ヘルフライヤ「承知しました!」
デススレイバ「そうだ、注文ついでに 頼みを聞いてくれないか?」

〇山中のレストラン
ヘルフライヤ「揚げ終わったあとの油なんて もらってくれて ありがたいくらいですよ」
デススレイバ「こっちも助かる なにせ燃料がカラだったものでな」
ヘルフライヤ「あっ、もしかして バイオエンジン車ですか 懐かしいなあ」
ランコ「バイオエンジン?」
デススレイバ「簡単に言うと 油って名前のつくものなら なんでも燃料にできるってことだ」
ヘルフライヤ「使い道のない廃油なんか とくに重宝されましたね」
ランコ「へー」
ヘルフライヤ「流行りましたよね 西暦時代の終わりには」
デススレイバ「燃料不足だったから みんなこぞって 食用廃油入れてなあ」
ヘルフライヤ「安いのはいいけど ガレージに あの虫が集まっちゃうんですよね」
ランコ「え、怖い話?」
ヘルフライヤ「いや別に」
ヘルフライヤ「ただ黒くて素早くて ちょっとおぞましい虫が 油に寄ってくるだけで」
ランコ「怖い話じゃん!」
ランコ「え、じゃあ この車にも来ちゃうってこと?」
デススレイバ「その心配はない」
ランコ「なんで?」
デススレイバ「絶滅したんだ、とっくに 天敵に全部食われてな」
ヘルフライヤ「天敵の人、 改人の中でも とびきり特殊な人でしたね」
デススレイバ「最後の1匹を平らげたとき 世界中の人々が 涙を流して喜んだもんだ」
ヘルフライヤ「彼こそ、 ヒーローの中のヒーローでした」
ランコ「ん? ヒーローって、 どこかで聞いたような」
デススレイバ「よーし、入った入った」
ヘルフライヤ「それだけ補給できたら この先のショッピングモールまで 大丈夫ですよ」
デススレイバ「色々世話になった また寄らせてもらうよ」
ヘルフライヤ「お気をつけて!」
ランコ「ねえ、 1兆5千億もの敵を倒したヒーローって もしかして」

〇荒地

〇谷

〇原っぱ

〇霊園の駐車場

〇コンビニのレジ
店員「天ぷら油が、1点」
店員「2点、3点、4点、5点・・・・・・」
店員「しめて128点ですね お支払いは現金、カード、電子マネー?」
デススレイバ「これで」
店員「砂金払いですね、喜んで!」
デススレイバ「これだけ買い込めば 燃料には困らんな」
ランコ「油はいいとして 空になった容器は、どうするの?」
デススレイバ「握って潰してバラバラにして 燃料タンクに入れて 足しにする」
ランコ「わあ、無駄がない」
デススレイバ「エコロジー イズ パワー」

〇砂漠の滑走路
ランコ「どうしたの? こんなところで停まって」
デススレイバ「これで、 あの辺りを見るといい」
ランコ「鳥が飛んでるだけじゃん」
ランコ「えっ なにあれ うっすい鳥が飛んでるよ!」
ランコ「どっかで押し潰されたの?」
デススレイバ「怖い想像するな あれが、サンダル鳥だ 見たことなかったろう?」
ランコ「本当にいたんだ・・・・・・」
ランコ「よく見ると、かわいい! 毛布みたいなふわふわが 風に流されてる」
デススレイバ「サンダルというより モコモコのスリッパだよなあ」
ランコ「やっぱり、一緒に来てよかった! 見るもの、食べるもの、 なんでも初めて!」
ランコ「私、地元と おじーちゃん家しか知らないからさ すっごく新鮮」
ランコ「ありがとう! おじーちゃん!」
デススレイバ「・・・・・・うん」
ランコ「また、 サンダル鳥の地獄焼き食べようね!」
デススレイバ「さっきかわいいとか 言ってなかったか?」

〇簡素な部屋
マッドカッタ「開いてるよ!」
デススレイバ「マッドカッタ・・・・・・」
マッドカッタ「どうしたんだ、いきなり」
デススレイバ「どうしたんだは、ないだろ 連絡もよこさないで」
マッドカッタ「とにかくだるいんだ なんにもやる気しねー」
デススレイバ「震えてるな、寒いのか」
マッドカッタ「ぜい、ぜい・・・・・・」
デススレイバ「息も切らしてるじゃないか 病院は行ったのか」
マッドカッタ「あのな、デススレイバ 俺はもう、飽きた なにもかもに、だ」
マッドカッタ「改人になって不死になって 200年以上生きてきた もう、いいだろ」
デススレイバ「それで病気になっても ほったらかしてるのか 呆れたやつだ」
デススレイバ「ランコ、聞いたか?」
ランコ「うん」
マッドカッタ「誰だ、この娘」
ランコ「じゃ、顔見せてください むくんでますね はい、あーん」
マッドカッタ「あーん」
マッドカッタ「だから誰だ!」
デススレイバ「私の子孫だ」
マッドカッタ「タイムトラベルでもしてんのか おまえらは」
デススレイバ「彼女が一緒に来たのは なんというか おそらく、偶然じゃないぞ」
デススレイバ「ランコは、改人専門医だ」
マッドカッタ「はあ?」
ランコ「それじゃ診断デバイス 押し当てますので じっとしてくださいねー」
ランコ「『病名:液毒症』! しかも重度!!」
ランコ「おじーちゃん、手伝って 緊急手術する!」
デススレイバ「よし来た!」
マッドカッタ「おいおいおい待て待て待て! 勝手に始めるな! 患者の同意は!?」
ランコ「2人とも横になって あ、腎臓1個もらうね」
デススレイバ「すぐ再生するから 遠慮するな」
マッドカッタ「臓器移植すんのか? 今、ここで?」
ランコ「改人の体は最高ね 拒絶反応なし、消毒必要なし 強いから麻酔もいらないし」
マッドカッタ「麻酔はしろよ!」
ランコ「オペ開始!」
マッドカッタ「いってーーーーー!!!」

〇簡素な部屋
マッドカッタ「え、えらい目にあった・・・・・・」
デススレイバ「でも、終わってみれば簡単だったろ お互い、 明日にはケロッとしているさ」
マッドカッタ「余計なことしやがって」
マッドカッタ「あの名医は?」
デススレイバ「ソファーの上で いびきかいて寝てるよ」
マッドカッタ「昔の漫画みたいな娘だな」
マッドカッタ「それで、 頼んでもないのに生き返らせて なにさせようってんだ?」
デススレイバ「改人軍団の司令官として ミッションを命じる」
マッドカッタ「元、だろ」
デススレイバ「私とランコはこれから、 さらに西へ行こうと考えている」
マッドカッタ「西? どこまで?」
デススレイバ「カリフォルニアの端、西海岸まで」
マッドカッタ「大陸を横断する気か? なにしに?」
デススレイバ「ランコが太平洋見たことなくてな 一度、見せておきたい」
マッドカッタ「海なんて、どこも一緒だろ」
デススレイバ「天気がよければ 故郷が見えるかもしれないしなあ」
マッドカッタ「カリフォルニアから 日本が見えるわけねーだろ! バカ!」
デススレイバ「目には自信があるんだ」
マッドカッタ「アホ」
デススレイバ「それが終わったら帰ってくるから ここで待っていてほしい もちろん、健康体で、だ」
マッドカッタ「報酬は?」
デススレイバ「昔、よく食べた 駅前のフライドチキン 覚えてるか?」
マッドカッタ「ああ」
デススレイバ「あれとそっくりの料理 見つけたぞ おごってやるよ」
マッドカッタ「・・・・・・ああ、畜生! 思い出しちまった!」
マッドカッタ「食ってみてえな、この野郎!」
デススレイバ「交渉成立だな」
マッドカッタ「あんたはいつもそうだ! いとも容易く 生きる希望をくれやがる!」
マッドカッタ「改人軍団の中で 一番迷惑なヤツだよ 司令官どのは!」
デススレイバ「歴戦の指揮官に そう言われるのは 悪い気しないな」
マッドカッタ「フン」
デススレイバ「交渉成立のお祝いに 乾杯しよう コーヒーでいいか?」
マッドカッタ「そんなもん、ねーよ」
デススレイバ「粉とサイフォンを 持ち込んでいる」
マッドカッタ「飲ませる気満々じゃねーか いいよ 飲んでやるよ」
マッドカッタ「なんだ、もうこんな時間か ちっ、いい天気だ」

〇原っぱ
マッドカッタ「懐かしい、血の色だ」

コメント

  • フライドチキンも過去の存在に…それは生きる希望を無くすよね(少食な割に、食欲の権化の自分的に)

  • 新しさと懐かしさが同居した作中の空気に惹きつけられてしまいました。『あの』フライドチキンも必死で再現しようと試みる存在になってしまうとは!続きも読みたくなります!

  • ワシントンT.Tにクスッとしました。アメリカが舞台なんですね、車旅が似合うお土地柄、新鮮でした。感謝。

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