ヴェジタブル・トライアングル(脚本)
〇黒
誰に引き抜かれるかもわからない、暗闇の土の中。すくすくと育つ、野菜人間たち。
途中、モグラに見つかって命を失うものもいれば、乱暴な生産者に引き抜かれて、汚される者もいる。
いわば、引き抜かれた瞬間に野菜人間たちの運命は決まるのだ。
そして、その運命を野菜人間は選ぶことができない。
なぜなら、野菜人間は土の中で育つからである。
ここに、一人の小さな少女が土の中で引き抜かれるときを待っている。
暗く、湿った、どこまでも深い闇のような土の中。
いつかきっと、誰か素敵な人が自分を引き抜いてくれる。
そう信じて、すくすくと育つ。
誰が、何のために、このような世界を生み出したのか。
それは、誰にも分からない。
しかし、少女は信じている。
自分が、この暗闇を抜け出すとき、待っているのは幸福な世界であると、
モヤ・シ(お願い。誰か、誰か、私を素敵な世界に連れて行って・・・)
願いは届く。少女の髪を誰かが掴んだ。
モヤ・シ(ああ、やっと、誰かが・・・)
ものすごい勢いで引っ張られ、少女は絶叫する。
〇田園風景
モヤ・シ「アタタタタタタタタァアアアアアアアアア!!!!!!」
まばゆい光が全身を襲い、何も見えない。
聞こえるのは声のみ。
美濃部創一郎「お、おい。ケンシロウがラオウに攻撃するときみたいな声を出したぞ」
シャインマ・勝子「ひゃひゃひゃ、大丈夫でございマスカッツ、串男様」
美濃部創一郎「いや、ババア!絶叫だったぞ!本当に大丈夫なのか!?」
シャインマ・勝子「落ち着きなされ。これはモヤシの女ですから、びっくりしてるだけマスカッツ」
美濃部創一郎「そ、その気持ちの悪い語尾は何とかならんのか・・・」
シャインマ・勝子「ひゃっひゃっひゃ、こんな格言がございますな」
シャインマ・勝子「女は引き抜かれてナンボ。男は外に出てマンボ、チャチャチャ」
美濃部創一郎「誰だよ、その格言を言ったやつ」
シャインマ・勝子「初代、串野串男様でございマスカッツ」
美濃部創一郎「串で刺してバーベキューにしてやりてぇ」
モヤ・シ「ちょっと!!!!モヤモヤするじゃない!!!なんなのよ、あなたたち!!!」
美濃部創一郎「おい、ババア。さっきの人参女と同じ反応をしてるぞ」
シャインマ・勝子「引っこ抜かれた女はみんな同じ反応をするマスカッツ。慣れるのです、串男様」
美濃部創一郎「罪悪感で逆ガンジーになりそうだよ・・・」
モヤ・シ「こんなか細い、モヤシみたいな男に引き抜かれるなんて・・・」
美濃部創一郎「悪かったな。お前なんか肌が透明過ぎて、透けて見えるっていうか、ほぼ透けてるぞ」
美濃部創一郎「クリオネか。クリオネの遺伝子混ざってんのか」
モヤ・シ「なんですか、クリオネって!そんなおしんこ言葉、やめてください!」
美濃部創一郎「お、おしんこ言葉?」
シャインマ・勝子「串男様、おしんこ言葉とは、いわゆるエッチな言葉という意味でございマスカッツ。 ほかにも、ブロッコリーは大麻を意味しマス」
美濃部創一郎「ブロッコリー、引っこ抜きたくねえ」
モヤ・シ「そんなことより、私を引き抜いたんだか、幸せにしてくれるんでしょうね?」
美濃部創一郎「し、知るか。俺はこの世界のルールをそもそも知らん」
シャインマ・勝子「そりゃ、串男様のぶっとい串で、このモヤシ女の芽を貫けばいいマスカッツ。あ、人間の世界で言えばセッーーー」
美濃部創一郎「おおおい!やめろやめろ。てか、ババア。なんでそんなに詳しいんだ」
シャインマ・勝子「野菜秘密でございマスカッツ」
美濃部創一郎「企業秘密みたいに言うな・・・」
シャインマ・勝子「そんなことより、そのモヤシ女を連れて、ちょっと行かねばならんところがありマスカッツ」
美濃部創一郎「な、なんだ急に。ポケモンで言ったら、まだ三匹のポケモンのうち、二匹選んだみたいなもんだぞ」
シャインマ・勝子「冒険は唐突に始まりマスカッツ。ポケモンリーダー目指して頑張りマスカッツ」
美濃部創一郎「第一話から大幅に路線変更するじゃねぇか。食戟のソーマよりも早いぞ」
モヤ・シ「ちょっとぉ。もう、なんなのよ。。」
〇学校のプール
美濃部が勝子に連れられてやってきたのは、引き抜かれた野菜人間が暮らす場所。
ここは、絶妙に塩分濃度が調整された、いわば野菜人間のためのプール。
通称『芋洗坂ONE』
シャインマ・勝子「串男様が引き抜かれた二人の野菜人間は、こちらで育ちマスカッツ」
美濃部創一郎「ぜいたくな場所だな、こりゃ」
シャインマ・勝子「雨の日は建物内にプールがございマスカッツ。野菜人間は定期的にこのプールに入らないと、干上がって肥料になってしまいマス」
美濃部創一郎「そりゃいい。ババア。もう干からびてるぞ」
シャインマ・勝子「マッ!!!!」
美濃部の体を衝撃波が突き抜けた。
美濃部創一郎「ぐおおおおおお」
シャインマ・勝子「あんまり口が過ぎると、果汁を放って複雑骨折させたくなりマスカッツ」
美濃部創一郎(く、このババア。侮れん・・・)
一方、プールでは参子が楽しそうに泳いでいる。
ニン・キャロット・参子「キャロー!串男様ぁ~!一緒に泳ぎましょう~」
美濃部創一郎「なんでパジャマなんだ、、、」
モヤ・シ「もたしも、入ろ・・・」
美濃部創一郎「もやしだけに、もたしか・・・趣向が凝ってんな・・・」
ニン・キャロット・参子「ちょっと!誰よあんた。わたしの農地に入ってこないでくれるかしらキャロ」
モヤ・シ「も、ご、ごめんなもい」
露骨に嫌な態度を取る、参子。
それを見て、美濃部はふと考え込む。
美濃部創一郎(人参は、目立つし、栄養価も高い。しかも力強い)
美濃部創一郎(言ってみれば、野菜の世界じゃ元気印のみんなの人気者か)
モヤ・シは、プールの端っこで寂しそうに景色を見つめている。
美濃部創一郎「それに比べて、モヤシの方は根暗」
美濃部創一郎(だけど、確か、もやしの方が凄い効果があったような気がするな)
美濃部創一郎(だったら、もやしの方が、投資に対するリターンは大きいかもしれない)
美濃部創一郎「おい!もやし!」
モヤ・シ「え、も、もい!」
美濃部創一郎「ちょっと来い!話がある」
モヤ・シ「も、もやもやする・・・」
ニン・キャロット・参子(な、何よ。もやしのくせに・・・)
こうして、野菜同士の三角関係は火花を散らしていく。