《エデン》

草加奈呼

エピソード15 レグルス(脚本)

《エデン》

草加奈呼

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〇怪しげな酒場
  ????? 酒場
エクスト(レグルス様は・・・)
  レグルスは、
  カウンターで静かに酒を嗜んでいた。
  二人は、ここで待ち合わせし、
  いつもエクストが状況を報告する。
  何事もない恋人同士のように振る舞い、
  エクストは無言でレグルスの隣に座る。
エクスト「首尾はうまくいってます。彼等は、 すでにほとんどのアイ=リーンの子孫と 接触しています」
エクスト「レストが助けた少年に、レグルス様の 考えを伝えた模様です。 問題は、彼等がどう動くか・・・ですね」
レグルス「しばらくは放っておいたほうが いいだろう。最終的にカートは封印 しなければならない」
レグルス「皮肉なことだが、そればかりは アイ=リーンの子孫にしか できないことだからな」
レグルス「奴等を尾けていれば、必ずカートの ところへ辿り着く。その時が・・・」
エクスト「よろしいんですか・・・?」
レグルス「なにがだ?」
エクスト「あなたも、 それを望んではいないのでしょう? ましてや、“かつて自分の愛した人の娘”を利用するなんて」
レグルス「多少の犠牲はつき物だ。 その話は二度と口にするな。 特に、ウィルの前ではな」
エクスト「ウィルの・・・? なぜです・・・?」
レグルス(どうやら、酒が進みすぎたようだな・・・)
レグルス「君が知る必要はない」
エクスト「・・・・・・・・・・・・」
エクスト「わかりました。 他言はいたしません」
レグルス「では、出ようか」
エクスト「はい」

〇西洋の市場
エクスト「では、私はこれで」
レグルス「ああ、また」
  酒場を出てからは、隠れ家を他人に悟られないよう、二人は別行動で帰る。
エクスト(レグルス様の真意がわからない・・・)
エクスト(あの方は、本当にあの計画を実行する つもりなの・・・?)
エクスト(あの少女をレイノスが 逃してしまった事も、許容している。 ・・・それも計画の一部だと 言わんばかりに・・・)
???「エクスト」
エクスト「ジン」
ジン「あー、まー、その、なんだ・・・」
エクスト「もしかして、迎えに来てくれたの?」
ジン「まあ・・・そんなところだ」
エクスト「嬉しいわ。 一緒に帰りましょう?」
エクスト「う、うそでしょー!? 今!?」
ジン「おまえ・・・ 俺の事きらいか?」
エクスト「ち、違うのよー! あなたの前だと、緊張がほぐれちゃうのよ」
エクスト「リラックスできるって事なの! もちろん、いい意味でよ?」
ジン「くっ・・・ 怒るに怒れねぇじゃねーか・・・」
エクスト「ふふ、仕方ない。 手を繋いで帰りましょ♪」
ジン「おいおい、引っ張るなって」
ジン「ったく、しょうがねーなぁ」

〇西洋の市場
レグルス(ふふ・・・ 仲睦まじい事だ)
レグルス(それにしても、先程は危うく 口を滑らせるところだった・・・)
レグルス(風麗・・・君はきっと、 私を許してはくれまい・・・)

〇西洋の街並み
  18年前
  
  とある村───
幼き日の風麗「はやくはやく! こっちよ、レグルスー!」
幼き日のレグルス「はぁ、はぁ、 待ってよ、風麗《ふうれい》ー!」
幼き日の風麗「もう、だらしないわねー」
幼き日のレグルス「風麗こそ、身体弱いのに、 そんなに走って大丈夫?」
幼き日の風麗「だって、 はやくレグルスに見せたいんだもの! さあ、こっちよ!」
幼き日のレグルス「だから、待ってってばー!」

〇菜の花畑
幼き日の風麗「さあ、着いたわ」
幼き日のレグルス「ふぅ、ふぅ」
幼き日のレグルス「うわあー!」
幼き日の風麗「ねっ、ねっ? すっごく綺麗でしょ?」
幼き日の風麗「この間、お父さんとお母さんと お出かけした時に見つけたのよ。 レグルスも、きっと気に入ると思って 連れて来たかったの」
幼き日のレグルス「うん、すごく綺麗だ・・・!」
幼き日の風麗「そうだ、お誕生日おめでとう、 レグルス」
幼き日のレグルス「・・・・・・!」
幼き日のレグルス「ありがとう、風麗」
幼き日のレグルス「これでひとつ、風麗に近づいたね」
幼き日の風麗「あら、数ヶ月後には、 また私がお姉さんよ?」
幼き日のレグルス「あーあ。 いつになったら、風麗に追いつくのかな」
幼き日の風麗「レグルスは、私がお姉さんじゃ嫌なの?」
幼き日のレグルス「そうじゃないよ。 そうじゃないんだけどさ・・・!」
幼き日の風麗「ふふっ、変なレグルスー」
  この幸せが、ずっと続けばいいと
  思っていた────

〇西洋の街並み
  風麗は生まれつき身体が弱く、
  風邪をこじらせることが多々あった。
  ある日、風麗は外に遊びに来なかった。
  レグルスは、いつものことだと思い、
  心配はしていたものの、2、3日すれば
  また元気な姿でやってくるだろうと思っていた。
  しかし、予想していた日数を過ぎても、
  風麗は姿を見せなかった。
  いよいよ心配になったレグルスは、
  待ちきれずに風麗の家を訪ねた。
  扉をノックする前に、お見舞いの花束を
  握り締めた。
  大丈夫、きっと元気になっている。
  そして、花束を見て笑顔を見せてくれる。
  レグルスは、そう自分に言い聞かせて、
  扉をノックした。
  そこに現れたのは、風麗に似た大人の女性だった。風麗に姉がいるなど、聞いたことがない。
幼き日のレグルス「あ、あの・・・」
風麗「まあ、レグルス!」
幼き日のレグルス「どうして、僕の名前を?」
風麗「ああ、そっか・・・ こんな姿じゃ、無理もないか・・・」
風麗「私よ、・・・風麗よ」
幼き日のレグルス「・・・え?」
風麗「・・・・・・私ね! 風邪をこじらせて、 危険な状態だったんだって・・・・・・」
風麗「それで、お父さんとお母さんが、 『私を助けて下さい』って、 女神アイ=リーン様にお祈りしていたら、」
風麗「それが叶っちゃって、 大人の姿になったんだって・・・」
風麗「信じられ・・・・・・ないよね?」
幼き日のレグルス「・・・・・・」
風麗「私だって、未だに信じられない。 でも、私は風麗よ」
風麗「レグルスとの秘密だって知ってるわ。 この間、森の中で一緒に小瓶を 埋めたでしょう?」
幼き日のレグルス「それだって、風麗に聞いたんじゃ──」
風麗「私は誰にも言わないわ! なんだったら、 中に入れたお願い事も言ってあげる。 私は────」
幼き日のレグルス「────待って!」
幼き日のレグルス「わかった・・・信じるよ・・・」
幼き日のレグルス「良かったよ、元気になって。 女神アイ=リーン様に感謝しないとね」
風麗「そうね、その事については、 感謝しないとね・・・」
幼き日のレグルス(風麗・・・? 元気になったのに、あんまり 嬉しそうじゃないな・・・)
風麗「私ね、アイ=リーン様の子孫なんだって」
幼き日のレグルス「は・・・?」
風麗「時期が来れば話すつもりだったって、 お父さんもお母さんも・・・」
風麗「それで、丈夫な身体をくれた代わりに、 私は行かなきゃならないの」
幼き日のレグルス「行かなきゃならないって、どこに?」
風麗「わからない。世界中を周るんだって。 神具を集めて、仲間を見つけて、 魔術を封印しなきゃいけないんだって」
風麗「そうしないと、この《エデン》が 滅んでしまうって・・・!」
幼き日のレグルス「は・・・はは・・・。 なん、だよ、それ・・・。 風麗、それ本気で信じてるの?」
風麗「信じたくないよ、こんなこと! でも、 身体が勝手に感じてしまうんだもの! 魔術の忌々しいオーラ、そして・・・」
幼き日のレグルス「なっ、なんだよ、今の!? 風麗がやったのか!?」
風麗「この能力は、アイ=リーン様の子孫と、 その妹の子孫しか使えないんだって・・・ だから、この能力が証拠だよ・・・」
幼き日のレグルス「それで、風麗は、行っちゃうの・・・?」
風麗「本当は行きたくない」
風麗「でも、《エデン》が滅んで、レグルスが 死んじゃうくらいなら、私は行くよ」
幼き日のレグルス「でもその前に、風麗が死んじゃうかも しれないんでしょ!?」
風麗「少しでも可能性があるなら、私はそれに 賭けてみたいの。ごめんね、レグルス」
幼き日のレグルス(ううっ、身長が・・・)
幼き日のレグルス(女神アイ=リーン様、 僕も大きくしてください・・・!)
  それから数日後、
  風麗は旅立っていった──

〇西洋の街並み
  それから数年が過ぎた。
  あれから風麗とは一度も会っていないが、
  魔術を封印したら、きっとここへ戻って
  くると信じていた。
  しかし、風の便りに、どこかの国の王と
  結婚したと聞いた。
  レグルスは、絶望のあまりアイ=リーンを憎んだ。そして、徐々に彼の中で闇の能力が目覚めていったのだった。
若き日のレグルス「ふふ・・・、そうか。 つまり、俺はセ=シルの子孫だった というわけか・・・」
若き日のレグルス「なるほどな。 所詮、アイ=リーンの子孫とセ=シルの 子孫は結ばれない運命というわけか・・・」
若き日のレグルス「何が女神だ! 俺は、俺はこんな 能力などいらなかった・・・! ただ、風麗が側にいてくれれば・・・!」
  しかし、アイ=リーンの加護がなければ、
  風麗の命がなかったのも事実。
  レグルスは、何もかもを素直に
  認められず、しばらくの間荒れに荒れた。
  レグルスは、家を出る事にした。
  風麗との思い出が詰まったこの家に
  いるのは辛すぎる。
  また、旅に出る事で風麗に偶然出会える
  かもしれないという期待もあった。
若き日のカート「兄さん、行くのか・・・?」
若き日のレグルス「ああ、世界を周ってみる。 他のセ=シルの子孫に会えるかも しれないし、それに・・・」
若き日のレグルス「いや、おまえはこれからどうするんだ?  この村で働くのか?」
若き日のカート「まだ学びたい事があるから、 モステアの学院に行こうと思ってる。 学費の面は心配しないで」
若き日のレグルス「はは、その点に関しては、泣き付かれても 俺にはどうすることもできないな」
若き日のレグルス「そうだ、おまえはまだ能力が 目覚めてなかったな」
若き日のレグルス「こんなもの、あっても仕方が無いが、 万が一これから必要になるかもしれない。 早く目覚めるといいな、カート」
若き日のカート「・・・そうだね」
  そしてレグルスは旅立って行った──
  セ=シルの子孫が集結するのは、
  これより数年後となる────

次のエピソード:エピソード16 それぞれの決意

コメント

  • ショタルス可哀想……わずかな差を気にしていたところにあの差は残酷すぎますね。
    風麗も大事には思っていたんでしょうけど、どうしても帰れなかったのかな。

  • おおおお、そんな過去が!!
    ますます物語が深みを増してきましたね。これを中学生で考えてたのすごい!

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