孤独が仰ぐ、空は青

NekoiRina

【第3話】女教皇・アベンチュリ(2)(脚本)

孤独が仰ぐ、空は青

NekoiRina

今すぐ読む

孤独が仰ぐ、空は青
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇病室のベッド
  4月18日。
  目が覚めると、
  そこは病院のベッドの上だった。
天音鈴子「トオル!目が覚めたのね!」
天音トオル「病院・・・僕は一体・・・」
ハーキマー「前世の記憶を体内に戻した。その反動でお前は倒れたんだ。大丈夫、命に別状はない」
天音トオル「そう・・・そうだ、前世の記憶!」
ハーキマー「起きられるか?裏庭で話そう。 アベンチュリはそこにいる」

〇中庭
天音トオル「あれ?桜の木は?」
ハーキマー「崩れ去った」
天音トオル「どうして?まさか・・・僕のせいか?」
ハーキマー「いや、違う。あの桜の寿命は、もう随分前から尽きようとしていた」
ハーキマー「だから花が咲かなかったんだ」
アベンチュリ「ですが、あの桜の木は、トオルさんの前世の記憶を返すための「媒介」でした」
天音トオル「バイカイ?」
アベンチュリ「前世の記憶を取り出し保管する。そして、それを生まれ変わった人間に戻す」
アベンチュリ「そんな簡単に出来ることではありません」
ハーキマー「記憶を取り出すトオル。 そして、それを依頼した鈴子」
ハーキマー「二人を強く結び付ける「何か」を介すことで、二人への負担を減らしたんだ」
アベンチュリ「その媒介として選ばれたのが、 この桜だったんです」
ハーキマー「お前と鈴子にとって、この桜は、 それだけ特別な存在だったんだろう」
天音トオル「・・・そうだな。この桜の下で、鈴子やハーキマーに出逢ったから」
天音鈴子「貴方は・・・手術が怖いと言って、 ここでよく泣いていたわよね」
天音トオル「そう。でも・・・まるで僕を応援してくれるかのように、季節外れの桜が咲いた」
天音トオル「綺麗な花を見ていたら、なんだか手術も乗り切れるんじゃないかって思えたんだ」
アベンチュリ「媒介となった桜が枯れれば、トオルさんの記憶は戻せなくなります」
アベンチュリ「だから鈴子さんはずっと、この桜に自分の力を分け与えていました。枯れないように」
天音トオル「鈴子が?まさか・・・ だから体が弱かったのか?」
天音鈴子「ええ。でも勿論、普通の人間である私だけではそんなこと出来やしない」
天音鈴子「ハーキマーが木の中に入り、私と桜を繋いでくれていたの」
ハーキマー「記憶を戻す役目は終わった。桜は・・・ようやく眠りにつくことが出来たんだ」
天音鈴子「私の身勝手な願いに、ハーキマーや桜の木を巻き込んだ・・・ごめんなさい」
天音トオル「・・・ハーキマーはどうして、そこまでして僕の記憶を守ってくれたんだ?」
ハーキマー「・・・私が・・・ 鈴子の幸せを奪ったからだ」
天音鈴子「違う。それは絶対に違う」
天音トオル「どういう意味だ?ハーキマー」
ハーキマー「私はトオルの生まれ変わりを待てばいい、と提案したことを、ずっと後悔してた」
天音トオル「・・・どうして?」
ハーキマー「お前が生まれ変わったのは・・・あの事故から22年も後のことだったからだ」
天音トオル「そうか。僕は今18歳で、鈴子は60歳。 確かにそういう計算になるな」
ハーキマー「お前が生まれ変わるまでの22年。鈴子は、痛いぐらいの哀しみに暮れていた」
アベンチュリ「鈴子さんは、全ての幸せから目を背けるように、あの桜を慈しんでおられた」
アベンチュリ「痛々しくて・・・ とても見ていられませんでした」
ハーキマー「「トオルのことは忘れ新しい幸せを見付けろ」。私は、鈴子にそう言うべきだった」
天音鈴子「いいえ、ハーキマー」
天音鈴子「貴方の提案がなければ私は、トオルを亡くしたあの日、自分の命を絶っていた」
天音鈴子「貴方のおかげで、私は今まで生きてこられたのよ。それに・・・軽率だったのは、私」
天音鈴子「トオル・・・ごめんなさい」
天音トオル「どうして謝るんだ?」
天音鈴子「生まれ変わった貴方を見て気付いたの」
天音鈴子「前世なんて忘れて、新しい人生を生きた方が、トオルは幸せになれるって」
ハーキマー「実際、鈴子は「記憶はもう戻さなくていい」と言ってきたことがあった」
ハーキマー「だが・・・取り出したものは戻さないといけない。前世の記憶というのは」
ハーキマー「人間を構成する、大事な素材だからな」
天音鈴子「貴方を失った事実を受け止めきれなかった私は、身勝手な選択をしてしまった」
天音鈴子「だから・・・本当にごめんなさい」
天音トオル「鈴子。幸せは人それぞれだ」
天音トオル「僕を失いたくないと思ってくれる人が側にいる。これ以上に幸せなことなんてない」
ハーキマー「幸せは与えられるものじゃなく気付くもの。お前は、幸せに気付ける人間なんだな」
天音トオル「それに・・・前世の記憶が戻った今なら、ハッキリ言える」
天音トオル「もし逆の立場だったら、 きっと僕も同じ選択をしていたよ」
天音鈴子「トオル・・・」
天音トオル「僕の方こそ、独りぼっちにしてごめん。寂しい思いをさせてしまった」
天音トオル「ずっと待ってくれていて・・・ 本当にありがとう」
ハーキマー「生まれ変わったトオルは、私が探して見つけ出し連れてくる約束だった。だが・・・」
天音鈴子「私が42歳の時、仕事で立ち寄った養護施設で生まれたばかりの貴方を見付けてね」
天音鈴子「すぐに分かったの。トオルだ!って」
天音トオル「だから・・・僕を引き取ってくれたのか」
アベンチュリ「記憶なんて無くても・・・おふたりは、強い絆で結ばれていたのですね」
  その時、ハーキマーの体を
  激しい光と風が包み込んだ。

〇中庭
天音トオル「ハーキマー?」
ハーキマー「ちっ・・・やっぱり気付かれたか」
天音トオル「なんだ?どういうことだ?」
アベンチュリ「ハーキマー!」
ハーキマー「トオル!やっぱりお前の前世の事故は、仕組まれたものだ!恐らく・・・」
  ハーキマーの言葉は途絶え、
  光と突風が辺りに吹き散らした。
「ハーキマー!」
  ハーキマーはあっという間に光に包まれ、
  キラキラ光る綺麗な石へと姿を変えた。

〇黒

〇明るいリビング
アベンチュリ「・・・お邪魔します」
トオル「・・・どうぞ」
  僕たちは、自宅へと場所を移した。
トオル「アベンチュリ・・・説明してくれ。ハーキマーは一体、どうなってしまったんだ?」
アベンチュリ「ハーキマーは言っていました」
アベンチュリ「トオルさんの事故は、仕組まれた殺人だったのではないか・・・と」
天音鈴子「殺人?」
トオル「それは僕も聞いていたよ。でも前世のことを思い出しても、心当たりなんて・・・」
アベンチュリ「トオルさんの記憶が戻ったら、本格的に調べてみるつもりだ、と言っていました」
アベンチュリ「前世のトオルさんでないと分からないことが、きっと沢山あるだろうから、と・・・」
アベンチュリ「ですが・・・もし私たちが動き出したことを相手に気付かれたら」
アベンチュリ「何か仕掛けてくるかもしれない。 とも言っていました」
アベンチュリ「ですが、まさかこんな形で仕掛けてくるなんて私は想像もしていなかった」
トオル「ハーキマーは・・・どうなったんだ?」
アベンチュリ「恐らく・・・この石に封じ込められたのだと思います。何者かの力で・・・」
トオル「そんな・・・」
トオル「ハーキマーやアベンチュリのような力を持った精霊が、他にもいるってことか?」
アベンチュリ「精霊は全部で22体います」
トオル「そんなに?」
アベンチュリ「こんなことが出来るのは、精霊しかいない」
アベンチュリ「ですが・・・それは・・・」
トオル「「僕を殺害したのは精霊だ」ということを意味する・・・ってことか」
アベンチュリ「もしくは「トオルさんの殺害を企む人間に精霊が力を貸した」・・・の二択でしょう」
トオル「とにかく、ハーキマーを助けないと。ハーキマーは恐らく何かに気付いていた」
アベンチュリ「ハーキマーを助ける方法。 それは・・・」

次のエピソード:【第4話】女教皇・アベンチュリ(3)

成分キーワード

ページTOPへ